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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第一章
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四十一話 旅立ち



「本当に行ってしまうのですね⋯⋯。」


 ギルドマスターであるエティスはその日、冒険に出るコウタ達の見送りに来ていた。


「寂しくなるなぁ⋯⋯。コウタ、ちゃんと帰ってこいよ!」


 見送りにはエティスだけでなくギルド職員のロズリや冒険者のセシルなども訪れ、かなりの人数になっていた。


「目的地はやはり、ポタール王国ですか?」


「ああ、あそこが一番魔族領から近いからな。」


 そうして話している横ではすでに馬車の用意が出来ていた。


「アデルさん、準備出来ましたよ。」


 コウタがそう言って歩み寄ってくる。


「ああ、分かった。」


 そう言うとアデルは馬車の中へと乗り込む。


「コウタ君が御者をするのですか?」


「ええ、ちゃんと教えてもらったので多分大丈夫です。」


 コウタは自信ありげにそう答える。


「そ、そうですか。」


 エティスは不安に思いながらも口には出さなかった。


「君のことはポタール王国のギルドマスターにも連絡を入れておきました。ですから身の安全は保証されるはずです。」


「それはそれは、ありがとうございます。」


 コウタは安心した顔でそう言う。


「いえ、私にはこれくらいしか出来ませんから⋯⋯⋯⋯。」


 その言葉を受け、そう返す。



「⋯⋯⋯⋯ありがとうございました。」



 エティスは少し間を開けてコウタに頭を下げる。

「君が居なければ今頃この街は滅んでいたでしょう。⋯⋯本当にありがとう。」


「いえいえ、それほどでもありませんよ。」


 コウタは少し照れながらそう返す。


「⋯⋯この先も大変なのは変わりないでしょう。どうか頑張りすぎないくらいに頑張って下さいね。」


 コウタはエティスにそう言って笑いかける。


「気をつけます。」


 エティスもニッコリと笑って返す。


「ところでまず何処へ向かうおつもりなのですか?」


 ロズリが横からそう尋ねる。


「とりあえずはベリーの街に行こうと思います。」


「ああ、一神教の総本山があるところですね。⋯⋯ですが何故ですか?ポータル王国へ行くのならもっと近いルートもあるでしょう?」


 ロズリは不思議そうにそう尋ねる。


「理由はいくつかありますけど、一番はパーティーの強化が目的ですね。すぐに魔王の元にたどり着いてもレベルが低かったら無駄死にするだけですから。」


(まあ、それが一番ではないんですけど⋯⋯。)


「そうですか。だから回り道をしながら行くのですね。」


「⋯⋯⋯⋯はい。」


 コウタは若干目を逸らしながら答える。


「ではもう行きますね。」



「あっ、あの!!」



 コウタが馬車に乗り込もうとした瞬間に、マリーがエティスやロズリに向かって後ろから声をかけてくる。


「おお、マリー君、頑張って下さいね。」


 エティスはそんなマリーを激励する。



「はい。⋯⋯あの、⋯⋯お世話になりました!!」



 マリーはそう言って頭を下げる。


「いえ、こちらこそ、マリーさんの仕事ぶりには助けられましたよ。」


 ロズリがそう答える。


「⋯⋯無理はしないで下さい。」


 エティスは力強くそう言う。



「はいっ!いってきます!!」



 マリーも力強くそう答える。


「⋯⋯さあ、行きましょう。マリーさん。」


「はいっ!」


 マリーはコウタに言われ馬車に乗り込む。




「「「いってらしゃ〜い。」」」


 馬車を進めると、街の方から声が聞こえた。それに反応するようにマリーやアデルは馬車の中から顔を出し手を振った。


「いってきまーす!」


 そうして彼らはベーツの街から旅立った。






「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」


 街から出て、一時間ほどたち、天気も快晴で、魔物に襲われる事もなく、とても順調な旅路ではあった。が、コウタは浮かない顔をしていた。


 コウタは殺人犯と思われる少女の顔を思い浮かべていた。


(僕はまだ、か。)


 コウタは少女との会話を思い出す。


(恐らく、彼女はもう街には居ない。だったら⋯⋯)


 コウタはあの少女の事を誰にも言う事はなかった。その理由は、あの日以来街の連続殺人が止まったから、そしてあの少女の言った「またどこかで」という言葉があったから。


(確かに、あれだけの実力者なら、彼女が何者であろうと必ずどこかでまた会う事になる。)


 それは予想ではなく、確信であった。だからこそコウタは自分自身でカタをつけるつもりで誰にもいう事はなかったのである。


 だがそれをするためには一つの問題があった。



(今の僕では間違いなく殺される。)



 今のコウタにはあの少女に勝てる気がしなかった。


「もっと⋯⋯強くならなくちゃな⋯⋯。」


 コウタは小さくそう呟いた。




「私⋯⋯実はちょっとわくわくしてます。」


 その頃馬車の中ではマリーがそんな事を言っていた。


「ああ、そうだな。私も初めてだ、冒険に出るのは⋯⋯。」


 アデルも満更でもない様子で答える。


「少し、楽しみだ。」



 窓の外を眺めてそう呟く。



「⋯⋯コウタ、少し寄りたいところがある。」



 アデルは窓の外の景色を見ていると、ふとコウタに声をかける。



「⋯⋯はい?」






 その数時間後、コウタ達は旧キャロル王国に来ていた。


「⋯⋯⋯⋯。」


 アデルは見晴らしのいい場所に建てられたその墓に花を手向け、小さく祈りを捧げていた。



 コウタとマリーは後ろでその様子を眺めていた。




「⋯⋯行こうか。」


 元気のない声でそう言うとアデルはスッと立ち上がる。


「お別れは済んだのですか?」


「ああ、終わった。」


 アデルは小さく微笑むと、目を瞑る。

 そして再び、王国の方に振り返る。




「⋯⋯かならず!!魔王を討ち!!この地へと帰って参ります!!」




 大きく息を吸い込むと、絶叫するようにそう叫ぶ。

 その声は天に届かんばかりに大きく響き渡る。


「⋯⋯ふう。行こうか。」


 スッキリした表情で二人にそう言う。


「「はい!」」


 二人は元気よく答える。






「まず最初はベリーの街でしたよね?」


 三人が馬車に戻るとマリーはアデルにそう尋ねる。


「ああ、そうだ。」


「ウチのパーティーの前衛は私だか、ピンチになればやはり一番モノを言うのはコウタのオリジナルスキルだ。」


「だからこそ、そのオリジナルスキル自体の強化も必須になる。」


 アデルは馬車の中でマリーに説明する。


「じゃあ、ベリーの街にはなにか特別な武器があるんですか?」


 マリーはアデルにそう尋ねる。


「ああ、一つだけな。」









「——聖剣エクスカリバー。⋯⋯⋯⋯あの街のどこかにそれがある。」





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