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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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五十四話 神


「どうなってるんですか?これ。」


 コウタは冷静に振舞いながら周囲の異常な光景を見渡し、そう尋ねる。


「少しだけ私の力で、時間を止めてしまいました。」


「とんでもない力を使うんですね。」


 額から冷たい汗が頬へと流れるのを感じながら、得体の知れない、底の読めないその力に驚愕を覚える。



「こんなものは一部に過ぎませんし、何より、あまり長くは使えません。」



 女性はコウタと同じように周囲を見渡すと立ち尽くすコウタの方に向き直る。



「⋯⋯どうやら順調なようですね?」



「ええ、おかげさまで。」



 女性は品定めするような視線をぶつけると、コウタは引き攣った笑みでそう返す。



「それにしても、随分と面白いスキルが発現したものですね。」



「発現させたのは貴女でしょう?」


 コウタは呆れた態度でため息混じりに答える。



「確かにそうですが、どんなスキルが発現するかはランダムですからね。⋯⋯まさか運にまで恵まれているとは。」



「そうゆうふうに創ったのは貴女でしょう?」



 コウタはため息をついて答える。



「そうでしたね。」



 女性はあいも変わらず笑みを崩さない。



「⋯⋯⋯⋯いくつか聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」



 コウタは少し間を開けてから真剣な表情に切り替えてそう尋ねる。



「まぁ、ある程度ならよろしいでしょう。」



 女性も少し考え込む様子を見せた後、コウタの顔を見てそう答える。



「じゃあ、一つ目ですけど、貴女は昔この世界に降りてきた事はありますか?」



「ええ、ありますよ。一度だけね。」



 女性は驚くほど軽い調子で即答する。が、それはコウタ自身も予想通りだったため、対して驚きもせず耳を傾ける。



「その時に、この世界の情勢を大きく変えてしまいましてね⋯⋯。それ以来降りてこないようにしてます。」



 女性は視線を遠くに飛ばしてひどく退屈そうに言葉を紡ぎ続ける。



「ちなみに、貴方が先日使ったアレも、元は私の所有物ですよ?」



「アレって、ロンギヌスですか?」



 コウタは少し顔をしかめて追求する。



「ああ、はい。そんな感じの名前の槍です。」



 女性はひどく適当にそれを思い出す。



「そんな感じって⋯⋯まぁいいです。⋯⋯では二つ目、聖人とはどのような存在なんですか?どんな意味を持って生まれて、どんな使命を背負っているんですか?」



 コウタは少し表情を真面目なものに変えて尋ねる。



「特になにかある訳ではありませんよ。⋯⋯強いて言えばあちらの世界でいう貴方のような存在⋯⋯とでも申しましょうか?」



「僕のような⋯⋯ですか?」



 コウタはその言葉の真意がつかめなかった。



「ええ、簡単に言えば貴方のように生まれる前の魂に私が手を加えたものです。」



「セリア=ジーナスも貴方があちらの世界に生まれる少し前に創り出したものですよ。」


 女性は全てを見透かしたように答える。


「セリアさんも⋯⋯ですか。」


「まぁ、貴方ほど飛び抜けた力は与えてませんよ。基本的に使うスキルが特殊なだけですね。」


 女性は身振り手振りを交えながらそう言って小さな笑いを浮かべる。


「確かに⋯⋯。」


 コウタはセリアのスキルを思い出す。


「貴方ほどの力などそうそう与えませんよ。それに、あちらの世界で最高の能力でも、こちらの世界ではスキルにも劣る。この世界はそんなものですよ。」


「確かに、居心地が悪いと感じた事はありませんね。」


 コウタはその事実にたった今気付き、ばつが悪そうに苦笑いする。


「それは良かった。」


 女性もそれに合わせてニッコリと笑う。


「では三つ目、の質問いいですか?」


「どうぞ。」





「——この世界に、僕以外の転生者はいますか?」




 それは転生というシステムの核心に迫る質問。本来なら一番最初に聞いておくべき質問であった。



 その質問に女性の表情は少しだけ曇る。


 それを見てコウタは今までの意趣返しのように笑いかける。


「⋯⋯⋯⋯その質問の答えは、貴方自身が自分で見つけるものでしょう。」


 女性は再びつまらなそうに答える。


「それは、いる、という事でよろしいですか?」


「⋯⋯さぁ?」


 コウタの追求に、女性はそう言ってはぐらかす。


「まぁ、取り敢えず、私は貴方の様子を知りたかっただけですから、これ以上は何もお答え出来ません。」


 女性はそう言って立ち上がると、後ろに鎮座する自らを模した銅像に軽く手を触れる。



「何はともあれ、貴方が無事転生できて良かった。」



「⋯⋯?どういう意味です?」



「なに、転生の時、たまに記憶を失ってしまう方がいるので、心配になっただけですよ。」



 女性は顔をコウタに向けて黒い笑みを浮かべる。



「また、そんな大切なことを今更⋯⋯。」



 コウタはその笑みに対して恐怖するのではなく呆れた様子を見せる。


「記憶も無事なようですし、これからも精進して下さい。」



「⋯⋯最後に一ついいですか?」



 女性が立ち去ろうとすると、コウタは女性に声をかけて止める。


「はい?」


 女性はピタリと立ち止まり、不思議そうな顔をする。


「あえて触れませんでしたけど⋯⋯⋯⋯、なんで浴衣なんですか?」


 コウタは女性の服装に指摘を入れる。


「⋯⋯⋯⋯。」


「⋯⋯⋯⋯。」


「似合ってますでしょう?」


 しばらくの沈黙の後、女性はひらりと体を反転させ、その身に纏った浴衣を見せつける。


「なんかアンバランスです。」


 金髪に浴衣、賛否が分かれそうなそのスタイルは残念ながらコウタお眼鏡には叶わなかったようだ。



「⋯⋯あら、それは残念。おしゃれのつもりだったんですけど。」



 女性は言葉とは裏腹に対して気にした様子もなく答える。


「今、着なくてもいいでしょう。」



「あら、知らないのですか?貴方の国の女性は浴衣は見せてなんぼと言ってますわよ?」



「人によるでしょう。」


 コウタは頭を抱えて答える。


「まぁ、たまにはあちらの世界のことも思い出してもらおうと思っただけですから、あまり気にしなくていいですよ。」


 女性はそう言ってその場でクルリと一回転すると、すぐさまその服装は初めて会った時のそれに切り替わる。


「親切なのか、嫌がらせなのか分からない気遣い、ありがとうございます。」



 コウタはため息をついた後軽口を叩きそう言う。



「では、そう言うことで、⋯⋯⋯⋯次に会うときまでにもう少し強くなっていて下さいね。」



 女性はそう言って歩き出すとコウタの耳元でそう呟いて部屋の外へと出る。


 コウタは女性が出て行ったドアの方を振り向くと、止まっていた音が動き出すのを感じる。



「⋯⋯⋯⋯言われなくとも、そうしますよ。」



 コウタはそう言うと、同じように外へと歩みを進めた。






 コウタが教会を出ると、外にはアデルとマリー、そしてセリアの三人が話し込んでいるのが見えた。



「⋯⋯あれ?アデルさん?」



 コウタがアデルの名前を呼ぶと、三人は同時に反応する。



「ああ、コウタか、話は終わったのか?」



「ええ、終わりました。それで⋯⋯セリアさんの事でお話が⋯⋯。」



 コウタはアデルにそう尋ねられ、早速大神官との会話の内容を説明しようと切り出す。


 名前を出されたセリアは一瞬首を傾げる。



「セリア?⋯⋯ああ、その前に貴様に一つ報告がある。」



 アデルはセリアという言葉を聞いて思い出したかのようにコウタの言葉を遮る。


「なんですか?」


 コウタはその様子を不思議がりながら尋ねる。



「実はなコウタ、今日からここにいるセリアが仲間になる。」



「⋯⋯⋯⋯はぁ!?」



 まさか先に手を打っているとは思わなかったコウタは驚きの声を上げる。


「セリアも旅に出ると聞いてな、ちょうどうちには回復役がいないから、スカウトした。」



「不束者でございますが、どうかよろしくお願いしますわ。」



 セリアはコウタに向かって深々と頭を下げる。




「あ、はい。こちらこそ⋯⋯じゃなくて!!なんで僕のいない間に話が進みまくってるんですか!!」




 コウタはトントン拍子で進む話の流れを断ち切って思わずそう叫ぶ。



「まぁまぁ、いいじゃないですか。セリアさんの回復魔法は絶対必須ですって!」



 マリーがフォローを入れるためにそう言ってコウタをなだめる。どうやら既にマリーはセリアのことを受け入れるつもりらしい。



「じゃなくて相談とか⋯⋯。」



「いや、だって貴様、こういう時は大体、リーダーであるアデルさんが決めて下さい、とか言って私に丸投げじゃないか。」


「うっ⋯⋯!」


 コウタは痛いところを突かれて、思わず黙り込む。



「私がいいと思ったから入れた。マリーもいいと言った。貴様はいやか?」



 アデルは淡々とコウタに尋ねる。



「嫌では無いですけど⋯⋯。」


「なら決定だ!大神官殿に報告に行くぞ。」



 アデルはそう言ってコウタの手を引く。



「はぁ⋯⋯。なんだろ、釈然としない。」


 コウタはため息をつきながらアデルについて行く。



「⋯⋯そう言えば貴様の要件はなんだったのだ?」



 アデルはふと立ち止まってコウタに問いかける。



「ああ、大丈夫です。たった今終わったので。」



「そうか、じゃあ行くぞ。」



 コウタの返事を聞くと、アデルは短くそう言って何事もなく再び歩き始める。



「さっき、断ったばっかりなのにまた会うのか⋯⋯。」



(気まずい⋯⋯っていうか、さっきのシリアス返して欲しい。)



 コウタは苦笑いを浮かべながら既に軽く打ち解け始めている三人の後を追うのだった。


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