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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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六十一話 夢魔の如く妖艶な


(こんな薄暗いところで一体何を⋯⋯。)



 コウタは足音に注意を払いながら一定の距離を保ったまま二人の後をつける。


 二人はコウタの存在に気づくそぶりを見せぬまま、曲がりくねった通路を迷いなく進む。



「⋯⋯⋯⋯。」



 女性は妖しい笑みを崩さぬまま下衆な表情を浮かべる男に視線を移すこともなくその男の前を歩いて先導する。

 ところどころ遠目に別の大通りが見えるが、二人はそんなことなど気にすることなく奥へと進む。



(⋯⋯⋯⋯大通り⋯⋯。そう言えばマリーさん置いてきちゃったな⋯⋯。)



 一瞬視線を外に移すと、コウタは先程まで共にいた少女を思い出し、罪悪感に襲われる。



(事情を話せばなんとか⋯⋯なるかな⋯⋯?)



 コウタはなんとなくであの店を離れてしまった事に若干の後悔を覚えるが、それでも追跡を辞めなかったのは、簡単な理由だった。



(⋯⋯それでも気になる。あの人の、特にあの剣の異様な雰囲気⋯⋯。)



 以前、ベーツの武器屋で会話した時よりも、コウタの感じるソレは濃く深くなっていた。

 呼び寄せるような、引き付ける様な、頭の奥でキンキンと鳴り響く独特な不快感。


 そんなものに縛り付けられる様にコウタは半ば本能的に追跡の足を進めた。



(せめて、観測のスキルを⋯⋯。)



 コウタは何度か〝観測〟のスキルをその剣に発動させるが、何故か映し出されるのはノイズのかかったテレビの砂嵐の様な画面だった。



「⋯⋯?キャンセルされてるのか⋯⋯?」



 コウタは初めて起こるその現象に若干の戸惑いを覚えながら首を傾げる。



「なら、もっと深く⋯⋯!!」



 ベリーの街で霊槍を観測したときと同様に集中力を上げて再び観測を発動させる。


 すると、今度は一つの情報が浮かび上がる。




〝羊飼いの呪剣〟使用者に悪魔の力を授ける。また、触れた血液を毒へと変質させる効果を持つ。




「呪剣⋯⋯!?」


 それは図書館で見た伝説の武器の一つ。大昔に世界中に散らばり、正確な数すらも把握されていない剣のシリーズ。



(何故彼女がこんな代物を⋯⋯。)



 顎に手を当て、答えなどわかるはずもない疑問を浮かべた後、視線を二人の方向へ戻す。



 が、そこには既に二人の姿はなかった。



「⋯⋯っ!?やばっ、見失った!」



 そう言うとコウタは音を立てない様に歩くスピードを上げて再び捜索する。



 キョロキョロと左右を見渡し、入り組んだ道に視線を向けるが、やはり見つからない。





「⋯⋯⋯⋯完っ全に見失った⋯⋯。」



 一通り探し回ったがそれでも見つからずはぁ、と深いため息をついて呟く。


 辺りも夕暮れに染まり、大通りから路地裏へと橙色の光が差し込んでくる。



「そろそろ戻らないと、まずいな⋯⋯。」


(仕方ない、か。)



 そう言って路地裏から、表通りに出ようと踵を返した瞬間、再び呪剣と呼ばれるあの剣の異様な雰囲気を感じ取る。



「どこだ⋯⋯?」



 コウタは直感と、気配を頼りに呪剣の位置を探る。




「⋯⋯⋯⋯ここをひだ⋯⋯りに、⋯⋯っ!?」



 気配のする方向を向くとコウタは思わず絶句する。



 視界の正面には夕暮れよりも深い紅の血が大輪の花の様に路地に撒き散らされていた。



 そしてその中心には先程まで男性の形をしていた肉塊と、コウタが追っていた一人の女性が佇んでいた。



「あら、貴方は⋯⋯。」


 目が合うと、女性はコウタに小さく微笑みかける。

 コウタは反対に冷や汗をかきながら黙って生唾を飲み込む。



「⋯⋯お久しぶりですね。僕のこと覚えていますか?」



 コウタは暫くの沈黙の後、苦々しく口を開く。



「お久しぶりです。ええ、覚えていますよ。⋯⋯あのとき、釣り損ねた獲物ですから。」



 ニヤリと妖艶な笑みを浮かべて女性はそう言う。



「⋯⋯⋯⋯ソレは、貴方がやったんですか?」



 コウタはそんな発言を聞き流し、そう尋ねると、女性の顔が愉悦に歪む。



「ええ、そうですよ。」



 なんの躊躇いもなく、そう答える。



「逃した獲物ってことは、僕にもこんなことをしようとしてたんですか?」



「ええ、私は男性しか狙いませんから。」



「⋯⋯⋯⋯。」



(強そうなのしか狙わないという発言⋯⋯冒険者の被害とあの子が殺したと言う人数の一致⋯⋯ベリーの街でも事件はあったのに、僕は一度もあの子に会っていない⋯⋯それに、毒に侵された死体に、血液を毒へと変質させる呪剣⋯⋯だとすると、僕が犯人だと思っていたあの子は模倣犯?)


 瞬時にコウタの脳内に情報が溢れ出してくる。



(そして⋯⋯。)



「⋯⋯貴女だったんですね。連続殺人事件の真犯人は⋯⋯。」



 コウタの発言に答える代わりに、女性はニヤリと笑ってみせる。



「一体どうやってこんなに沢山の人間を⋯⋯。」


 コウタがそう言うと、女性はクスクスと笑いだす。



「どうやって?意外と簡単ですよ?少し耳障りの良いことを吹き込めば男なんて犬みたいについて来ますから。」



「そうやってついて来た獲物を、殺すんですよ。⋯⋯⋯⋯こんな感じに⋯⋯。」


 女性は頬を少し染め、浮ついた顔で答える。


 それを聞いてコウタは小さくため息をつく。


「何故、こんなことを?」


 鋭い視線をぶつけながらゆっくりとそう尋ねる。


「何故?簡単ですよ。」




「⋯⋯だって、見た目だけで寄ってくる男って、なんだかすっごくバカみたいで面白いじゃないですか。」




 それを聞いてコウタは目を見開く。


「あら?もしかして、呆れられてます?」


 女性はそう言って笑いかけると、手に持った剣を地面に出来た血溜まりへと這わせる。


「ええ、そして、ちょっと怒りが湧いてます。」


「ではどうするのです?」


「貴女を捕まえて、罪を償って貰います。」


 コウタも女性と同様に剣を抜く。


「殺しはしないのですね?⋯⋯随分と甘いこと⋯⋯。」


 女性はそう言うとコウタの目を見つめて、大きく目を見開く。



「⋯⋯っ!?」



 次の瞬間、コウタの体にとてつもない圧力がかかる。


(体がっ⋯⋯動かない!?)



「正直、私のやり方ではないのですが⋯⋯釣れてしまったものは仕方ありませんね⋯⋯。」



 剣についた血は、ブクブクと泡立ち、紫色へと変化する。






「ここで⋯⋯⋯⋯殺してしまいましょう。」



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