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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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六十六話 月下のかくれんぼ


「だが、大丈夫なのか?」


 アデルが不安そうに尋ねるとコウタは黙って彼女に向かって掌をかざす。


付与エンチャント・速」


 直後、アデルの体にうっすらと柔らかい光が灯る。


「これは⋯⋯。」


(新技か⋯⋯!?)


「少しの間だけ対象の機動力を上げるスキルです。恐らくこの様子だと門番もやられてます。逃げられる前に行って下さい。」


 そうしてコウタはアデルにかざした手をバックに入れると止血剤を取り出してマワリーに投げる。


「マワリーさんはギルマスを連れてどこか遠くに行って下さい。」


 コウタは大量の剣を体の周囲に呼び出す。


(あれが、彼のオリジナルスキル⋯⋯。彼なら奴を⋯⋯。)


 止血剤を受け取るとマワリーはそれを見て他の冒険者達にも指示を出す。


「皆さんはサラ=リリアスを追って下さい!」


「っ!ですが!」


「いいから早くっ!!」


 マワリーの怒号に冒険者達は慌て追跡に向かう。


「申し訳ございません。コウタさん⋯⋯お願いします。」


 マワリーはモクリを担ぎ上げてコウタに一礼すると強く下唇を噛み締めギルドの建物まで走り去って行った。


「⋯⋯任せたぞコウタ!!」


 アデルは少しの間だけ立ち止まってからコウタにそう言うと同様に走り去っていく。

 コウタはアデルに続いて走るセリアと目が合うとお互いに軽く頷いて合図を送る。


「⋯⋯任されました。」



 周りに人が居なくなるとコウタはニヤリと笑ってそう言い、召喚した剣を大の字で寝転がる男に向かって放つ。




「うおっとぉ!?あっぶな!」


 男は慌てて体を跳ね上がらせながら襲いかかる剣を回避する。


「いつまで寝てるんですか?さっさと始めましょう⋯⋯。」


 突き刺すような視線を向けて避けられた剣を手元に戻す。


「おお、怖い怖い。」


 ポンポンと自らの服についた土埃を払いながらその視線を受け流すように男はヘラヘラと笑ってみせる。





 ギルド職員のマワリーはコウタに魔族の男を任せると、路地裏を抜けて大通りを走っていた。

 背中には今にも息が途絶えてしまいそうな男を抱えて、彼女は必死にギルドへと向かう。


「はぁ、はぁ⋯⋯この、時間なら、回復魔法の使える人はいるはず!」


 空っぽの止血剤の袋を投げ捨て、大きく肩を上下に揺らして必死に走る。


「死なないで下さい。ギルマス。⋯⋯⋯⋯死なないで。」


 頬を流れるものを袖口で拭いながら絶え絶えの息でマワリーはそう祈る。






一方、アデル、マリー、セリアの三人は他の冒険者達と共にサラを追っていた。


「⋯⋯⋯⋯。」


(サラ=リリアス⋯⋯⋯⋯なんであの人が⋯⋯。)


 冒険者達の最後尾を走るマリーは暗い表情で俯いて黙り込んでいた。


「⋯⋯リー⋯⋯⋯⋯マリー⋯⋯ん。⋯⋯マリーさん!!」


「ひっ⋯⋯!?はい!」


 隣から発せられた大きな声にマリーはビクリと反応する。


「どうしました?さっきから上の空ですわ。」


「それは⋯⋯。」


 セリアの問いかけにマリーは言葉を詰まらせる。


「⋯⋯⋯⋯あの人が本当に殺人鬼なんですかね?」


 暫く黙り込むとマリーは震えた声でセリアにそう尋ねる。


「アデルさんとコウタさんが、そう言っているのならば間違いはないでしょう。コウタさんは実際に殺されかけていますし。」


「それはっ⋯⋯そうなんですけど⋯⋯。」


(私はっ⋯⋯⋯⋯。)


 泣きそうな顔でマリーは答える。


「彼女と何かあったのかは分かりませんが、ずっとそうしてるなら宿に戻った方がいいですわ。自分にも、仲間にも危険が及びますから。」


 セリアはきつい口調で容赦のない言葉をマリーにぶつける。


「⋯⋯っ!大丈夫です!出来ます!」


 マリーはそれを聞いて自らの思考を振り払うように首を大きく振り強く両頬を叩くとはっきりとした口調で答える。

 辛そうな表情で歯を食いしばりながら答えるマリーを見て、セリアはため息をつく。


「無理だけは、絶対にならさないで下さいね。」


 呆れたような様子でセリアはマリーを諌める。


(⋯⋯それでも最悪の場合、私が⋯⋯。)


 セリアはコウタとの約束を思い出しながら一人決意を固め、先頭を走るアデルの背中を眺めて、進んでいった。








「——月が、綺麗だね。」


 頭から二本の角を伸ばした魔族の男は広場の中心にある噴水の淵に登りながら唐突にそんなことを言う。


「気持ち悪いこと言わないで下さい。僕は男です。」


 コウタは呆れた表情でため息をつく。


「気持ち悪い?男?⋯⋯何言ってんの?」


 訳が分からない、といった様子で男は首を傾げる。


「ああ、こっちの話です。」


 コウタは意味が通じていないことを知ると、適当にはぐらかす。


「あっそう。」


「⋯⋯⋯⋯ホントはさ、こんな綺麗な月の日はゆっくりと酒でも飲みながら夜風に吹かれて空でも眺めたいんだよね。」


 男はその場に座り込むと、だらりと脱力して大きく空を見上げる。


「できればそうやって大人しくしてくれると、こっちも助かるんですけどね。」


 コウタは軽口を叩くようにやれやれとダメ元で問いかける。


「それは出来ないんだよ。上司に二つも仕事押し付けられてるからさ。」


 コウタに乗るように男もやれやれと軽口を叩く。


「⋯⋯上司?誰ですか?」


 コウタが尋ねると、男はなんの前触れもなく雰囲気をガラリと変え、口元を大きく歪ませる。




「——魔王。」




「⋯⋯っ!?」


 男の放つ殺気と狂気にコウタの体がゾクリと反応する。

牙を剥き出しにした蛇に絡まれているかのような底知れない圧力にコウタの肌がゾワゾワと粟立つのを感じる。




「⋯⋯⋯⋯魔王様が僕に命じた仕事は二つ、一つは呪剣使用者達の監視、及び補助。」


 男は説明口調で話し始め、スッと再び立ち上がると、腰にかかる剣に手をかける。


「んで、もう一つは同僚二人を殺したキドっていう冒険者の処理。」


 そう言うと突如男が握りしめた剣の柄の部分が光り出し、その形状が変化していく。

 完全に形が変わると男はその剣を躊躇いもなく抜き出す。


「そういえば自己紹介がまだだったね。」


 先程とは明らかに大きさも長さも違う長刀を肩に乗せて男は笑う。


「初めまして、コウタ=キド。僕の名はルキ。一応、魔王軍で幹部をやってるんだ。」


「——短い間だけど、よろしく。」


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