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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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四十七話 象徴


 コウタ達は広場の方を見るとそこにはすでに千人近くの冒険者達が集まっていた。


「すごい人だかりですね。」


 門から街の外に出るとコウタはキョロキョロと周りを見渡す。


「あの時と同じだな⋯⋯。」


 アデルはあの時とは違い幾分落ち着いた様子で答える。


「魔王軍が、なんでこんなところに⋯⋯。」


 マリーは不安そうな声で呟く。


 広場に集合した冒険者達は突然の召集にざわめき立っていた。


「——みなさん、静粛に!!」


 だかその喧騒は一人の女性の声によって静まり返った。その声は広場の中心にある台座の上から聞こえてくる。


「モカラさん?」


 コウタはその女性を見て疑問の声を上げる。


 その女性は彼らが先日見たその弱々しく頼りない様子とは違い、ギルドマスターの名に恥じない、一端の戦士の風格を醸し出していた。


「モカラさん、なんかかっこいいです⋯⋯。」


 マリーはそれを見て感嘆にも近い声を上げる。


 少女の言う通り、紅の鎧を纏い、腰には一本の洗練された刀をかけ、凛とした表情を浮かべる女性はまさに美しいの一言であった。


「——先ほど放送で言いました通り、現在街の東部から、魔王軍らしき魔族の軍勢を補足しました。」


 モカラは一拍置いて再び口を開く。


「数は二百前後とあまり多くありませんが、敵軍のほぼ全てが魔族で、それらを率いているのは魔王軍幹部との情報があり、苦しい戦いになることが予想されます。」


 その言葉に冒険者達は再びざわめき出す。


「魔王軍っ⋯⋯。」


「幹部⋯⋯!」


 アデルとコウタも驚愕の声を上げる。


「案外早かったですね⋯⋯。」


「ああ、そのようだな⋯⋯。」


 まさかこの地で再び魔王軍と戦うとは思っても見なかったコウタは口元を少し歪め、アデルは目つきを鋭くさせてそう言う。


「あいにく、敵軍はあと、一時間もしないうちにこの街へとたどり着きます。そのため、作戦を立てる余裕もないです。」


 モカラは冷静な態度で冒険者達にそう言い聞かせる。


「マジかよ⋯⋯。」

「てか、勝てんのかよ⋯⋯。」

「俺、まだ死にたくねぇ⋯⋯。」


 冒険者達は情けない声を上げて弱音を吐く。


「ですから、我々はその前に奴らを迎え撃ち、殲滅します。」


 モカラは迷いなく話を進める。


「なお⋯⋯幹部の相手は私が務めます。」


 その言葉に冒険者達はさらに動揺が広がる。


「無茶だ⋯⋯!そんなの⋯⋯。」


「はい、無茶です。ですから、みなさん!私に力を貸して下さい!私と共に、この街を守って下さい!」


 モカラは深々と頭を下げ冒険者達に懇願する。


 その言葉にその場が再び静まり返える。




「⋯⋯ギルマスばっかりに戦わせる訳には行かねえよな⋯⋯。」


 一人の冒険者がそう呟く。


「そうだよな⋯⋯。あのギルマスがここまでやる気なんだ⋯⋯。」


「俺たちが守ってやらなくちゃな⋯⋯。」


 冒険者達の声は連鎖していく。


「やるぞ!お前ら!俺たちでギルマスとこの街を守るんだ!!」


「「「おおおおぉぉぉ!!」」」


 冒険者達の雄叫びを上げる。


「守るって⋯⋯それでいいのかギルマス⋯⋯。」


 アデルはそれを見て苦笑いする。


「私、ちょっとこのノリついていけないです⋯⋯。」


 マリーも同じように引き攣った笑顔で続く。というか引いている。


「冒険者ってこんなのばっかりなんですかね⋯⋯。」


 コウタもどこかでみたようなノリに辟易しながら頭を抑えて深くため息をつく。


(まあ、あれも一つのリーダーとしての形なのかな⋯⋯。)


「⋯⋯それで?どうしますかリーダー。幹部が相手なら僕たちも助太刀しますか?」


 コウタはそう言ってアデルに指示を仰ぐ。


「いや、この人数の冒険者だ。たとえギルマスが勝てなくとも、数で押し切れるだろう。それに、貴様のアレは周りにバレると何かと面倒だ。助けに入るのは状況を見てだな。」


 アデルは周囲を確認し、コウタのオリジナルスキルの件も考慮し、そう判断する。


「随分と冷静ですね。アデルさん。」


 コウタはパーティーのリーダーとして冷静に判断を下すアデルにそう言って微笑みかける。


「まぁ、そう何度も貴様に迷惑はかけられないからな。」


 アデルはそっぽを向いて小さな声でそう返す。



「⋯⋯では、行きましょう!!」



 モカラは話が済むと、そう言って出発を促す。


「「「「おお!!」」」」


「⋯⋯⋯⋯やっぱりこのノリ、キツイなぁ⋯⋯。」


 コウタは苦笑いを浮かべて小さく呟く。







「⋯⋯見えてきましたね。」


 冒険者達の集団が草原を進むと、その先には魔王軍の兵らしき軍勢が見えてくる。


「総員、止まれっ!!」


 モカラが指示を出すと、その指示に従い、冒険者達はその足並みをピタリと止める。


「構えよ!!」


 モカラは剣を抜き構えると、他の冒険者もそれに倣い武器を抜く。


 冒険者が魔王軍を迎え撃つ体制をとると、それに気づいた魔王軍もその足並みを止め、

その先頭にいた男がこちらへ歩み寄ってくる。


 それを見て、モカラも一度剣を収め、同じように前へと歩みを進める。


「⋯⋯初めまして、魔王軍、今日はこんなところへ何のご用ですか?」


 モカラがそう尋ねると、魔王軍の男も口を開く。


「初めまして、冒険者、今日は色々やることがありましてね。⋯⋯とりあえずの目的は、⋯⋯そうですね。そちらの街にいる、聖人殿の殺害、でしょうか。」


 魔王軍の男は腕を組み、右手で顎を抑えながら、ニヤリと妖しい笑みを浮かべてそう言う。


「⋯⋯っ!?⋯⋯それは、何故?」


 その言葉にモカラは一瞬面食らいながらも、そう反応する。


「何故?⋯⋯簡単なことですよ。」


「聖人のネームバリューとブランド力がいずれ我々にとって、障害になりうるからですよ。」


「障害⋯⋯?」

 モカラはその言葉の真意がつかめず、疑問の声を上げる。


「ええ、我々が世界を手にした後、聖人が人間共を引き連れ、魔族に牙を向けば、それだけであの方の手を煩わせてしまうことになりますから⋯⋯。」


 男は両手を広げ狂った笑みを殺気のような圧力と共にモカラに向ける。


「つまり聖人とは我々にとって、反逆の象徴なんですよ。」


「⋯⋯⋯⋯新しい魔王はまた、戦争を起こす気ですか!?」


 その言葉にモカラも明らかな動揺を見せる。それでも彼女は声を荒らげずに話を進める。


「戦争ではない、⋯⋯これは革命だ!!長く均衡を保ってきた人間と魔族の関係を打ち崩し!今度こそ、我々魔族がこの地上を支配する!!」


 そんなことを話す男の雰囲気は徐々にドス黒いものに変わる。


「そんなことを⋯⋯させると思いますか?」


 それを受けたモカラも男と同様に雰囲気をガラリと変える。


「⋯⋯させていただきますよ。我が王の名にかけて。⋯⋯邪魔をするなら、力で押し通すだけです!!」


 男がそう言って左手を大きく横に伸ばすと、後ろにいた魔族達は一気に冒険者達に押し寄せる。


「⋯⋯だったら、止めるだけです!!あなたの言う力で!!」


 モカラも剣を抜きそれを手元へ伸ばすと、それを皮切りに冒険者も魔王軍へと流れ込む。



「さあ、始まってしまいましたね⋯⋯。」



 剣と魔法が激しくぶつかり合う戦場の中心で、男は腰にかかった剣をゆるりと抜き、正面に構える。



「では!私達も始めましょうかっ!!」



「言われなくともっ!!」



 二つの剣戟が衝突する。





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