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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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五十七話 次の街は


「もう、行ってしまわれるのですね。」



 ベリーの街の門ではギルド職員のツバキが、コウタ達を見送りに来ていた。



「ええ、あまり長居する様な用事もありませんしね。」



 コウタは馬車の整備をしながら答える。



「うう、寂しいですぅ〜。」



 ギルドマスターのモカラは先日より幾分まともな様子でコウタに泣きつく。



「寂しいって、僕ら大して仲良くなったわけでもないでしょう?」



 そんなモカラにコウタは苦笑い気味で、冷たい一言を言い放つ。



「もう、そういうことは思ってても口に出しちゃダメなんですよ!!」



 プリプリと頬を膨らませながらモカラはコウタに抗議する。



「はぁ⋯⋯そんなものですかね?」



「すいませんめんどくさいギルマスで⋯⋯。」



 ツバキはため息をつきながらコウタに頭を下げる。



「もう!ツバキくんまで!!そうやって私をないがしろにして!!」



「そうされたくないなら、少しは仕事のミスを減らして下さい。」



 冷たい視線を送りながら淡々とした様子で言い放つ。


「ううぅぅぅ〜〜!!」


 モカラは涙目でツバキの体をポカポカと叩き始める。


「痛い、痛いですギルマス。あなたの力でそれはただの暴力です。」


 ツバキは至極面倒そうな表情を浮かべながらモカラに止めるように求める。



「許しません。少しは私の力を思い知って下さい!」



「それは出来れば仕事の方で見せてほしいものです。」



 ツバキはさらにため息をついてモカラを冷やかす。



「またそうやって!」



 モカラの拳のスピードが少し上がる。



「⋯⋯⋯⋯は、ははっ。」



 コウタはイチャついているように見える二人を見て乾いた笑みを浮かべる。



「コウタ、そっちは準備できたか?⋯⋯ん?来てたのか二人とも。」



 馬車の奥から荷物の整理を終えたアデルがひょっこりと顔を出す。



「ええ、見送りに来ましたよ、ギルマスとして!」



 モカラはピシッと姿勢を整えアデルにそう返す。



「わざわざ済まないな。」



「いえ、あなた方は街を救って下さったのですから。当然のことですよ。」


 申し訳なさそうなアデルにツバキはニッコリと爽やかな笑みを浮かべてそう返す。


「そういうことです。」


 その言葉に続くようにモカラは堂々と胸を張る。



「確か、次はナストでしたよね?」



「ああ、一旦はそこに滞在して情報を集めてから次の行き先を決めて、最終的にはポータルへ到着することだ。」



 ギルマスをガン無視でツバキは問いかけるとアデルが答えを返す。



「ポータル!?ポータルに行くんですか!?」



 モカラは興奮気味にアデルににじり寄り、問いかける。


「そ、そうだが、どうしたんだ急に?」


 アデルは戸惑いながら問い返す。


「師匠がいるんですよ彼女の。」


 ツバキはモカラの襟首を掴みながらアデルから引き離して答える。


 ツバキの発言にモカラも激しく頷く。


「師匠?一体誰なんです?」


「ふっふっふっ⋯⋯⋯⋯。内緒です!!」


 コウタはモカラに問いかけるがモカラは襟首を掴まれたままポーズをとっていたずらっぽくはぐらかす。



「ポータル王国の冒険者ギルド、つまり冒険者ギルド本部のギルドマスターですよ。」



「ああ!なんで言っちゃうんですか!」



「別に内緒にする事でもないでしょう。」



 モカラの訴えをツバキはピシャリと両断する。


「へぇ、本部のギルドマスターですか。強いんですか?」



「もっちろん。お師匠様は世界最強ですから!!」



 モカラは先程よりもさらに大きく胸を張って答えた。



「⋯⋯⋯⋯本当ですか⋯⋯?」



「一応、この人の言っていることは本当ですよ。私も彼以上に強い人間は見たことがありません。というか、こんな彼女がここまで強くなったのは全て彼のおかげでしょう。」


 コウタの訝しげな視線を見てツバキはモカラの発言にフォローを入れる。



「私も噂には聞いたことがある。人類最強の男⋯⋯まさかその弟子だったとはな。どうりで強い訳だ。」



 アデルも珍しく賞賛の声を上げる。



「まぁ、今回の戦いじゃ、ほとんど役に立てませんでしたけど⋯⋯。」



 モカラはえへへとあまり反省した様子には見えないが頭をかきながら答える。



「仕方ないのではないか?我々だって結局四人がかりでようやく勝てた訳だし。」



「でもお師匠様なら一人でもあいつに勝てたはずです。⋯⋯やっぱり、私はまだまだ未熟です。」



 モカラは両手を握りしめて真剣な表情でそう言う。



「まぁ、それはいいとして、⋯⋯次はナストでしたよね。気を付けて下さいね?特にコウタさん。」



「⋯⋯?僕ですか?」



 コウタはツバキの発言にキョトンとした様子で答える。



「ええ、聞いた話ですが、どうやらナストでは二日前に殺人事件があったみたいです。」



「なんでも、被害者はベーツの街やこの街で起こっていた連続殺人事件の被害者と類似している点が多いことから、同一犯であると思われるそうですよ?」



「⋯⋯!!この街でもあったんですか!?殺人事件!」



 それを聞いてコウタの表情は一気に険しい顔つきに変わり、ツバキに詰め寄る。



「え、ええ、この街ではあなた方が来る少し前から最近まであって、被害者は四人、全員一般人でしたがベーツの街では二人ほど冒険者もやられているようですから、コウタさんも気を付けて下さいね⋯⋯?」



 ツバキはコウタの取り乱した様子に驚きつつも答える。


 コウタの脳裏には銀髪の少女の顔が思い浮かぶ。



(止めれるのか?⋯⋯⋯⋯勝てるか?今、彼女に⋯⋯。)



「迷ってる暇はないか⋯⋯。」



「はい?なんか言いました?」



 コウタの呟きにモカラが反応し、首を傾げる。



「いえ、それより、そろそろ出発しようと思います。」



 コウタはそう言って馬車に乗り込む。


「そうですか、では⋯⋯くれぐれも気を付けて下さいね。」


「⋯⋯分かってます。行きましょう、アデルさん。」


 コウタはそう言って笑いかける。


「ああ、今準備をする。」


 コウタの様子に違和感を覚えつつも、アデルもそう言って御者台に乗り込む。


「お師匠様によろしくお願いしますね〜。」


「ああ、分かった。行ってくる。」


 アデルは慣れた様子で手綱を握る。


「いってらしゃ〜い!!」


 モカラは少しづつ離れていく馬車に手を振る。


「行ってきまーす。」


 馬車の後ろからマリーが顔を出して手を振る。



 コウタ達の乗った馬車は街の門を抜けると次の街へと向かって東に進んでいく。



「⋯⋯⋯⋯さて、次は鍛冶と職人の国ナスト公国だ!」




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