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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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八十八話 特別報酬


 果実狩りの翌日、コウタ達一行は冒険者ギルドの食堂の一角でミーアと共に黄金の果実を使ったスイーツに舌鼓を打っていた。



「「ん〜美味し〜い!!」」



 マリーとミーアは黄金の果実パフェと呼ばれるそれから生クリームと共に果実をすくい上げ口へと運ぶと思わず頬を抑えてそう唸り声を上げる。



「美味しいですわ。クエストを受けた甲斐がありますわね。」



 幸せそうな顔を浮かべるマリー同様、隣に座るセリアも満足げに果実を口に運ぶ。



「今回はごめんね〜。ほとんど役に立てなくって。」



「いいえ、そんなことなかったですよ。ミーアさんがいたからスムーズに意思疎通出来たわけですし。」



 申し訳無さそうにするミーアに、コウタはモグモグと口を動かしながらそう答える。



「それにしても⋯⋯モグモグ⋯⋯凄かったですね。まさか本当にアレを運び切るとは⋯⋯。」



「モグモグ⋯⋯ああ、なんとかなるもんだな。」



 その正面に座るアデルは疲れを顔に滲ませながら、ケーキを口に運んでいく。



「ところで、特別報酬の件はどうなったの?もう貰った?」



「いや、今日渡されるはずらしいが⋯⋯そろそろ迎えが来るのではないか?」



 他の冒険者の約五倍ほどの果実を運び切ったアデルの収穫数は比べるまでも無く一番であったため、特別報酬の受け取りも当然アデルのものとなったのであった。


「モグモグ⋯⋯それより、特別報酬って一体なんなんですかね。」


「さあな、行ってみないと分からんだろう。」


 マリーとアデルは果実がふんだんに使われたスイーツを口に含んだまま会話を続ける。



「はぁ〜領主様のお屋敷かぁ〜、楽しみです⋯⋯。」



 若干思考があちら側に持ってかれながらマリーは恍惚の笑みを浮かべる。



「——お待たせしました。冒険者のアデル様ですね?」



 そう会話していると、突如ミーアの背後からそんな問いかけが飛んで来る。



「ああ、そうだか⋯⋯貴方は?」



「私、ニオンの街のギルドマスター。リンドウです。本日はアデル様をお迎えに上がりました。準備はできていますか?」



 振り向くと、そこには背が高く切れ長の目をした緑色の髪の男性が立っていた。



「ああ、大丈夫だ。」



 リンドウの問いかけにアデルは短くそう答えて立ち上がる。



「あの、ところで⋯⋯本当に私達も行っていいんですか?」



「⋯⋯えっと、そのことなのですが、お連れ様は二名までならと言う事らしくて⋯⋯。」


 申し訳無さそうに尋ねるマリーに、リンドウはさらに申し訳無さそうに答えを返す。



「えっ⋯⋯?」



「⋯⋯⋯⋯。」



 その場に沈黙が流れる。








「——良かったの〜?行かなくて。」



 話し合いの結果、付き添いはマリーとセリアの二人が行くこととなり、コウタはギルドの中で、ミーアと共に留守番をすることになってしまった。



「仕方ないでしょう。あの人たちを一人で放置してたら心配でしょうがない。」



 いたずらっぽい笑みを浮かべるミーアにコウタは紅茶を口に含みながら答える。



「確かに、君ら全員揃ってトラブルメーカーみたいな雰囲気あるもんね。」



「勘弁して下さい。一人分ですら手に余ってるのに⋯⋯。」



 その言葉を聞くと、コウタはミーアに視線を向けながら深くため息をついてそう答える。



「とりあえず私のこと見て言うのはやめよっか?」



 ミーアは不服そうなコウタに対して、ニッコリと笑みと殺気を叩きつけながら首を傾げる。



「暇なら、私とデートでもしちゃう?」



 ミーアは声のトーンを上げて頬に人差し指を当ててあざとくコウタに問いかける。



「しません。」



「うーん、ノリ悪いなぁ⋯⋯。」


 ミーアは平坦な口調で返ってくるコウタの答えを聞いて残念そうにため息をつく。


「だってなんの意味があって貴女とデートしなくちゃいけないんですか?」


「それ、普通の女の子には絶対言っちゃダメだかんね?」


 キョトンとした態度でとんでもない事を口走るコウタに戦慄しながら、ミーアはそう返す。



「はぁ⋯⋯じゃあ、一緒にクエストでも行く?」



「⋯⋯⋯⋯内容によります。」



 不満げに問いかけるミーアにコウタは少しだけ考え込んだ後に短くそう答える。どうやらコウタにとっては女性とのデートより、ギルドからのクエストの方が魅力的らしい。



「じゃあどんなのがいい?」



 クエストに負けた事に若干の屈辱と不満を感じながら、ミーアはため息混じりにそう問いかける。



「アデルさんたちがいつ帰ってくるかわかりませんから、短時間で終わってなおかつ、あんまり退屈しないのがいいです。」



「そんなのあるかなぁ〜⋯⋯。」


 ミーアはうー、と唸りながら頭を左右に振ってフラフラと左右に揺れる。



「——ありますよ?」



 真横から割り込んできたデイジーの声に二人は同時に反応する。



「「⋯⋯へ?」」








 その頃、アデル達三人はリンドウの先導のもと、街の中を進んでいた。



「そういえば、リンドウさん。領主様ってどんな人なんですか?」



「⋯⋯悪い人ではありませんが、少しだけ変わったお方です。」



「変わった方?」


 リンドウは小さくため息をついて答えるのを見る限り、相当優しい表現で言っているのが伝わってくる。マリーも若干の恐怖を抱きながらついてきた事を少しだけ後悔する。



「まぁ、大分変わっていますわね。」



「知っているのか?セリア。」



「ええ、一度お会いしたことがありますわ。」



 アデルの問いかけに、セリアは淡々と答えて行く。


「どんな方なのだ?」


「なんというか独特の趣味と言いますか⋯⋯。」


 話しているうちにセリアから顔は少しずつ笑顔が消えていく。


「変なことされたりしませんよね?」


「悪い方ではないので何かされるとは⋯⋯。」


「「⋯⋯?」」


 リンドウは三人の方を向くと、一人ひとりの顔を見て小さくため息をつく。



「⋯⋯すいません。気を付けて下さい。」



「なんですか今の間は!?」


 頭を抱えてそう言うリンドウに、マリーは青ざめながら強く問いかける。



「私はとりあえずいつでも聖域サンクチュアリーを発動できる様にしておきますわ。」



「そんなに危険なのか!?」



 無表情でそう言うセリアに、アデルも恐怖を抱き始める。


「えっと⋯⋯着きました。」


「「⋯⋯っ!?」」


「こ、ここが⋯⋯。」


 話を聞く前とはうってかわり、マリーは完全に恐怖に支配された顔でその大きな扉を見上げる。


 そうして門の前で立ち尽くしていると、一人の男がこちらに近づいてくるのが見えた。



「どちら様で?」



「ギルドの者です。先の収穫クエストの功労者をお連れしました。」



「分かりました。只今、領主様をお呼び致します。」



 男はそう言うと、門の横にある小さな扉から敷地の中へと入っていく。






 しばらく経つと、目の前の門の扉がギイ、と重い金属音を上げて開き始める。



「奥で領主様がお待ちです。どうぞお通り下さい。」



「ありがとうございます。」



 リンドウは頭を下げると、黙って歩き出す。それに合わせて三人も黙って後ろをついていく。



「すっごく広いですね⋯⋯。」



「そうだな⋯⋯さすが領主といったところか。」


 アデルとマリーの二人はキョロキョロと敷地内のいたるところを見渡し感嘆の声を上げる。




 そうして歩いていると、ようやく建物が見え始め、その扉の前に一人の女性が立っているのが見えた。



「彼女が、ニオンの街の領主、ローナ様です。」



 領主と呼ばれたその女性はクルクルと巻かれたベージュ色の髪が特徴的な、いかにもお嬢様な若々しい女性であった。



「えっ!?女性!?」



 自分たちとほとんど年齢が違わないようなその見た目にマリー達が驚いていると、女性はスタスタとこちらに近寄りニッコリと笑ってみせる。




「いらっしゃいませ。お待ちしていましたわ。」



 女性はニッコリと微笑みながら首を傾げると、三人の顔を見て歓迎の言葉を送る。



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