表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第一章
5/285

五話 邂逅


 



 それからしばらくの間、草原の道を道なりに進んでいると視界の奥に人影らしきものが見えてくる。



「⋯⋯お、第一異世界人。」



 コウタはそんな謎の単語を一人呟きながらマイペースに進んでいく。



「⋯⋯ん?」


 それからさらに近付いて行くと、先程まで朧げに見えていた影がくっきりと鮮明になり、そこで初めて人影が複数あるのに気づく。


 そしてその光景をしばらく眺めていると、その影達の大体の状況を把握し、なんとも言えない表情を浮かべる。



「あ〜⋯⋯。」



 そこには生前のコウタと同じくらいの歳の鎧を纏った赤髪の少女と三人の見るからに悪そうなTHE盗賊といった風貌の男たちがいた。


 そして案の定、一人の少女はボロボロの鎧を纏い折れた剣を構えて三人組と向かい合っていた。



「あの⋯⋯すいませんどうかしたんですか?」



 なんとなく予想がつきながらも通り過ぎるのも気が引けた為、仕方なく少女の後ろから声を掛ける。



「ん?何者だ貴様。」



 少女は年相応の声の高さに似合わぬ凛々しい口調でコウタに問いを返す。



「僕は、えぇと、⋯⋯旅のものです。」



 かけられた質問に一瞬動きが止まり答えに詰まるが、気にせず誤魔化しながらそう答える。



「そうか、ならばさっさとここから立ち去れ。」



「そうだぜぇ、お前には関係ないだろクソガキ。」



 少女がハッキリとした口調でそう言い放つと、盗賊Cくらいの男が彼女の言葉に続くように言葉を紡ぐ。



「ですがどう見ても今から身ぐるみ剥がされる感じじゃないですか。」



 盗賊の言葉を無視して冗談を言うように薄く苦笑いを浮かべながらそう尋ねる。


「だからこそ関係のない貴様は立ち去れといっているのだ。それに、ここで私がこいつらを倒せば解決する話だ。」


 少女は自信満々に笑みを浮かべて即答するがコウタはそれを見て更に質問をかぶせる。



「できるんですか?そのボロボロの体と折れた剣で。⋯⋯手伝いますよ。」



 そう言ってコウタは少女を制止し、一歩前に出る。



「ちょ、待て!」



 少女は慌ててコウタを制止させ、下がるように促すが、コウタはそんな言葉を聞くこともなくくるりと振り返って笑みを浮かべる。



「大丈夫ですよ。多分なんとかなりますから。」



 そして笑みを崩さず余裕の態度のまま少女にそう返す。



「だが、貴様も何も持っていないだろ!!」




「⋯⋯⋯⋯。」



「⋯⋯⋯⋯。」


 慌てた様子で少女がそう言い放った瞬間、その場の時間が一瞬だけ停止する。



(そういえばっ!!何もっ!!持ってないじゃん!!)


 一瞬遅れてコウタは心の中でそう叫ぶ。


 正直ここに来てスキルだのステータスだのにばかり目を向けていたせいですっかり気付いていなかった。






 自分が何も所持していないことに。





(嘘だろ、よく見たら服も制服のままだし、学生証くらいしか持って来てないじゃん!!)


 コウタは今更になって冷静に状況判断をする。


 剣と魔法の世界に飛ばされたにもかかわらず、現在の装備は何故か小さくなった身体にピッタリと合わせられた学生服、所持品は全く使い道の無い学生証におそらくこちらも使い道のなさそうなハンカチのみ。



 どう考えても戦闘を行えるような状況ではなかった。



(いや、おちつけキドコウタ、とりあえず敵の情報を集めよう。)


 それでもなお動揺を鎮めるため、自らに暗示をかけると彼が持つ数少ないスキルの中の一つである〝観測〟のスキルを発動する。


 彼の目が一瞬だけ小さく輝くと、次の瞬間、発動とほぼ同時に三つのステータスウィンドウが目の前に現れる。



 ペソlv9


 ドルlv12


 ゲンlv21


(軒並み高い!!)



 浮かび上がったそのステータスと彼らの強さを表すレベルを見て、僅かに頬を引攣らせる。



「おいおい、クソガキ。痛い目あいたくなかったらさっさとお家に帰り⋯なっ!!」



 と言いながら盗賊Cもといドルがナイフを取り出し襲いかかる。



(帰す気ない⋯⋯でしょ!!)



 コウタは内心でツッコミを入れながらも冷静に突き立てられたナイフを回避し、盗賊のみぞおち辺りに全力で拳を叩き込む。



「ぐえっ!?」



 突きを食らった盗賊は苦しみながらゆっくりと膝を折り。その場にうずくまる。


(あれ?)


 意外なほどあっさり倒せた事で拍子抜けする。正直攻撃をしたコウタ自身、このレベル差で一撃で決まるとは思っていなかった。


 だがその疑問は、もう一度相手のステータスを見る事ですぐに解決した。



(スピードや耐久力の数値が低い⋯⋯いや、僕が高いのか?)



 レベルにこそ差があってもステータス自体は大した差がなかったのだ。それどころか、スピードに関してはこちらの方が上だった。



(だから反応できたのか⋯⋯。)



「この野郎!!」



 仲間の一人がうずくまっているのを見て盗賊Bもといペソがナイフを振り回しながら襲いかかる。


 すると今度は左手でナイフを払い、飛び上がりながら、ガラ空きの顔面に蹴りを放つ。


 体重の乗った蹴りが顎を撃ち抜くと、盗賊Bは力なく地面に沈む。



(よし!!)



 確かにステータスの差が思っていたよりも大きくなかったことも影響しているが、コウタ自身、前世での格闘技の経験がここまで活きてくるとは思ってなかった。


 現状のコウタのステータスは、レベル1であっても、レベル10付近の相手ならばパッシブスキルと戦闘技能の差で充分穴埋め出来る程度には優れていた。



(いける!!これならなんとかなる!!)



 自身の思いのほか優れたステータスと、自身よりも高レベルの敵を相手に充分通用している事実を理解すると、コウタは小さく頬を釣り上げて笑みを浮かべる。



「やるじゃねぇか⋯⋯。」



 その光景を一部始終見ていたボスの男は、背中に背負った斧を取り出して、一歩、また一歩とコウタに歩み寄ってくる。



「だが調子に乗りすぎたなガキ。」



 そう言うと盗賊のボスはその場で斧を構えこちらに向かってその斧を振りかぶる。



「死ねぇ!!」



「⋯⋯っ、遅いです!!」



 真っ直ぐに振り下ろされる斧を紙一重で回避すると、コウタはそのまま距離を詰めて男の腹部に全力の蹴りを放つ。



「きかねぇなぁ⋯⋯。」



 が、盗賊の男は手下を沈めたそんな攻撃など、全く意に介せず再び斧を横薙ぎに振るう。



「んなっ⋯⋯!?」



 咄嗟に這いつくばるように避けると、すぐさま四足歩行の状態から飛び上がるように距離をとる。



「てめぇの攻撃力じゃあ俺様には傷一つつけられねえよ。」



 突然の出来事で動揺した表情を浮かべるコウタを見て、盗賊の男はニタニタと下衆な表情を浮かべてあざ笑う。



「はっ⋯⋯だったらこれでどうですか⋯⋯。」



 そう言って鼻を鳴らすと、敵である男から視線を外し、少女の方を振り返って大きく目を見開く。



(観測!!)



 再びコウタの目が小さく輝くと、少女の左手に握られた、折れた剣の情報が、折れる前の原型の姿と思われるものと同時に現れる。


「何を⋯⋯。」


 一瞬戸惑った敵の方に向き直ると、何事もなかったかのように左手を真正面に真っ直ぐ構える。



「召喚!!」



 その言葉と同時に左手の掌に何も無い空間から一本の剣が生み出される。



「なっ⋯⋯それは!」


 赤髪の少女はそれを見て驚きの声を上げる。


 コウタはそんな声に聞く耳など持たず、呼び出した剣を鞘から抜き出すと、剣の情報が再び視界の端に映し出される。



〝聖騎士の細剣〟キャロル王国の聖騎士が用いる軍用の細剣。



(本物の剣だ⋯⋯。)



 コウタは剣をそのまま中段に構えると、小さく息を呑みながら目の前の敵を見据える。



「さあ、来い。」



 その挑発に盗賊の男は面白いほどに引っかかると、男はこめかみに青筋を立てて襲いかかってくる。



「死ねぇ!!」



 男は一気に距離を詰めると、斧を大きく縦に振り降ろす。



「遅い⋯⋯。」



「なっ⋯⋯⋯⋯!?」



 コウタはそれを半歩で回避すると、動揺で動きが鈍くなった盗賊の腹部に狙いを定める。



「⋯⋯加速!」



 その言葉の直後、高速で押し出された身体と剣は、コウタの狙い通りに男の腹部に直撃する。



「終わりです。」



「⋯⋯くっ、そが。」



 その呟きの後、盗賊の男はバタンと大きな音を立てながらその場に崩れ落ちる。



「っ!!はぁぁぁ〜。」



 盗賊が倒れたのを確認するとコウタは今更死の恐怖が湧き上がってきたのか、その場にペタンとへたり込む。


 そしてそれと同時に、召喚した剣は虹色の光のカケラのように砕け散りながら霧散する。



「大丈夫か?」



 少し遅れて、後ろにいた少女がコウタに声をかける。



「あ、ええ。なんとか。」



 ぼーっとしていたコウタは気の抜けた返事をその少女に返すと、それを見て少女は呆れたように小さなため息をつく。



「⋯⋯色々問いたいこともあるが、助けられたのは事実だ。正直君がいなかったらやられていたかもしれん。ありがとう。⋯⋯立てるか?」



 赤髪の少女はコウタに近づいていき手を差し伸べる。



「えっと、大丈夫でしたか?」



 コウタは差し出された手を取りながら苦々しい表情で、少女の安否を問う。


「ああ、おかげ様でな。」


 対する少女は小さな笑みを浮かべたまま、優しい口調でそう答える。



「私の名はアデル・フォルモンド、騎士見習いだ。」



「僕はキド・コウタ⋯⋯です。」


 特に後から付け加えるような肩書きのないコウタはとりあえずノリで適当に答える。



「そうか、ならばコウタ、ついてこい。」



「はい?」



「旅の途中なんだろう?助けてもらった礼も兼ねて近くの村まで案内しよう。」



 突然の言葉にコウタが首をかしげると、アデルはニッコリと先ほどと比べて穏かな笑みを浮かべてそう続ける。


 異世界生活初日、運は彼に味方してくれているようだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ