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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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五十九話 ナスト公国


 翌日、コウタ達の乗った馬車は順調に草原の道を突き進んでいた。



「着いたぞ。⋯⋯ここがナスト公国だ。」



 手に持った手綱を引き、二匹の馬を止めると、アデルは馬車に乗る三人に声をかける。



 目の前には城壁や沢山の建物が見えるが、それよりも先に目がいったのはその中心に鎮座する王城であった。



「おお!でっかいお城ですね〜!」



 マリーは馬車からアデルの横に顔を出すと、初めて見るその景色に感嘆の声を上げる。



「建物も綺麗で大きなものばかりですね。」


「やはり街とはスケールが違いますわね。」


 馬車の車窓からコウタとセリアが覗き込む。


「馬車を預けてくる。降りてその辺で待っていてくれ。」


「はい!!」


 アデルがそう言うとマリーは元気よく返事をして降りる準備をする。









 その後、四人は馬車を預け終わると、早速ナストのギルドへと向かった。


 ギルドの扉を開けると内装はベーツやベリーの街のギルドと似通っており、基本的な酒場、受付、クエストボードはほとんど今までの街と大差がなかった。



「ギルドは相変わらずなんですね。」



 マリーはキョロキョロと内装を見渡しながらそう言う。



「冒険者ギルドの規定に基づいて造られているからな。街によって多少の個性はあれど、基本的には似たり寄ったりだろう。」



 アデルはマリーの発言にそう答えると、テーブルを抜けて受付までツカツカと歩き出す。


 他の三人はその後ろについて歩く。


 受付窓口の前に立ち止まると、アデルはそこにいる女性に尋ねる。


「少しいいか?⋯⋯⋯⋯三日前にあった殺人事件についてなにか情報が欲しいのだが。」


「殺人事件ですか?その件でしたらこちらに⋯⋯っとコレですね。」


 アデルが尋ねると受付の女性はデスクの中から一枚の紙を取り出しアデルに渡す。


「これは⋯⋯⋯⋯クエストか?」


 紙を受け取るとアデルは軽く目を通す。


「はい。今回の殺人事件が、一連の連続殺人と同一犯であると判断したため、我がギルドは犯人の捜索チームの募集と、夜間の見回り運動を始める事にしました。」


 受付の女性ははっきりした口調で答える。



「ちょうどいいんじゃないですか?受けましょうよ!」



 マリーは後ろからアデルにそう促す。



「そうだな。ではこのクエスト、受けよう。」



「承りました。⋯⋯それで、本クエストのレベル制限なのですが、レベル40以上になりますので、それ以下の方は受注できないのですが⋯⋯。」



 受付の女性は言いづらそうに切り出す。


「⋯⋯⋯⋯。」


「⋯⋯⋯⋯。」


 コウタとマリーの表情が真顔に変わる。



「ええっと⋯⋯。」



 受付の女性はその様子に戸惑いを見せる。



 アデル lv42


 コウタ lv28


 マリー lv24


 セリア lv45



「あらあら、お二人のレベルが足りてませんわ。」


 セリアがそう言うと二人は膝をついてうなだれる。



「僕、一応幹部二人倒してるからなんとかなりませんかね⋯⋯⋯⋯。」



「レベル16ってミノタウロス何体分ですかね⋯⋯。」



 二人はボソボソと呟く。



「し、仕方ない、クエストは私とセリアだけで受けよう。クエストを受けなくとも捜索は出来るしな。」



 ごほんと咳払いするとアデルはそう言って受付の女性に紙を手渡す。



「では、早速見回りの説明が会議室でありますので、こちらに⋯⋯。」



「では、僕たちは今日泊まる宿でも探しに行きますね。」


 受付の女性の言葉を聞いて、コウタは不貞腐れた様子でアデルにそう言う。


「ああ、時間が余ったら適当に時間を潰しといてくれ。」


「了解です。さ、行きましょうマリーさん。」


「あ、はーい。」


 コウタが手を振ってゆっくりと歩き出すと、マリーは慌てて追いかける。


「では私たちも参りましょう?アデルさん。」


 それを見送るとセリアがアデルに促す。


「ああ、いま行く。」


 二人は受付の女性に続いてギルドの奥へと歩いて行く。



 階段を上がりドアを開けるとそこには既に数人の冒険者達がいた。



「⋯⋯⋯⋯。」



 その場にいた冒険者の殆どが男で、彼らは二人を真剣な目で見定める。



「あら、どうやら、女が入ってきた事に対してとやかく言うお馬鹿さんはいらっしゃらないようですね?」



 セリアはニッコリと笑ってそう言う。



「仮にもレベル40以上限定のクエストだからな。ここにきた時点で実力は示しているようなものだろう。」



 アデルは興味なさげに答える。



「それもそうですわね。⋯⋯⋯⋯まぁ、レベル度外視の方も約一名ウチのパーティーにいらっしゃいますけど。」



「それもそうだな。」



 二人は少年の姿を思い浮かべて小さく笑う。

 そう言っていると二人が入ってきたのとは別のドアがガチャリと音を立てて開く。



「どうやら来たようだぞ?」



 ドアの奥からは髪をボサボサに伸ばした男性とサイドテールの女性が出てくる。




「こん⋯⋯は⋯⋯ギル⋯⋯スターの⋯⋯です。」




 男性は冒険者達の正面に立つとボソボソと小さな声で呟くように話し始める。



「なに?聞こえん!」



「もう少しはっきりと喋ってくれませんこと?」


 アデルとセリアが少し強めの口調でそう言うと、男性は目を大きく見開いた後、ボソボソと隣の女性に耳打ちする。



「はい?⋯⋯もうですか!?⋯⋯はぁ、分かりましたよ。」



 女性はそう言うと一拍おいて、咳払いをすると男性の代わりに言葉を紡ぎ出し始める。



「改めまして私、ナスト公国ギルド、ギルドマスター補佐、マワリーと申します。そしてこの方が我がギルドのギルドマスター、モクリです。」



 マワリーと名乗る女性がハキハキと元気よくそう言うと隣にいる男性は小さく首を落として頭を下げる。



「人見知りなのか⋯⋯?」



「お隣の女性は対照的にとても元気ですわ。」



 セリアはニコニコと微笑みながらアデルにそう言う。



「人見知りのギルマスがやると、進行が滞りますので、説明は私がさせていただきます!」



 マワリーの言葉にモクリはコクコクと大きく頷く。



「それでいいのか⋯⋯?ギルド的には。」



 アデルは半ば呆れながら誰に言うでもなくボソリと小さく呟いた。








 その頃、ギルドを出たコウタとマリーは早々に宿屋を確保し、時間を持て余していた。



「暇ですね⋯⋯。」



 再びギルドに戻って来た二人は退屈そうにテーブルに腰掛けていた。



「そうですね⋯⋯。」



 手に持ったグラスに入った氷をからりと鳴らしながらコウタはマリーの声に反応する。



「何かしますか?」



「受付の人があと二時間くらいあるって言ってましたけど⋯⋯なにもやることないですよ?」



 コウタの問いにマリーはテーブルに突っ伏しながら答える。



「やること⋯⋯ですか⋯⋯。」



 そう言ってコウタは頬を膨らますマリーを見つめる。



「⋯⋯⋯⋯あ。」



 ふとコウタが声を上げると、マリーは顔を持ち上げ、こちらを向く。


「⋯⋯⋯⋯どうかしました?」


「ありましたよ、やること!」


「なんでふ?」


 マリーはストローでハニーミルクを吸いながらコウタに問いかける。



「二人で街に買い物に行きましょう!」



「⋯⋯⋯⋯ぶっ!」


 一拍おいてマリーが口からミルクを噴き出す。


「うわっ!?」


 コウタは思わず両手を前に出してガードする。



「ふふふ、二人で買い物って、それって!」



 マリーは頬を真っ赤に染め上げ呂律の回らない様子で慌てふためく。




(それってまさか⋯⋯⋯⋯デート!?)




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