四十九話 巨兵
「赤髪の女騎士に、武器を使役するオリジナルスキル。それに裁断の剛剣⋯⋯。クックックッ⋯⋯。」
フルーレティは二人を見て俯きながらクスクスと篭った笑みを浮かべる。
「そうですか⋯⋯君達があのザビロスを⋯⋯!!」
顔をガバリと上げ、隠すことのない狂った笑みにコウタとアデルは殺気のような狂気感じる。
「これはいい。⋯⋯⋯⋯今回の目的は聖人だけだったが⋯⋯ついでに潰していこうか!!」
そう言うと今度は明確な殺意を放ちながら、土の塊を飛ばしてくる。
「甘い。」
コウタは展開した大剣を交差させるように動かし、土の塊を切り刻むと、敵に向かってそれらを高速で射出する。
フルーレティは再び地面から土を引っ張り出し、即席の盾を使って大剣をはじき返す。
「なっ⋯⋯!?」
「甘いのはお互い様だな。」
フルーレティは盾の隙間から顔を出しニヤリと笑ってみせる。
「——そうだな⋯⋯。」
アデルはフルーレティの虚を突いて盾のない角度から斬撃を放つ。
「⋯⋯遅い。」
斬撃が当たる前に再び土が二人の間にせり上がると、アデルの剣はことごとく弾かれる。
(速い⋯⋯!?それに⋯⋯)
アデルは追撃を警戒し、距離を取る。
「硬いな⋯⋯。」
アデルの言葉にコウタも反応する。
(確かに⋯⋯。僕に攻撃してきた時とは比べ物にならないほど速いし硬い。ギルマスとの戦いを見ていても、耐久度や精密さにムラがあり過ぎる。)
「何かタネが⋯⋯?」
コウタは敵を観察しながら思考を回す。
「⋯⋯流石、ザビロスを倒しただけはありますね。咄嗟の連携も個々の力もなかなかのものだ。」
「⋯⋯ですが、あんな青二才を倒したくらいでつけ上られても困ります!!」
そう言うと、フルーレティの周囲からは大量の土が盛り上がり、彼を飲み込み、徐々にその姿を膨れあがらせる。
「なっ⋯⋯!?」
取り込まれていく土はこれまでの比ではなく、間も無くして、コウタやアデルの立っている地面も取り込まれていく。
「ちっ⋯⋯。」
コウタはすぐさま土の流れに逆らうように後ろに大きく飛び上がる。
「⋯⋯これはっ!?」
無作為に集まる土の塊は徐々にその形を明確に作り込まれていき、手、足、頭、と本来あるべき姿へと姿を変える。
「⋯⋯⋯⋯完成だ⋯⋯。」
巨大な土の像が出来上がると、その胸の中心あたりにフルーレティの体が浮かび上がる。
「土造巨兵、これが私の全力だ。」
「⋯⋯でっ、か⋯⋯。」
コウタはその大きさに思わず絶句する。
「来ないのならこちらから行くぞ。」
土の像は大きく振りかぶりコウタに拳を突き出してくる。
「んなっ!?加速!!」
コウタはその大き過ぎる攻撃範囲に戸惑いながらも〝加速〟のスキルを使ってなんとか攻撃を回避する。
「⋯⋯外したか⋯⋯。」
「どうやらやはり、その大きさではスピードは出ないようですね⋯⋯。」
コウタは振り下ろした拳から腕の部分に乗り移り、そのまま本体のある胸部へと駆け上がる。
「ちっ、小癪な!!」
「斬空剣!」
「終わりです!」
アデルは地上から風の刃を、コウタは腕の部分から飛び上がり、直接斬撃を放つ。
「ロックブラスト!!」
フルーレティがそう呟くと本体の周囲から小さな土の塊はが飛び出し、二人の攻撃を防ぐ。
(またっ⋯⋯、硬い!)
コウタは土塊に押し出されるような形で宙に投げ出される。
「死ね!!」
体制を整えることもままならない状態で今度は大きく開かれた手を押し付けられそのまま地面に向かって突き進む。
「ぐぅ⋯⋯。」
(このままじゃ、潰される!?)
コウタはその手を剣で受け止めるが、当然威力は落ちることなくみるみる地面が近づいてくる。
「——貫け!!」
その言葉とともに、巨像の土同士の繋ぎ目のあたりに火属性魔法が打ち込まれ、巨像の腕は人間でいう肘のあたりから空中分解する。
「⋯⋯よし!!」
打ち込んだ本人は自らが予想した通りの結果を見て小さく拳を握りこむ。
「マリーさん!」
(⋯⋯?急に土が柔らかくなった?)
コウタは魔法を撃った少女の名を呼ぶと、突如軽くなった攻撃に違和感を覚えつつも、土の塊を大剣の群で粉々に砕き、空中に投げ出される。
「⋯⋯やばっ、着地考えてなかった!?」
コウタの体は重力に従い真っ直ぐに落ちていく。
「大丈夫だ。」
「アデルさん!」
地面に当たる寸前にアデルがコウタの体を抱きとめる。
「⋯⋯怪我はないか?コウタ。」
アデルはお姫様抱っこの状態でコウタに尋ねる。
(だから逆なんじゃないかなぁ⋯⋯。)
「⋯⋯ええ、大丈夫です。アデルさん、マリーさん、ありがとうございます。」
「問題ない。」
「まっかせてください!!」
マリーは得意げに答える。
「それにしても全く、あの硬さはどういう理屈なんだ⋯⋯。こっちの攻撃が全く通らないぞ。」
アデルはうんざりとした様子で声を出す。
「それなんですけど、仕組みは大体分かりました。」
「本当か!?なんなんだ?」
アデルはコウタに詰め寄る。
「はい。耐久度にムラがあるのはおそらく、距離が問題なんでしょう。」
「距離⋯⋯か?」
「ええ、恐らくあのスキルは使用者本人から操る対象である土が離れれば離れるほど操作の精密さと土自体の硬さが変化するのでしょう。」
「なるほど、だから攻撃するときの土はあまり硬くはないのだな。」
アデルは納得の声を上げる。
「ですが、操る土が体、もしくはあの巨人の体に接しているときは恐らく、硬度は最高クラスのままです。だからマリーさんに腕を分断された後、土の耐久度が大幅に下がったんでしょう。」
コウタは先ほどの違和感と、隣り合わせて仮説を立てる。
「⋯⋯つまり、あの巨人は全身がカチカチって事ですか?」
「そうです。でも、所々結合の弱いところもありますから基本的に崩すのはそこからがいいでしょう。」
コウタはアデルの体から降りてそう続ける。
「なるほどな⋯⋯、だがそれではすぐに回復されてしまうな。⋯⋯だったらやはり直接本体を攻撃するぞ。⋯⋯マリー!距離を取りつつ、援護を頼む。コウタ!行くぞ!」
「「はい!」」
アデルは的確に指示を出す。
アデルとコウタは真っ直ぐに突き進み、マリーは構えを崩さずにゆっくりと後ろに下がる。
「舐めるな。」
フルーレティは再び拳を突き出す。
「行くぞ!」
「ハイ!⋯⋯付与!」
コウタは自らとアデルに〝付与・力〟の力を用いる。
二人はその拳に乗り移ると、真っ直ぐに駆け上がり、先ほどと、同様に胸部へと飛び出す。
それに合わせてマリーは再び火属性魔法を打ち込んで周囲に散らばる土塊を吹き飛ばす。
「なんだと⋯⋯!?」
(これで邪魔はなくなった!)
「「喰らえぇぇ!!」」
二人は剣を構えて真っ直ぐに胸部の中心へ飛び上がる。
「舐めるなガキ。」
フルーレティは二本の土の槍を再び、取り出し、二人の剣を受ける。
「ちっ⋯⋯。」
「くっそ!」
止められたことによって再び二人は下へと落ちる。
「斬空剣!」
落ちる瞬間にアデルはフルーレティに風の刃を放ち、それが胴体に小さな傷をつける。
「ガキがっ⋯⋯!」
傷をつけられ焦ったフルーレティは横薙ぎに拳を放つ。
「加速」
コウタはアデルを軽く抱き締め、スキルを用いて二人の落下のスピードを上げる。
「爆裂斬!」
そして落下の瞬間にアデルのスキルの爆発で落下の衝撃を殺し着地する。
「やっぱり一筋縄では行きませんね⋯⋯。」
「⋯⋯次であれを使う。貴様も合わせてくれ。」
「トランスバーストですか?⋯⋯構いませんけど、しっかり決め切ってくださいね?」
二人は狙い撃たれないようにフルーレティの周りをちょこちょこと逃げ続ける。
「ああ、分かってる。」
じゃあもう一回行きましょうか。」
二人はそう言って二手に分かれる。
「⋯⋯ふむ。やはり邪魔くさいな、⋯⋯少し死んでもらおうか。」
そんな二人の会話に聞く耳も持たないフルーレティは自分には攻撃は来ないと腹をくくっていたマリーに目を向け、そう言うと大きく振りかぶり、地面に腕を叩きつける。
直後、その場にある全ての土が大きく波打ち、その場にいた全ての者を巻き込みながら襲いかかる。
「しまっ⋯⋯、マリーさんっ!!」
「んなっ⋯⋯!?」
コウタは慌ててマリーを助けに向かうがどう考えても間に合わない。
(ダメだ!!波のスピードが速すぎる!!)
「くっそ!とまれぇぇぇぇ!!」
コウタは全力でスピードを上げ叫ぶ。
「——聖域」
突如聞こえた透き通った高い声の後、土の波は光の壁によってその進路を強制的にせき止められる。
「⋯⋯これは?」
マリーは呆気にとられながら光の壁に目を向ける。
光の壁が消えると土の波はパラパラと崩れ落ちる。
「——遅れて申し訳ございません。」
「⋯⋯セリアさん!!」
マリーが声のする方へと顔を向けると、そこにはよく見知った金髪の女性が立っていた。
「教会の援軍、ただいま到着しましたわ。」
セリアはゆっくりと歩き出すと、フルーレティの前に立ちはだかる。
「⋯⋯来たか⋯⋯本命。」
フルーレティはニヤリと黒い笑みを浮かべる。