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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
85/287

八十五話 合流



 その頃、アデル達は、冒険者の最後列で、迫る魔物の群れから逃げ回っていた。



「はぁ、はぁ、なんとか逃げ切れたね⋯⋯。」



「本当に、増えすぎだよ!」



「ああ、次から次へと、倒すたびに別の魔物が出てこられたのではこっちがもたない。」



 アデル、ミーア、アンの三人は冒険者達の最後列で愚痴をこぼしながら走っていた。



「って、まだ追いかけてくるんだけど!?」



 すると後方からドドド、と地鳴りのような音が鳴り響きゴブリンたちが追いかけてくるのが目に入る。



「⋯⋯止めます!」



 アンは追ってくるゴブリンに向かって構えると、その足元に蔦のような魔法を設置する。



「ギャギャ!?」



 最前列にいたゴブリンがその魔法を踏むとその足取りはピタリと止まり、バタンと倒れる。


 それに連動して後ろを走っていたゴブリン達は先頭のゴブリンにつまづきバタバタと倒れていく。



「おお〜。」



 追ってくるゴブリンが徐々に遠ざかるのを見てミーアは感嘆の声を上げる。



「今のは?」



「いくつかある移動阻害魔法の一つ。設置した魔法を踏むと蔦が足に絡まって相手を妨害するの。」



 アデルの問いにアンは早口で答える。



「アーちゃんは付与術師の中でも更に珍しい妨害型の付与術師なんだよ!」


「なるほど、だからああゆうことも出来るのか。」



 アデルは倒れていくゴブリン達を見ながら森の中を走り抜けていく。



 しばらく走っていると、最前列の方からデイジーの声が聞こえてくる。



「着きました!みなさん止まってください。」



「⋯⋯ここは?」



 立ち止まった先に見えるのはコウタ達と別れた時にあったような洞窟と思われるものの入り口であった。



「洞窟、だよね?」



「この奥に、黄金の果実があります。」



 ミーアの問いにデイジーは淡々とそう答える。



「洞窟の中に、か?」



「いえ、正しくは洞窟を抜けた先にです。」


 そう続けるとデイジーはゆっくりと歩き出して前へと進む。



「では、参りましょう。」



 アデル達はデイジーの後に続き、洞窟の中へと入ると、すぐさま異変を察知する。



「うっ、なんだこの臭い。」



 ジメジメとした蒸し暑さと鼻腔に突き刺さる鉄が錆びたような臭いが洞窟を進む冒険者達に何が起きているかを鮮明に伝えていた。



 更に歩くと今度はゴツゴツとした岩場に、枯れた草木が散らばった、ひらけた空間に出る。




「なに⋯⋯あれ⋯⋯?」



 その空間のの中心には真っ白な龍と、かろうじて認識できるミノタウロスだったものと思われる肉片が、周囲の草木を真っ赤に染めていた。



「なんですかあれ!?」



 アンは口元を真っ赤に染めた白いドラゴンを指差してデイジーに問いかける。



「分かりません⋯⋯。あんな魔物⋯⋯見たことない。」



「あれはフレアドラゴンの⋯⋯変種?」



 戸惑う冒険者達の横でミーアはドラゴンに〝観察〟のスキルを発動して詳細を読み込む。



「フレアドラゴン?あれは確かに火山地帯にしかいないのではないか?」



「うん。だから変種。多分森の中で生きていけるように変化したんだと思う。」



 そう話していると、冒険者の一人がミノタウロスの肉を貪るドラゴンと目が合う。



「ひっ⋯⋯。」



「グッ⋯⋯ルアアアァァァァ!!」



 明確な殺意を持ってドラゴンは地面が震えるほどの巨大な雄叫びを轟かせる。



「来る⋯⋯!みなさん!構えて!」



 デイジーの声を聞いて冒険者達が構えると、ドラゴンは躊躇いもなくその列へと突撃する。



「シャット・アウト!!」


 アデルは咄嗟に最前列へと飛び出すと、その攻撃を受け止める為、自らに防御のスキルを発動させる。



「ダメ!」



 ミーアはそう言ってアデルを突き飛ばしてドラゴンの攻撃を回避する。


 後ろを見ると他の冒険者達も同様に各々がドラゴンのその攻撃を回避していた。



「何をする!?」



「あんなの受けきれるわけないでしょ!!」



 怒鳴りつけるように問いかけるアデルに、ミーアは手を引きながらそう答える。



「なら、どうする!」



「囲んで、一気に叩く!!」



 ミーアがそう言った直後に、アデルへと追撃しようと構えるドラゴンの動きがピタリと止まる。




「⋯⋯今です!!」




(移動阻害魔法⋯⋯!?)


 アンの声に合わせて冒険者達は一斉に遠距離攻撃を仕掛ける。



「「「「おおおおぉぉぉ!!!」」」」




 炎の球や風の刃が無防備なドラゴンに一斉になだれ込むと、ドラゴンの悲痛な雄叫びが鳴り響く。



「⋯⋯はぁ、はぁ、やったか?」



 冒険者の中の魔法使いの男がそう言うと、少しずつ土煙がはれてその姿が鮮明に見え始める。




「グルアアアアァァァァ!!」




 ドラゴンは多少ふらつきながらも、ほとんどダメージを感じさせることなく再び大きな雄叫びを響かせる。


「⋯⋯そんなっ!」



「無傷って⋯⋯嘘でしょ!?」


 血の一滴も流していないその姿を見て、冒険者達はザワザワとどよめき出す。


 多少の手応えを感じていた分、そのショックも大きかったのだ。


 ドラゴンはそんな冒険者の一人に狙いを定めると、背中から二本の蔦のようなものを生やして構える。



「なにあれ!?」



 アンはウネウネと蛇のように獲物を狙う二本の蔦を見て思わずそう叫ぶ。



「フレアドラゴンは火属性のブレスしか使わんのではなかったのか!?」


「あれもどうせ、変種だからなんでしょ!」



 アデルの問いかけにミーアは焦りを含めた強い口調でそう答える。



「⋯⋯来ます!!」



 デイジーがそう言うとドラゴンは冒険者に向かって二本の蔦を突き立てる。



「くっ⋯⋯うわっ!?」



「⋯⋯っトランス・バースト!!」



 アデルはそう言って身体に赤い光を纏い、ドラゴンとひるむ冒険者との間に割り込むと襲いかかる蔦を二本とも両断する。が、切られた蔦はそんな事など関係ないと言わんばかりに再生し、攻撃を継続する。



「しつこい!!」



 アデルはそう叫ぶと、止まる事なく襲いくる蔦の攻撃の隙間から風の刃をドラゴンに向かって放つ。



「ギャオォォォ!!」



 風の刃はドラゴンの頭に当たるとバッサリとその硬い皮膚を突き破ってビチャビチャと赤い血を流す。



「ォォォォォォ!!」



(浅い⋯⋯。)


 ドラゴンは怒り狂ったように叫ぶと再び蔦をアデルに向かって飛ばすと、アデルは一本を切り刻み、もう一本を余裕を持って回避する。



「⋯⋯っ!?くそっ!」



 その直後に体を包む赤い光が消えてアデルは苦しそうに膝をつく。



「気をつけて!!また来るよ!!」



 ドラゴンは蔦での攻撃を諦めると、ドスンと、強く足踏みをする。



「⋯⋯あれは?」



 足踏みに合わせて、その地面からは大きな樹木が通常ではありえない勢いで生い茂り始める。



「ガアアァァァァ!!」



「来る⋯⋯!!」


 生い茂った木々は身動きの取れないアデルに向かって容赦無く襲いかかる。



「このっ⋯⋯!!」



「止まって⋯⋯!!」


 アンとミーアは届くはずもない距離から、それでも助けようと必死に手を伸ばす。




「——聖域サンクチュアリー




 直後に響いた澄んだ声が、アデルの周りに光の壁を展開させ、木々の波を遮断する。




「くっ、済まないセリア。助かった。」




 痛みで悶えるアデルは岩場の上で杖を構える女性に向かってそう言う。



「大きな音がしたので急いで来てみたら⋯⋯まぁ、無事で良かったですわ。」



 声をかけられたセリアは深くため息をついた後、ニッコリと笑ってそう答える。



「グルアアァァァァ!!」



 ドラゴンはセリアに矛先を変えると、先程同様、一直線に突撃して来る。



「ヒート・ブレイク」



 が、その攻撃はその背後から高速で飛来した炎の球に吹き飛ばされ、セリアに届く事は無かった。



「この攻撃は⋯⋯!?」



 その様子を見てその攻撃の主を探してアンはすぐさま周囲を見渡す。



「——ったく。こんだけ集まってこの程度のモンスターも倒せねえのかよ。」




「ロフト!」



 アンは声のした方へと視線を向けると、一人立ち尽くす口の悪い少年の姿を見て叫ぶようにその名を呼ぶ。



「⋯⋯⋯⋯怪我は⋯⋯ねえみてえだな。」



「うん!」



 アンの方に目を向け、ため息をつきながら少しだけ丸い声色でロフトがそう言うと、アンは嬉しそうにニッコリと笑う。



「そんじゃ、⋯⋯お前ら邪魔だから全員下がってろ。」



 アンから視線を移すと、そう言ってロフトは岩場から飛び降り、ドラゴンと正面から向かい合う。



「こいつは、俺一人で充分だ。」



 覇気に満ちた表情で剣を抜き、そう言ってニヤリと笑う。


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