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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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八十二話 分離


「くっ、状況は⋯⋯!?」


 爆音の上がった地面から立ち込める土煙が消えると、デイジーは周囲を見渡す。



「ミノタウロスが、いない?ここから落ちたみたい。」


 アンが指差した先には深く切り立った斜面とミノタウロスがずり落ちた様な、抉れた地面があった。



「⋯⋯コウタ?コウタがいない!?」



 ミーアがそう言うとアデルは再び視線を自らの周囲に向ける。



「⋯⋯っ!マリーとセリアもいないぞ!」



「あっ!ロフトもいない!」



 ミーア、アデルの言葉を聞くと、ハッと思い出した様にアンも周囲を見渡してそう言う。


「まさか、先程の攻撃で吹き飛ばされたのですか!?」


 デイジーは焦りからかいっそう強い口調で二人にそう尋ねる。



「待って!今、探すから!!」



音響探索エコー



 ミーアはそう言って目を瞑ると、舌を打ち鳴らして甲高い音を発する。



〝音響探索〟探索者の専用スキル。周囲の物体や生物の位置を把握することが出来る。



「⋯⋯いた。坂の下に⋯⋯二人。」


 ミーアはミノタウロスが落ちたと思われる跡が残る斜面を指差してそう言う。


「大丈夫なのか!?」


「うん。近くに魔物の気配はないから。多分、木かなんかに引っかかって一番下までは行ってないんだと思う。」


「他の二人は⋯⋯。こっち!」


 そう言ってミーアは走り出すと、近くにある岩場の前で立ち止まる。


「この中にいるはず。」


 ミーアは大きな岩に手をついて小さくそう呟く。


「埋まっているのか!?」


「ううん⋯⋯⋯⋯。多分、中は空洞になってる。」


 再び舌を打ち鳴らして中の様子を探ると、自信なさげにそう答える。


「おお〜い。誰かいるでしょー!返事してー!!」


「⋯⋯いますよー。」


 岩の隙間から大きな声でミーアがそう問いかけると、そこからコウタのものと思わしき返事が返ってくる。


「コウタ?コウタなの?」


「はい、そうです。」


 大きな声でコウタはミーアの問いかけに答える。


「どうしてこんなところに?」


「攻撃を避けようと咄嗟にマリーさんを庇って穴に逃げ込んだんですけど。入った直後に攻撃の影響で入口が塞がってしまったみたいで⋯⋯。」


 短くそう尋ねるデイジーに対してコウタは岩越しに状況を説明する。


「二人とも怪我はないのか?」


「大丈夫ですよー!」


 コウタの代わりにマリーの返答が聞こえると、アデルはホッとため息をつく。



「そっちはどうなってますか?」


「魔物は坂の下に落ちた。冒険者は貴様ら以外にも姿が見えないものかいるから確認中だ。」


 コウタはアデル達にそう質問すると、予想していた答えが返ってきたためホッとため息をつく。


「とりあえず、今から助けるからそこを動くなよ。」


「いえ、やめておきましょう。」


 アデルは剣を抜いて構えるが、岩の奥からくる答えを聞いて戸惑いを見せる。


「何故だ!?」


「これ、下手にブチ抜いたら洞窟自体が崩れかねないよ。」


 その問いかけはコウタの代わりに岩に手をつくミーアがそう答える。


「ならば少しずつ岩を退かそう。」


「それもあまり得策じゃありません。⋯⋯というか、ここに長く留まってると、またあのレベルの魔物が来てしまうかも知れませんから、すぐにここから離れるべきでしょう。」


 再び出した策に今度はコウタが反論する。


「なら二人はどうするの?」


 痺れを切らしたアンはコウタにそう問いかける。


「この洞窟、結構長いみたいなので、別の出口を探してみます。」


「⋯⋯大丈夫なのか?」


 アデルはまるで母親のような気分で不安そうに尋ねる。


「多分、大丈夫です。」


「私も!コウタさんが一緒なら、大丈夫!だと、思います!」


 二人は、問いかけに対する各々の答えをアデルに聞かせる。


「⋯⋯そうか、なら地上に出たら合図を送ってくれ。すぐに合流出来るようにする。」


 諦めが着いたのか、アデルは深いため息をついた後、そう言ってコウタ達の意見を受け入れる。


「⋯⋯それと、絶対に死ぬなよ。」


「「はい。」」


 アデルの言葉を聞くと二人は元気よく返事をする。その後、コツコツと二つ分の足音は洞窟の奥へと消えていった。


「⋯⋯行っちゃったみたい。」


「で、あっちはどうする?」


 アデルは先程まで話していた二人から、すぐさま坂の下の二人に意識を切り替える。


「ロフトなら大丈夫だと思うけど⋯⋯。」


「同感だな。私もセリアなら大丈夫だと思う。」


 アデルとアンの二人はそれぞれ仲間への信頼を口にする。


 はっきり言ってセリアに対するアデルの評価は決して低いものではなかった。


 経験の浅いマリーや、すぐに無茶をするコウタとは違い、セリアは戦闘能力、立ち回りとともに最も安定していたからである。


「あ、二人とも動き始めた⋯⋯。って、これ戻ってくる気ないな⋯⋯。」


 ミーアはそれを聞いてもう一度舌を打ち鳴らすと、頭をかきながら苦々しい顔でそう言う。


「あいつ、基本私がいないと自由人なんで⋯⋯。」


「こっちもだ。私かマリーがいないと何しでかすか分からない⋯⋯。」


 ミーアの言葉を聞いて二人は頭を抱えて言いづらそうに口ごもりながらそう話す。


 戦力は安定はしていたが、行動が読めないのがセリアの唯一の難点であった。


「でも、あいつが魔物なんかに遅れを取るとは思えないし、やっぱり大丈夫だと思う。」


「セリアもだ。なんだかんだ言って基本無傷だしなあいつは。」


 アデルとアンは二人の戦闘能力を思い返して、問題ないと判断する。


「⋯⋯じゃあ、あっちもほっとくか。」


「そうですね。」


「そうしよう。」


 結果的に三人とも同じ意見でまとまったため、ロフトとセリアの二人は図らずも自由行動を許される事となった。



「ミーアさん。見つかりましたか?」


 そうしていると、先程いた場所からデイジーが顔を出してミーアにそう問いかける。


「あ、見つかったよー。」


「見つかった四人は合流が難しそうなので、それぞれ別の道を歩いているっぽいです。」


 アンは三人を代表して話し合いでまとまった結論をデイジーに報告する。


「えっと、ではどうしますか?」


 デイジーは戸惑いを見せながらそう尋ねる。


「とりあえずは私がスキルで見つけ次第、合流出来るように合図を送るよ。」


「大丈夫、なんですか⋯⋯?」


「ああ、実力的には問題ない。」


 デイジーの問いにアデルはそう答える。


「だから、私達は別の魔物が襲ってくる前にここを離れましょう。」


「——いや、もう遅いかも。」


 アンの言葉を聞いた後、ミーアはすぐさまそれを否定する。


「⋯⋯⋯⋯来てしまったか。」


 一歩遅れてアデルとデイジーの表情が険しくなる。


 周囲を見渡すと、三十近い数のゴブリンが草木の陰から姿を現わす。



「こっちも、気を抜いてはいられんな。」



 深いため息の後、剣を抜くとアデルは苦々しい笑みを浮かべる。



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