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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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七十二話 二つの決着



「——解放は済んだみたいだね⋯⋯。」



 遠くに見える光の柱に目を向けながら、その口元を歪ませる。



「⋯⋯⋯⋯。」


「果たして彼女は、覚悟によって力を従えたのか⋯⋯欲望によって力に呑まれたのか⋯⋯。どっちだと思う?」


「⋯⋯⋯⋯。」


「⋯⋯君の仲間は無事かな?」


「⋯⋯⋯⋯。」


「おいおい、なんか答えてよ。⋯⋯それとも、もう答える元気も無いのかな?」



 コウタの身体には痛々しい切り傷やアザが付いており、立っていることすら出来ないのか、片膝をついた状態で座り込んでいた。



「はっ、どうでしょうね⋯⋯。」



 それでもなお頬を釣り上げ、ルキの問いに笑い飛ばしながら答える。


 それに対してほとんど無傷であるルキは余裕そうな態度で笑う。



「君、もう限界だろ。」



「さっきまで洗練され続けてた動きが急に鈍くなってる。集中力も欠けてきてる。」



「ポーションも、飴も、それ以上は効果がなくなってくるだろうし。万策尽きたってやつだよ。」



 退屈そうな声で、残念そうな様子でコウタに言い聞かせる。



「どうでしょうね⋯⋯。まだなんかあるかもしれませんよ?」


 対するコウタは口に溜まった血を吐き出し、フラフラと立ち上がる。



「じゃあ、確かめてあげるよ!!」



 それを聞いたルキは小さな期待を込めてコウタに突撃する。

 コウタはダラリと力なくぶら下がるだけの右手を無視し、左手に持った剣だけで受け止めるが、当然防ぎ切ることも出来ず、後方の屋台に衝突する。



「ぐっ⋯⋯ああ!!」


「ほらほら、なんかやるんだろ!?当ててみなよ、当てれるもんならね!!」



 悲痛な声で悶えるコウタに対して、ルキは舐めきった態度でそう言い、再び煙玉を地面に叩きつける。



「⋯⋯おおおおぉぉぉ!!」



 動かぬ身体を無理矢理に奮い立たせコウタは煙の中へと突撃する。


 が、コウタの振るった剣はルキに当たることなく空を切る。



「どこ狙ってるんだい?僕はここだよ。」



 ルキはコウタの背後から伸縮する剣を撃ち出す。



「そんなのは分かってますよ。」



 コウタはその剣を回避すると、振り向かぬままその声に答える。



「⋯⋯っ!?」



 直後、ルキの腹部に自らが持った剣と同じものが突き刺さる。



(いつの間に⋯⋯!?目視が条件じゃなかったのか!?)



「くそっ⋯⋯。」


 予想外の反撃にルキは慌てて距離を取る。




「⋯⋯そこ、危険地帯ですよ?」



 コウタがそう言うと、ルキの足元が輝き出し、ガクンと身体が重くなるのを感じる。



「っ!?設置型の移動阻害魔法⋯⋯!?」


「ええ、新技です。⋯⋯これは予想外でしょう?」


「予想外だよ。でも、この程度で奥の手ってのはちょっと残念だね!!」



 そう叫ぶと、腰にかかった鞘から長刀〝斬破〟を取り出し、地面を切りつけることで魔法を破壊する。





「⋯⋯っ、これは⋯⋯。」



 移動阻害の魔法を破壊し、視線を目の前に移すと、ルキは目の前の光景に思わず絶句する。



「これが僕の奥の手です。」



 コウタの背後、のみならず、上下左右前後、自らが見渡せる全ての方向にビッシリと配置された、大小無数のあらゆる種類の剣や、槍、ハンマーなどの武器の群れに苦笑いを浮かべる。



「⋯⋯いつの間にっ⋯⋯。」




「思いついたのは最初からです。ただ、一度に出すのは無理なんで、少しずつ召喚しました。」




「もちろん、途中でバレないように路地裏を通して全方位に配置したんですけど。」




「つまり、僕と戦闘してる最中に大体百本近くの武器をこの迷路みたいな路地裏に通してこれに備えてたってことか。」



「そうなりますね。」



 ルキの問いにコウタは迷うことなく、当然の如く即答する。



(街の地図を丸暗記しつつ、大量の武器に意識を張り巡らせ、目に見えない路地裏を空間把握能力のみを頼りに操作し、なおかつ僕の攻撃への対処と、戦況のコントロールまでやってのけたのか⋯⋯。)



「⋯⋯天才どころの話じゃないね。⋯⋯君も立派な、化物だ。」




「⋯⋯お褒めに預かり光栄です。」



 大量の武器を維持するだけで限界なコウタは苦々しい顔で軽口を叩く。



「今回は僕の負けだね。⋯⋯さあ、やりなよ。」



 逃げるのは不可能と悟ったのか、大きくため息を吐くと、ルキは諸手を広げて攻撃を受ける体制を取る。



「そうさせてもらいます。」




「奥義——」



「——剣戟乱舞」




 目の前の敵へ左手をかざしそう言うと、その言葉に応じるように空間に固定された無数の刃が風を切る音を立てて男の身体目掛けてなだれ込む。









「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯。」



 同時刻、大通りではアデルが大きく息を切らしながら魔物モンスターと化したサラと向かい合っていた。



「⋯⋯殺す。」



「くそっ!!」



 襲い来るサラの剣を軋む身体を叩き起こして受け止める。


 当然の如くアデルの身体は浮き上がり、受け止めた剣ごと地面をバウンドするように後方へ吹き飛ぶ。



「血ィィィ⋯⋯!!」



「ま、だ、だぁぁぁ!!」


 根元から折れた剣を投げ捨て、そう叫ぶと身体中から真っ赤な光が灯る。



「おおおおぉぉぉ!!」



 ふらふらの身体で振り下ろされる剣を回避し、サラの顔面へと拳を突き刺す。



「ぶっ、はっ⋯⋯!?」



「くっ⋯⋯ああああぁぁぁ!!」


 今度はアデルの身体に灯る光はすぐに消え、重なり合う二つの激痛がアデルを襲う。



(無駄な動きが多くなってる。まるで別人のような⋯⋯。)



 吹き飛ばされるサラを見てセリアは違和感を覚える。



「私⋯⋯は、復讐を⋯⋯くっ⋯⋯!?」



 フラフラと立ち上がると、ボソボソと小さく呟き、突然頭を抑え始める。


「血⋯⋯血⋯⋯チヲミセロ⋯⋯。」



(其れが私の本性⋯⋯。)



「違う!!私は、復讐を⋯⋯!!」


 サラを包み込む雰囲気が異質なものへと変わったり、元に戻ったりを繰り返す。


「⋯⋯何が⋯⋯起こっている⋯⋯!?」


 今までとは明らかに異なるサラの異変に、アデルもセリアも動揺を見せる。


「もっと、もがけ⋯⋯足掻け⋯⋯ワタシに、

絶望した顔を見せろ⋯⋯。」



(其れが私の本質⋯⋯。)



「人間を⋯⋯許さない!!」


 そう言ってアデルに斬りかかるが、振り下ろしたその剣は光の壁に阻まれる。


 サラは再びセリアの方を振り向くが、既にセリアは膝をついて崩れていた。



「セリアっ⋯⋯!!」



「⋯⋯⋯⋯。」



(もう⋯⋯MP、が⋯⋯。)


 アデルが叫ぶがセリアには既に返事をする体力も残っていなかった。



「もっとコロシタイ⋯⋯誰でもいいから!!」



(認めろ⋯⋯。)



「違うっ!!違うっ!!認めない!!私は⋯⋯ワタシは⋯⋯私は、ワタシは、私は、ワタシは、ワタシは、ワタシは、ワタシハ、ワタシハ、ワタシハ、ワタシハ⋯⋯。」


 壁が砕け、消え失せても、サラはアデルに追撃する事なく、自らの内にいるなにかに抗うように悶えていた。



「⋯⋯⋯⋯ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 繰り返される自問自答の後、泣き叫ぶような声とと共にサラは自らの頭を抑える。



「⋯⋯⋯⋯。」



 そうしていると突如、サラの背後に何者かの気配を感じる。



「⋯⋯っ!?マリー!!」



 その存在にアデルが声を上げる。

 毒のダメージでまともに立つことすら出来ないマリーは両手をサラの背中に押し当て、もたれかかるように構えていた。



「⋯⋯貴女の復讐を、否定⋯⋯する、つもりは、ありません⋯⋯。」



 絶え絶えになりながらもゆっくりとマリーは言葉を絞り出す。



「このっ⋯⋯ぐっ⋯⋯!?」



 サラが斬りかかろうと振り返った瞬間、マリーの両掌から、炎の波が放たれ、サラの全身に直撃する。



「私も、貴女と同じだから、否定する資格なんて私にはないです⋯⋯。」



「だったら、どきなさい!!⋯⋯ガハッ!!」



 吹き飛ばされながらもマリーに襲いかかるが、再び炎の波に阻まれる。



「でも、私は貴女と同じだけど、今幸せです!全部を失ったけど、仲間って呼んでくれる人たちがいるから、誰かの為に戦うって誓ったから!」



「貴女は今幸せなんですか!?この先に貴女の幸せはあるんですか!?」



「⋯⋯血を⋯⋯っ、うるさい!!うるさいっ!!それは私が決める事よ!!⋯⋯ぐう⋯⋯。」



 別の何かを必死に振り払いながらサラは突進するが、真正面から襲う炎の波をモロに受ける。



「じゃあなんで!そんな辛そうな顔するんですか!」



「⋯⋯っ!?」



 マリーは強くそう叫ぶが、サラに向かって放たれていた炎がピタッと止まる。



「堕ちてくだけの復讐なんて⋯⋯悲しいだけじゃないですか⋯⋯。そんなの⋯⋯辛いだけじゃないですか⋯⋯。」



「幸せになれないなら、復讐なんて意味無いじゃ、ないです、か⋯⋯。」



 泣き出しそうな悲痛な表情で、マリーは女性に訴えると、糸が切れたかのようにゆっくりと地面へ倒れ伏す。



「ワタシ⋯⋯私はっ⋯⋯!」



 マリーの言葉にサラの動きが完全に停止する。



(ワタシの幸せなんて⋯⋯もう、どこにも無いの⋯⋯。あの日、全部終わったの。)



「くっ⋯⋯。」



 倒れたマリーに背を向け、アデルに斬りかかろうとするが、突然サラの視界がぐにゃりと曲がり、仕方なく近くの建物へと寄りかかる。



(八つ当たりだった⋯⋯誰でもよかった⋯⋯同じ苦痛を与えたかった⋯⋯他人の不幸が好きだった⋯⋯欲望のままに動くのが、楽しかった⋯⋯。)



「言わないでっ⋯⋯。違うっ!」

 

 何かを否定するように首を左右に振りながら頭を抑えてフラリと倒れそうになる身体を建物に手をついて支える。



(ワタシは、ただ、この世界が嫌いだった。)



「違うっ!私はっ⋯⋯。」



(結局、復讐なんて建前でしかなかった。)



「私はっ⋯⋯。」



(最初から最後まで、嘘まみれだった。)



 手をついた窓ガラスに映る自分を見て、サラは深く俯きながら、小さく言葉を絞り出す。




「⋯⋯⋯⋯私は、⋯⋯なんて醜い。」




 そう言って手に持った剣を自らの首筋へと突き立てる。



「⋯⋯っ、やめ⋯⋯!!」



 アデルの言葉など聞くはずもなく、サラは口元から小さく血を吐くと、支えなどなくパタリと乱暴に倒れた。


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