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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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七十九話 同類たち


 コウタたちがナストを出て三日目。

 晴れ渡った空の下、馬車を操縦するコウタの視界の奥に、街のような影が映し出される。


「見えてきましたよ。」


「おお!あそこがニオンか〜。」


 コウタがそう言うと、御者台の隣に座るミーアと、荷台の後ろに座るマリーが反応する。


「アデルさん。着いたみたいですよ。」


「ん、んん⋯⋯。」


 マリーは隣で小さく寝息を立てるアデルの肩を軽く叩いてそう言う。


「ああ、まだ起こさなくていいですよ。もう少しかかりますから。」


「ふふ、それにしても可愛らしい寝顔ですわね。」


 そう笑ってセリアはツンツンとアデルの頬を指先で優しく突く。



「本当ですね⋯⋯って、アデルさん肌キレイ!!」


 マリーも同様にもう片方の頬を指で軽く触れる。



「ほっぺたもモチモチですわよ。」



 セリアとマリーのイタズラは徐々にエスカレートしていき、二人はアデルの両頬を片方ずつ引っ張る。



「ふにゃ⋯⋯ん、んん。」



 しばらくそうしていると、可愛らしい声を上げながらアデルはゆっくりとまぶたを開く。


「「あ⋯⋯。」」



「⋯⋯っ!?」



 直後、前にいたコウタにも届くほどの大きな鈍い音が二つ馬車の中に響く。


「「痛ぁ〜⋯⋯。」」


 二人は頭頂部を抑えながら悶える。



「お、お、起こすなら普通に起こせっ⋯⋯!!」



 アデルは興奮からか、息を荒らげ拳を握り締めながら顔を紅潮させてそう叫ぶ。


「あれ、アデルさん。起きちゃったんですか?もう少しで着くのでギルドカードの準備だけしておいて下さい。」


「あ、ああ、すまない。結局貴様にずっと任せっきりだったな。」


 アデルは申し訳無さそうにコウタにそう言う。


「いろいろありましたし、疲れているなら仕方ないですよ。」


「リーダーって大変そうだもんね。」


 コウタの言葉にミーアはそう続ける。


「今回の目的も果物狩りですし、そのくらい気を抜いてた方が丁度いいですよ。特に貴女の場合は。」


「⋯⋯そうだな。」


 コウタの言葉にアデルは少しだけ口角を上げて答える。



「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ふにゃ。」



 大きめの間を開けてコウタは呟くようにそう言う。


「ぶっ⋯⋯。」


 隣に座るミーアはそれを聞いて思わず吹き出してしまう。


「⋯⋯っ!!おい!今馬鹿にしただろ!」


 当然アデルもそれを聞いて激しく反応する。


「⋯⋯⋯⋯なんのことですか?」


 三拍ほどおいてコウタははぐらかすような態度でそう問い返す。


「なんだ今の間は!!」


「ほら、もう着きましたよ。」


「話を逸らすな!!」


 涙目のアデルを放っておいて、コウタは街の門まで馬車を進める。








 街の中へと入り、馬車を降りるとアデルは他の四人を集めて相談を持ちかける。



「はぁ⋯⋯とりあえず今からどうする?」



 ため息まじりにアデルが尋ねると、四人は同時に答えを返す。


「まずはクエストを受けに行きますか?」


「私、備品買い直すためにお金下ろしたいんだけど。」


「ついでにギルドでお昼も食べてしまいましょうか。」


「そう言えばまだでしたね。お昼。」


 セリアとマリーの発言を聞いて他の三人は途端に空腹を感じる。


「なら決まりだな。」






「ではクエストを受けてくる。」


「私もお金下ろしてくる。」


 ギルドに着くとアデルとミーアは受付の方へと歩いていく。


「そっちは、食事でも取っていてくれ。」


「了解です!」


 三人を代表して、マリーが元気よく反応する。


「あ⋯⋯と、マリーさん。セリアさん。先に行って下さい。」


「へ?何でですか?」


「ちょっとクエストボード見てきます。」


 コウタの方に視線を向けると、コウタはすでに歩き出していた。


「⋯⋯?なにか気になるものでもあったのでしょうか?」


「さあ?」


 マリーとセリアはコウタのその背中を見送ると、二人だけで食堂へと向かう。



「⋯⋯⋯⋯。」



 そんな二人に背を向けたままコウタは少しずつクエストボードに歩み寄ると、その真ん中に貼られているクエストとは違う広告の紙を見つめる。





「幻獣が眠る⋯⋯水の都。」



 その広告はとある国の観光パンフレットだった。



「リューキュウの国⋯⋯?」










「そう言えば貴様、金を下ろして馬車でも買うのか?」


 クエストの受注を終えたアデルは、同じく現金の引き出しを終えたミーアにそう尋ねる。



「あー、そうしようと思ったんだけど⋯⋯。値段とか馬鹿にならないし、今回は回復薬とかの備品を買い直す分だけかな?」


 ミーアは親指と人差し指で丸を作りながら苦笑いで答える。



「では、この先どうするのだ?最悪一緒に乗せて行っても構わないが⋯⋯。」



「ああ、いいよ。そこまでしてくれなくて。これが終わったら乗り合いの馬車で帰るから。丁度、二週間後に出るみたいだしね。」


 アデルの問いに、慌てた様子でそう返すと、壁に貼られた時刻表を指差す。



「乗り合いの馬車か。確かにあれならだいぶ安く抑えられるな。」



「そゆこと〜。だから——」



「——あれ?ミーアさん?」



 そこまで答えると、ミーアの言葉に割り込むように横から声が聞こえる。



「ん?⋯⋯って、アーちゃん!?なんでこんな所に!?」


 二人が視線を向けると、そこにはエメラルドグリーンの髪色でおっとりとした育ちの良さそうな少女が立っていた。


「久しぶりぃ〜!!なんでここにいるの!?」


「果実狩りに来たんですよ〜。」


「え〜!?一緒〜。」


 ミーアはアーちゃんと呼ばれる少女に近づくとその両手をつかみ合ってぴょんぴょんと跳ねてそう言う。


「えっと、そちらは?」


「ああ、ゴメン!この子はアデル。魔物に襲われてた所を助けて貰ったの。」


 少女に尋ねられてミーアはアデルを指して少女に紹介する。


「アデルだ。一応職業は騎士だ。よろしくたのむ。」


「それで、この子の名前はアン。私と同じでポータルを拠点に活動してる冒険者なの。」


 アデルが自己紹介をすると今度は少女を指して紹介する。



「アンです!付与術師やってるの。よろしくね。」



 少女はハキハキとそう言うと、ニッコリと笑いかける。


「付与術師⋯⋯。」


「そう。アーちゃんはポータルでは結構名の通った付与術師なんだよ。」


「いや、全然通ってないから。」


 アンはそう言いつつも満更でもない様子でミーアの言葉を否定する。



「付与術師なんてほとんどいないから珍しいかな?」



「いいや、そうでもないさ。ウチのパーティーにも一人いるからな。」



 ミーアの問いにアデルは首を横に降る。


「え?マリーちゃんも付与術師だったの?」


「いや、そっちじゃない。コウタだ。」



「うそ⋯⋯そんなとこまで共通してるの⋯⋯?」



 ミーア小さな声で驚愕の声を上げるが、他の二人は何のことなのか分からず首を傾げる。


「何の話だ?」


「ああ!何でもない。こっちの話。」


 慌てた様子でミーアははぐらかすとアデルはそれ以上は詮索せず、アンへと話を振る。



「そうか、それでアン殿は——」



「——アンでいいよ〜。」


「そうか?それじゃあ⋯⋯アンは一人で旅をしているのか?」


 そう訂正されてアデルは呼び捨てにして尋ねる。



「ううん。違うよ。もう一人いるの。」




「アーちゃんも相当強いけど、もう一人の方はもっと強いんだよ?」



「コウタも強かったけど、多分彼の方が強いよ。」




「って、そういえばロフト君は?」


 そこまで言うと、そのもう一人を探してミーアキョロキョロと辺りを見渡す。



「あーっと、多分探せばいると思う。」



「そんなに強いのか?そのロフトとやらは。」


 あの少年より強いと言うと言葉をにわかに信じられないアデルはミーアにそう尋ねる。



「うん。なにせロフト君は⋯⋯。ってこれ言っていいのかな?」



「いいんじゃないですか?私もあいつも隠してませんし。」



 アンの方を向いてミーアはそう尋ねると思いの外軽い返事が返ってくる。



「マジ?じゃあ言っちゃうよ?」



「⋯⋯?何なのだ?」


 なんのことなのか分からないアデルは疑問符を浮かべて尋ねる。



「えっとね。この子とその付き添いの男の子はね——」








(とりあえず、マリーさん達の所へ戻るか⋯⋯。)


 一方で広告を読み終えたコウタは食堂へ戻ろうと、踵を返してマリー達の所へ戻ろうとしていた。




「——おいお前。」



 そんなコウタの耳に乱暴な声が一つ入る。


「⋯⋯?」



「お前だよ。お前。小ちゃいの。」



 声のする方向を向いたコウタに、目の前の少年は指を指して再び声をかける。


「僕ですか?」


「そうだよお前。」


 振り返ると、そこには年齢で言えば高校生ほどの、金髪で目つきの悪い少年が足を組みながらコウタを指差して椅子に掛けていた。


「何かご用ですか?」


 新手のチンピラかと面倒そうにコウタが答えると少年はコウタの顔を見てニヤリと笑う。



「いや、なんかさ。面白い目をしてるなって思ってさ。」



 少年はヘラヘラと不敵に笑いながらコウタにそう言う。


「⋯⋯目?」


「ああ、なんつーか⋯⋯人を見下してる目、ってゆーの?」



「見下してるですか⋯⋯その言葉そっくりそのままお返ししますよ。」



 人を馬鹿にしたような態度に、コウタも若干気にくわない様子を見せる。



「俺がそうなのは分かってるよ。じゃなくて、自分は他とは違うんだって目?なんか同類を見つけたって思ったんだよね。」



「貴方と一緒にしないで下さい。」


 一々カンに触る物言いに、コウタも強い口調でそう言い返す。



「一緒だろ。だって⋯⋯お前も持ってんだろ?——」





「——オリジナルスキル。」





 不敵な笑みを崩さぬまま少年は言葉を紡ぐ。


「⋯⋯っ!?」


 今までとは違いあったばかりの男に、全くのノーヒントで、それを言い当てられたことにコウタの顔も少しだけ強張る。



「特別な人間ってのは同類にしか分かんねえ風格みたいなのが出るんだよ。お前もなんとなく分かってんだろ?」



 そんなコウタのことなど全く気にかけずに、少年は饒舌に語り出す。


「ただまぁ、俺はどっちも好きにはなれねえがな⋯⋯。」


 少年はスッと立ち上がり、低いトーンでコウタにそう言うと、受付の方へと歩いていく。



(一緒⋯⋯同類⋯⋯お前も⋯⋯。つまりこの人も⋯⋯!?)


「貴方は⋯⋯何者ですか⋯⋯!?」



 そんな少年にコウタは後ろからさらに強い口調で問いただす。


 問いかけられた少年はコウタの方に振り向くと、その顔に再び笑みを貼り付け口を開く。



「名前はロフト。⋯⋯一応、天才てめえの同類だ。」


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