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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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七十一話 各々の復讐と覚悟


「くらえ!」


 身体の自由が利く男の冒険者は躊躇いなくサラに向かって斬りかかる。



「⋯⋯遅い!」


 襲い来る冒険者の目を睨み付けると、〝誘惑〟のスキルを使う。



「なっ⋯⋯!?がふっ⋯⋯。」



 動きを止められた冒険者はそのまま胴体を貫かれる。



「呪剣だけでなく、誘惑のスキルまで⋯⋯。」



「どうやらまともにあいつと戦えるのは私達だけのようだ。セリア⋯⋯動けるか?」



 アデルが周りを見渡すと、女性の冒険者で動けるのはアデルとセリアの二人だけであった。



「大丈夫ですわ。マリーさんも下がらせました。」



「そうか⋯⋯私もいつ動かなくなるか分からん。なるべく時間をかけずに倒すぞ。」



「ええ。」



 二人はサラに向き直り、睨みつける。



「⋯⋯⋯⋯。」


 もはや顔の半分辺りまでその肌を闇色に染めたサラは無表情のままアデルたちに斬りかかる。



「来るぞ!!」



「はい!!」


 高速で移動するそれを、ギリギリで視認しながら二人は武器を構える。



「シャット・アウト」



 再びサラの剣を受け止めるが、今度はズルズルと地面に引きずられながら追い詰められる。



「ぐっ⋯⋯。」



「喰らえ⋯⋯。」



 サラがアデルに手のひらをかざすと、大きな火の玉が目の前に出現する。



「爆裂、斬!!」



 アデルはとっさに剣を振り上げ、サラを吹き飛ばすと同時に火の玉を上空へと打ち上げる。



「ここまで力の差を見せつけられて、よく抵抗できるわね。」


 嘲笑うようにそう言うと、サラはケタケタと狂ったように笑う。



「当たり前だ。これ以上、罪の無い人々を傷つける事は絶対に許さない!!」



 叫ぶようにそう言うとアデルの身体が赤色に輝く。



「正義感だけじゃ、何も守れないのよ!!」



 それに呼応するようにサラも雰囲気を変えて殺意を全面に発する。



「おおおおぉぉぉ!!」


「はああぁぁぁぁ!!」


 二人は急激に距離を詰めて剣を振り下ろすと、今度はアデルの身体は、吹き飛ばすに互いの動きがピタリと止まる。



「気持ちだけじゃ何も守れない。強者の前では正義も、覚悟も、偽善に変わる。」



「認めさせるさ、私の正義も復讐かくごも!!」



 鍔迫り合いになった互いの剣はカタカタと音を立てて震える。



「爆裂斬!」



「ぐっ⋯⋯。」



 斬りあげられると同時に炸裂する爆発にサラの身体は小さく浮かび上がる。



「貴様を超えて!あいつに届くように!死んでいった仲間たちに、胸を張れるように!」



「私も強くなる!!」



 浮き上がる身体に間髪入れずに、追撃で風属性の斬撃を放つ。



「舐めるなぁ!!」


 空中でバランスを取り直すと、飛びかかってくるアデルに、向かって剣を構える。



光芒の聖槍(セイグリットスピア)



 強い光と共に聞こえた声の後、剣を持った右手に向かって光の槍が突き刺さる。



「ぐっ⋯⋯。」



 サラの右腕があらぬ方向に折れ曲がると、持っていた呪剣も、その手を離れて宙へと投げ出される。



「あ、の女ぁぁぁ⋯⋯!」



 枯れるような声で強くセリアを睨み付け、そう叫ぶ。



「⋯⋯終わりだ。」



 ガラ空きになった胴体にアデルの剣が突き刺さる。



「がっ⋯⋯。」


 斬り付けられたサラはダランと脱力して、地面に強く叩きつけられる。




「くっ⋯⋯効果が、切れたか。」



 一瞬遅れて着地したアデルはグッタリとしたサラを睨みつけていると、その数秒後に身体に灯る赤い光が消え苦しそうに片膝をつく。



「⋯⋯まだよ。」



「⋯⋯!?」





「まだ、終われない。まだ、死ぬ訳には、いかない、の⋯⋯。」



 ズルズルと這いずりながら、転がっていった呪剣に手を伸ばすが、その手はパタリと力なく落ちる。




「終わった⋯⋯のか?」



 全身に広がる痛みに身体を抑えるアデルは苦々しく呟く。


 直後、地面に転がった呪剣は耳を貫くほどの甲高い金属音のようなものを発する。



「うぐっ⋯⋯。これは⋯⋯!?」



 街中に響き渡らんばかりの大きな音に、その場にいた冒険者達は思わず耳を塞ぐ。


 サラにもその音は朦朧とした意識の中で、はっきりと聞こえていた。


 その音はサラ=リリアスの脳に焼き付いた記憶を呼び覚ます。







「お母さん⋯⋯。なんで村の人はお母さんをいじめるの?」


 黒髪の少女は角を生やした女性に包まれながらすすり泣く。


 女性の全身は、自らが出した血によって真っ赤に染まっていた。


「ごめんね⋯⋯ごめんね。サラ⋯⋯。」


 お母さんと呼ばれたその女性は、消え入りそうな声で必死に謝罪の言葉を述べる。


「なんで⋯⋯謝ってるの?⋯⋯お父さんは、どこ?」


「ごめんなさい。お母さんのせいで、貴女につらい思いをさせてしまって⋯⋯。」


「違うよ!お母さんは悪くない!悪いのは村の人達なんだよ!」


 女性が流す涙の意味も分からぬまま、少女はその言葉を必死に否定する。



「私は、私達は、愛し合ってはいけなかったみたい⋯⋯。」



「なんで⋯⋯、なんでダメなの?お父さんも、お母さんも、悪くないでしょ!?」



「ごめんね、ごめんねぇ⋯⋯。」


 最期までそう言い続けると、少女を包み込んでいた女性の手はダランと重力に従って崩れ落ちる。



「お母さん?嫌だよお母さん!!お母さん!!」



「お母さん⋯⋯⋯⋯。」


 動かなくなった母を抱き締め、娘は腹の内に憎しみを積もらせる。



(⋯⋯どうして、こうなったの?)



(お母さんはちょっとだけ見た目が違うだけなのに、敵じゃないのに⋯⋯。)



(世界で一番優しいのに⋯⋯。私とも、お父さんとも、何も変わらないのに⋯⋯。)




「⋯⋯⋯⋯許さない⋯⋯。」



 そう呟くと、少女の頭はたった一つの感情で支配される。



(許さない、許さない、許さない!!)



(ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ!!)




「⋯⋯全部ぶっ壊してやる。強くなって、全部奪い尽くしてやる。」



「全員⋯⋯殺してやる!!」



 まだ年端もいかぬ幼い少女は憎悪の籠もった声でそう呟く。








 遥か昔に立てた誓いが、再びサラの身体を突き動かす。



「⋯⋯母は、少しだけ見た目が違うだけなのに、殺された。」



「⋯⋯父は、母を愛したことで、裏切り者として殺された。」



「⋯⋯どちらも、人間に殺された!!」



「人間なんて、全員殺してやる!!その為に私は強くなった!!」


 そう叫びながら再び呪剣を掴み、握り締めると、鳴り続けていた音は何事もなかったかのように消える。


 それを見て、サラは穏やかに微笑む。



「あなたも、力を貸してくれるのね⋯⋯。」



 そう言うと、手に持ったそれを自らの腹部に突き立て、貫く。



「うぐっ⋯⋯ぐあああああ⋯⋯⋯⋯ああああああぁぁぁぁ!!」



 泣き叫ぶような悲鳴を上げて、それでもなお、突き立てた刃を強く握り締める。

 呪剣からは紫色の光が溢れ出し、その光は柱のように天へと登る。


 禍々しい光に包まれて、サラの肌はじわじわとその色を変え、完全なる紫色に変わる。




「魔族⋯⋯いえ、もはや魔物モンスターですわね。」



 光が止み身体の変化も収まると、先程までのダメージなど感じさせないようにすっと立ち上がる。


 眼球は真っ赤に染まり、顔から指先まで、全ての肌が完全に紫色に変色したその姿は、魔物にも似た禍々しさを醸し出していた。



「ふふふ、ふふふふふふっ⋯⋯。」



「キャハハハハハハ!!」


 静かになったと思うと、今度は狂ったように笑い出す。




「血ィ⋯⋯見せろ⋯⋯!!」



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