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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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七十六話 昔話


 その日コウタはナスト公国にある図書館へと来ていた。


 以前行った二つの図書館で思うような収穫がなかったのにも関わらず三度図書館へと足を運んだのには理由があった。


 回復したモクリ曰く、職人の多いこの街の特性上、武器や装飾品に関する書籍は他と比べても一歩上を行く情報量であるとのこと。


 それに加えて先のルキ戦で食らった攻撃に使われた武器なども確認しておきたかったという事情があったため、マリーの回復を待つ間、この図書館で情報収集をすることに決めたのであった。




 コウタはいつも通りその大きな建物を見上げた後、頑丈な扉に手を掛け、中へと入る。



「あ、いらっしゃいませ。」



 中に入ると、受付にはかなり軽い感じの若い男性が座っていた。


「図書館のご利用ですね。ギルドカードはありますか?」


「はいあります。」


 そう返事をすると、マジックバックからギルドカードを取り出して男性に手渡す。


「おお、冒険者のお客さんとは、随分珍しいっすね。」


 確認を取ると感嘆の声を上げてギルドカードをコウタに返す。


「冒険者のってことは一般市民の方はよく利用されるんですか?」


 男性の言葉に引っかかりを感じたコウタはそんな問いを投げかける。


「一般市民とゆうより、職人のお弟子さんとかが、よく利用しますね。」


「冒険者っぽい方つったら二ヶ月前に一人と先月は二人、今日一人、くらいですかね。」


 指折りで数える手振りを見せてそう答える。


「では中で見かけるかもしれませんね。」


「そうかもしんないっすね。あ、でも中では静かにお願いしますね。他のお客さんに迷惑がかかっちまうんで。」


 静かにとジェスチャーを取りながら、掠れた小声でコウタにそう促す。


「ええ、分かってますよ。」


 同じようなジェスチャーを取るとコウタは本が置かれている内部へと続く扉を開ける。




 内部は目に見えるだけでもちらほらと職人のような風貌の男女が数人いるのが見えた。


 そのような人間を通り抜けてコウタは真っ直ぐに武器に関する書籍が集められたコーナーへと進む。


「すごいな⋯⋯武器や装飾品に関するものなら本当に一番多い。」


 本棚に着くと、上の方から見覚えのない本を三冊ほど取り出し、近くの椅子に座る。



「これは⋯⋯。」



 そうやって何冊かに目を通していると、徐々にルキの使っていた武器の情報が判明し始める。


(貯蔵した水を放出できる剣に、MPを消費して物体を凍結させる剣、刀身を伸縮させる剣、⋯⋯どれも立派な魔剣だ。しかもそのほとんどが人間が生産⋯⋯。)


「つまりあいつ人間から奪った剣を使っていたのか?」


 そう言って立ち上がると、再び本棚へと戻る。


(あいつの使ってた剣のことは大体分かったけど⋯⋯やっぱり、新しい剣の情報はないな⋯⋯。)


 新しい剣を探すため、一冊一冊に目配せしていると、コウタの視線は一冊の本に止まる。






「呪剣と幻獣?」



 コウタは半ば無意識にその本を手に取ると、ペラペラとページをめくり始める。


「呪剣を使いこなすまでには複数のプロセスを踏むことが重要とされる。」


「始めに呪剣そのものに認められる〝適合〟。次に呪剣を従えさせ自らの意思でその力を掌握する〝共鳴〟。そして最後に呪剣の力をその身に取り込む〝解放〟。」


「〝解放〟までのプロセスを踏むことで、呪剣の力は十全に解放されることとなる。」


 そこまで読み上げると、コウタはこの本に書かれている事と、ルキやアデル達から聞いた情報が一部重なっているのを感じる。



「何故、ここまで詳しく⋯⋯?」



 コウタはその場に立ち尽くしたまま、その本を読み進める。



「幻獣⋯⋯。」



 そしてページをめくる指はそう書かれたページでピタリと止まる。



「太古の昔、世界を波乱へと追い込んだ四体の魔物の総称。」



「あるものは大陸を海に沈め、あるものは雷をその身に宿し、あるものは空をも焼き尽くし、またあるものはその力で山脈を作り上げた。」



「だが、最後には神の怒りに触れ、覚めることのない永遠の眠りにつくこととなった。」



 文の中にある「神」という存在を見て、女性の顔を思い浮かべながら読み進める。


「また、ある一部の地域では呪剣の発する闇の力は幻獣に宿る力と共鳴し、災厄を起こすことが可能と言い伝えられている。」


「⋯⋯まさか、ね。」



「——いや、本当だ。」



 パタンと本を閉じると、何もなかったはずの背後から小さな男性の声が聞こえてくる。


「⋯⋯⋯⋯っ!?」


 突然のことで動きが止まるコウタに男性は言葉を進める。



「太古に眠りし、四つの邪なる魂。欲望に満たされし呪われた力を求める。」


 低い声で淡々とそう呟くと、男は手に持った一冊の本を閉じて棚の中へとしまい込む。



「長い人間の歴史の中で幻獣の存在は確認されていないが、その存在を信じている者たちは確かにいる。」



「例えば原因不明の津波や、雷、地震や山火事などは大半が幻獣の仕業にされる事が多い。」



「それ故、無作為に使用者を不幸に貶める呪剣にも同質の力が宿っていると言われている。そして神にはそれらの災害から我々を守る力があると信じられている。まぁ、何の根拠もない暴論だがな。」



 コウタは男の方を振り向かず黙ってそれを聞く。



(なんだ!?この、圧力は⋯⋯。なんでこんなのが近づくのに気づかなかった!?)



 殺気とも、敵意とも、違う純粋な存在感にコウタは黙り込むしかなかった。


「たまたま立ち寄っただけだったんだが、まさか君に会えるとは思わなかったよ。」


(僕を、知ってる?)


「貴方は⋯⋯何者ですか!?」


 圧し殺すような低い声で、コウタは男の方を向いて問いただす。



「そう怖い顔をするな。私はただの⋯⋯さすらいの騎士様だよ。」



 黒い鎧を纏い、フードを目深にかぶったその男性は、胸元からギルドカードを取り出してヒラヒラとコウタに見せつける。



「それではまた会おう、勇者候補。」



 ゆっくりとその圧力が消えるのを感じると、コウタは男性に〝観測〟のスキルを発動するが、男性はすぐに本棚の奥へと消えていってしまった。


「⋯⋯いったい、なんだったんだ⋯⋯?」


 コウタは誰もいなくなった空間に向かって一人そう呟いた。




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