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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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五十六話 ヤバい会議


「⋯⋯⋯⋯。」


 コウタ達がフルーレティを倒した直後、魔族領のとある場所ではその日、強力な魔族の猛者達がそこへと集まっていた。


「⋯⋯⋯⋯。」


 赤い宝石があしらわれたピアスを付けたその男はツカツカと少しばかり高い音を立てて、紫色のろうそくが灯る薄暗い一本の通路を歩いていた。


 ピアスの男が通路をさらに行くと巨大で怪しげな扉が目の前に現れる。


「⋯⋯⋯⋯来たかゼバル。」


 扉を開けると直後に正面から声がかかる。

 目を向けると、そこには金髪碧眼で褐色の肌をした魔族の青年が立っていた。


「⋯⋯面倒クセェな⋯⋯。」


 ピアスの男は周囲を見渡したあと、機嫌の悪さを隠そうともせずため息をついて開いた椅子へと座り込む。


「どうやら全員揃ったようだから、始めようか。」


 金髪の男がそう言うと、その場にいた四人人の魔族は反応する。


「オイオイ、まだ半分くらいしか来てねぇだろ。」


 ピアスの男は不機嫌な態度を隠す様子も見せず、吐き出すように金髪の男に問いかける。


「アルティとサティアタはいつも通りサボり、ルキは仕事だ。」


 金髪の男はそう言って手に持った資料をテーブルに投げ捨てる。


「ザビロスとフルーレティは?」


 ピアスの男は強く睨みつけながら続けて尋ねる。


「それが今回の本題だ。」


「⋯⋯⋯⋯?」


ピアスの男とともにその場にいた魔族の戦士達はその答えに疑問を感じる。


「⋯⋯殺されたのだ。二人とも、同じ人間にな。」


「殺っ⋯⋯マジかよ?」


 思わず言葉に詰まる。


「誰に⋯⋯でしょうか?」


 末席に座る女は戸惑いながら金髪の男に問いかける。



「あいつ⋯⋯か?」



 一層真剣な表情で金髪の男にそう尋ねる。


「いや、違う。やったのは全くのノーマークの冒険者だ。」


 そう言って金髪の男も椅子へと座る。


「名前はコウタ=キド。付与術師エンチャンターの少年でオリジナルスキルを有している。」


 その言葉にピアスの男が小さく反応する。


「他に仲間はいるの?」


 漆黒の鎧を纏った女性はそう言って金髪の男に尋ねる。


「アデル=フォルモンド、三年前に滅ぼしたキャロル王国の生き残りで、騎士の女だ。」


「ザビロスはこの二人の前に敗れた。」


「仇討ちってことね⋯⋯。」


「そうなるな。」


 机に置かれた透明なグラスの縁を指でなぞりながら金髪の男は答える。


「そしてその後、魔法使いの少女と聖人セリア=ジーナスの四名でフルーレティを倒したそうだ。」


 グラスにかけた指を真黒なテーブルに移し、人差し指を軽く打ち鳴らすと、先ほど投げ捨てた紙がばらけて他の四人の目の前で止まる。


「⋯⋯やけに詳しい情報ですね?」


 今まで黙っていた白髪のくたびれだ男は資料に目を通すと、表情を曇らせながらそう問いかける。


 そこにはマリー=ノーマンとセリア=ジーナスの個人情報と戦いの記録が書かれていた。


「ザビロスの件はアルティからの報告で、フルーレティの件はルキの報告だ。」


「⋯⋯なるほど、ね。」


 白髪の男はそう言って再び資料へと目を向ける。


「つーか、アイツの報告なんて信用出来んのかよ?」


「部下から聞いた情報らしい、間違いはそうそうないだろう。部下の方はいたって真面目だからな。」


「あっそ、⋯⋯んで?本題はなんだよ。」


 ピアスの男は頬杖をつきながら若干飽き気味に尋ねる。



「いや、これが本題だ。今回は報告だけだ。」



「はぁ?そいつを殺せとかじゃねぇのかよ。」


「既にそれはルキに任せている。」


 少しばかり怒気を混じらせた問いに金髪の男は食い気味に答える。



「仲間が二人、それも幹部が死んだのだ。報告くらいするさ。」



「チッ、あんな役立たずのゴミなんざどうでもいいんだよ。」



 ピアスの男はさらに不機嫌になり、テーブルに足を乗せる。



「まぁそう言うな。一応警戒しとけという意味も込もっているのだ。」



「警戒、か⋯⋯無駄だろ。俺の事を殺せるのはせいぜいうちのボスか、あいつくらいなもんだろ。」



 ピアスの男は呆れ果てたようにため息をつきながら答える。



「確かに、ゼバル様、というかあなた方四天王に勝てる人間など一人くらいしか知りませんね。」



 くたびれた男はヘラヘラと笑いながらピアスの男にそう言う。


「⋯⋯まぁそういうことだ。奴らの情報はその紙に書いてある通りだ。仮に遭遇した場合、油断せずに殺せ。」


「「「了解しました。」」」


「⋯⋯⋯⋯ちっ。」


 ピアスの男以外の三人は金髪の男の発言に声を揃えてそう返す。


「以上で会議は終了だ。下がってよろしい。」







 その声を聞き三人は椅子から立ち上がると、部屋を出て行く。



 最終的には部屋にはピアスの男、ゼバルと金髪の男だけが残った。





「⋯⋯おい、ルシウス。」


「なんだ。」


 資料を手に持ち、以前体制を崩さないゼバルは金髪の男に声をかける。


「もしかして、このコウタって奴もアレなのか?」


 読んでいた紙をルシウスに見せつけ、少年の情報が書かれている部分を指差し、尋ねる。


「⋯⋯⋯⋯不明だ。戦闘に関するデータ以外、今の所そいつの情報はほとんどない。」


 少し間を開けてルシウスはそう答える。


「だが、おそらくそうで間違いないだろう。」


「根拠は?」




「⋯⋯勘だ。」



「クックックッ⋯⋯そりゃあいい、だったら俺が少し遊んできてやろうか?退屈だしよぉ。」


 ピアスの男は金髪の男の話を聞いてクスクスと笑い出す。


「勝手にすればいい。そいつがオリジナルスキルを持っているなら、早かれ遅かれいつか戦うことになる。」


 金髪の男は興味無さげに立ち上がる。


「だが、行くなら早い方がいいぞ?既にルキが向かっている。行ったところで既に死体すら残っていないかもな。」


 ドアに手を掛けるとそう言ってニヤリと黒い笑みを浮かべる。


「それもそうだな。⋯⋯⋯⋯んじゃまあ、すぐ行くわ。」


 ピアスの男は金髪の男の視界から消え、その背後から声を出すと、ツカツカと怪しい雰囲気の通路を進んでいく。


「ああ、そういや、他の奴の状況はどうなってんだ?」


 ある程度進むとピアスの男ピタリと立ち止まり、思い出したかの様に金髪の男に質問を投げかける。


「部下に監視はさせてるが、今の所特に目立った変化はないそうだ。ルキの方も手回しが終わったばかりだしな。」


「そうかよ。それじゃしばらく戦争は無さそうだな。」


 つまらなそうにピアスの男は呟く。


「こちらの準備もまだ出来ていないからな。もう少し先だろう。」


「つまんねぇなぁ。⋯⋯⋯⋯まぁ裏を返せばそれだけ時間があるってことか?」


「そういうことになる。」


 金髪の男はピアスの男に続いて部屋を出る。


「んじゃまあ、行ってくるわ。今居んのがベリーだから次行くとしたら⋯⋯⋯⋯。」


「——ナストか、ニオンのどっちかだろうな。」


 考え込む様子を見て金髪の男がそう言う。


「じゃ、両方寄ってみるわ。」


 ピアスの男はヒラヒラと手を振って廊下を進んで行った。






「⋯⋯⋯⋯少しは楽しませてくれよ?次世代の勇者クン。」



 ゼバルは無邪気な笑みを浮かべ独り言を呟くと、通路の奥へと消えて行った。





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