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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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六十五話 乱入者


 街が深く寝静まった頃、彼女は宿泊するはずだった二階の部屋の窓を一切の音を立てぬよう、そっと開ける。



 窓を抜けて飛び降りると、闇に紛れるように路地裏へと入り込む。



「⋯⋯⋯⋯。」


 なるべく早く、そしてなるべく足音を立てぬように路地裏を走り抜ける。



「⋯⋯⋯⋯!?」



 大通りへと抜けると即座に何者かの気配を感じ、目を細めながら正面を凝視する。


 そうしていると目の前には黒い外套を羽織った男とも女とも分からぬ二人組が彼女の方を向いて立っているのが分かった。



(この道はまずかったかしら⋯⋯。)



 一瞬立ち止まり、再び路地裏へと踵を返すと二人組の片方が上空に向かって火属性魔法を打ち上げる。



「⋯⋯⋯⋯何を⋯⋯?」



 打ち上げられた火の玉に照らされてようやく二人組の姿をはっきり視認できるようになるが、そんなことなど気にせず走り始める。



「⋯⋯⋯⋯追って来ない?」



 二人組の足音どころか気配すら感じない事に違和感を感じつつも街の出口から少し遠ざかった通りに出る。


 すると再び先程までと同じような感覚に陥り、同じように通りに目を向け目を細める。



「⋯⋯やっぱり、いたか⋯⋯。」



 再び外套を羽織った二人組を見つけため息をつき今度は立ち止まることなく急旋回して別の道を行く。



 突如目の前に現れた自らの影の動き見て先程と同じように上空に魔法が放たれたのを認識する。



(⋯⋯追い詰められている⋯⋯。)



 その事実に内心少し焦りながらも冷静に思考を回し続ける。



(包囲網が敷かれるのは予想していた。恐らくほぼ全ての道に二から三人ずつ配置されてる。私の情報が割れていたとするなら大体レベルの平均は四十前後⋯⋯。)



「なら魔法は全体への合図かしら⋯⋯?」



 そうして鞘に収められた剣を強く握り締め、三度表通りに出る。


「⋯⋯それでも⋯⋯。」


(二人ずつなら⋯⋯私の実力で十分殺れる。)


 予想通り目の前に立ちはだかっていた二人組に向かって今度は臆す事なく殺気を放ち、剣を抜く。


「⋯⋯それは、遠慮してもらおうか⋯⋯。」


「⋯⋯っ!?」


 直後にそれ以上の殺気がくぐもった声とともに真上から襲う。


 頭上から襲う刃をバックステップで回避するが、自らの長い髪の先が切られるのを視界の端に捉える。



「⋯⋯くっ!!」



 すかさず間を詰めてくる影に火属性の魔法を放ち牽制するが壁伝いに上へと回避される。


「⋯⋯⋯⋯まさか貴方が最初に来るとは⋯⋯私も随分と有名になりましたね。」


 暫く膠着状態が続いた後、目深に被ったフードの奥に見えた顔を見て、自らの顔に笑顔を貼り付ける。



「——元暗殺者(アサシン)にして冒険者ギルド、ナスト支部ギルドマスター、モクリ=ラギル。」



「⋯⋯⋯⋯。」



 男は冷たい視線を向けたまま再び剣を構える。



(⋯⋯⋯⋯流石にここじゃ分が悪すぎるか⋯⋯。)



 彼女は元暗殺者(アサシン)相手に夜中の路地裏で勝負を挑むほど馬鹿ではなかった。


 剣を構えながら敵と自分の間に火属性魔法を放ち視界を塞ぎ奥の道へと進む。



(確かこの先に広場があったはず⋯⋯。)



 狭い路地を抜けて大きな噴水のある広場へと出る。







「⋯⋯⋯⋯なるほどっ⋯⋯。」



 広場に目を向けると先程いた黒い外套が十数個あるのが見えた。その集団の中には見知った顔が三つほどあり、思わず顔が強張る。



「⋯⋯っ、なんでっ、あなたが⋯⋯!?」



 その中にいた少女は女性の顔を見て、大きく目を見開いて弱々しく問いかける。



「⋯⋯⋯⋯。」



 ベリーの街の武器屋で出会った少女が目の前にいることを少しだけ疑問に思うがその様子など気にする余裕もなく自分の状況を整理する。



(ここまで誘い込むのが一連の流れという訳、か⋯⋯。)



 広場は全ての抜け道を封鎖され、来た道からもモクリがツカツカと歩いて来ており、完全に逃げ場を失った。


「ここまでです。殺人鬼サラ=リリアス。大人しく連行されて下さい。」


 黒い影の集団の中の一つが追い詰められた女性に向かってそう言う。


「断るわ⋯⋯。私にはやらなくちゃいけない事があるの。」


「この数を一人で相手にする気か?諦めろ、すぐに町中に散らばった他の冒険者も集まる。」


 女性の発言にアデルが反応する。


「⋯⋯⋯⋯。」


 女性は黙り込みながら腰に掛けられた一本の禍々しい剣を抜く。


「⋯⋯やめましょう?もうこれ以上は意味が無いです。」


 諭すようなコウタの口調など気にも止めず剣を構える。


「⋯⋯大人しくするつもりがないなら、力ずくで押さえ込むだけだ⋯⋯。」







「——それはちょっと待とうか。」



 モクリが剣を構えて女性に斬りかかろうとした瞬間、その背後から力の抜けた声が聞こえる。



「⋯⋯⋯⋯ぐっ⋯⋯!?」



 声の主を辿るように振り向こうと意識を向けると、モクリは自分の胸部から紅に染められた刃が突き出していることに気づく。


 口から滴り落ちる血と、貫かれた胸から噴き出す血に全身を真っ赤に染められながらモクリは力なく倒れ伏す。



「っ!!ギルマス!!」



 突然の出来事にマワリーは思わず声を裏返しながら荒らげる。


 モクリが倒れると同時に姿を表した影はツカツカと女性の真後ろに立つと動揺する冒険者達など気にする様子もなく口を開く。



「⋯⋯行きなよ、道は開けといたから。」



 フードを目深に被り表情がはっきりとは見えないが、コウタの目にはその男の口元が大きく歪んでいるように見えた。



「⋯⋯礼は言いません。」



 そう言って女性は再び路地裏へと消えていく。


「追って下さい!!」


 マワリーが冒険者達に指示を飛ばすとフードの男は通さないと言わんばかりに手を横に伸ばす。



「おっと、当然追わせないよ?」



「あなた一人になにが出来るんですか!?そこを退いて下さい!!」



「どうにでも出来るよ。援軍はあらかじめ潰しておいたし。」



「いいから退きなさいっ!!」



 マワリーの怒号を受け、男はおちゃらけた様子で答える。



「おお、怖い怖い。どうしてそんなに焦ってるのかな?犯人を逃したから?それとも、後ろにいる彼を心配してるのかな?」



「どっちもです⋯⋯!そこを退け!!」



 完全に挑発に乗ってマワリーは氷の魔法を男に向かって放つ。



「軽いね⋯⋯。」



 男が襲いかかる魔法に向かって手袋のはめられた右手をかざすと魔法は砕け散るように四散する。



「なっ⋯⋯!?」



 一瞬、呆けに取られていると男はクスリと笑う。



「軽すぎるよ、これじゃあ人は殺せない。」



(こいつ、強い!)


 男の発言にマワリーは表情を強張らせて周りの冒険者達に指示を出す。



「っ、皆さん!別のルートから犯人を追って下さい!」



 それを聞いて冒険者達は同時に動き出す。



「だから、行かせないって。」



 男は先程と同じ鞘から先程とは全く形状の違う剣を取り出して冒険者達の先頭にいた少女に斬りかかる。



「アデルさん危ないですわ!!」



 セリアの声に反応するが、襲いかかる剣に対して対応が遅れる。



「なっ、くそっ!」



 だが、その剣はアデルの体を貫くことはなかった。剣を抜くことすらままならず、無防備な状態で剣を受けようとするアデルと剣を振り下ろす男の間に金属音が鳴り響く。



「コウタ!」



「へぇ⋯⋯?」


(⋯⋯⋯⋯速いねぇ。)


 二人の間にはコウタが竜殺しの剣(ドラゴンスレイヤー)を構えながら割り込んでいた。



 コウタは間髪入れずに自らに〝付与・力〟のスキルをかけて、男のフードを掴みながら五メートルほど投げ飛ばす。


 男のフードは投げられた衝撃で根元から破れ紫色の皮膚と額から伸びる二本の角が露わになる。



「皆さん、西門に行って下さい。恐らく方向的に彼女が向かったのはそっちです。マワリーさんはギルマスを連れて下がって下さい。」



「しかし、貴様はどうするつもりだ!?」



 アデルは怒鳴り声にも近い様子でコウタに尋ねる。



「僕は、こいつを引き受けます!」



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