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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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六十七話 縛り


「魔王軍⋯⋯幹部⋯⋯!!」


 男の発言を聞いてコウタは一瞬驚愕の表情をした後、すぐにニヤリと笑って見せる。



「そちらから来てくれるとは⋯⋯都合がいいです。」



 コウタはそう言って剣を構える。



「あっそう、それじゃあ⋯⋯⋯⋯始めよう、か!!」



 男は興味なさげにそう言うと再び雰囲気を急変させて肩に掛けた剣をゆらりと構え地面を強く斬りつける。

 斬りつけられた地面からコウタに向かって衝撃波が発生する。


「なっ⋯⋯!?」


 地面をめくり上げながら襲いかかる衝撃波を横に飛び退きながら避けるとコウタは男の姿を見失う。


「まずは⋯⋯コレ。」


「くっ、そ!」


 後ろから聞こえてきた声に反応して腕を振ると直前に振り回されていた物とは別の、真っ赤な剣がコウタの剣と衝突する。




「名は火竜、有する能力チカラは——。」



 やけに説明口調になりながら剣の名前を言うと、男はその剣の柄を強く握りしめ直す。




「——火属性攻撃。」



 直後に剣筋になぞらえて発生した炎がコウタの顔の目の前を通り過ぎた。



「っ、あっぶな⋯⋯と!」



 バク転の要領で目の前の炎を回避すると数本の剣を召喚し男に向かって打ち出す。



「甘い。」



 襲い来る剣を先程よりも大きな炎で打ち落すと、もう一度コウタに向かって炎の刃を飛ばす。

 再び炎を回避すると男がコウタに向かって距離を詰める。


(速い⋯⋯!?)


 振り下ろされる剣を龍殺しの剣(ドラゴンスレイヤー)で受け止める。



「——いいの?受け止めちゃって⋯⋯。」



 その言葉を聞いて視線を下に移すと、男の持つ剣は最初に地面を割った長刀へと変わっていた。



「しまっ⋯⋯ぐっ、はぁ⋯⋯!」



 回避する間も無くガラ空きの胴体に強力な圧がかかり、なす術なく後方へと吹き飛ばされる。

 後方にあった木造の屋台に突っ込むと、ガラガラと大小様々な木片がコウタの身体に降り積もる。



「⋯⋯⋯⋯。」



 男はコウタの反応が無いのを見て、小さくため息をつく。




「はぁ⋯⋯案外呆気なかったね。残念だ。」



 そう言って剣を鞘へと納め、くるりと後ろを向き、アデルたちの行った方へ歩き出す。



「——誰が、残念ですって?」



 直後に聞こえた声に反応し、男は鞘からモクリを貫いた剣を取り出して、コウタの剣を受け止める。



「——いいんですか?受け止めて⋯⋯。」



 コウタがそう言うと、今度は男の胴体に衝撃が走る。


(奪われていたか⋯⋯。)


「⋯⋯⋯⋯ちっ。」


 小さく舌打ちすると男の体は後方へと大きく吹き飛ばされる。


 会話の途中で〝観測〟のスキルを使って読み取った刀の詳細が再びコウタの視界の端に浮かび上がる。



〝斬破〟振り回す速度に応じて威力の変わる衝撃波を放つ無属性の魔剣。



「⋯⋯呆気ないとか、残念とかはもう少しゆっくり見てから決めてもいいんじゃ無いですか?」


 口に溜まった血を吐き捨て、手に持った長刀を構えニヤリと笑ってそう言う。



「⋯⋯ふぅ、そうだね。どうやら僕は早とちりしてたみたいだ。」



 男は何事もなかったかのように立ち上がり、剣を納めると再びコウタと同じ長刀を取り出す。




「⋯⋯⋯⋯その鞘、いろんな武器が入ってるんですね。」




 その様子を見て取り出された剣ではなく鞘へと目を向ける。


「そうだよ。君対策で倉庫から引っ張り出して来たんだ。」


「僕対策?」


 コウタは男のその言葉に疑問を投げかける。


「うん。先のフルーレティ戦、遠目からだけど見させて貰ったよ。ついでにザビロスとの戦いのデータも。」


「見られてたんですか⋯⋯。」


 さらりと言われた言葉にコウタは露骨に不快な顔を見せる。


「君のスキルは武器を召喚する能力だ。⋯⋯だから鞘単体では召喚できない。」


「この鞘は別名、〝窓〟。二本で一対を成す特殊な物で、片方の鞘の周辺にある剣をもう片方の鞘へと転送する代物だ。」


「その性質上、武器ではなく魔道具に近い。だから君に盗られる心配もないって思ったんだけど、どうかな?」


 ニッコリを見透かしたような顔で尋ねてくる男に対して、コウタは苦笑いを浮かべる。



「⋯⋯悪くないんじゃ無いですか?」



「正解みたいだね。⋯⋯つまり、セットとなる本体の剣が無ければコピーはできないのか。」



 歪な笑みを浮かべる男の言葉など全く意に介せずコウタは反論する。



「だったら取り出した先から奪ってくだけです。」



「そうなんだよね。結局、直接的な解決にはなって無いんだよ。」



 男は残念そうな声でそう言うと深いため息をつく。



「⋯⋯⋯⋯でも、せっかくの僕のコレクションが簡単に真似られるのはやっぱり不快なんだよね⋯⋯⋯⋯。」



「だから⋯⋯⋯⋯こっちも、本気で行くよ!!」



 そう言って再び長刀を地面に叩きつける。



「ちっ⋯⋯。加速!!」



 それに反応してコウタは加速で振り下す速度を上げた刀を地面に叩きつけ、襲いくる衝撃波を相殺する。

 ぶつかり合った衝撃波の余波でお互い顔をしかめながら前を見据える。


(加速で刀を振る速度を上げた⋯⋯、てことは刀の特性は充分理解しているということか。)


 そんなことを考えていると、今度は一直線にコウタが突進してくる。



「加速!」



「効かないって。」


 再び〝加速〟のスキルでスピードを上げた斬撃を与えるが、今度はあっさりとその剣を止められる。

 一拍遅れて飛び出した衝撃波も空いていた右の掌に当たると、何事もなかったかのように消え失せる。



「自分の技に二回も三回もやられる訳ない、でしょ!」



 刀を強く握りしめ振り切るとコウタの身体は引っ張られるように後方へと吹き飛ぶ。



「ほら、もう一発!」



 同じように剣を振ると衝撃波が真っ直ぐにコウタに襲いかかる。


「このぉ!!」


 慌てて相殺しようと剣を振るが、今度は加速のスキルの補助がなかったため押し負ける。

 バキン、と鈍い音を立てて刃の破片がコウタの目の前に飛び散る。



(砕かれた!?)



 折られた刀は空中で霧散し、体制を崩したコウタはゴロゴロと転がりながら着地する。



「ふぅ、ステータスの差は歴然、加速や付与のスキルで補助は入れてるけどそれでも差は埋まらないし、そもそも付与のスキルのせいで身体が光ってるから夜なのに君の動きもバッチリ見えてるからむしろ戦いやすいよ。」



 ヤレヤレと呆れた様子で地面に伏すコウタにそう投げかける。




「で、それでも出さないの?霊槍。」



「そこまでお見通しですか。」



 フラフラの状態で立ち上がると、ばつの悪そうな顔で答える。



「見てたって言ってるじゃん。さあ、出すなら早くした方がいいよ?手遅れになるから。」



 両手を広げて、挑発するような仕草で霊槍の召喚を促す。



「ご忠告、ありがとうございます。」



 そう言って今度は大剣を召喚すると、加速のスキルを使ってもう一度突進する。


(今度はザビロスの剣か⋯⋯それにしても。)


「芸がないなぁ、突進ばかりで、飽きてきたよ?」


 そう言って大剣を受け止めると、コウタの顔の真横から、男に向かって槍が突き出される。



「今度は不意打ち、ベタな手だね。」



 男は首を小さく横に動かして回避すると、コウタの身体の光が徐々に薄くなっていく。



「や⋯⋯ば⋯⋯。」


「どうやら時間切れみたいだ。」



 そう言って男が強く刀を振ると、コウタは力なく吹き飛ばされ、広場の噴水へと落ちる。



「⋯⋯⋯⋯おーい、生きてる?生きてるなら返事しなくていいから、霊槍使いなよ。僕、飽きてきたよ。」



「⋯⋯⋯⋯。」



 コウタは朦朧とする意識の中で、アデルとの会話を思い出していた。







数日前、コウタ達の馬車にて——



「しばらく使わない?何故だ?」



 アデルの問いかけにコウタは馬車の手綱を握りながら答える。


「ちょっと色々あって⋯⋯。」


「色々?MPの問題ですか?」


 コウタの答えに後ろにいたマリーが尋ねる。


「それもあるんですけど、よくよく考えるとそれよりもマイナスなことがいっぱいあったので⋯⋯。」


「例えば?」


「そうですね⋯⋯まず、一つは使用後に何日か寝たきりになってしまうところですかね。」


 アデルとマリーは実際にあったことを思い出して黙って頷く。



「あとは使用中、ずっと頭にモヤがかかったみたいになってしまうんです。」



「モヤ?」


「はい。⋯⋯なんというか、気を抜いたら一瞬で意識を持ってかれそうになる感じです。」


 アデルが問い返すと、コウタは答えづらそうに抽象的な答えを返す。


「そんなものまであるのか⋯⋯。」


「霊槍とは本来、神の所有物。ある程度の反動は仕方ありませんわ。」


 先程まで黙っていたセリアも仕方ないと、言わんばかりに、淡々とそう言う。


「大変ですね、コウタさん。」



「まぁ、一番の問題は周辺の被害なんですけどね。」



「被害?」


 マリーはよく理解出来ていないのか、首を傾げて問い返す。



「あれは一挙一動で、とてつもない力を発するものです。もし仮に、街中や一般的の集まる場所なんかで使った日には⋯⋯。」



「「「ああ⋯⋯⋯⋯。」」」



 三人は言葉の通りのシチュエーションを思い浮かべると、遠い目をしながら納得する。



「⋯⋯とにかく。僕自身がまだ扱いこなせないうちはあれは使いません。特に街中では絶対に。」



 一種の覚悟のように、コウタはそう言って自分の胸に刻み込む。








——そこまで思い出していると、コウタはミシミシと動きの悪い身体を無理矢理叩き起す。



「⋯⋯使わない。」



「⋯⋯ん?」



 コウタの小さな声に男は問い返すように反応する。



「霊槍は⋯⋯使わない。」



 コウタは腰にかかるバックから一本の瓶を取り出して中にある液体を飲み干す。




(⋯⋯ポーションか。)


 コウタは自らのステータスを見ると、半分未満まで減っていたHPと、召喚や〝加速〟のスキルによって減少していたMPが全回復するのを確認する。



「使わずに、お前を倒す!!」



 空になった瓶を投げ捨て、強く拳を握り締めながら、そう宣言する。



「⋯⋯⋯⋯やってみなよ。」



 男は大きく破顔しながら、好奇心に満ちた声で答える。

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