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05

「ヒナタ!ちょうどいいところに来た」


 アケミさんが元の世界に帰った次の日、事件が起こった。


「見ろ。正式に魔王討伐の依頼がでた!特Aランクの依頼だ」


 魔王討伐……。


「一人で魔王に挑むのか……?」

「いや、この依頼をみて動き出したやつらは他にもいるが、正式に動ける人間は限られてる。どうする?受けるか?」


 聞くところによると、昨日の夜、魔王の目撃情報が入ったそうだ。それまで存在そのものが疑わしいという噂すらあったというのに、急な話である。それも、ごくごく国に近いところで。


「お前が最初にクリスタルスパイダーを倒した洞窟、覚えているか?」

「そんな近くに?!」


 アケミさん、なんてタイミングで帰ったんだ……。


「というか、誰が魔王って判断したんだ?」

「わからねえ」

「わからない?依頼主は」

「国からの依頼だ」


 国……。国王に聞けば詳しいこともわかるだろうか?

 アケミさんなしで謁見を申し込むのは厳しいか……。


「で、どうする?受けるか?」

「受けないっていう選択肢、あるのか?」

「お前さんが受けねえと、うちのギルドのメンバーは動けねえ」

「その言い方だと他も動くのか?」

「国が発見しているんだ。騎士団が動く」

「それで十分なんじゃ……」


 いや、魔物相手の防衛をほとんど冒険者に丸投げしている状態だったわけだ。騎士団はお飾りに近い可能性が高い。


「後は他の冒険者ギルドにも話はいってるかもしれねえが、まあどっちにせよ、行かねえならこの行く気満々の連中の説得も頼むぞ?」

「そんな理不尽な……」


 依頼を受けるのはAランクの冒険者に限られるが、Aランク冒険者の補佐と言う形でなら参加できるということだった。これまで俺がアケミさんと二人で依頼をこなしていたことから、こういったシステムをつくっていたらしい。

 パーティーのように協力体制があるわけでもないのだから、無法地帯もいいところだが……。


「誰が倒しても報酬はお前さんのもんだ。とりあえず受けておいたらいいじゃねえか」

「そんな無責任な……というか、なんで誰もAランクの冒険者がいないんだよ」

「さあなあ?アケミのやつはどうしたんだ?」

「また味方を増やしに故郷に帰ったよ、昨日な」

「なんてタイミングの悪いやつだ」


本当にその通りである。

とはいえもう、受けないという答えを許してくれるような雰囲気でもない。それに魔王というのに興味があるのも事実だ。


「わかった。受けるよ」

「信じてたぜ兄弟!!!魔王倒して帰ってきたら飯も酒も今日はただにしてやらぁ!」


 国からの報酬で一生遊べそうな金額の報酬が出ているのに比べれば大したことはないが、心意気は受け取っておこう。




 準備を整え、魔物がいると言われる洞窟までやってきた。懐かしい。

ちなみにあのとき苦戦したクリスタルスパイダーは、今となっては力づくで脚をすべて凪払うこともできる。

 アケミさんの無茶ぶりに対応しているうちに、自分でも驚くような成長をしていた。自分にとって一番成長を実感させてくれる魔物がクリスタルスパイダーであり、ここには度々訪れていた。魔物はしばらくすれば復活するからな。


「ヒナタ殿でよろしいですかな?」


 洞窟の前にいた騎士団は50人ほど、洞窟に入りきるわけもなく、そもそも誰も入る気がないのか入口で待機していた。

 俺が来るなり一番立派な鎧に身を包んだ初老の男が声をかけてくる。


「そうだけど、あなたが団長か?」

「そうなります。歳ばかり食っただけの老人ですが……」


 朗らかに笑う老人に、戦う力は感じられない。想像通り、騎士団はお飾りと思ったほうが良いだろう。


「さて、着いたがどうする?あんたの指示がない限り俺たちは待機だと決めた。普段ならそんなもん無視してやりたいようにやるが、今回はちと話が変わるだろう?」


 騎士団よりは頼りになりそうな、というか、油断すれば俺のことを無視して突っ込んでいきそうな猛者たちが騎士団の老人と入れ替わるように話しかけてくる。

 彼らの冒険者ランクがBまでで止まっているのは、それ以上伸ばす必要がなかったからだ。BランクでもCランクでも、Aランク向けの依頼がこなせるわけだ。生活のために割のいい依頼を毎日こなす必要のある彼らにとって、わざわざ割の合わない大物を倒そうと思わなかったのだろう。

今回に限ってこの大物に食いついたのは、報酬がなくとも活躍が認められれば国の英雄として扱われ、結果的に大きな利益を期待できるという考えに基づいたものだ。


「まずは俺が行くよ。様子を見て戻るつもりだけど、しばらく経って戻ってこないようなら様子を見に来てくれ」

「では、その時は我々が」


 騎士団長の初老の男が申し出る。


「いいのか?じいさん。こいつが戻らないってことは、それ相応の惨状が待ってるぞ」


 怖いこと言わないでくれ……。一人で行くなんて言うべきではなかったかもしれない。

だが、冒険者も騎士団も一度に洞窟にはいるのは無茶な人数だ。誰を連れていくかで揉めないために、まず中に入って様子をみる。その様子を伝えたうえで、それでも行くというのなら後は自由にやってもらうつもりだ。


「我々の役目は国民を守ること。ヒナタ殿が戻られない場合、最悪のことも考えられる。それ以上の被害を出さぬよう命を賭すことが、我々が今回するべきことでしょう」


 少し騎士団を見くびっていたかもしれない。彼らは彼らなりに覚悟を持ってここに来ていた。


「しばらくこのあたりの魔物で我慢はするが、あんまり気の長い連中ばっかりじゃねえ。さっさとしたほうが良いだろうな」


 一応彼らにとってラスボスと言える相手のはずなのに、この調子である。魔王討伐の待ち時間に当たりの魔物を倒して暇つぶしをするとは、緊張感に欠ける話である。

 

「行ってくる」

「とっとと帰ってこいよ」

「お気をつけて」


 何とも気合の入らない見送りをされ、俺は魔王の待つ洞窟に入っていった。


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