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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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七十七話 収穫祭のお誘い


 数日後、アデル達四人は再びギルドの食堂に集まっていた。



「ご心配お掛けしました。」



 開口一番マリーはそう言って三人に頭を下げる。


「ああ、元気になって良かった。」


「元気になってもあまり無理をしすぎてはいけませんわよ?」


 セリアの言葉にコウタはこくこくと頷きながら同調する。


「はい、わかってますよ。」


 マリーはニッコリ笑ってそう返す。




「それで、次の目標はどうしますかリーダー、やっぱり予定通りですか?」


 コウタはアデルに話を振る。


「ああ、早ければ明日にでも、ニオンに向けて出発する。」


「ニオン、ですか。」


 小さくそう呟くと、セリアは顎に手を当てて考え込む仕草を見せる。


「ん?セリア、何か知っているのか?」


「いえ、なんと言うか。行ったことは有るのですが、何もないイメージが強くて⋯⋯。あまり立ち寄る意味はないのでは?」


「まさに歯に衣着せぬ物言いですね⋯⋯。」


 真剣な顔でかなり失礼なことを口走るセリアにコウタは苦笑いを浮かべる。


「確かに素通りも出来るが、意味もなく長旅にする必要もないし、休めるところではこまめに休むべきだろう。」


「それもそうですわね。では次はニオンという事で。」




「——ニオン?ニオンに行くんですか?」



 セリアが納得すると、その言葉にひょこっとアデルの後ろから出てきたマワリーが反応する。


「あ、マワリーさん。こんにちは。ニオンがどうかしたんですか?」


「こんにちは。ええっと、実は昨日ニオンのギルドからこのクエストの広告が来まして。」


 コウタに挨拶を返すとマワリーは一枚の紙を取り出してアデルに手渡す。


「これは⋯⋯?」


 アデルが紙を読むとそこにセリアとコウタマリーの三人が密集する。


 マリーはアデルの横から覗き込むと、その紙を読み上げる。


「えっと⋯⋯大規模レイドクエストのご案内。毎年この時期にギミヤの森で取れる金色の果実の採取。」


「果実一つにつき百ヤードの買取価格で取引致します。⋯⋯一個百ヤードって安くないですか?沢山取れるから単価が安いんですか?」


 取引の設定に違和感を感じたコウタはマワリーにそう尋ねる。


「沢山取れますし、サイズが小さいので持ち運びも楽なんですけど⋯⋯取れる場所までの道のりが過酷なんで近年では受ける方も少ないそうです。」


 コウタの問いにマワリーは尻すぼみがちに答える。


「まだ何か書いてありますわよ。⋯⋯なお今回のクエストで最も多くの果実を持って来た方には領主から特別な報酬が出されます。」


「「「特別な報酬?」」」


「はい。これが例年と違うところです。収穫数を増やすために冒険者を沢山引き込みたいと⋯⋯。」


「なんでそこまでして沢山収穫したいんですかね?」


 マリーはその理由が理解できず、マワリーに尋ねる。


「このクエスト実は領主様のクエストなんですけど、このクエストで手に入った果物を毎年街中に配っているんです。」


「配っちゃうんですか?黄金の果実と言われてるくらいなんですから交易とかに使えばいいのに⋯⋯。」


 コウタはその言葉にさらに混乱する。


「季節限定で、日持ちしないんで街の外に出回ることがないんですよ。だから街の中だけで楽しまれてるって感じですね。」


「季節の風物詩のようなものですわね。だから私が訪れた際はなかったのですね。」


「なるほど⋯⋯ある意味貴重ですね。」



「はい。しかもこれがまた美味しいんですよ!」



 マリーの言葉にそう答えるとマワリーは一段と口調を激しくさせる。


「食べたことあるんですか?」


 マリーがそう尋ねると、マワリーは幸せそうな表情へと変わる。


「はい!毎年この時期に休暇をとって友人と食べに言ってます!」


「とんでもないリピーターですね。」


 コウタは苦笑いでマワリーの言葉に反応する。


「一口食べると甘酸っぱい果汁が口の中いっぱいに広がって、パフェやケーキなんかにすると更に美味しくって⋯⋯。」


「「⋯⋯⋯⋯。」」


 コウタとマリーの二人はその言葉を聞いてゴクリと喉を鳴らす。


「「アデルさん、受けましょう。このクエスト。」」


 二人はキラキラと目を輝かせてアデルに訴える。


「食べたいだけだろ。」


「「はい!!」」


 間髪入れずに元気よく即答する。


「いつにも増して素直ですわね。」


 その様子を見てセリアもニコニコ笑みを浮かべる。


「構わないが⋯⋯いつやるんだこのクエスト?日にちによっては間に合わんだろう。」


「一週間後です。ここからニオンまでは馬車で三日くらいなので、明後日までにここを出れば余裕を持って到着すると思いますよ。」


「なら決定ですね!」


 マリーは嬉しそうにそう言う。


「マワリーさんも一緒に行きませんこと?馬車を手配するのも面倒でしょうし。」


「あ、いや、私はちょっと⋯⋯。」


「もう馬車の準備を済ませちゃったんですか?」


「⋯⋯そうではなくて⋯⋯⋯⋯殺人鬼騒動の後始末とか、書類の整理とかで今年はちょっと休暇が取れなそうになくて⋯⋯。」


 マワリーの顔に影が落ちる。


「あらあら、それは残念ですわね⋯⋯。」


 それを見てセリアは何故か嬉しそうにそう言う。


「いえ、仕方ないんです!仕事があるなら、それを優先して当然なんです!」


 その目に涙を溜めながらマワリーはセリアの言葉を否定する。


(強がってるな⋯⋯。)


(強がってますね⋯⋯。)


(完全に強がってますね⋯⋯。)


 いたたまれない気持ちになったアデルとコウタとマリーの三人は、マワリーを刺激しないように気を使おうと目配せするが、その視線はセリアには伝わらなかった。



「素晴らしい心意気ですわ!⋯⋯では私達がマワリーさんの分まで黄金の果実を食べて来ますわ。マワリーさんが食べられない。黄金の果実を。私達が存分に味わって来ますわ!」



 強がるマワリーにセリアは慈悲のカケラも残さず容赦無くトドメを刺す。


「⋯⋯っ失礼します!」


 耐えられなくなったのか、マワリーは涙を拭いながら走り去っていった。


「お仕事頑張って下さいね〜。」


 そんなマワリーをセリアはニコニコと笑いながら手を振って送り出す。


(((うっわぁ⋯⋯。)))


 流石にその様子を見た他三人もドン引きであった。



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