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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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六十八話 薔薇のように鋭く、蜂のように美しい


「コウタさん⋯⋯。」


 先程までいた広場から、連続して聞こえる衝撃音に、マリーは遠くの方を見つめて、不安の声を上げる。


「マリーさん、大通りに出ますわ。」


 セリアが隣から、そう言うとマリーはすぐさま前方へと意識を移した。



「はい⋯⋯!」



 細い路地を抜けて大通りへと出ると、冒険者達の列はピタリと止まる。



「うわっ⋯⋯と、なんですか?」



 マリーは前方の冒険者の背中にぶつかりそう言うと、列の一番前から声が聞こえる。



「ようやく捕まる気になったか?」



 その言葉の先には先程まで追っていたはずの女性が、隠れる様子もなく、ただただ道の中心に立ち尽くしていた。




「いいえ、違います。」


 そう言って女性は両手を前へと突き出す。



「逃げても無駄なので、全員殺します。」



 衝撃音と共に氷の塊が狭い路地へと襲いかかる。



「⋯⋯っ、全員避けろ!!」



(⋯⋯遅い?)


 アデルの声にその場にいた全員が反応し、氷の塊に対応する。だが、その魔法の速度にセリアは違和感を覚える。



「⋯⋯!?いえ、違います!これは⋯⋯!」



 セリアがそう言い終わる前にサラは火属性魔法を打ち出す。

 打ち出された炎は氷の塊に当たると、大きく爆発を起こし周囲に水蒸気を撒き散らす。


「くっ⋯⋯。」



「これは⋯⋯霧⋯⋯!?」



 発生した霧に冒険者達は視界を塞がれる。



(魔法のスピード差を利用した合体技⋯⋯。エティスさんに教えてもらったのとおんなじだ⋯⋯!)



 マリーが前方に目を向けると霧の奥からキラリと赤い光が見える。



「なんか⋯⋯来る⋯⋯?」



 マリーのその声に反応して冒険者達が反応すると、再び火属性魔法が彼女らに遅いかかる。




「くっ、シャットア——」



「——退いて下さい。」


 セリアは最前列で防御の体制をとるアデルの肩を掴むと、後方へと引き寄せる。



「なっ!?セリア!!」



 アデルの叫びの直後、巨大な爆発音が街中に大きく木霊する。







 その爆音は、街の中心にある広場にいた二人にも届いていた。



「あっちも、始まっちゃったね。」



 額から二本の角を生やした魔族の男、ルキは長刀を構えて目の前の少年にそう言う。


「⋯⋯そうみたいですね。」


 コウタも、音のした方に視線を飛ばしながらそう答える。


「⋯⋯随分落ち着いてますね。いいんですか?追いつかれても。」



「うん、大丈夫。概ね計画通りだ。」



 余裕のあるその言葉を聞いてコウタは強くルキの顔を睨みつける。


「意味が分からないって感じ?ははっ、まぁそうだよね。」


「大丈夫。僕や君みたいな実力レベルでもなくちゃ彼女は殺せないから。」



「あの程度の冒険者なら何人集まっても彼女は殺せない。」


 ヘラヘラと茶化すような態度でそう言う。



「それに、彼女が追い詰められたならそれはそれで好都合だ。」


 呟くような小さな声で、そう続ける。


「⋯⋯⋯⋯。」


「⋯⋯⋯⋯。」


 睨み合いながら暫く沈黙した後、コウタはゆっくり口を開く。


「つまり、僕一人抑えれば彼女自身でなんとかできる、と。」


「うん。そうなるね。」


「——見立て、甘過ぎませんか?」


 態度を変えずに答えるルキに、コウタは鋭い視線で食い気味にそう尋ねる。


「は?」


 ルキが問い返すと、コウタは両手に二本の剣を召喚し真っ直ぐに構える。


「生憎、ウチのパーティーは一人残らず曲者揃いなんで。」


「⋯⋯⋯⋯あっそ。」


 コウタがニヤリと笑ってそう言うとルキはつまらなそうにそう答える。








「⋯⋯一人くらいは、殺れると思ったんですけど。思ったより厄介なのがいましたね。」


 ため息をつきながらサラがそう言うと、少しずつ爆煙が晴れていく。



「それは残念でしたわね。ですが、この程度では傷を付けれるかも怪しいですわよ?」



 煙がゆっくりと消えていくと、その奥には無傷のセリアが立ち尽くしていた。



「これは⋯⋯!?」



 自分たちを包み込む大きな光の壁をみて、冒険者の一人が声を上げる。


「これって⋯⋯。」



聖域サンクチュアリー⋯⋯。」


 アデルがそう言うと、光の壁はキラキラと光を発しながら砕け散る。



「生憎、そう易々と殺されるつもりはありませんわ。」



 セリアはそう言って目の前の女性にニッコリと笑ってみせる。



「散らばれ!」



 一人の冒険者の声によって他の冒険者達は大通りへと抜けてサラを囲うように広がる。


「覚悟!」


 第一にアデルがサラに肉薄する。


「くっ⋯⋯。甘い!」


 サラはアデルの斬撃を呪剣で受け止めると、そう言ってアデルの体ごと弾き上げる。


(なんだ⋯⋯この力は⋯⋯!?)


 サラは浮き上がったアデルの体めがけて真っ直ぐに火属性魔法を打ち込む。



「爆裂斬!」



 剣と魔法がぶつかり合うと、その爆風でアデルの体は後ろに吹き飛ばされ、ゴロゴロと転がりながら着地する。


「くっ⋯⋯。」


「まずは、一人目!」


 地に伏せるアデルの首元に向かってすかさずサラは追撃の剣を構える。


 だがサラの剣は再び展開された光の壁に阻まれる。



「厄介な⋯⋯!!」


 そうしてセリアに視線を向けると、サラの前後から二本の剣が襲う。



「っ、ああ、そう言えばいましたね。その他大勢。」



 一本を鞘で受け止め、もう一本を剣で受け止めると、目の前の冒険者にそう言って挑発する。


「舐めるな!」


「舐めてはいません、よ!!」


「なっ、ぐっ⋯⋯⋯⋯くそお!!」


 サラは片方の冒険者の腕を掴んで水平に振り回しながらもう片方の冒険者に向かって投げつけると追撃で火属性の魔法を叩き込む。


「おおおおぉぉぉ!!」


「⋯⋯弱すぎる。」


 その様子をみて斬りかかる冒険者の足を氷結魔法で固めると、首筋に一太刀入れ、後ろから来る不意打ちを回避し、もう一人の冒険者の顔面に魔法をぶつける。


「⋯⋯これで、四人。」


 二人の冒険者が力なく倒れるのを見てサラは小さくそう呟いて笑う。


「そんなっ⋯⋯!!」


「一瞬で四人も⋯⋯。」


 その圧倒的な実力の前に三人は思わず絶句する。


「随分と、呆気ないわね。」


「もういい、終わりにしましょう。」


 つまらなそうにそう言うと、サラは呪剣にこびりついた返り血だったものを自らの口へと流し込む。


「何を⋯⋯!?」


 滴り落ちる血、もとい毒を飲み込むと、彼女の首筋から頬にかけて白く美しい肌が紫色に変色する。


「⋯⋯一体何が起こ⋯⋯っ!?」


 アデルがその光景を見て固まっていると突如視界からサラの姿が消える。

直後、目の前に消えたはずのサラが再び現れる。


(速っ⋯⋯。)


 思考の余地もなく襲い来る剣を反射のみで受けきると、膝立ちだった体は先程とは比にならないくらいの勢いで後方へと弾き飛ばされる。

 アデルの体は重力を完全に無視した方向へと進み続け、後方の建物へと衝突する。


「アデルさんっ!!」


 衝突するとアデルの口からは真っ赤な血が噴き出す。



「一体⋯⋯な、にが⋯⋯!?」



 視界が歪みながらギリギリで意識を保ち、掠れた声で言葉を絞り出す。


「ステータスが⋯⋯上がった⋯⋯!?」




「⋯⋯くっくっくっ⋯⋯。」




「アハハハハハハハハハハハハ!!」


 セリアがそう言うとサラは狂ったように笑い出す。



「全部、ぜんぶ、ぜぇーんぶ、ぶち壊す!!」




「⋯⋯全部、殺してあげる。」


 ギョロリと焦点の合わない目でアデルを睨みながら髪をぐちゃぐちゃに掻き乱して殺人鬼、サラ=リリアスはそう嗤う。



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