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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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七十五話 今度こそちゃんと守るために



「で⋯⋯結局取り逃がした、と。」



 殺人鬼討伐作戦の翌日、セリアとコウタの二人は、冒険者たちの喧騒の中でティータイムに浸っていた。



「まぁ、そうなりますね⋯⋯。」



 ため息を吐きながらそう言うと、コウタは手に持ったティーカップに口をつける。



「あの後、マワリーさん達に戦った場所の周辺を調べたもらったんですけど⋯⋯。」


「あったのは血だまりだけ、と⋯⋯。」


「はい。倒せたのなら遺体は無くともなんらかの痕跡は残るはずなので⋯⋯やっぱり逃げられたと⋯⋯。」


 ぽりぽりと頭をかきながら申し訳なさそうに答える。


「そっちはどうなったんでしたっけ?確か⋯⋯。」


「犯人死亡で一応の解決はしましたけど、共犯者は逃走。呪剣も奪われて死亡者も多数、⋯⋯今回は我々の負けですわね⋯⋯。」


 セリアは言い終えると深いため息を吐く。


「まぁそれでも、仲間が無事なだけマシですわ。アデルさんの怪我もマリーさんの毒も大事には至らなかったみたいですし⋯⋯。」


「セリアさんは結局無傷でしたしね。」


 コウタはそう言うと、何かを思い出したのか少しだけ暗い表情を見せる。



「サラ=リリアスは⋯⋯どんな最期を⋯⋯?」



 コウタがそう尋ねると、セリアは悲しい目で遠くへと視線を飛ばす。


「最後は自ら命を断ちましたわ。⋯⋯自分で自分を否定しながら⋯⋯。」


「やっぱり、呑まれちゃったんですね⋯⋯。」


 コウタはそう言って暗い表情のまま俯く。


「⋯⋯ですが最後はちゃんと自我を取り戻して、自分自身の言葉で自分を否定していましたわ。」


「命を救う事は出来ませんでしたけど、ちゃんと伝わったはずです。マリーさんの言葉は。」


「それなら、良かったのかな⋯⋯。」


 自信なさげにだが、コウタはセリアの言葉を聞いて少しだけ安堵の表情を浮かべる。


「後は祈りましょう。彼女の魂の安寧を。」


「⋯⋯そうですね。」


「⋯⋯⋯⋯そういえばマリーさんはともかく。アデルさんは何処へ?」


 コウタはそう返事をすると、ふと思い出したかのようにセリアに尋ねる。



「マリーさんは医務室のベッドにアデルさんは武器の調達に行ってますわ。」



「——ああ、今帰った。」


 セリアが問いに答えると、その後ろから、声がする。



「おかえりなさい、アデルさん。」



「ただいま。」


 コウタのその言葉にアデルも短く挨拶を返す。



「あら、アデルさん。新しい武器は見つかりましたか?」



 振り返ったセリアがそう尋ねると、アデルの顔色が少しだけ悪くなる。


「いや、めぼしいものが無くてな⋯⋯。」


「え?でも、この国って職人の国なんですよね?いい武器も揃ってるはずじゃ⋯⋯。」


 コウタはアデルの返答を聞いて小さな疑問を持つ。



「いいものは揃っているのだが⋯⋯どれも求めている性能には程遠くてな⋯⋯。」



「求めている性能って、どのくらいのものが欲しいんですか?」



 コウタが尋ねると、アデルは少し考え込んだ後、口を開く。



「そうだな⋯⋯呪剣や、魔王軍幹部の攻撃にも耐えられるくらいの耐久性が欲しいな⋯⋯。」



「⋯⋯⋯⋯それはちょっと厳しいんじゃ⋯⋯。」


「いわゆる魔剣クラスの武器でもないと難しいと思いますわよ?」


 苦笑いでそう答えるコウタの正面でセリアは紅茶を口にしながら横槍を入れる。



「どうしても無いのなら、戦闘の時にだけコウタさんに出して頂けばよろしいのではないでしょうか?コウタさんのスキルなら呪剣も召喚出来るでしょう?」



 何を思ったのか、セリアはいきなりとんでもない提案を投げかける。


「四六時中一緒に居られる訳では無いだろう。それにあんなもの、頼まれても使いたく無い。」


「僕もちょっと遠慮しておきたいですね。」


 アデルの言葉にコウタも同調する。



「あら、では使えるのですね。」



「使えますし、消費MPも少ないんでやろうと思えば五、六本同時にも出せますけど⋯⋯正直、アレ使うくらいなら霊槍使った方がマシですよ。」



 セリアの問いに自らのステータスを眺めながら苦々しい顔で答える。



「確かに、精神崩壊と数日寝たきりの二択なら迷わず後者を選びますわね。」



「はぁ、だがしかし、どうしたものか⋯⋯。」



「そんなに困っているなら、僕のを貸しましょうか?安物ですけど。」


 そう言ってコウタは自らのマジックバックの中から一本の剣を取り出し、アデルに手渡す。



「これは、最初に貴様が買ったやつか。」



「はい。僕、付与術師ですし、オリジナルスキルもありますから新しいのが見つかるまで使ったらどうですか?」


「そうか、⋯⋯では貸してもらおう。」


 一度鞘から抜き出し、刃渡りを確認すると、納得したのかすぐに刃を鞘に収めてそう言う。



「⋯⋯折れたらすまん。」



「いいですよ。どうせ一本二千ヤードの量産品ですから。」



 ボソッとそう言うアデルにパタパタと手を振ってそう返す。



「さて⋯⋯と。」



 やりとりを終えると、コウタはおもむろに立ち上がる。



「どうしたのだ?」



 アデルはその様子を見てコウタに問いかけると、コウタは小さく返答する。



「⋯⋯マリーさんの様子を見て来ます。」







 ギルドの受付に話を通して、連れられるまま廊下を歩くと、「医務室」と書かれた扉の前まで案内される。


 コンコン、と小さくノックすると「どうぞ。」と思いの外元気な声で言葉が返ってくる。



「失礼します。」



 短くそう言ってドアを開けると、部屋の窓から外の景色を眺めるマリーがベッドの上で座り込んでいた。


「どうしたんですか?コウタさん。」


 こちらを見て不思議そうに首をかしげるマリーを見てコウタは安堵の笑みを浮かべる。



「いえ、元気そうでよかった。」



「毒はほぼ抜けてるって言われましたし、もう大丈夫ですよ。」



「それなら良かった。」


 そう言ってコウタはベッドの横にある椅子に座る。


「⋯⋯⋯⋯。」


「⋯⋯⋯⋯。」


 しばらくの沈黙の後、マリーが口を開く。



「サラさんの件⋯⋯役に立てなくてすいません。」



 悔しさを滲ませた声で、マリーは小さくそう呟く。



「⋯⋯⋯⋯。」



「覚悟を決めてたはずなのにいざ戦いになって、あの人の覚悟を聞いて動けなくなって、役に立つどころか、足を引っ張ってしまって⋯⋯。」


 震える手を強く握りしめながらマリーは下唇を強く噛みしめる。



「すごく⋯⋯怖かった。」



 人の心を読むのが苦手なコウタにも、その声は確かに年相応の少女の本心に聞こえた。



「私は、また守られてばっかりだった。」



「私は、何も守れなかっ——」




「——マリーさん。」



 ため息交じりの声で、その言葉を遮るようにコウタは少女の名を呼ぶと、ポンと頭の上に手を乗せる。



「貴女が悔しいのはわかってます。守れなかったのもわかってます。でも、だからこそ、今はちゃんと元気になって下さい。」



「そして、一緒に強くなりましょう。今度はちゃんと守れるように。」


「コウタさん⋯⋯。」


「だからとりあえず、今は貴女が無事で良かった。」



 コウタにも分かっていた、守れなかったことの悔しさも、その時に感じる無力感も、だからこそ、そう言ってにっこりと笑う。



「全部背負って、強くなって、ちゃんと借りを返しましょう。重くなったら僕も一緒に背負いますから、ね?」



「⋯⋯はい。」



 覚悟のこもった声でマリーは力強く返事をする。



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