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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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九十九話 久しぶり


 しばらくして、マリーと着替えを終えたアデルの二人は街の広場にあるベンチに腰掛けながら、広場の奥に見える大きなステージに目を向けていた。


「人、増えてきましたね。」


 時間の経過と共にわらわらとステージに集まる群衆を見て、マリーは目を細めながらそう問いかける。



「⋯⋯そうだな。」


 その横ではアデルが落ち着かない様子でマリーの問いに答える。


「これからもっと増えるんですかね?」



「⋯⋯そうだな。」


 今度はムズムズと左右に揺れながらマリーの問いかけに答える。


「よく考えたら、この中から不審者探すのって結構大変ですよね。」



「⋯⋯そうだな。」


 思い出したかのように尋ねるマリーの問いを受け流しながら帽子の中に手を入れると、ゴソゴソと髪を整えるように手を動かす。




「はぁ⋯⋯そんなに気になりますか?その服装。」




 待機し始めてからずっとこの様子のアデルに対して、マリーはため息混じりにそう尋ねる。


 アデルの服装はベーツの街で来ていたものに加え、寒さ対策にカーディガン、そして最も特徴的である赤髪を隠す為に帽子を着用しているスタイルであった。



「気になるわけでは⋯⋯ないが、髪が少しムズムズする。」



 アデルが嫌がっていたのはマリーに無理矢理被らされた帽子の方であった。いつも何も被らないアデルとしてはこのような小洒落た帽子はあまり好ましいものではなかった。



「仕方ないですよ、アデルさんの赤髪は良くも悪くも目立っちゃいますもん。」


「それは⋯⋯分かっているのだが、鎧も無いし⋯⋯。」


 なかなか上手く髪が整わないのか、アデルはマリーの問いかけに不安を滲ませながら途切れ途切れに答える。


「⋯⋯?鎧脱いだら守備力は落ちますけどそのかわりスピードは上がるんじゃないですか?」



「上がらないんだよ。騎士のパッシブスキルの効果で身につけた装備の重量分身体能力が上がるからな。服装が変わった所でプラスになんてならない。」



 髪型をセットし直すと、アデルはようやくいつも通りの調子で返事を返す。



「初耳なんですけど。」


「剣だって服の下に仕込んだマジックバックの中だ。咄嗟の対応にどうしても欠ける。」


「それは私も一緒ですよ。」



 愚痴ばかり吐くアデルにマリーも苦笑いで答える。



「いや、そうなんだが⋯⋯なんというか⋯⋯。」



「はいはい、文句言わないでちゃんと見張っていて下さい。」



 それでもなお納得いかなそうな顔をするアデルを見て、マリーはパンパンと手を鳴らして無理矢理話を断ち切る。



「⋯⋯分かってる。⋯⋯と、来たみたいだぞ?」



 駄々をこねるのをやめて溜め息をつくと、アデルは広場の外に視線を向ける。


 アデルの視線を追って広場の外を見ると、そこにはドレスを纏った美しい女性が周囲の視線を集めながら警備の人間を引き連れて、街を闊歩していた。



「⋯⋯あの人がハサイの街のご令嬢⋯⋯。」



「ああ、パトリシア・バロウ様だ。」



 アデルは頬杖をつきながら答える。



「綺麗な方ですね。なんというか凛としてますよね。」



 年齢はセリアと同じくらいだが、セリアとはまた違った落ち着きと余裕を持った表情で見る人を惹きつけていた。



「人の上に立つお方だからな。あの位風格がなくては務まらんだろう。」



 見惚れるマリーとは対照的にアデルは落ち着いた様子でその後ろ姿を眺める。



「あ、行っちゃいましたよ?」



 しばらく見ていると、女性は広場を素通りして街の奥へと行ってしまう。



「品評会の開始までまだ二時間ほどある。一度ロルフ様の所に挨拶にでも行くのだろう。」



 広場にある時計に目を向けてアデルはそう答える。



「はぁ、退屈だなぁ。」



 二時間、と聞いてマリーは軽い気持ちで引き受けたことを少しだけ後悔する。








 一方その頃コウタとセリアの二人は、普段より人通りの多くなった街で見回りを続けていた。



「退屈な仕事も押し付けられましたし、どうしましょうか?」



 セリアは今のマリーの心情を知ってから知らずか、妙に的を得た言葉を吐きながら、街を歩きながら隣を歩くコウタに問いかける。



「こっちはこっちで自分たちのやるべき事をやりましょう。」



「と、言いますけどそんな簡単に見つかるとも思えませんわよ?」



 コウタの言葉にセリアは少しだけ身に纏う雰囲気を変えて問いかける。



「その時はその時です。不審者なんて出でこないに越した事はありませんから。」


 それに対してコウタは完全に力の抜けた状態で返事をする。



「確かに、目的は護衛でしたわね。では、私たちは二人でお散歩ですわね!」



 コウタの言葉に納得すると、セリアはスッと表情を明るい顔に戻して軽い足取りでそう答える。



「いや、流石にそれはちょっと⋯⋯っ。」



 セリアの発言に苦笑いを浮かべてそう返すと、コウタの肩にドン、と通行人の肩が当たる。



「あ、すいません⋯⋯。」


「⋯⋯⋯⋯。」



 コウタが短く謝罪の言葉を述べると。通行人の男はフードを目深に被り直して、何も言うことなくに去っていく。



「⋯⋯セリアさん。」



 コウタはそれを見て視線をその男に固定したままセリアに言葉を投げかける。



「⋯⋯はい?」



「見つけました。怪しい人。」



 そして無表情のまま、小声で報告する。



「奇遇ですわね。私もですわ。」



 同じように視線を後ろに向けてセリアも答える。


「追いましょう。」


「はいですわ。」


 二十メートル程距離を保ちながら追っていると、男は急に歩くスピードを上げる。



「⋯⋯って。」



(速い⋯⋯!もうバレたのか?⋯⋯それとも⋯⋯⋯⋯。)



 嫌な予感を感じながらも、コウタは慌てて歩く速度を上げる。


「セリアさん。走れますか?」


 コウタは早歩きの男を目で追いながら慌てて隣にいるセリアに問いかける。



「走れますけど、通行人が多過ぎますわ。危険です。」



「なら壁伝いに⋯⋯いや、それじゃ目立ち過ぎる。」


(地形は看板で見た分しか把握してないから先回りは出来ない。攻撃して止めるなんて論外だし。屋根伝いも壁伝いも悪目立ちする。)



 選択肢を潰され、コウタはなすすべなく首を振る。



「どうしますの?」


「とりあえずこのまま追います。速度を出せないのはあっちだって一緒です。人が少ない通りまで出たら僕の付与魔法エンチャントで一気にスピードを上げます。」


「分かりましたわ。」


 現状を維持したまま指示を送ると、セリアは素直に指示に従う。




 しばらくするとコウタの予想通り男は人混みを抜けて広い道に出る。



「⋯⋯⋯⋯出た。いきます!付与エンチャ——」



「——ストップです。」


 セリアは手のひらを向けて魔法を発動しようとするコウタを制止させる。


「はい?」


「路地裏に⋯⋯。」


 セリアが指差した先では男が大通りから外れて路地裏へ隠れるのが見えた。



「行きましょう。」





 男を追って路地裏に入ると、すぐさま行き止まりに当たる。


 そして二人の視線のその先には先程まで追っていたフードの男が待ち構えていた。



(行き止まり⋯⋯そして、いた。)



「⋯⋯少し、お話よろしいでしょうか?」


 改めて深く息を吐くと、コウタは表情を明るくして他人行儀に問いかける。




「⋯⋯つーか。チョロすぎねーかぁ?」


「⋯⋯⋯⋯?」



 そんなコウタの問いかけを完全に無視して男は溜め息混じりに呟く。



「まさかこんなに簡単について来てくれるとはなぁ。」



 気の抜けた、油断しきったような、そんな口調で男は呟く。


「⋯⋯じゃあ、やっぱり。」



 コウタの悪い予感は的中した。



「ああ、誘い出した。」



 口元だけを大きく歪ませながらそう答えると、その身に纏う気配をガラリと切り替えて振り返る。



「⋯⋯っ!?」


(雰囲気が、変わった?)


 男は背中から雷で形作られた腕のようなものを発現させる。



「⋯⋯雷魔法!?」



 稲妻の迸るその腕はさながら雷の如き速度でコウタ達に向かってまっすぐ襲いかかる。


「⋯⋯っ!!セリアさん、避けて!!」


「くっ⋯⋯。」


 コウタは襲い来る雷の手を、反応が遅れたセリアを担ぎ上げながら高く飛び上がることで回避する。



「⋯⋯おお、避けるねぇ!!じゃあ次は、どうかな!?」



「セリアさん!」


聖域サンクチュアリー



 再び襲いかかる手に今度はセリアが反応して障壁を張る。


「投げて下さい!!」


「はいですわ!」


 セリアはコウタの襟元を掴むと、体の回転を利用して一気に男の下まで投げ飛ばす。



「甘い!」


「加速!」



 横薙ぎに振られる剣を速度を上げて潜り抜けると、即座に男の首元に向かって刃を突き立てる。


「⋯⋯っ!?」


(はっ、やっ!?)


 男は仰け反りながらもギリギリでそれを回避し、額に小さな傷をつくる。



「⋯⋯あっぶねぇ。」



 男が滴り落ちる血を拭うためにフードを取ると、コウタ達の表情は一層険しくなり、警戒心も最大まで高まる。



「「⋯⋯っ!?」」



 そこには人の身にはついているはずのない、魔族てきの証である紫色の角が一本、確かに存在していた。



「ツノ⋯⋯って事は。」


「魔族、ですわね。」


 コウタはセリアの隣の位置まで下がると武器を構え直す。



「⋯⋯魔族だったらどうするよ?」



 処置を終えると、男はニヤリと口元を歪ませながら問いかける。



「⋯⋯倒す。」



 コウタは剣を鞘に収めて、本気だと言わんばかりに大剣を召喚して呟く。



「やってみろやオラ!!」



 男も更に口調を荒々しくしながら、声を張り上げ、まるでギアを上げていくように両拳を打ち合わせて迎え撃つ。





「——ストップ。」


 直後、二人の間に割り込むように宙から一本の杖が落ちてきて、小気味の良い音を立てて地面に突き刺さる。



「なっ⋯⋯!?」


「チッ⋯⋯。」


「これは⋯⋯。」


 驚くセリアとは別に男はつまらなそうに舌打ちをし、コウタはその杖を分析する。



(降魔の杖?⋯⋯それにこの声。)



「⋯⋯⋯⋯なんで貴女が此処にいるんですか?」


 二つの情報からコウタは即座にその声の主を判別する。





「——シリスさん。」



 名を呼ぶと屋上の上から一人の少女が舞い降りる。




「⋯⋯久しぶり、コウタ。」



 少女は突き刺さる杖の横に着地するとコウタの方を向き不敵な笑みを浮かべる。


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