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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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八十三話 魔窟


 その頃コウタとマリーの二人は出口を探しながら、洞窟の道を順調に進んでいた。



「中、結構広いですね⋯⋯。」



 コウタが即席で作った松明を一本ずつ手に持ちながら、二人は洞窟の道を息を殺しながら壁伝いに慎重に進んでいく。



「そうですね。それに、なんか空気が涼しい⋯⋯。」



 マリーはコウタと同様に真剣な表情でゆっくりと壁に手をつくと、指先でひんやりとしたその温度を感じとる。



「⋯⋯あ、なんか広いところに出ますよ?」



 ふとコウタがそう言うと、延々と続く一本道の先に一筋の柔らかな光が見える。



「⋯⋯ここは?」



 光の向かって道を進むとその奥にはドームのような広い空間が現れる。


 コウタは足場の悪い岩にしがみつきながら、下の方を覗き込むと、そこには病的なまでに透き通った大きな泉が存在し、その中心にはコウタ達が感じ取っていた光源と思われる巨体な水晶が鎮座していた。



「綺麗⋯⋯⋯⋯、っ!?」



 マリーは水面に反射し、光を乱反射させるそよ鉱石に見とれていると、何者かの気配を感じて振り返る。



「ひっ⋯⋯ムグッ⋯⋯。」



 振り返った先には蜘蛛のような形をした二メートルほどの大きさの魔物が五、六体いるのが見え、マリーは思わず悲鳴をあげるが、その声は後ろから回されたコウタの手に阻まれる。



「しっ、静かに。」



 コウタはマリーの口を塞いだまま大きな岩の影へと引っ張りこみ、真剣な表情で、人差し指を立てて小声でそう言う。


「ん、ん〜⋯⋯!」


 マリーはその体制に激しく動揺し、顔を真っ赤に染めてコクコクと激しく頷く。



「ど、どうします?」



 息を荒くしながら、マリーは高鳴らせた胸を押さえつけてそう尋ねる。



「⋯⋯素通り出来ればいいんですけど、あの数じゃそれは厳しそうですし、仕留めてから行きましょう。」



「⋯⋯でも、数的に不利じゃ無いですか?」



 赤らんだ頬が収まらないまま、マリーは連続してコウタに問いかける。



「マリーさん。今、何発撃てますか?」



「⋯⋯九発です。」



 主語のない問いかけの意味をマリーは即座に理解し、自らのステータスを見てそう答える。


 少ないのに変わりはなかったが、それでもコウタは彼女の成長を感じ取りながら返事代わりに小さく首を縦に振る。



「⋯⋯なら、僕が引き付けるので、後ろから魔法で仕留めて下さい。」



「⋯⋯了解です!!」



 コウタは手元に二本の剣を召喚して、問いかけると、マリーは杖を強く握り締めて答える。



「——では、行ってきます。」



 言葉と同時に岩場から飛び出すと、蜘蛛型の魔物の間を〝加速〟を用いて走り抜ける。


 それに気づいた魔物の一匹がコウタに向かって足の一本を突き出す。


「カッカッカ⋯⋯!!」


 コウタはそれを二本の剣で受けきると、後方にいるマリーに合図を送る。



「くっ⋯⋯マリーさん。今です!」




「ヒート・キャノン!!」




 コウタの合図に合わせてマリーは両手を構えると、その詠唱と共に巨大な火の玉が辺りに小さな衝撃波を撒き散らしながら真っ直ぐに放たれる。


 声が聞こえるとコウタは後方に飛び上がり魔物と距離を取る。


 直後に魔物の体に巨大な火の玉が衝突すると、奇妙な模様の入ったその体は大きな火柱を上げて燃え上がる。


(威力が上がってる?)


 その様子を見て、コウタは改めてその少女の才能を感じ取る。



「クッカカッ⋯⋯!?」



 程なくして攻撃を受けた魔物は奇妙な声を上げてバタンと崩れ落ちると、その轟音によって他の魔物達もコウタの存在に気がつく。


「よし!」


「まずは、一匹。⋯⋯次!」



 そう言うとコウタは手元に一本の大剣を召喚し、マリーへ襲いかかる魔物に向かって撃ち出す。



 飛ばされた大剣は蜘蛛の頭に突き刺さり、大蜘蛛はその動きを止める。


 同様の方法でコウタとマリーはもう一匹ずつ仕留めると、最後の一匹はマリーの方へと襲いかかる。



「ふうっ⋯⋯。」



「っ!マリーさん!足元、気を付けて!!」



「へ?⋯⋯ちょ!?」



 迎撃のために距離をとると、マリーの足元の岩が崩れ、遥か下にある泉へと真っ逆さまに落ちていく。



「ううっ⋯⋯。」



 迫り来る水面を見てマリーは強く目を瞑る。



「大丈夫ですよ。マリーさん。」



 ガクンと身体に重圧がかかると、マリーの身体は浮遊感に包まれる。



「こ、コウタさん!?どうやって⋯⋯?」



 ゆっくりと目を開けるとマリーの目の前にはコウタの顔が現れる。


 コウタは足元に召喚した巨大な大剣をサーフボードのように乗りこなしてマリーの身体を両腕で抱え上げていた。




「⋯⋯すごい、こんな使い方あったんですね。」



「最近考えついたんです。それよりマリーさん。あれ、やれますか?」



 コウタの視線を追って上を向くと、蜘蛛型の魔物がマリーを追って壁を這って降りてくるのが見えた。



「やれますっ!!」




「⋯⋯ヒート・キャノン!!」



 マリーはそう言うとコウタの首に片腕を回し身体を固定すると、杖を持ったもう片方の腕を魔物に向けて突き出し、炎の玉を撃ち出す。



「キャキャキャ⋯⋯!!」



 炎に包まれた魔物は力なく宙に投げ出され、大きな水飛沫を上げて泉の中へと消えていく。



「「よしっ!!」」



 それを見て二人は同時に強く拳を握り締める。



「えへっ⋯⋯っ!?」



 マリーは安心してニッコリと笑うと改めて自らの置かれた状況を把握する。



 コウタの手は自らの足と、背中を支えるように回され、自分自身はそのコウタの首元へと腕を回している。




 そう、それはまごうことなきお姫様抱っこ。




「⋯⋯⋯⋯っ〜〜!!」



 意識した途端、身体中が暑く火照っていくのを感じる。



「どうかしました?」


「い、いい、いえ、なんでもないです!」


 コウタがそう問いかけた瞬間、マリーはものすごい勢いで首を九十度回転させて目をそらす。


「⋯⋯?とりあえずお疲れ様です。」


 明らかに様子のおかしいマリーに、コウタはニッコリと微笑みかける。


「は、はい⋯⋯。」



(⋯⋯ヤバい。ドキドキが治んないっ!)



 締め付けるような胸の高鳴りを抑えて、マリーは裏返った声でそう答える。



「よいしょっと⋯⋯。怪我とかありませんか?」



 そう言いながら、大剣から飛び降りると、コウタはゆっくりとマリーを下ろす。


「は、はい。おかげさまで⋯⋯。」



 未だ治らぬ動悸に胸を抑えて、うつむきながらそう呟く。


「ならよかった。それじゃ、行きましょうか。」


 そんなマリーの苦労など知る事もなくコウタはクルリと踵を返して歩き始める。


「⋯⋯?何処へ?」


「出口です。ほら、あそこ。」


 キョトンと首を傾げるマリーを横目に、コウタは遠くにある小さな細道を指差す。



「あ、本当だ!⋯⋯いつの間に見つけたんですか?」



「ついさっきですよ。⋯⋯行きましょう?」



「はい!」



 コウタの問いかけに、調子を取り戻したマリーがハッキリとした口調で返事を返す。





「——オオオオオオォォォ!!」





「「⋯⋯!?」」


 直後、耳を切り裂くほどの甲高い雄叫びが洞窟の中に響き渡る。



「マリーさん!!」



「⋯⋯きゃ!?」


 少し遅れて真上から降りてくる巨大な何かに反応してコウタはマリーを突き飛ばしてそれを回避する。



「いたた⋯⋯。」



「——グルルル⋯⋯。」



「⋯⋯!?これは、狼!?」


 マリーが視線を向けると、そこには銀色の毛並みで覆われた狼型の魔物が全身の毛を逆立てて立ち尽くしていた。


 二人はそれを見て慌てて臨戦態勢をとると、狼はゆっくりと近づいてくる。



「⋯⋯それも、めちゃくちゃ強い⋯⋯!?」



 驚くマリーを尻目にコウタは狼に〝観測〟のスキルを発動させる。



「オオオオオオォォォン!!」



「⋯⋯っ!」


 再び放たれる洞窟全体が震える程の大きな雄叫びにマリーも思わず気圧される。



「やっぱり、一筋縄じゃいかないみたいですね。」



 そう言ってコウタは強く武器を握り直すと、ニヤリと引き攣った笑みを浮かべる。





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