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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第一章
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七話 ギルド


 翌朝、コウタとアデルは前日の夜と同様、宿の一階で朝食をとっていた。



「もぐもぐ⋯⋯このパンも慣れると意外と美味しいですね⋯⋯⋯⋯。」



「もぐもぐ⋯⋯そうだろ?」



 お互い眠気で目を半開きにしながら、硬いパンを頬張りつつ、内容のない会話を繰り返す。



「そういえば貴様はこれからどうするのだ?」



「ああ、その件なんですが少し相談が——」



 お互いの目が覚めてきてようやくまともな会話をし始めると、コウタは申し訳なさそうに口ごもりながら金銭の問題について切り出す。




「働き口か⋯⋯。」



「はい、実はお金借りたはいいんですけど返す当てがなくて⋯⋯。」



 罪悪感から逃げるように視線を逸らしながら、なんとも言えない表情でコウタはそう答える。



「よくそれで借りようとか思ったな。」



「⋯⋯⋯⋯すいません⋯⋯。」



 ジト目で真正面から放たれるど正論を前に、コウタは反論すら出来ずに何も言えなくなってしまう。



「はぁ⋯⋯ならば冒険者をすればいいのではないか?多少危険ではあるが貴様の実力なら生きていく分には困らんだろう。」



「何故かレベル1のくせにスピードだけなら他の冒険者にも引けを取らないくらい高いからな。」



 確かに彼女の言う通り、コウタのステータスの中で、スピードの値だけが頭一つ抜けて高かった。



 考えられる原因は、こちらの世界に来た直後に即習得した〝脚力上昇〟と〝加速〟のスキルの影響くらいであった。


「冒険者、か。」


(現状それしか道はない、か。)



 それがどのような仕事であるか、細かい内容などはコウタには理解出来なかったが、目の前の少女の姿とこの世界に来る直前の女神との会話の内容から、それがなにかと戦うような仕事であるのは理解出来た。



 だからこそ、格闘技や武道の経験が豊富で、戦闘能力に自信のあるコウタは彼女の提案を受け入れる覚悟を決める。



「そうですね。冒険者というのはどうやってなるんですか?」



「決断早いな。いいのか?そんなにあっさり決めてしまって。」



 あまりにあっさりとしすぎたコウタの言葉に、アデルは頬杖をつきながら呆れたような、驚いたような声でそう問いかける。




「はい。考えていてもしょうがないので。」




 それを聞いてアデルはクスリと笑う。




「ならちょうどいい。準備ができたら出発するぞ。」



「どこに行くんですか?」



「ここから一時間ほど歩いたところに街がある。街の中心にあるギルドで冒険者登録をするんだ。私も街に用があるからな。」



 食事を終えて、その場に立ち上がると、アデルはコウタの問いかけにニッコリと笑みを浮かべてそう答える。







数時間後——


 朝一番で村を出た二人は、暖かい陽光に照らされながら散歩道というにはあまりに長い草原の道を抜けて目的地へとたどり着いた。


 心地良い風を運ぶ草原を抜けて彼がまず最初に目にしたのは、巨大な壁であった。



「着いたぞ。ここが風の街ベーツだ。」



 アデルはその壁の真ん中にあるドアに背を向けると、コウタに向かって爽やかな笑みを浮かべながらそう紹介する。



「結構大きな街ですね。」



 コウタは半ば放心状態でその門と外壁を見上げて説明を受け流す。


 さすがに街というだけあってそこは周りが全て巨大で重々しい外壁で囲まれており、十メートルほどの高さがある石垣の壁は、いかなる魔物の侵攻も許さないといった意思を感じられた。



「さて、入るぞ。」



「はい。」



 アデルに促されて足を進め、門へと近づくとそこには二人の鎧を纏った兵士の姿が見えた。


 二人の兵士は、コウタ達の姿を見ると、二人はコソコソと耳打ちをし、直後に兵士の片方が歩み寄ってくる。



「ようこそ、ベーツの街へ。申し訳ありませんか身分を証明できるものはございますでしょうか。」



「ああ、ギルドカードがある。」



 事務的な問いかけに対して、アデルは淡々と答えながらゴソゴソと腰にかかったバックを弄り始める。



「彼は旅人でそういったものは持っていないらしい。」



 そう言うとアデルはポーチから紙切れのような物を取り出し、兵士にみせながらコウタの方を向く。



「そうですかでしたら通行料千ヤードかかりますが。」



(ヤード?)



 恐らく通貨の単位と思われる謎の単語を聞いてコウタは一瞬なんのことか分からず首を傾げる。



「ああ、これで頼む。」




 アデルは再びポーチから今度は数枚の硬貨を取り出して兵士に手渡す。



 しばらくして、兵士がギルドカードと呼ばれる紙のチェックを終えるとようやく通行の許可が出される。




「そのバックいろんなものが入るんですね?」



 門をくぐりながら、コウタはアデルの腰にかかるバックに物珍しそうな視線を向けてそう問いかける。



「ああ、これか?これはマジックバックといって魔法の力で見た目よりも中身が大分広く作られているのだ。」



 アデルは小さなバックを軽く摘まみ上げてコウタに見せながら説明する。



「このサイズならリュックサックくらいの量は入るな。」



「へぇ、便利ですね。」



「まあ結構高かったからな、っとここがメインストリートだ。」



 そう言われて前を見ると街の中はたくさんの出店や人で賑わっていた。



「おお!!」



 全体的な雰囲気は世界史の教科書で見た近世のヨーロッパの光景に近かったが、所々には謎の光を放つ石や武器、そしてそれらを携えた人間達がごく自然な様子でその街を歩いていた。



 コウタは目をキラキラさせながら隅々まで見渡す。同じ賑わいでも現代社会の車の音や電車の音とは違う人間味あふれる音に思わず感情を昂らせる。



「なかなか新鮮ですね。」



 嗅いだことのない匂いや見たこともない果物などに胸躍らせながらキョロキョロと周囲を見渡して道を進む。



「あんまりキョロキョロするな⋯⋯田舎者だと思われるぞ。」



 アデルは呆れたようにそう言うがコウタの耳にはほとんど届いてはいなかった。





 そして町の中心の道をマイペースに歩き回っていると、アデルはとある建物の前に立ち止まる。




「ほら、ついたぞ。ここがギルドだ。」



 そう言って指差された建物は、美しいレンガ造り、二階建てのとても立派な建物があった。



「さあ、入れ。」



 アデルに手を引かれながら木製のドアを開けると、先日の宿屋と同様、コウタの鼻にきつめの酒の匂いが突き刺さる。



 ギルドの内部は受付と酒場があり村の宿屋と同じような印象を受けた。ただ少し違ったのは酒を飲んでいる人間が、いかつい男たちばかりであったのと、奥にロッカールームのような部屋があったことだ。



 周囲を見渡していると、ボロボロのアデルの姿にいかにも仕事の出来そうな雰囲気の受付の女性が反応する。



「アデルさん⋯⋯⋯⋯!!よくご無事で。」



 その女性はいそいそと歩み寄ってくると、アデルの顔を見るなり身体中を見渡し、安心した表情を浮かべてため息を吐く。



「ああ、心配かけたな、すまない。」



 心配をかけてしまったことに負い目があるのか、アデルは少しだけ伏し目がちにそう答える。



「そちらの方は?」



「こいつは冒険者志望だ。金に困っているらしい。面倒見てくれるか?これは登録料だ。」



 そんな話を断ち切るように女性がふと問いかけると、アデルはそう言って数枚の硬貨を手渡す。



「分かりました。」


「では、私は着替えてくる。ついでにシャワーも浴びてくる。」


 返事を聞くとアデルはコウタを置いて奥に見えるロッカールームに向かう。



「あ、はい。」



 コウタはその言葉に対して特に気にした様子もなくそう答える。



「では私たちは冒険者登録の手続きをしましょうか。」



 受付の女性はそう言うと、自分の持ち場と思われるカウンターへと回り込み、デスクから空白の紙きれのようなものを出す。



「こちらがギルドカードになります。まずここに名前書いてください。」



 そして女性は流れるように慣れた手つきで空欄を指差しながら丁寧に案内する。



(⋯⋯あれか。)



「わかりました。」



 コウタは街に入る時の兵士とアデルのやりとりを思い出し、その時に彼女が身分証として使用した紙を思い出す。



「はい、キド・コウタさんですね。」



「ではコウタさん、こちらへどうぞ。」



 名前やその他の情報を書き終えると、女性は受付の横にある扉を開けてその裏側にある部屋にコウタを案内する。


 言われるがままついて行くと一際薄暗い部屋に辿り着く。そして何もない部屋の中心には仰々しい台座の上に一つの青色の水晶が乗っていた。



「ではコウタさんそちらのギルドカードで水晶に触れてください。」



「はい。」



 言われた通り手に持ったギルドカードを水晶に当てると、水晶は美しい水色に輝く。



 水晶の輝きが収まるとギルドカードにはコウタのステータスやスキルがじんわりと浮かび上がる。



「では確認させていただきます。」



「あ、どうぞ。」



 女性が手を伸ばしてそう言うと、コウタは素直にギルドカードを手渡す。



「⋯⋯っ!?」


 受付の女性はコウタのギルドカードに細かく目を通していくと、しばらくしてその動きを石像の如く停止させる。



「なっ⋯⋯なっ⋯⋯」



「⋯⋯何か不備でもありましたか?」



 口をパクパクさせながら全身を硬直させる女性の姿を見て、コウタは恐る恐るそう尋ねる。



「⋯⋯すごい。」



「はい?」



「すごいですよコウタさん!レベル1でこのステータス!しかもほぼ全ての職業に適性を持っているなんて!完全に天才の領域ですよ!」



「は、はあ⋯⋯。」



 この反応には正直前世からの経験上慣れてはいたので驚きはしなかったが、それにしてもさっきと今とでは雰囲気が違い過ぎたので拍子抜けしてしまう。



 コウタは自分の目で改めて見るとそこにはオリジナルスキルは記述されていなかった。もし書かれていたらもっとすごいことになっていたのだろうかとゾッとした。



「ちなみに、どの辺が凄いんですか?」



「基本は全てです、実数値が他の冒険者のレベル十から十五相当、スピードに関しては二十相当ありますから、普通に即戦力レベルです!」



 コウタが尋ねると、女性は興奮しながらもつらつらと丁寧に説明していく。



「十から十五⋯⋯まあそんなもんか。」



 想像よりは高かったものの、ステータス自体は驚くほど高い訳では無く安心したようなため息を吐き出す。



「なに言ってるんですか!この町の冒険者の平均値はレベル22、つまり貴方は経験ゼロの現時点で平均値にかなり近い数値なんですよ!」



「えっと、とりあえず落ち着きましょう?」



 苦笑いでそう言われると受付の女性ははっとして元の態度に戻る。



 そして改めて背筋を伸ばし、雰囲気を切り替える。




「う、ゴホン、失礼。それでは最後になりたい職業を選んで下さい。」



 咳払いの後、女性は得意げにそう問いかける。




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