三十九話 村娘を育てよう!!
「ま、マリーさんが、僕たちのパーティーに、ですか?」
コウタがそう尋ねるとマリーは迷わず即答する。
「はい、私ももっと強くなりたいから⋯⋯。」
語尾が小さくなりながらもハッキリとそう答える。
(やりたい事ってこの事か⋯⋯。)
コウタはエティスのいる方向を向くと彼が手を振っているのが見えた。
(知ってたなあの人⋯⋯。)
爽やかな笑顔で手を振るエティスを軽く睨みつける。
「だか、分かっているのか?私達とパーティーを組むという事は最終的には魔王と戦わなければならないのだぞ?」
アデルは真剣な表情で問いかける。
「はい、覚悟の上です。」
マリーも同じようにそう返す。
「私はみんなに守られて今生きています。お父さんやお母さんに連れられて、コウタさんに助けられて、ギルドの皆さんに保護されて、今、この場にいます。」
マリーは自らの胸を抑えてそう言う。
「でも⋯⋯だからこそ私はその人たちに貰った命を何かに使いたい。」
「私のせいで死んだお父さんやお母さんのために、私を拾ってくれたギルドの皆さんのために、⋯⋯そして⋯⋯貴方のために、私は戦いたい。」
コウタの目を真っ直ぐ見て迷いなくそう言う。
(誰かのために⋯⋯か。)
コウタは優しく笑いかける。
「それに⋯⋯もう一人は嫌ですから。」
マリーは悲しそうに笑う。
「⋯⋯いいんじゃないですか?僕は構いませんよ。」
コウタはアデルに向かってそう言う。
「コウタ⋯⋯。」
「リーダーはアデルさんですから、アデルさんの判断に任せますよ?」
「アデルさん⋯⋯。」
二人の視線に当てられながらアデルは深く考え込む。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」
「⋯⋯まぁ、いいだろう。」
アデルはしばらくして答えを出す。
「本当ですか!?」
マリーの顔がパァ、と明るくなる。
「ああ、仲間は元から探していたし、レベルだって上げなくてはいけないのは私達だって一緒だからな。」
「良かったですね。マリーさん。」
「はい!」
マリーは元気よく答える。
「——ただし、一つだけ覚えておいてほしい。」
アデルは重い口調でそう続ける。
「私達のする事は結局の所、殺し合いだ。これから沢山の命を手にかけるし、自分自身も殺される可能性はある。だから決めておけ、殺す覚悟も、殺される覚悟も。」
「⋯⋯はい!」
マリーは真剣な表情でそう返す。
コウタはそれを黙って聞いていた。
(⋯⋯殺させませんよ。貴方もマリーさんも。)
コウタはそれを口に出さずに、ただただアデルを向く。
「⋯⋯では冒険者登録をしなくてはなりませんね。」
「そうだな、じゃあさっそく行くか、マリー。」
「あ、はい。」
二人はそう言って受付へと向かう。
「ああ、僕が一緒に行きますよ。その間にアデルさんは食事しといてください。」
コウタはそう言って二人を止めるが⋯⋯
「え、ええっと⋯⋯。」
マリーが少し頬を赤らめながらなんとも言えない反応をする。
「いや、大丈夫だ。私が行こう。」
アデルはハッキリと断る。
「え?何故です?」
コウタは素っ頓狂な顔で尋ねる。
「こういった話は同性の方が何かと話が進みやすいからな。」
「そんなものですか?」
「そんなものだ。さ、行くぞマリー。」
そう言って二人は受付へと向かった。
「⋯⋯なんでだろう?」
「——その疑問には私がお答えしましょう。」
横からエティスが現れる。
「うわっ!?ビックリした⋯⋯。いたんですか。」
「ええ、今、来ました。」
メガネを輝かせながら掛け直す仕草をする。
「ええと、疑問ってのは、何故僕じゃなくて、アデルさんがついてったのかって疑問ですか?」
「ええ、そうです。」
「じゃあなんだと思います?」
コウタはそう尋ねる。
「それは恐らく、マリー君が自分のステータスを見られるのを恥ずかしがっているからでしょう。」
「女の子の冒険者の中にはああいう風に自分のステータスを見られるのを嫌う子がたまにいるのですよ。」
「何故です?恥ずかしがる必要もないでしょうに。」
コウタは徐々に混乱してくる。
「ステータスといっても結局プライベートな数字ですからねぇ。スリーサイズとおんなじような感覚なのでは?」
エティスはなんとなくでそう答える。
「スリーサイズとは違うような気がしますけど⋯⋯。女の子ってよくわかんないですね。」
「そうですねぇ。」
二人はしみじみとそう語り合う。
「⋯⋯それにしても、やることがなくなってしまいました。」
コウタは退屈そうにそう言う。
「では私と戦闘訓練でもしませんか?」
エティスはコウタにそう誘う。
「そんな事してないで仕事したらどうですか?ロズリさんに怒られますよ。」
コウタはジト目でそう言う。
「大丈夫ですよ。仕事がひと段落ついたので今日はもう帰る予定でしたし。」
「だったらちゃんと休んで下さい。目の下の隈がすごいことになってますよ。」
コウタはため息をつく。
「いえ、それよりも気分転換がしたいのです!私は休みの日は睡眠よりも趣味を取る派なので。」
ニコニコとハイテンションでそう返す。
「はぁ⋯⋯いい趣味してますね⋯⋯。」
つまり、生粋のオリジナルスキルマニアである。
「分かりましたよ。久々に体も動かしたいですし⋯⋯、でも、本気でやるのは無しですからね?」
「分かってます。ささ、行きましょう。」
そう言って二人は地下へと足を進める。
しばらくして、コウタが地下から出てくると、そこにはアデルが待っていた。
「あ、終わったのですね。」
それに気付いてコウタは声をかける。
「貴様はまた、一人で勝手に⋯⋯。」
アデルは怒気を混じらせながら呟く。
「はは、すいません。」
笑って誤魔化す。
「⋯⋯はぁ、またギルマスとか?」
諦めるようにため息をつくとそう尋ねる。
「ええ、まぁ途中でロズリさんが乱入して来て止められましたけど⋯⋯。」
コウタは怯えた顔でそう言う。
「そ、そうか⋯⋯。」
「ところでマリーさんはどこに?」
「今着替えてる。そろそろ来るだろう。」
コウタがロッカールームに目を向けるとちょうどマリーが顔を出していた。
「あ、マリーさん、着替え終わったみたいですよ。おーい。」
コウタはマリーに手を振る。
「え、ええと⋯⋯ど、どうも。」
マリーは少し恥じらいながら、姿を表す。
マリーはコウタと似たような服装でそこから出て来る。
「どうでしょうか⋯⋯?」
マリーは服の感想を尋ねる。
「とても似合ってますよ。」
コウタはニコリと笑ってそう返す。
「そそそ、そうですか!あ、あり、ありがとうございます。」
マリーは顔を真っ赤にしながらそう言う。
「ふふ、ふふふ。」
不気味な笑みを浮かべながら、思考をトリップさせる。
「ところでマリーさんはなんの職業にしたのですか?」
コウタはそんなマリーを放置し、アデルへと尋ねる。
「ああ、魔法使い《ウィザード》だ。マリーのステータスは全体的に平均以下だったが、魔力の値に関しては平均の三倍くらいあったからな。」
アデルはそう答える。
「へぇ〜、それは凄いですね!!」
実は同じくらい才能があったにも関わらずその道を捨てたコウタが驚きの声を上げる。
「ああ、私もこんなに魔法に特化したステータスを見るのは初めてだ。マリー、自分では気づかなかったのか?」
アデルはそう言ってマリーに尋ねる。
「ああ、今まで魔法とか使ったことなかったので、ステータスだけ見て、こんなものなのかなぁ、と思いまして⋯⋯。」
「まぁ、普通に生きてる分には気付かないでしょうね。」
コウタは笑ってそう言う。
「まぁそういうことだ。これからよろしく頼むぞマリー。」
「よろしくお願いしますね。マリーさん。」
コウタも同じように続く。
「はい!頑張ります。」
マリーは元気よく返事をする。
「⋯⋯またですか⋯⋯。」
その頃執務室ではギルド職員のロズリがある資料に目を通していた。
「どうしましょう、ギルマスには報告致しますか?」
ロズリに資料を渡したギルド職員はそう問いかける。
「いえ、ギルマスには私から後日報告します。あなたは調査と現場検証をお願いします。」
「はい、了解しました。」
そう言ってギルド職員は執務室から出て行く。
「⋯⋯はぁ、これで十件目ですか⋯⋯。」
一人になった執務室ではロズリが資料とにらめっこする。
「——連続殺人事件⋯⋯。」
ロズリは呟くように資料の文字を読み上げた。