九十四話 遠き日の思い出・五
部活や帰宅に着く生徒達が一際騒がしくなる放課後、少女はノートや空の弁当箱が入ったリュックサックを背負いながら通路を塞ぐほど人がの集まるそこへ割り込んで行く。
「すいませ〜ん。ちょっと通して〜。」
人混みを掻き分け廊下の中心に張り出された「成績優秀者」と書かれた張り紙に目を通す。
「⋯⋯また、負けた。」
少女はその紙の上から二番目に自らの名前を見つけると、ガクリと膝をついて項垂れる。
「残念でしたね。次、頑張って下さい。」
そんな少女を押し退け、一番上に名を連ねるその少年は、その手に一枚の紙を持ちながら大した興味も示すことなくその横を素通りする。
「このぉぉ!他人事だと思ってぇ!」
少女は叫びながら少年に掴みかかる。
「うわっ⋯⋯。だって別にいつも通りじゃないですか。」
掴みかかられた少年は頬を赤く染めながら慌てて取り繕う。
「くっそー⋯⋯なんでだよぉ⋯⋯。」
「いつまでも気にしてたって結果は変わりませんよ。それよりほら、帰りましょう。」
横でフラフラと頭を揺らして声を上げる少女を見て少年はニッコリと笑ってそう言う。
「こうなったら今日はやけ食いだ!!」
「⋯⋯太りますよ?」
「⋯⋯⋯⋯フンッ!!」
そう宣言する少女に横槍を入れると直後に脇腹に手刀が突き刺さる。
「ぐっ⋯⋯!?なにするんですか!?」
少年は悶えながら慌てて問いかける。
「少しはオブラートに包んで!」
「⋯⋯はぁーい。」
頬を真っ赤に染めてプルプルと震える少女に、少年は脱力した声でそう答える。
「もう!早く行くよ!」
そう言って少女は頬を膨らませながら少年の手を引く。
「はぁ⋯⋯はいはい。分かりましたよ。」
少年は至極面倒そうにそう言うと、小さく口角を上げて少女の手を握り返す。