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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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七十三話 顕現




「⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯きっつ。」


 様々な武器が飛び交い大量の煙が充満した噴水広場で、コウタは一人息を吐く。



「⋯⋯やっぱり、逃げられたか。」



 先程まで男がいた地面は、なだれ込んだ武器の影響で大穴を開け、その中心には大きな血溜まりができていたが、そこには当の本人の姿はなかった。



「うぷっ、⋯⋯てか⋯⋯もう、やばい⋯⋯。」



 気が抜けた瞬間、コウタの身体に強烈なMP酔いの影響が出始める。



「コウタさん!!」



「⋯⋯この声⋯⋯。」


 MP酔いと身体に受けたダメージの影響で 身動きの取れないコウタの耳に女性の声が響く。



「コウタさん!!無事ですか!?」


 コウタが声の方向を見ると、マワリーがこちらに向かってきているのが見えた。



「マワリーさん⋯⋯。すいません。逃してしまいました。」



「そ、そんなことより傷の手当てを!!」



 ボロボロになったコウタを見てマワリーは慌てて歩み寄る。


「いえ、それよりも先に周辺の捜索と、あっちの援護に行ってください。」



「しかし⋯⋯!!」




「大丈夫です。血もほとんど止まりましたし、すぐには死にませんから。」



「⋯⋯っ、すいません。」


 コウタが真剣な表情で強くそう言うと、マワリーは頭を下げて路地裏へと走って行った。



「⋯⋯ふぅ。」



 マワリーが居なくなったのを確認すると、コウタはその場にへたり込み、大きくため息を吐く。



「⋯⋯アデルさん、マリーさん、セリアさん。どうか、無事でいて下さい。」



 コウタは一人そう呟くと空を仰ぎ、もう一度小さくため息を吐く。








「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯ぐうっ⋯⋯。」



 場が静まり返る中、アデルは全身の痛みに悶え地面に倒れ伏す。



「⋯⋯ふぅ、取り敢えずギルドへの報告ですわね。どなたか動ける方いらっしゃいますか?」



 大きくため息を吐くと、セリアは周りの冒険者達に目を向ける。



「お、俺が行くよ!」



 その言葉に何人かの冒険者が動き出す。



「では、お願いしますわ。」



「⋯⋯⋯⋯。」



 セリアはそう言って脱力すると、自らの横から抜ける冒険者男に目を向ける。



「⋯⋯?何を?」



「⋯⋯⋯⋯。」


 冒険者の男はしっかりとした足取りでアデル達に向かって歩き出す。



「⋯⋯⋯⋯。」



 男は女性の遺体の傍にある呪剣とその鞘をを取り上げ、静かに納める。



「何をしてるんだ⋯⋯?」



「別に⋯⋯。」


 アデルが男に尋ねると、男の身体は小さく輝き、その姿を変える。






「⋯⋯私はただ、回収しに来ただけです。」



 その声は冒険者の男のものとは打って変わって透き通った女性の声へと変わる。

 その姿も同様に金髪でメガネをかけたか細い女性の姿へ変わる。



「⋯⋯っ、何者だ。」



「ルキ様に呼び出されてここに来ましたが⋯⋯、来るだけのことはあったみたいですね。」



 アデルの問いに答える事なく女性は髪をなびかせマリーに目を向ける。



「どうやら魔族に仇なすのは勇者候補だけではないという事ですね。」



(魔族⋯⋯っ!!)



「その剣を、離せぇ!!」



 アデルは自らの折れた剣を握り締め、女性へと斬りかかる。

が、その剣は根元から叩き折られ粉々に砕け散る。



「なっ⋯⋯!?」



光芒の聖槍(セイグリットスピア)



 そこへセリアが間髪入れずに魔法を放つが光の槍は手に持った呪剣に両断される。



「⋯⋯!?」



(強い⋯⋯!!)


「ですがやはり、この程度なら取るに足らないですね。」



 MPが完全に切れたセリアはただただ女性を睨み付ける。



「⋯⋯最後に名乗っておきましょうか。」



 ツカツカと前方に歩みを進めながら女性は冷たい視線を向けて口を開く。



「初めまして、魔王軍幹部十本の柱の一つファルナスと申します。」



 そう言って頭を下げると、女性は懐から小さなガラス玉のようなものを取り出す。



「幹部⋯⋯。」




「それでは私はこれで失礼します。」



「待て!!」



「さようなら、下等種。もう二度と会うことはないでしょう。」



 女性はアデル達を一瞥すると手に持ったガラス玉のようなものを指で砕く。



「⋯⋯くっ、これは⋯⋯!?」



 直後、あたり一面に閃光が迸り、アデル達の視界を塞ぐ。



「⋯⋯いない?」



「⋯⋯逃げられましたわね。」


 閃光が収まると、そこには女性の姿も呪剣の姿もなくただただ沈黙が流れていた。








「⋯⋯⋯⋯。」



 閃光に包まれた女性、ファルナスの姿はその頃、魔王城の一室にある小さな部屋にあった。

 部屋の中心にある大きな宝石に軽く指で触れていると、部屋中に自らが使用した光と同じものが溢れる。



「痛ぁ⋯⋯。」




「⋯⋯⋯⋯お疲れ様です。ルキ様。」



 光が止むと同時に聞こえてきた声に反応してファルナスは短く挨拶をする。



「⋯⋯ああ、ファルナスちゃん。〝鍵〟の回収は⋯⋯出来たみたいだね。ありがと。」



 光の中から出てきた全身血塗れの男は軽く会釈をするとファルナスが手に持った剣を見て安堵のため息を吐く。



「ええ、まあこちらは大して困難な点はありませんでしたが。」



「⋯⋯そちらは随分と手酷くやられたようですね。」



 ルキの質問にそう返すと傷だらけの身体を見て大して表情を変えずそう言う。



「まあね。油断ももちろんあったけど、今回は完全にしてやられたって感じかな?」



「ですがその手⋯⋯本気ではなかったのですね。」



 ファルナスはルキの右手にはめられた黒い手袋を見てそう尋ねる。



「街で使って騒ぎを大きくすると面倒だからね。今回はやめておいたよ。」



「⋯⋯それに、本気じゃないのはお互い様だし。」



「そうですか。」



 そこまで聞き終えると、ファルナスはくるりと踵を返して部屋から出る。



「あれ、どっか行くの?」



「ルシウス様へ報告をしに行きます。」



「そう、じゃあ僕の方の報告も一緒にしといてくんない?僕、今から治療するからさ。」



 ルキは血に塗れた自らの服を見せて、申し訳なさそうにそう言う。



「承りました。」



 ファルナスはそう言って頭を下げるとツカツカと歩き出す。




「⋯⋯いって、⋯⋯まったく⋯⋯予想外、いや予想以上だよ勇者候補。まさかあの状況から逆転してくるとはね。」



 大きくため息をつき、立ち上がると、ズルズルと足を引きずりながら部屋の外へと出る。



「まあ〝鍵〟の回収は出来たし、今回は痛み分けかな?」



 傷口を抑えニヤリと笑いながらそう呟くと、ルキは廊下の奥へと消えていった。

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