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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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五十五話 新たな旅路


 コウタはセリア加入の話を済ませた翌日、ベリーの街のギルドへと訪れていた。


「こんにちは〜。」


 誰に言うのでもなくコウタはギルドのドアを開ける。



「こんにちは、コウタさん。」



 何気ないその言葉に男性の声の返事が返ってくる。



「こんにちは、⋯⋯えっと⋯⋯?」



 コウタは見知らぬ男性の答えに少し戸惑ういながら首をかしげる。



「ああ、失礼。初めまして、僕はギルド職員のツバキと申します。一応ギルマスの補佐⋯⋯っていうか、おもり役をやっています。」



 男性はコウタに対して仰々しく頭を下げると、小さく笑みを浮かべて照れ臭そうに挨拶をする。



「おもり⋯⋯っああ、あの時のギルマスに怒ってた人ですね。」



 コウタは初めてギルマスと会った時のことを思い出す。



「怒ってた人って⋯⋯。まあ、構いませんけど。⋯⋯それより、この度はありがとうございました。ギルマスに変わってお礼申し上げます。」



 男性は自分への評価に頬を引き攣らせながらそう言って、改めてコウタに頭を下げる。


「いえ、僕たちがしたくてしたことですし、気にしないで下さい。」


「そう言って頂けるとありがたいです。ところで今日は報酬を受け取りに来たのですか?」


「はい、パーティー単位で受け取れたら便利なんですけどね。」


 コウタは目を覚ましてすぐにマリーに手渡された報酬の引換券のような紙をツバキに見せる。


「緊急クエストの報酬は個人単位での受け取りしかできませんからね。」


 ツバキは半分申し訳なさそうにしながらそう言う。


「⋯⋯それにしてもまさか、あなた達がベーツの街でザビロスを倒したパーティーだったとは⋯⋯道理で強い訳だ。」


 男性は納得した様子でうんうんと、頷く。


「あの時もいろんな人から支えてもらってなんとか勝てたんですけどね⋯⋯。」


 コウタは頭をかきながら照れ臭そうに答える。


「⋯⋯ところでそのギルマスはどこに?」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯あちらに⋯⋯。」


 コウタの問いにツバキはしばらく黙り込んだ後、答えずらそうにそう言う。


 ツバキの指し示した方を向くと、そこには食堂のテーブルに顔を伏せ、萎びた野菜のように潰れるモカラの姿があった。


「えっと⋯⋯⋯⋯あれは?」


 コウタは若干戸惑いつつもツバキにそう尋ねる。


「いつも全く仕事ができない代わりに、この前のように真剣モードに入るとしばらく仕事の正確性も増して、有能なギルマスになるんですが⋯⋯その後、倍くらいの時間あんな感じに何も出来ないボロ雑巾モードがやってくるのです。⋯⋯ちなみにさっきまで、しっかり仕事していたんですよ?」


 ツバキはため息をついて説明しながらも小さなフォローを入れる。


「⋯⋯それってどちらかと言ったらマイナスじゃないですか?」


 コウタは容赦ないツッコミを入れる。


「それもそうなんですけど、彼女がいないと回らない仕事もありますから。」


 ツバキは辟易しながら答える。


「⋯⋯⋯⋯それに、彼女はこのギルドのシンボルなんです。あの小さな背中でみんなを守ろうと必死になるから、まわりもそれに触発されていくんです。」


「そんな必死で頑張るポンコツの彼女を支えてやるのが僕の仕事なんです。」


 ツバキは爽やかにはにかみそう言うと、そんなツバキを見てコウタは、優しい笑みを浮かべる。



「あの人を支えるのはなかなか大変そうですけどね。」


「それが仕事ですから。⋯⋯では僕はこれで。」


 そう言ってツバキはモカラの元へと歩き出す。


「ほら、ギルマス!起きて下さい。寝るなら休憩室か仮眠室で寝て下さい!」


「ん、んぁ〜あ、うごけません⋯⋯。」


 モカラはツバキに起こされるが再びふにゃりと体の力が抜け、ツバキに全体重を預ける。



「⋯⋯⋯⋯はぁ、じゃあもう、寝てて下さい。勝手に運びますので。」



 ツバキは深くため息をつきそう言うとモカラの体を抱え上げ裏へと運んでいった。


「大変だなぁ、ギルド職員も。」


 コウタはその光景を見てしみじみとそう呟く。


「さて、僕も早く戻らないとな。」


 コウタはそれを見届けると独り言を呟いて受付へと足を向ける。







 その後、コウタ達四人はコウタの部屋に集まっていた。



「そういう事でしたか⋯⋯。」



 セリアは顎に手を当てそう言う。

 アデル達はセリアに聖剣の真実、コウタのオリジナルスキルの事を話していた。



「ではやはり、あれは聖剣では無かったのですね。」


「ああ、そういう事だ。分かっていたのか?」


 問いかけにアデルが答えると、セリアに質問を返す。


「ええ、大神官様の様子を見ていればなんとなく分かりますわ。」


 セリアは苦笑いしながら答える。

 それはエスト自身が隠すのが下手なのか、セリアという女性がそういったことに対して聡い人間なのか、もしくは付き合いの長さからくる勘なのか。セリア自身にしか分からないなにかがあるのだろうとコウタは考える。


「それにしても、とてつもないスキルですね。私もすっかり騙されてしまいましたわ⋯⋯。」


 騙されたことと利用されたことを引きずっているのか少し黒い笑みを浮かべながらセリアはコウタに凄む。



「えっと⋯⋯すいませんでした。」



 コウタはダラダラと冷や汗を流しながら、視線を逸らして謝罪の言葉を述べる。


「ゴホン。それは私からも謝る。済まなかったな。⋯⋯それで、これからの事だが。」


 アデルは若干顔を引攣らせながらセリアを諌める。


「ええ、行き先はナスト公国でしたわよね?」


 セリアの表情がスッと元に戻ると、そう答える。


「ああ、あそこ自体に行く理由は無いがとりあえずは補給のために立ち寄るつもりだ。」


 アデルはその変化に戸惑いながらもそう答える。


「ついでに珍しい武器も手に入れておきたいですね。」


 コウタは横からそう言う。



「新しい武器?ロンギヌスがあれば十分なのでは?」



 セリアはポカンとした顔でコウタに問いかける。


「いえ、アレは極力使わないようにしたいんです。MPの消費が激しすぎるので⋯⋯。」


 コウタは言いづらそうに答える。


「そう言えば150も使うのでしたよね?他の武器と比べるとどのくらい差があるのですか?」


 セリアは首を傾げてそう尋ねる。


「そうですね⋯⋯。例えば、フルーレティと戦った時に使った大剣、あれが霊槍の次に消耗が大きいのですが、それでも30ですし、その次の白霞の剣でも20しか消費しません。」


 コウタは少し考えた後、二つの剣を引き合いに出してそう答える。



「つまり、文字通り桁違いの消費量なのですね?」



「はい、ですから基本的にはどうしても敵わないような強敵に対してのみに使おうと思います。」



(それに、使った後倒れちゃうんじゃ、リスクの方が大きいしな⋯⋯。)



 そんな事を考えながらセリアの問いに対して肯定の返事を返す。



「そうでございますか。⋯⋯それで、出発はいつになさいますか?」


 セリアはコウタに返事をするとアデルにそう尋ねる。


「ああ、明日の正午に集合し、出発だ。みんな遅れるなよ?」


「「「はーい。」」」


 アデルの声に三人は反応する。



「ではそれまで自由行動だ。夜更かしし過ぎるなよ?」



「分かってますよ!」


 マリーは元気よく答える。



「そうか、では解散!」



 アデルの声に合わせて女性陣は部屋を出る。



 三人の背中を見送ると、コウタはボフンと勢いよくベットへと倒れ込む。



「⋯⋯⋯⋯そう言えばなんで今回も僕の部屋だったんだろ?」


 ナチュラル過ぎて忘れていた疑問をコウタは一人呟いた。

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