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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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八十一話 果実狩り


三日後——


 コウタ達一行を含む五十を超える冒険者達はニオンの街の東にある平原の道を歩いていた。


 列を成して歩いていた他の大規模レイドクエストとは違い、平原の道を冒険者達がバラバラに歩いている中で、コウタたちもその真ん中辺りでゆっくりと歩いていた。


「うう〜ん。いい天気ですねぇ〜。」


 コウタは頬に当たる柔らかい風を受けて大きく伸びをして息を吸い込む。


「流石に気を抜き過ぎだぞ。しっかりしろ。」


「と、言っても何もなさ過ぎてねぇ⋯⋯。」


 アデルが諌めると、コウタの代わりにミーアが気の抜けた声で答える。


「ギミヤの森までは比較的安全だからね。ああなっちゃうのは仕方ないんじゃない?」


 アンが腑抜けた表情で歩く二人を見て笑みを浮かべながらそう言う。


「アンさんはこの辺の事詳しいんですか?」


「ううん。ポータルにいる知り合いがここに来たことあってね。教えて貰ったの。」


 マリーの問いかけにアンはそう答える。


 どうやら女性陣の方はすっかり仲良くなっているようであった。



「⋯⋯見えたぞ。」



 アンの隣で不機嫌そうに歩くロフトは前方を睨みつける様に眺めると、短くそう呟く。


「⋯⋯あ、本当だ。」


 その言葉を聞いてコウタが進行方向に目を凝らすと何もない平原の奥に、生い茂る木々の群れを見つける。


「え〜、何も見えないんですけど⋯⋯。」


 マリーが目を細めてキョロキョロと見渡すが、探すのを諦めてそう愚痴を溢す。


「ちょっと遠いからね〜。もう少しすればマリーちゃんにも見える様になると思うよ。」


「見えるんですか?ミーアさん。」


 得意げに呟くミーアに、マリーは首を傾げながらそう問いかける。


「うん。私、千里眼のスキル持ってるから。」


 問いかけにミーアは自らの目を指差して、問いかけに答える。



〝千里眼〟探索者専用スキル。視力と動体視力が上がり、遠くにあるものや高速で動くものもはっきりと見える様になる。



「⋯⋯じゃあ、なんでコウタさんも見えるんですか?」



「僕は生まれつき目がいいので。」



 マリーの率直な疑問にコウタは平然とした様子でそう答える。


「ほら、見えて来ましたわよ?」


 そんな話をしていると、セリアが遠くを見つめてマリーにそう言う。


「あ、本当だ。ってまだ全然遠いじゃないですか!!」


「えーアデルさんおぶって〜。」


 マリーはそう叫ぶとアデルの身体に縋り付く。


「帰りにお前が私をおぶってくれるなら考えよう。ちなみに帰りは果実も一緒に運ぶことになるがいいか?」


「⋯⋯ヨクナイデス。」


 大量の果実と共にアデルを運ぶ景色を思い浮かべ、マリーの表情が消える。


「なら歩け。これも果実のためだ。」


「むぅ〜⋯⋯。」


 頬を膨らませながらマリーはフラフラと再び歩き出す。







「着いた。ここが⋯⋯。」


 森へと近づくと、冒険者たちは一度立ち止まりその生い茂る木々を見上げる。


「ギミヤの森⋯⋯。」


「おお、なんか⋯⋯やばい雰囲気が⋯⋯。」


 木々の隙間から聞こえる魔物の声に彼らも同様にざわつき始める。


「——みなさんお静かに。」


 浮き足立つ冒険者たちを一人の女性が制止する。


「改めまして、私ギルド職員のデイジーと申します。今回は皆様のガイドを務めさせていただきます。」


 女性はそう言って頭を下げると、胸元からおもむろに一枚の紙を取り出し、読み上げていく。


「ご存知の通り、今回のクエストは大規模レイドクエストであると同時に特殊クエストでもある為、レベル制限がつけられています。」


「⋯⋯そうなんですか?」


「ああ、クエストを受けるときに言われたな。」


 コウタが視線を向けると、問いかけられたアデルは思い出したようにそう答える。


「レベルの制限は30。そうでない方は平均レベル30以上のパーティーで受けることが条件です。」


「ああ、だから僕たちでも受けれたのですね。」


 ポンと、手を突いてコウタは納得する。


「また、このクエストも他の大規模クエスト同様、報酬の受け渡しは個別になる為、領主様からの特別報酬も一番多く集めたパーティー、ではなく。一番多く集めた方、個人へ渡されます。」


「まぁそうしないと数の多いパーティーが有利になっちゃうもんね。ウチとか。」


 ミーアはその説明を聞き、分かりきっていたかのようにため息をつく。


 確かにミーアの言う通り、クエストに参加していたパーティーはコウタ達のように大人数であったり、ロフトとアンのように二人で参加するなど、様々な形で参加しており、公平を期すにはそちらの方が都合が良かったのである。


 と言っても、それはあくまで少人数のパーティーにもチャンスが出来るだけであり、個人戦となれば力のステータスが低いコウタやマリーが不利になってしまうのは否めなかった。


「謎にエンターテイメントですね。」


「よろしいではないですか。楽しげで。」


 乾いた笑みを浮かべるコウタの愚痴にセリアはにこやかにそう答える。



「尚、この先には強力な魔物も複数存在しますので気を引き締めて参りましょう。」



 それを聞いて冒険者たちの表情が臨戦態勢に切り替わる。


「では、出発しましょう。」


 デイジーの主導で、冒険者たちは森の奥へと進んでいく。







「やっぱり、中は光が通りませんね。」


「そうだな⋯⋯。」


 コウタの言う通り、森の中は木々の隙間から漏れる小さな光のみが光源となって視界を照らしていた。


(けど周りが全く見えないほどじゃない、か?)


 コウタは冷静に状況を分析すると周囲に意識を傾ける。すると、森の奥から微かに震えるような音が聞こえる。



(⋯⋯⋯⋯なんだ?この音?)




「⋯⋯なにか「「なんか来る!」」




「⋯⋯え?」


 コウタの言葉を遮るようにミーアとロフトの二人が叫ぶように周囲の冒険者にそう言って武器を構える。


「な、なにか聞こえない⋯⋯?」


 その音は時間が経つにつれて徐々に大きくなっていき、他の冒険者の耳にも聞こえるほどのものに変わる。


 ドッドッドッ、と連続する音が近づき、ドンッと大きな音がなった後、その音はピタリとなり止む。


「止まっ⋯⋯た?」


「いや、⋯⋯上だ!!」


 ロフトがそう言うとコウタ達はその方向に目を向ける。


「「ミノタウロス!?」」


 上を見上げると、牛頭の巨人が両手に構える棍棒を振り下ろそうと飛び上がっているのが見えた。




「召喚——」



聖域サンクチュアリー——」



「ダークネス・レイ——」



 真っ先に反応出来たのはコウタ、セリア、ロフトの三人であった。



「「⋯⋯っ!?」」



 三人が同時に迎撃や防御の体制を取るが、飛び上がったミノタウロスは既に攻撃の体制を取っていた。



(間に合わない⋯⋯!)


(間に合わねぇ⋯⋯!)



 コウタとロフトの二人は、それに気がつくと、同時に迎撃を諦めて次の行動に出る。



 直後、土煙と共に暗い森の中に地を割る轟音が鳴り響く。


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