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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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九十ニ話 窮鼠


「案外⋯⋯あっけなかったな。」


 ピアスの男は黒煙の中に散らばる馬車だったものの残骸を眺めて無感動な声でそう呟く。



「もう少し楽しませてくれるかと思っ⋯⋯。」



 そこまで言うと、馬車を包んでいた煙は少しずつ薄くなり、その中に一つだけしっかりと二本の足で立っている影を見つける。



「へぇ⋯⋯アレ食らって生きてんのか。」



 煙が完全に晴れると、中から気を失った二人の女性を担ぐ少年と地面に横たわる赤髪の女性が見える。


「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯ゴホッ。」


 ボロボロになり、身体の至る所から出血している二人を両脇に抱えるコウタは、身体から赤い光を発して横たわりながら微かに息をするアデルの方向を見て、全員の生存を確認する。


「成る程な、大方、爆発の瞬間にそこの女が盾になって、お前はお前で咄嗟にその二人担ぎ上げて馬車から脱出したわけだ。」


「本来なら全員即死でもおかしくねえっつーのにスゲーな。褒めてやるよ勇者クン。」


 状況を見て正確に推測すると、パチパチと手を鳴らしながら小馬鹿にする様にそう言う。


(たった一撃で、パーティが半壊した⋯⋯!!いくらなんでも規格外過ぎる⋯⋯!!)


 そんな言葉に反応する余裕もない程重いダメージを負っているコウタは朦朧とする意識の中でそんな事を考える。



「一体⋯⋯何者なんですか!!貴方は⋯⋯!」



 脇に抱える二人を下ろしながらコウタは男にそう問いかける。


「何者、か。そうだな⋯⋯。俺に傷でもつけれたら教えてやるよ。」


「それとも、攻撃する元気も残ってねえか?」


「くっ⋯⋯そおおおぉぉ。」


 コウタは手元に長刀を召喚し真っ直ぐに構えると、〝加速〟のスキルを用いて一直線に突撃する。


 男はその剣を素手で受け止めると首を斜めに傾ける。


「なっ⋯⋯!」



「斬破、だろ?」



 その言葉と同時に男の顔の真横を衝撃波が通り過ぎる。


「なんでっ⋯⋯!?」


「こいつはルキがよく使う剣だ。」


「ほら、ボーッとしてないで次こいや!」


 そう言うと、受け止めた剣を軸にしてコウタの身体を小石の如く投げ飛ばす。


「ぐうっ⋯⋯。」



「来ないなら——」



 コウタは空中で体制を立て直して着地をし、視線を敵に戻すと、短くそう放たれた言葉を残してその姿が消える。



「——こっちから行くぞ?」



「くっそ⋯⋯ぐっ⋯⋯。」


 直後に背後から聞こえた声に反応して反射的に身体をひねると、男はコウタのいた地面を思い切り殴る。

 自分が立っている地面が爆発したように盛り上がり、再びその身体が吹き飛ばされる。



「がはっ⋯⋯はっ、はっ、はっ⋯⋯。」



 ゴロゴロと吹き飛ばされた先でコウタは不規則になった呼吸を整えながら悶えるように転がる。


「寝てんじゃねぇ、よっと!!」


 男は地面に突き刺さった腕を抜くとその手に持たれた岩の欠片をコウタに投げつける。


「⋯⋯⋯⋯っ!加速っ!!」


 コウタは動かぬ身体にスキルをかけて、無理矢理跳ね起きる事で攻撃を回避する。


 コウタはしゃがみ込みながら着地をすると再び男に向かって走り出す。


「迎え撃ってやるよ。」


(っ!?爆発魔法!?)


(回避っ⋯⋯いや、間に合わない。)


 その攻撃を避けようと構えると自らの後方に倒れ伏す仲間の姿が見える。


「加速!!」


 コウタは目標を変え、慌てて急接近すると真っ直ぐに構えられた男の腕を蹴り上げる。


「⋯⋯へぇ?」


 蹴り上げた腕から発せられた爆発はコウタにも、仲間にも当たることはなくその上空に巻き起こる。


「召喚!!」


 コウタは間髪入れずに小さなナイフの群れを召喚すると、真っ直ぐにそれを投げ飛ばす。


「⋯⋯軽い。」


 男は軽く手を横薙ぎに振るうと召喚したナイフは粘土細工のように崩れ落ち消滅する。


「⋯⋯っ!素手で⋯⋯!」


「⋯⋯召喚!!」


 驚きながらも今度は手元に赤い剣を召喚し、横薙ぎに振るう。


「今度は火竜、これは紙一重で避けたら危ねえか。」


 コウタの振るう剣を見切ると男はバックステップで舞い上がる炎ごとそれを回避する。


「⋯⋯まだです。」


「⋯⋯上か?」


 コウタの言葉に反応して男は左手を上に向けると、その位置に大剣が降り注ぐ。


 が、その剣も男の手によって受け止められ、砕かれる。


「ああ、ザビロスの剣か⋯⋯。」


 男は砕いた剣を興味無さげに観察すると、小さくそう呟く。


「⋯⋯嘘だろ。」


「ほら、反撃するぞ。」


 再び右手を構えるとその手は小さく輝き、魔法を打つ体制に入っていた。


「⋯⋯っ!?加速!」


 コウタは先程と同じように男の腕を蹴り上げる事で爆発魔法を回避する。


「スゲースゲー⋯⋯で、二発目はどうする?」


 蹴り上げた事で体制を崩したコウタの身体に男は左手で同じように魔法を撃つ構えを取る。


付与エンチャ——」


「——させねえよ。」


 コウタは咄嗟に自らに魔法をかけるが、ピアスの男は全く気にする様子もなくゼロ距離で爆発を放つ。


「ぐうぅ⋯⋯あぁ⋯⋯。」


 コウタは剣を盾がわりに召喚し、爆発の衝撃を逸らしながら〝付与〟の効果で上げた守備力でなんとかその攻撃を受け切る。


 吹き飛ばされ、消え入りそうな意識をギリギリで保ちながら立ち上がろうと手をつくが、思うように身体が動かずどしゃりと、地面に崩れ落ちる。




「⋯⋯ガッカリだな勇者候補。」



 身動きの取れないコウタに、ピアスの男は見下したような態度でゆっくりと歩み寄る。


「オリジナルスキルって言うからどんなもんかと見に来てみれば、蓋を開けりゃ中身はチマチマした小技だけ。」


「攻撃を当てるどころか、仲間守るので精一杯じゃねえか。」


「ごほっ、ごほっ⋯⋯はぁ、はぁ⋯⋯。」


(めちゃくちゃだ⋯⋯。こっちは全力でやってるのに、あっちは剣すら抜いてない⋯⋯。)


 コウタは圧倒的なまでの戦力差に絶望を覚える。


「こりゃ、ルキの野郎、完全に油断しやがったな⋯⋯。だからアイツはダメなんだよ。」


「ル、キ⋯⋯?」


 その言葉に反応すると同時に、コウタの中でゆっくりとパズルのピースがはまったようなそんな最悪な感覚が訪れる。


(こっちの手の内が完全にバレてて、ルキやザビロスの使う武器まで知り尽くして、なおかつ幹部たちを見下してる。そして何より⋯⋯強過ぎる。こいつは間違いなく⋯⋯。)


「魔王軍、四天王⋯⋯。」


 ルキとの会話の中に出てきた存在、目の前にいる男こそ、四天王そのものであると、コウタの直感が告げる。


(見込みが甘かった⋯⋯。なんとかなると思ってた⋯⋯。けど、こいつは別格だ。)


「それにしても。弱ぇ⋯⋯弱過ぎるな。殺す価値すら無えが、生かす価値も更に無え。」


 不快感を足音に表しながら、男は退屈そうにそう呟く。


「⋯⋯っ!!」


「もういい、死ねよ。お前ら全員。」


 男は地面に伏すアデル達に向かって魔法を撃つ構えを取る。


「や、めろ⋯⋯。」


「⋯⋯だったら立てよ。抵抗してみせろ。」


「くっ⋯⋯言われ、なくても⋯⋯。」


 コウタはバックからポーションを取り出し一気に飲み干すと、フラフラと立ち上がる。


「⋯⋯はっ、立ったはいいが、ポーションじゃ全回復は出来なかったみたいだな。」


「終わりだ。せめて最期は派手に散りな。」


 手のひらをアデル達からコウタに向けて構えると、何のためらいもなく魔法を放つ。






「⋯⋯⋯⋯召喚。」



 小さな呟きをかき消すような爆発が鳴り響くと、男は小さくため息をつく。







「はぁ⋯⋯害虫駆除しゅーりょーっと。」




 だが次の瞬間、爆発で舞い上がった黒煙が内側から強烈な風に流され霧散する。




「⋯⋯なっ!?」



 ピアスの男は中から出てきた純白の槍を持つ少年を見て、焦りと好奇心の混じった笑みを浮かべる。






「⋯⋯⋯⋯そいつが、噂の霊槍ロンギヌスか?」




 身体中から迸る純白の蒸気のような力の奔流を見てゼバルは自然と頬が引き攣る。



(視界が、揺れる。気を抜いたら一瞬で意識が持ってかれそうだ。)



 そんな問いに答える余裕など当然無く、コウタはただただ意識を保つのに必死であった。



「⋯⋯っ!!」


(⋯⋯守るんだ。こんなところで、立ち止まってられないんだ。僕がみんなを守るんだ⋯⋯!!⋯⋯だから!)



 コウタは空になったポーションの瓶を投げ捨て、焦点の合わない目で男を睨みつける。





「ここで、お前を殺す⋯⋯!!」




「⋯⋯⋯⋯っ!!?」



 その言葉に反応して男は半ば反射的に腰に下げられた剣に手をかける。



 刹那、病的なまでの静寂を切り裂くように空を切る轟音と衝撃波が大地を揺らす。


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