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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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六十二話 助太刀


 女性が剣を構えると、紫色に輝く先程まで血だったものが切っ先に沿って滴り落ちる。



(くそっ⋯⋯なんでだ!?なんで動かない!?)



 コウタは石の様に固まった体を無理矢理に動かそうとするが、指の先まで全く動く気配がなかった。



「ふふっ、可愛らしいですね。どうかしましたか?そんなに焦った顔して⋯⋯。」



 女性がニヤリと笑うと、血が滴り落ちた地面が白い煙を上げて溶けていく。


(何をされた!?せめて、剣をっ⋯⋯。)


「そんなに焦らなくても⋯⋯今、殺してあげるから⋯⋯。」


 コウタが剣を召喚しようとすると、女性は剣に付いた毒を口へと流し込む。



「⋯⋯⋯⋯何、を⋯⋯?」



 女性はその毒を口に含んだままコウタの頬に軽く触れて、顔を近づける。


「⋯⋯⋯⋯。」


 自らの唇を少しだけ尖らせ、コウタの唇にゆっくりと寄せる。


(まさか⋯⋯口移し⋯⋯⋯⋯!?⋯⋯くそっ、身体っ、うごけ⋯⋯っ!)


 女性の唇がコウタの唇に触れる様な距離まで達すると、女性は妖艶な笑みを浮かべた。





「——少し、待ってもらおうか。」



 コウタは思わず目を瞑ると、直後に鼻の先に強い風圧を感じる。

 それと同時にコウタの体を縛り付けていた力が消え、両膝を着いて崩れる。



「⋯⋯ぷはぁ⋯⋯はぁ、はぁ、⋯⋯アデルさん。」



 コウタは先程まで自分が立っていた方向を向くと、自分を守る様に立つ騎士の少女の名を呼ぶ。



「探したぞコウタ。随分と面倒な迷子だな。」



 そう言ってアデルは手に持った剣を女性に向けて構える。


「あらあら、いきなり斬りかかってくるなんて、随分と非常識な方ですね?」


 女性は口に含んだ毒を地面に吐き捨て、そう言う。



「そういうのは、その剣を納めてから言ったらどうだ?」



 アデルは大して気にした様子もなく答える。


「⋯⋯それとも、二対一で戦うか?」


「⋯⋯いえ、やめておきましょう。」


 女性はそう言うと、剣についた血を払い鞘へと納める。


「ここは一旦退かせて貰います。」


 そう言うと女性は人差し指をこちらに向けて火の玉を作り出す。


「⋯⋯っ!!危ない!!」


「⋯⋯さようなら。」


 アデルがそう言ってコウタを庇うように前へ出ると女性は火の玉を打ち出す。



「シャット・アウト!!」



 火の玉はアデルに直撃すると、大きく煙を上げて爆発する。

 爆発の後に煙が晴れると、女性の姿は既に無くなっていた。



「くっ、見失ったか⋯⋯!?」



 アデルは大通りへと出て周囲を見渡すが、女性の姿は人混みへと消えていた。


「ふぅ⋯⋯⋯⋯すいません、助かりました。」


 女性が消えたのを確認すると、コウタは小さくため息をついてそう言う。


「会議が終わってセリアと街を歩いていたら途中でマリーに会ってな、慌てた様子で誘拐されたなどと言うものだから、街中を探していたのだ。」


 アデルはそんなコウタに手を差し伸べながら困った様な表情でそう答える。


「誘拐って⋯⋯⋯⋯それは悪いことしちゃいましたね⋯⋯。」


 コウタは苦笑いを浮かべながらアデルの手を掴んで立ち上がる。



「全くだ⋯⋯。」



 アデルはそう言うと掴んだ手を強く握り締める。



「⋯⋯ん?」



「貴様は毎度毎度、一人で突っ走って、少しはこっちの身にもなったらどうだ?」



 アデルの握る手は更に強くなる。



「アデルさん⋯⋯?痛いんですけど?」



「しかも、その度に殺されかけているだろ、少しは学習したらどうなんだ?」



 ギリギリと青筋を立ててニコリと笑い、全力で握り締める。



「痛いっ!!痛いです!!反省してます!!だから離して!!」



 潰されるような圧力にコウタは思わず悲鳴を上げる。



「⋯⋯⋯⋯はぁ、それにしても酷い有様だな⋯⋯。」



 アデルはコウタの手を離すと、横に転がる肉片を見て思わずため息をつく。



「取り敢えず、ギルドに報告だな。」



「ええ、色々分かったこともありますし⋯⋯。」



 コウタはパンパンと服についた汚れを払い答える。


「分かったこと?なんだ?」


「連続殺人事件の犯人です。」








 その後、アデルとコウタの二人はギルドへと戻っていた。


「ゴウダざーん!無事で良かったよぉ〜!」


 ギルドに到着するとマリーが胸元に飛び込んでくる。


「うわっ、マリーさん⋯⋯!?」


 突然の出来事に戸惑っていると遠くの方から声が聞こえて来る。


「心配でずっと泣いていたのですよ?」


 奥からセリアがツカツカとこちらに歩いてくる。


「セリアさん⋯⋯。帰ってきていたんですね。」


「はい、大変でしたのよ?泣いてるマリーさんをあやすのも。」


 セリアは若干火照った顔を隠しながら満足気に答える。もっともその様子を見る限り本当にあやしていたのかは微妙なところではあるが。



「そうですか⋯⋯。すいません、マリーさん。」



 コウタは申し訳無さそうにそう答えるとマリーを小さく抱き締める。


「⋯⋯⋯⋯コウタ、ギルマスへの報告が済んだから、一緒に来てくれ。」


 そうしていると、奥の方からアデルが声をかける。


「はい、今行きます。」


 コウタはそう返事をすると未だにしがみついて離れないマリーの頭をポンポンと撫でる。



「マリーさん、大丈夫ですよ。僕はそんな簡単にいなくなったりしませんから。」



「⋯⋯⋯⋯だったら、どこか行くときはせめて声をかけて下さい。心配する身にもなって下さい。」



「ははっ、すいません⋯⋯。」



 コウタは至極まっとうなその返事に苦笑いで答えると、アデルの呼ぶ方へと歩いて行った。







「そういえば、ここのギルマスってどんな人なんですか?」


 コウタは長い廊下を歩きながら前を歩くアデルに尋ねる。


「⋯⋯静かな感じだ。」


 コウタが尋ねると、アデルは一瞬黙り込んでから、再び口を開く。


「静かな?⋯⋯⋯⋯寡黙な人って事ですか?」


 コウタは断片的な情報を聞いて達人の様な風貌の中年男性を思い浮かべる。



「⋯⋯⋯⋯会えば分かる。」



 そう言っていると、二人はギルマスの部屋へとたどり着く。



「⋯⋯⋯⋯失礼します。アデルです。」



 コンコンとドアをノックしながらアデルはそう言う。


「どうぞ〜。」


 中からはハキハキとした女性の声が聞こえてくる。


(⋯⋯⋯⋯ん?)


 思った感じとは違った声色にコウタは少し戸惑う。

 ドアを開けると、そこには中心の机の横に立つサイドテールの女性と、やわからそうな椅子に腰掛けるボサボサ髪の男性が目に入る。


「⋯⋯⋯⋯。」


「⋯⋯⋯⋯?」


 コウタは男性と目が合うが、男性は一言も発する様子もなく、その場に沈黙が流れる。



「初めまして、コウタさん。私はギルマス補佐のマワリーと申します。そしてこの方が、ギルマスのモクリです。」



 しびれを切らした女性が小さく咳払いした後、ハキハキとそう言うと、男性はコクコクと頷く。



(ああ、そういうタイプか⋯⋯。)



「初めまして。」



 コウタはそれを察すると苦笑いで答える。



「この度は、連続殺人の情報提供のためにお呼びさせて頂きました。」



 女性は真剣な表情でそう続ける。



「はい、存じ上げてます。」



 コウタも気を取り直してそう答える。



「では、まずは何から伺いましょうか⋯⋯。」



 女性がそう言うと、コウタは間を開けずに尋ねる。



「じゃあ、まずは名前とステータスからでいいですか?」


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