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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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六十九話 悪魔の力


「⋯⋯殺す。」


 サラは狂った表情のまま、アデルに向かって突撃する。



「シャット・アウト!!」



 アデルがそう叫ぶと、彼女の体中にエネルギーが巡る。


 目にも留まらぬ速さで襲い来る剣を自らも剣を構えて待ち受ける。


 すると今度は吹き飛ばされることなくしっかりとその攻撃を受け止める。



「ぐうっ⋯⋯。爆裂斬!!」



 爆煙と共に二人は距離を取る。


「⋯⋯ちぃ。」


 その後、アデルの体に灯っていた光と体中を巡るエネルギーの流れが消える。



付与エンチャントが切れた。)



 アデルがセリアとマリーに目を向けると二人も彼女と同様に光が消えていた。


「⋯⋯かかれっ!」


 一人の冒険者の声に反応して棒立ちだった他の冒険者も動き出す。



「弱い、弱すぎる!!群れることしか能の無い有象無象が!!私に近寄るな!!」



 強い叫びと共に、彼女の体の周囲から目まぐるしい数の小さな炎の玉が出現し、冒険者達に向かって撒き散らされる。



(あの数⋯⋯全員は守れない。⋯⋯だったら。)



聖域サンクチュアリー



 セリアは周囲の人間を出来るだけカバー出来るように、自らの目の前に巨大な光の壁を召喚する。



「うわっ⋯⋯!」



 炎の玉が光の壁や大通りの出店に衝突し、小さな爆発を大量に起こす。マリーは爆発音に怯みながら手で顔を覆う。


 アデルを含めた壁の外にいた冒険者達は各々で対応するが全員が少なからずダメージを負う。



「くっくっくっ⋯⋯。」



 サラはその様子を見てくぐもった小さな笑い声を上げる。



「さぁ、死にたい奴から来なさい!全部、叩き潰す!」



「——そうはさせません。」



 セリアは壁の裏からアデルに向かって手を伸ばす。



「プレッシング・ヒール」



 その言葉と共に、アデルを含めた全ての冒険者の身体が緑色に発光し、全員の傷や火傷が瞬く間に消えていく。



「⋯⋯やっぱり、邪魔ねぇ⋯⋯。」



「お褒めに預かり光栄ですわ。」



 雰囲気をガラリと変えてセリアは修道服の裾をドレスのようにつまみ上げニヤリと笑う。



「セリアさん⋯⋯。」


(もうMPが⋯⋯。)



 MP酔いの兆候を見てマリーは心配そうな顔をする。



「⋯⋯心配なら、少しは何かしなさい。さっきから貴女だけ棒立ちですわよ。足を引っ張りに来たのなら今すぐ帰りなさい。」



 見透かしたような態度でセリアはマリーの目を見ずに小声で叱責する。



「⋯⋯っ。」



「覚悟は、決めたのでしょう?」



 セリアは数歩前に出て、マリーに背を向けたまま、強い口調でそう言う。



「死ね⋯⋯。」



 サラはセリアに明確な殺意を向けながら先程とは比にならないほどの大きさの炎の玉を撃ち出す。



(大きい!?まさか魔力まで⋯⋯。)



サンク——」


「——貫け!!」



 セリアが再び光の壁を召喚しようと構えると、マリーはそこへ無理矢理割り込み、魔法を撃ち込む。


 二つの炎の玉がぶつかり合い、大きな爆発を起こす。



「私の魔法を相殺した⋯⋯!?なんて威力⋯⋯。」



 サラは爆発の余波に圧倒されながら、小さくそう呟き歯噛みする。



「はぁ、はぁ、はぁ⋯⋯。」


(なんであの人がこんな事するかなんて、私が考えたところで分からない。でも、だったら⋯⋯。)



「貴女を止めて洗いざらい話して貰います。」



 強く歯を食いしばった後、絞り出すようにマリーは宣言する。



「⋯⋯この餓鬼が⋯⋯!!」



「⋯⋯っだったらいいわ。こっちも本気でやるだけ⋯⋯!!」



 冷静になろうと首を左右に振りながら意識を切り替えるとマリー達から視線を外して真横にいる女性の冒険者の方を見る。



「ぐっ⋯⋯。」



 女性か構えるとサラはアデルを吹き飛ばしたのと同様に姿が消えるような速度で女性に接近し、抵抗する間も与えず腹部を貫く。



「う、あ、ああああああぁぁぁぁぁぁ!!」



 耳を引き裂くような断末魔を上げて女性の身体や肌は紫色に変色して、やがて水風船のようにべちゃりと音を立てて破裂する。



「うっ⋯⋯。」



 あまりに異常な光景にマリーは口元を押さえて圧倒される。


「⋯⋯次。」


 そう言うと、今度は二人の冒険者の間に立ち、目にも留まらぬ速さで斬り伏せる。



「さて、問題。」



「⋯⋯?」


 倒れ伏す二人の冒険者の間に立ち尽くしながらサラは口を開く。



「この剣が作り出す毒は低濃度、及び少量であれば全身が麻痺する程度です。」



「ですが、高濃度になると見ての通り細胞そのものを溶かし崩す物へと変質します。」



「⋯⋯では、もし仮にこの毒をこの剣の使用者である私が取り込む、または浴びた場合。⋯⋯どうなるでしょう。」



 返り血を浴びて頬を紫色に染めながらそう尋ねると、肌に触れた毒は徐々に彼女の体の中へと取り込まれ、肌に浮かぶ紫が顔の半分ほどまで広がる。



「⋯⋯ステータスが、上がる?」



 別の冒険者がそう言うと、サラの姿がまたしても消える。


「⋯⋯正解。」


「うぐっ⋯⋯。」

 

 答えた冒険者の背後へと周り、背中から呪剣を突き刺す。



(あいつ⋯⋯さっきより速く⋯⋯!?)



「ではご褒美として、皆様にプレゼントを差し上げましょう。」



「⋯⋯!?」


 サラの発言の直後、数人の冒険者とマリーが両膝をついて崩れ落ちる。



「っ!!マリーさん!?」



「⋯⋯あ、れ⋯⋯?」



 セリアが近寄ると、マリーの身体が少しだけ震えているのが見えた。


「何をした!!」


「言ったでしょう?少量なら全身が麻痺する程度だと。」


 アデルの顔を見てニヤリと笑う。


「つまり⋯⋯。」


(霧状にして周囲に撒き散らしたのか。)



呪剣コレについている血ならば気体として周囲に撒く事も出来る。⋯⋯これは知らなかったでしょう?」



 アデルが周囲に目を配ると倒れている冒険者のほとんどが意識はあるが身体の自由が利かないといった状況であった。



「知らなかったよ。⋯⋯で、効果には個人差があるのか⋯⋯。」



 アデルやセリアにはほとんど聞いていないのがいい証拠だった。



「さあ、一人ずつ、狩っていこうかしら。」






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