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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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四十六話 聖剣と大神官


 ベリーの街滞在三日目、この日コウタ達三人は街の大神殿へと足を運んでいた。


「近くで見ると、さらにでっかいですね⋯⋯。」


 コウタは目の前にそびえ立つ雄大な建物を見て感嘆の声を上げる。


「ここが一神教の本部だからな、大きくて当然だろう。ほら、入るぞ。」


 対するアデルはさほど気にした様子もなく中へと入っていく。


「「はーい。」」


 二人は元気よく返事をする。




 中に入ると、そこには、いつか見た神と名乗る女性にとても似せて作られた一体の銅像を中心とした大聖堂が広がっていた。


「中もすっごく広いですね!」


 マリーは興奮した様子で周りを見渡す。


「⋯⋯お待ちしておりましたわ。アデルさん、コウタさん、マリーさん。」


 三人が内部をキョロキョロと挙動不審に見渡していると、横からセリアが声をかけて近づいてくる。


「ああ、三日ぶりだな。」


 アデルが返事をすると、セリアはニッコリと笑う。


「今回聖剣の間に入るにあたって、条件付きではごさいますが、大神官様の許可が下りました。」


 セリアは一拍おいて表情を仕事モードに切り替えると三人にそう説明する。


「よかったですねアデルさん!」


 マリーは嬉しそうに尋ねる。


「ああ、運が良かった。」


アデルもため息を吐く。


「それで、条件と言うのはなんですか?」


 コウタはリーダーであるアデルを差し置いて、セリアに問いかける。


「一つは私を含めた複数人の監視が付くこと、二つ目は聖剣には絶対に触れないこと、そして三つ目は大神官様があなた方に会いたいとのことなので、聖剣の前に一度、大神官様にお顔を見せて頂く必要があります。」


「その程度なら構いませんよ。」


 コウタは愛想よく笑いかけながら答える。

「分かりました。では早速ついてきて下さい。」


 セリアはそう言って礼拝堂を突っ切ると、建物の端にある廊下へと歩き出す。




「それにしてもなんでこんなに大きいんですかね?」

 コウタは大聖堂の真横にある廊下をを歩きながらアデルに尋ねる。


「一神教は元々、世界最大の宗教だ。その総本山ともなればここまで大きくとも不自然ではないだろう。」


「——それにここには一部の信者の居住区や、食堂などの様々なスペースがありますからね。どうしても大きくなってしまうのです。」


 アデルの解答にセリアが横からそう付け足す。


「なるほど⋯⋯。」


「⋯⋯着きましたわ、ここには大神官様がいらっしゃいますので、あまりうるさくしちゃだめですよ。」


 しばらく歩き続け、ふと立ち止まるとセリアは言い聞かせるように三人にそう言うと、トントンと軽くドアを叩く。


「誰です⋯⋯。」


 ドアの向こうからは小さく男性の声が聞こえた。


「セリアでごさいます。例の方々を連れて参りました。」


「入りなさい。」


 男性の声は短くそう言った。


「失礼します。」


 セリアが扉を開けると、そこには法衣を纏い、長く白い髭を伸ばした老人が立っていた。


(この人が、ここのトップか⋯⋯。)


「初めまして、私が、一神教の大神官、エストと申します。この度はうちのセリアを助けて頂き誠にありがとうございます。」


 老人は深々と頭を下げてそう言う。


「こちらこそ、無理な頼みを聞いて頂きありがとうございます。」


アデルは老人にそう言って礼をすると同じように頭を下げる。


「彼女を失うと、我々にとっても大きな痛手になりますからのぉ⋯⋯。本当に無事で良かった⋯⋯。」


 老人はニコリと笑い、ほっと、ため息をついてそう言う。


「ですが本当にいいんですか?私たちに聖剣を見せて。大切なものなんですよね?」


 マリーは気になった事を尋ねてみた。


「そうですな⋯⋯ふむ。」


 老人は、一拍置くとマリー、アデル、コウタの順番で彼らの目を見つめる。


「⋯⋯?」


 コウタはその行動に首を傾げる。


「ん⋯⋯⋯⋯まぁいいでしょう。目を見た限り、悪い方ではなさそうだ⋯⋯。」


 老人はコウタを見てピタリと動きを止め少し詰まった言い方をするが、なんとかお墨付きを貰うことができた。


「よかった⋯⋯。」


 マリーは安堵の声を上げる。


「ですが、よろしいのですか?そもそもあれは本当に聖剣かも分からぬ代物ですぞ?」


 老人は不安そうに尋ねる。


「⋯⋯?どういうことですか?」


「この教会に置いてある聖剣と呼ばれるあれは、すでに剣としての原型もなければ、強力な隠蔽魔法で詳細すら読み取れなくなっているのです。」


 つまりは聖剣と呼ばれるものはあってもそれを明確に本物だとも偽物だとも証明できない状態なのであった。


「厄介なことになってますね。」


 マリーは短く皮肉っぽく呟く。


「それでもよろしいのですか?」


「ええ、とりあえず見てみたいだけなので。」


 コウタはニッコリとそう返す。


 コウタ達はあらかじめオリジナルスキルのことを隠して話すことを決めていたため、見てみたいという理由で押し通すことにした。


「⋯⋯⋯⋯分かりました。ではセリア。彼らを聖剣の間に案内してやってくれ。」


 老人はノソノソと歩き出し、後ろへ下がると。窓へと視界を移し、セリアにそう命令する。


「はい、分かりましたわ。」


「ではこちらへ。」


 セリアはそう言って部屋のドアを開け、コウタ達についてくるように促す。


「はい。」


 コウタは部屋を出る瞬間老人の方を向くと、老人は窓越しにコウタを見ているのがわかった。


「⋯⋯⋯⋯?」






「⋯⋯ここです。」


「ここが⋯⋯。」


「⋯⋯聖剣の間⋯⋯⋯⋯。」


 そこには厳重な扉の前には二人の鎧を纏った兵士がいた。


「セリア様、どうかなさいましたか?」


 兵士の一人がセリアに声をかける。


「ええ、彼らを中に入れたいのです。許可はとってあります。」


「そうですか、では今扉を開けます。」


 そう言うと兵士は扉の中心にある鍵穴に特殊な形状の鍵を刺し、扉を強く押す。


 ゴゴゴと、大げさな音を立ててドアが開くとセリアは何事も無いように進む。


「ついて来てください。」


「あ、はい。」


 中に入ると今度は今までの雰囲気とはガラリと変わり、窓一つない真っ白な部屋が広がっていた。


 その中心には一つだけ細長いガラスケースがあった。


「これが聖剣エクスカリバーと呼ばれるものです。」


 セリアはガラスケースを指してそういう。


「これが⋯⋯。」


 ケースの中には錆び付いて茶色く濁りきったボロボロの棒切れが一本だけ入っていた。


「鑑定のスキルをつかってもいいですか?」


「構いませんが、恐らく不可能だと思いますわよ?」


「では⋯⋯。」


 コウタはそう言って〝鑑定〟ではなく〝観測〟のスキルを使う。次の瞬間にコウタの目の前に詳細が映し出される。


隠蔽魔法lv10——


 コウタの手元にはスキルの情報が映し出された。



「レベル10⋯⋯⋯⋯。」



 つまり、そのスキルの限界値、最強のスキルがこの謎の棒切れにかけられていることになる。その数字にコウタは絶句するがそれでも諦めずに観測を続ける。


(もう少し、⋯⋯深くっ!!)


 コウタがさらに目を凝らすと今度は激流の如く大量の情報が流れて来た。






「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。なるほど⋯⋯。」



 しばらくそれらを睨み続けるが、流れてきた情報全てに目を通し終えると小さく目を閉じ息を吐き出す。


「⋯⋯ありがとうございました。確かに、隠蔽のスキルがかけられてました。」


「でしょう?過去何度かこの剣に鑑定のスキルをかけた者もいましたが、結局これが聖剣であると証明できた者はいないのです。」


 セリアは深くため息をつく。


「今日はありがとうございました。」

 コウタは小さく頭を下げる。







 コウタ達は用が済むと宿屋の部屋へと戻ってきていた。


「で、本当のところ、どうだった?」


 アデルはコウタのベッドに座り込みながらコウタに尋ねる。


「いけましたよ。隠蔽のスキルも、目を凝らせば見破れました。」


 コウタは椅子の背もたれに体重を掛けながら疲れ果てた様子でそう答える。


「じゃあ、やっぱり本物だったんですか?」


 マリーも同様にベッドに座り、さらに食いつく。



「はい、あれは——」




「——簡単に言えば偽物フェイクです。」


「ええ〜!?」


「そうか⋯⋯。」


 その発言にマリーは大きく、アデルは落ち着いて反応する。


「そもそもあれは剣でなく槍でした。」


「槍⋯⋯か、確かにあれでは剣か槍かなど判別出来ないな。」


 アデルはそれを聞いて納得した様子でそう返す。


「どんな槍だったんですか?」



「名は——。」


 コウタがそれを言おうと口を開いた瞬間、外からとても大きな地鳴りのような音が聞こえる。



「何が!?」



 アデルが声を上げた直後に警報が鳴る。


『緊急連絡、緊急連絡、こちらギルドマスターのモカラ。現在街の東部より魔王軍らしき軍勢の進軍を確認。冒険者達は至急街の外の広場に集結せよ。』


 どこかで聞いたようなアナウンスが鳴ると三人は同時に立ち上がる。



「っ!?行くぞ!!」



「「はい!」」





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