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02

「今日はこの世界で生きるための術を教えるわ」

「よろしくお願いします」


 簡単な魔法を使えるようになった俺は、冒険者ギルドへとやってきた。


「おい、アケミだ……」

「一緒にいる男は誰だ?」

「アケミが連れてきたんだ。ただ者じゃないだろ……」


 アケミさんのせいで勝手にハードルが上がっている。しがないチェリーボーイにそんな期待をしないでほしい。


 入口から真っすぐカウンターへ向かい、そこにいた豪快なひげを生やした男と話を始める。


「何だアケミ、久しぶりじゃねえか」

「ええ、故郷に戻って彼を連れてきたの」

「アケミがわざわざ連れてきたってことは、そっちの兄ちゃんもやるんだな?」

「それは、これからに期待ね」


 簡単な手続きを済ませ、晴れて冒険者となった俺に、最初のミッションが与えられた。


「なあに、アケミと同郷ってことは、とんでもない力を持っているんだろう?いつもアケミから聞いてたぜ。故郷に戻れば同じようなことができるやつがごろごろいるってな」


 なるほど、それでこれだけ周りから熱視線を浴びせられていたわけか。さながら期待のルーキーというところだろう。


「アケミさんって、そんなにすごいんですか?」

「すごいなんてもんじゃねえぞ!なんせ王宮に呼ばれるんだ。王宮に呼ばれる冒険者なんざ聞いたことがねえ。あそこは貴族や商人の行くところだとずっと思っていたからな」

「王宮に呼ばれるだけですごいのか……」

「それだけじゃねえ。うちで登録した冒険者の中では頭一つどころか、二つも三つも抜けてる。ただのAランクの冒険者って扱いじゃ足りねえくらいだ」


 冒険者にはわかりやすくランク付けがされているらしい。誰でも登録できる初期段階がFランク、受けられる依頼は自分のランクの二つ上までと決められている。戦闘を伴うようなものはCランクからなので、ひとつランクを上げなければ危険なものは受けられない。

 ということは、今日すぐに戦ったりしないでいいんだろう。ちょっと安心した。


「アケミの推薦って言うなら、最初からそうだな……Bランクにはしてやってもいいが、どうする?」


 安全神話は一瞬で崩壊した。

 アケミさん効果、おそるべきだ……。各ランクを上がるには、一定数依頼を達成し、ポイントをため、さらに昇級試験を合格する必要があるはずだったのに……。


「あら、そんなにサービスしてくれるの?」

「どうせアケミが連れてきたって言うんなら遅かれ早かれAランクにはなるんだろう?良いじゃねえか」


 大ざっぱに聞こえるが、これでもギルドの責任者だ。これだけのことを言わせるアケミさんがすごいということだろう。


「実を言うと彼がどこまでできるかわかっていないの。提案は嬉しいけど、そうね。昇級試験を受けられる権利だけもらえるかしら?」

「なんだそうかい。ああ、構わねえぜ。とりあえずはどうする?」

「順番に、とはいえ一度にすませられるものは済ませてくるわ」

「そうか。じゃあとりあえずBランクまでの昇級試験だな。ちょっと待ってろ」


 奥に消えていったひげの男を見送り、戸惑う俺にようやくアケミさんが話をしてくれる。


「そういうことだから、がんばってね」

「アケミさんって、第一印象ではもう少し丁寧に教えてくれる優しいイメージだったんですが……」

「あら、手とり足とり優しく教えた方が好み?」

「嬉しい申し出だけど、それは俺の身がもちそうにないです……」


 頼まれれば本当にやるぞという意気込みが見え隠れするアケミさんに、冗談でも頼める雰囲気ではなかった。もちろん、からかわれるだけなこともわかっている。


「待たせたな。これがBランクまでの昇級試験の内容だ」

「ありがとう」


 受け取ったアケミさんが、内容を説明してくれた。


「採集しないといけないものが二つ。討伐が三匹。討伐したうえで素材を持ってくるのが一匹ね」


 一つの試験で一つ、もしくは一匹というわけでもないようだ。


「一番難しいのは……洞窟の奥にいる魔物、クリスタルスパイダーの討伐ね」


 国を出てすぐ森がある。そのまま先へ進めば、山脈にぶつかる。鉱山になっている山にはいくつも洞窟があり、それぞれがダンジョンと呼ばれている。外と違いそこに適応し、人による定期的な討伐も免れた結果、強力な個体となった魔物が潜みやすいという。

 クリスタルスパイダーはその一つで、名前の通り宝石のような身体を持つ蜘蛛だ。


「クリスタルスパイダーは、全身が鉱石になっているの。強さによってその質が変わるけれど、まあそこまで強い個体と当たることはないでしょう」


 相変わらず軽いアケミさんだが、重要なことを忘れている。


「俺、戦う方法何も教わってないけど」

「森を歩いていれば嫌でも覚えるわ。私がそうだったもの」


 思ったよりスパルタな方向で話が進んでいた。





「これが依頼にあった植物よ。回復薬の元になる植物だから覚えておいてね」


「あれは植物型の魔物。自我も害もないけれど、こちらが攻撃すれば反撃をしてくる。たまに街にやってきて悪戯した子どもが怪我をするから、討伐対象になっているわ。食べるとおいしいから、そっちがメインだけどね」


 時折アケミさんがこうして解説を加えてくれながら、森の探索は順調に進んだ。

 使える植物を見つければ足をとめ、覚えさせられる。便利なことにそのまま口に含めば体力を回復させるようなものや、稀にだが魔力を回復したり、力を与えてくれる植物も教えてくれた。

 逆に毒になるものも教わったが、この辺で特に問題になるようなものはないらしい。というか、見た目が毒々しいのでわざわざ教わるまでもなく、食べようとは思わなかった。


「ほんとに噛みついてくる実があるとは思わなかった……」

「表情によって種類が分かれるけれど、あれは毒があるタイプね」

「もしかしてだけど、食うやつもあるのか」

「穏やかな表情をしているものは美味よ。王家への献上品にもなるくらいの高級品もあるわ」

「あれを王家が食うのか……」


 その後も様々な知識を教わる。実地で学ぶ知識は、普段より頭に入るように思える。次に来たときに覚えているかはわからないが……。


「ここがクリスタルスパイダーの巣ね」

「蜘蛛の巣に自分たちで飛び込んでいくのって、どうなんだ……」


 もちろんそんな言葉に耳を貸してもらえるはずもなく、問答無用で洞窟に入れられた。

 ここから先は俺が先頭をあるくらしい。


「あら、か弱い女性にこんな薄暗い洞窟を先導させるの?」


 絶対に俺よりか弱いなんてことはないアケミさんだが、何も言わない。前を歩いていたほうが、何かあった時にアケミさんが何とかしてくれるだろうという甘えもあった。


「洞窟ってもうちょっと、色々魔物とか出てくるのかと思ってたよ」

「場所にもよるけれど、ここはもうクリスタルスパイダーが巣を張っているから、夜迷い込んできたものが犠牲になる以外は姿を見ることはないでしょうね」

「まさに犠牲になる獲物になってるわけか……」


 ここに来るまでに倒した魔物は、きのこのような魔物と、犬のような魔物だけだ。正直、木の棒があれば魔法なんて関係なく倒せそうだった。

 練習を兼ねて魔法を使ったが、素材の回収ができないため火を使うことはできなかった。教えてもらったのは風の魔法。風が質量を持つようにイメージすると、鞭にもなれば、刃にもなる。便利な魔法だった。


「その威力なら、クリスタルスパイダーにも十分通用するわね」

「そうなのか……?」


 ここまでみてきた魔物には通用した。まあアケミさんが言うなら信用しよう。




 この甘い考えは、五分と待たず大きな後悔に変わった。


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