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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第一章
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三十六話 到達者



 コウタは敵に向かって一直線に走り出すと、その手前で飛び上がり、空中でスキルを発動する。


「加速!」


 漆黒に染まった剣を、重力とスキルの力に任せて強引に振り下ろす。


「チッ⋯⋯。」


 ザビロスは大剣で迎え撃つと、コウタはそんな事も気にせず、〝加速〟のスキルを上乗せし、更にねじ込む。


「はあぁぁぁぁ!!」


(こいつっ!!パワーが!?)


 二つの剣の衝突によって、大剣に刃こぼれが起こると、ザビロスは咄嗟に剣を両手に持ち替える。


「チッ、はぁ!!」


 そして力任せに強引に大剣を振り回すと、軽く小さなコウタの身体は抵抗も虚しく大きく後方に吹き飛ばされる。


「⋯⋯くっ。」


(止まるな⋯⋯反撃の隙を与えるな、ここで止まれば、一気に押し切られる。)


 それでもコウタは止まる事なく、着地と同時に再び距離を詰める。


「⋯⋯舐めてんじゃ、ねえ!!」


 が、そんな攻撃も、ザビロスの斜めに振り上げるような斬撃を受けて再び吹き飛ばされる。


「⋯⋯⋯⋯くっ、そ。」


(集中が乱れる、杖の維持が、出来ない。)


 同時に、コウタの後方に浮かぶ無数の杖のうちの数本が、虹色の光を放ちながら砕けるように消えていく。


「⋯⋯召喚!加速!!」


(せめて一撃、彼女に繋げる為の一撃を!)


 欠けた分の杖を召喚し直して突撃するが、結果は先程と変わらず、大剣によって受け止められる。


「⋯⋯⋯⋯ッ!」


「⋯⋯ちぃ。」


(硬、過ぎる!)


 防御ごと強引に斬り飛ばそうと剣を持つ手に力を入れるが、武器の性能だけではステータスの差は埋めることが出来ず、再び弾き返されてしまう、



「はぁぁあ!!」


「加速!!」


 そしてザビロスは、追撃を加えようともう一歩前に出ると、コウタはそれに反応して後方に引き下がる。



(一旦距離を取って⋯⋯いや、違う!)


 しかしながら、その行動こそがザビロスの思う壺であった。


「⋯⋯終わりだ。」


「⋯⋯しまっ!?」



 過剰に回避しようと後方に飛び退いたコウタの身体は、目があった瞬間には未だ宙を待っており、次に来るであろう攻撃になど対応出来るはずもなかった。


「⋯⋯ディザスター!!」



「ぶっ、はっ!?」


 裏拳のように振るわれたザビロスの右手の動きに対応して、コウタの右側から衝撃が迸ると、咄嗟にコウタは身体の向きを切り替えながらそれを受け切ろうとする。


「⋯⋯コウタ!!」


 前回よりもはるかに早い速度で吹き飛ばされるコウタの姿を見て、アデルは思わずその名を叫ぶ。


「⋯⋯俺の勝ちだ。」


 土煙を上げながら部屋の壁に衝突するコウタの姿を見て、ザビロスは自らの勝利を確信する。



「⋯⋯がはっ。」


「⋯⋯⋯⋯くっ、そ。」


 が、彼の予想と反して、攻撃を正面から受け止め、まともに受け身を取ることが出来たコウタの身体は、前回ほどの負傷はなかった。


 しかしながら、それでも彼の小さな身体に蓄積したダメージは計り知れないものであり、激痛で立ち上がることが出来なかった。


「⋯⋯ま、だだ。」


(僕がここに来た意味を、思い出せ!)



「お、おおお、おおおおおおぉぉぉぉぉ!!」


 それでも折れかけた心と満身創痍の肉体に鞭打って立ち上がると、その痛みを誤魔化すように割れるような叫び声を上げる。



「⋯⋯コイツ、なんで⋯⋯っ!?」


「加速!」


「クソ、ディザスター!!」


 戸惑いを見せる敵に向かって、真っ直ぐに突っ込んでいくと、それに対応してザビロスもオリジナルスキルで対応する。


 そしてその攻撃をひらりと宙を舞うように回転しながら回避すると、着地の瞬間に再び自らの足に力を込める。


「加速!」



「だったらコッチはどうだ!」


 コウタの身体がオリジナルスキルの範囲外に入り込むと、今度は死霊術を用いて炎の球を作り出して撃ち放つ。


「⋯⋯集え。」


 コウタの言葉に応じて、彼の背後にある杖の数本が動き出すと、まるで盾のように目の前に展開されて、炎の球の進行を阻む。


「⋯⋯杖を、盾代わりに!?」



(俺の真似しやがった!?)



「⋯⋯おおおおぉぉぉぉ!!」


 砕かれた杖のかけらが、輝きながら消えて行くと、その先に開けた視界の先にいる敵に向かって、無我夢中で剣を振り下ろす。


「⋯⋯ッ!!」



「⋯⋯なっ!?」


 虚を突き、完璧なタイミングで放った攻撃は、それでも目の前の敵に届く事はなく、ザビロスは余裕を持った様子で後方に回避する。


「惜しかったな、終わりだ。」


 攻撃によって生じた隙を突いて、今度はザビロスがコウタの首を狙って剣を横薙ぎに振るう。


「⋯⋯ああ!!」


「⋯⋯ッ!!」


 突然ピンチに陥ったコウタは、剣を握るザビロスの拳に顔面を叩きつける事でその攻撃をキャンセルする。


「ぶはっ⋯⋯。」


 しかし、その代償も大きく、叩きつけた顔面は衝撃によって弾き返され身体は大きく反り返り、口や鼻を切ったのか、その両方から血が吹き出す。


(コイツ、頭突きで⋯⋯。)


「⋯⋯もらった。」


 もはや自らのダメージすら顧みなくなったコウタは、そこに生じたザビロスの隙を的確に突いて剣を握る方の腕に向かって剣を振り下ろす。


「⋯⋯っ!?」


「⋯⋯っ、て、めぇ!」


 ザビロスの前腕に大きな切り傷が付くと、コウタはさらに前に出る。


(もう一発!)



「ディザスター!!」


 咄嗟の起点に聞かせたザビロスが、コウタの背後にある杖の群れをオリジナルスキルで強引にかき消して行く。


「⋯⋯っ!ちぃ⋯⋯。」


(流石に、バレるか。)


 力の元を絶たれた漆黒の剣は、徐々にその色を薄めていき、ついには真っ白の刀身に戻っていってしまう。


 そして薄水色の剣が大剣と交わり、鍔迫り合いとなる。


「⋯⋯斬空剣!」


「⋯⋯何っ!?」


 そしてそんな状態がしばらく続いていると、その間を割って入るように風の刃が通り過ぎる。


「⋯⋯っ、加速!」


 そしてその合間にコウタはスキルを使って強引に距離を取る。


「⋯⋯っ、助かりました。」


「⋯⋯いや、悪かったな。任せきりにして。」


 鼻血を拭いながら礼をいうコウタに対して、アデルはフラフラと膝立ちの状態から立ち上がってそう答える。


「問題無いです。それよりも、⋯⋯どうやって崩すか。」


 二人がかり、なおかつ二人揃って切り札を防がれた現状、再び作戦を立て直さざるを得なくなる。


「オリジナルスキルは対処が出来るが、ネクロマンサーのスキルが厄介だ。」


「ええ、それに素の身体能力も冗談みたいに高い。」


 力や耐久力は比べるまでもなく圧倒的な差があり、コウタの長所であるスピードすらも〝加速〟のスキルを使ってようやく若干上回る程度、その上で二種類の飛び道具を状況に合わせて使い分けるザビロスの戦い方はそう簡単に崩す事は出来なかった。



「近づけば大剣、離れればスキル⋯⋯やはり隙がないな。」



「⋯⋯けど、そのどちらかを抑えれは⋯⋯⋯⋯。」


(それに、骸骨兵の召喚と戦闘で奴のMPも相当減ってる。)



「⋯⋯コウタ?」


 そんな事を呟きながら考え込むコウタに、アデルは短くそんな問いを投げかける。


「⋯⋯僕に考えがあります。」


「教えてくれ。」


 コウタの呟きに対して、アデルは即座にその回答を求める。


「————。」


「⋯⋯っ!⋯⋯分かった。それで行こう。」


 ザビロスに聞かれぬよう、極々小さな声で伝えられる作戦を聞くと、アデルは躊躇う事なくそれを受け入れる。


「⋯⋯いいんですね?」


「ああ、覚悟の上だ。」


「⋯⋯⋯⋯。」


 コウタは彼女の返答を聞くと、少しだけ悲しそうな表情をした後に、小さく溜息をつく。


「⋯⋯それじゃ、ラストアタックといきましょうか。」


「⋯⋯ああ。」


 二人の動きを警戒し、その場から動かなかったザビロスが、痺れを切らして周囲に炎の球を展開し始めるのが見えた。


「「⋯⋯っ!!」」


 二人は深呼吸をした後にザビロスを強く睨み付けると、同時に地面を蹴って駆け出す。



「⋯⋯ディザスター。」


 降り注ぐ炎の球を避け続けていると、ザビロスの右手が怪しい光を放つ。


「アデルさん、左!」


 その兆候と同時に周囲を見渡したコウタは、アデルにそんな言葉を投げかける。


「ああ、分かってる!」



「召喚!!」


 横薙ぎに振るわれる衝撃波を二人が同時に回避すると、同時にコウタはその手に巨大な戦斧を召喚する。



「遅え!!」


「シャットアウト!!」


 迎え撃とうと大剣を振り回すザビロスの攻撃を、アデルが割り込むように飛び出して受け止める。


「⋯⋯っ、くそっ!」



「加速!」


 そしてその横から一気に距離を詰めるコウタは、真下から斧を振り上げる。


「⋯⋯がっ!?」


(なんだ、コイツらの動きは⋯⋯。)


 アデルが守り、コウタが攻める。交わりながら突き進む二つの影は、さながら一対の剣と盾を思わせる。



「もう、一発!!」


「⋯⋯食らうかよ!!」


 その一撃が想定よりも浅く入った事に気が付き、追撃しようと踏み込むと、ザビロスはコウタが持つ武器を的確に狙って炎の球を撃ち放つ。


「⋯⋯っ!」


(⋯⋯ここで、死霊術か。)


 その瞬間、ザビロスがコウタ達の超至近距離戦法に合わせて即座に戦略を切り替えてきた事に気がつく。


(残りMP、42。ここからだ!)


 予め口に含んでいた飴玉を噛み砕くと、それ以上武器を召喚する事なく地面を転がりながら身体の向きを切り替える。


「⋯⋯加速!!」


 砕け散る武器を投げ捨ててさらに距離を詰めると、最大限の力を使って彼の左腕、先程コウタが傷を付けた所に全力の蹴りを放つ。


「⋯⋯ぐうっ!?」



「爆裂斬!!」


 その痛みに、ザビロスが手に持った大剣を放すと、今度はアデルが間髪入れずに顔面に爆発する斬撃を放つ。


「⋯⋯くそがっ!」


(剣が⋯⋯!)


「負けて、たまるかぁ!!」


 武器を失ったザビロスは、自らの最後の手札である死霊術を用いて大量の炎の球を撃ち放つと、二人は咄嗟に距離を取る。


「⋯⋯へっ。」


 無防備になったコウタの身体に集中させる。


「ぶっ、はっ!?」


「⋯⋯コウタ!?」


 黒煙を上げて倒れるコウタの名を叫ぶと、今度はアデルがザビロスから意識を手放してしまう。


「ディザスター!!」


「⋯⋯しまっ!?」


 そしてその隙を突いたザビロスは、オリジナルスキルの一撃をアデルに叩きつける。


「⋯⋯ぐっ、はぁ!?」


 アデルの身体はその硬い鎧をも砕く強烈な衝撃波によって吹き飛ばされ、先ほどのコウタと同様に部屋の壁にノーバウンドで衝突する。


「⋯⋯ハッ、俺の勝ち——」


「ああああぁぁ!!」


(止まるな、止まるな、止まるな!!)


 全ての力を使い果たし、勝利宣言をしようとするザビロスに向かって、コウタはフラフラと千鳥足になりながら向かって行く。


(クソッ、しつけぇ!)


「⋯⋯だったら、殴り合いで蹴りをつけてやるよ!!」


 彼らのあまりのタフさに逆に心を折られそうになりながらも、ザビロスは恫喝するように叫び声を上げて迎え撃つ。



(⋯⋯ここだ。)



「⋯⋯っ!?」



 ザビロスが拳を突き出すと、その動きに合わせて紙一重で回避し、全身でザビロスの右腕に掴みかかり、その動きを制する。


「⋯⋯何を?」



「⋯⋯右手が塞がれば、スキルは使えませんよね?」


 意識が途切れそうになりながら、持てる力の全てを込めて、コウタはその腕にしがみつく。



「⋯⋯お前、まさか⋯⋯⋯⋯。」



「⋯⋯アデルさん!!」


 コウタがそう叫ぶとアデルはゆっくりと立ち上がり、再び彼女の体は紅の光に包まれる。


「⋯⋯馬鹿な。」


「⋯⋯わ、たし、は⋯⋯⋯⋯。」


 鎧が砕け、血で真っ赤に染まったシャツが露出した状態でフラフラと立ち上がると、アデルの意識は一瞬だけ現実世界から切り離されて記憶の片隅にあった景色へと誘われる。










「——簡単な事だよ。お前は、騎士とは何を守るべきか、どうあるべきかをもう分かってるんだ。」


 最初に聞こえてきたその言葉は、先程彼女が思い出していた三年前の記憶の続きであった。


「最後にお前の口から聞けてよかった。」



「最後?一体、何を⋯⋯?」



「私は戦場に戻る、お前は逃げろ。このまま森を抜けて走り続けれは、ベーツの街がある。」


 言葉の意味が理解できない少女に向かって、女性ははっきりとした口調でそんな指示を出す。


「⋯⋯っ、嫌です!私も、私も戦います!」


「ダメだ!!」


 はっとした表情をした後に、アデルは必死に拒否するが、女性の怒鳴りつけるような声を聞いて萎縮してしまう。


「⋯⋯っ、それは、私が弱いからですか?」


「そうだ、そして、それ以上に、お前はまだ死ぬべきじゃないからだ。」


 口惜しそうに呟くアデルの言葉を肯定しながら、女性はくるりとこちらに振り返ってそう答える。


「私は騎士団長だ。貫くべき矜持がある。お前は見習いだ。紡ぐべき未来がある。」


「だから頼む、逃げてくれ。」


 それが彼女の最後の願いであった。


「⋯⋯嫌です。」


「⋯⋯アデル。」


 それでもなお拒否するアデルに対して、銀髪の女性は困ったような表情で再びその名を呼ぶ。


「⋯⋯私はまだ、未熟者なんです。もっと⋯⋯もっと、沢山、学ぶべき事が、貴女から学びたい事が、沢山ある、だから⋯⋯行かないで⋯⋯。」



「私は守れなかった。だから、いいや、だけど、引き継ぐ事は出来る。」


「⋯⋯⋯⋯?」


 そう言って銀髪の女性はゆっくりとアデルの頭に手を伸ばし、目を瞑って何かを呟き始める。



「⋯⋯これは、伝授、ですか?」



 少し遅れて、二人の身体が小さな光を放ち、女性から温かい何かが流れ込んでくるのを感じると、アデルは小さくそう呟く。



「⋯⋯この力はな、この国の人々の願いだ。」



「力無き人間が、それでもなお戦いたいと、才能なき戦士が、それでもなお大切なものを守れますようにと、代々紡がれてきた希望の形だ。」



「⋯⋯そして次は、お前の番だ。」



 そう言い終えると同時に、光は収まり、流れ込んできた力が自らの身体に収まっているくのを感じる。


「⋯⋯お前がこの先、絶対に譲れないものが出来た時、そしてそれを守るべき時に、この力を使ってくれ。」



「⋯⋯荷が、重いです。」



「重くは無いさ、所詮、これはただの力に過ぎない。」


 そんなアデルに対して、銀髪の女性は小さく笑い飛ばしながら左右に首を振る。



「アデル卿、貴殿の行く末を見る事が出来ない事だけが、私の唯一の心残りだ。けれど、その道はきっと後悔のない道になると信じている。」


「⋯⋯幸せになってくれ、アデル。」



「⋯⋯っ、はい⋯⋯!」



 最後には笑って言い放つ女性の言葉に対して、アデルは涙を拭いながら噛み締めるようにそう呟く。



「守る為だけではなく、幸せになる為に、この技を、授ける。名は——」








「トランス・バースト!!」



 託された力、託された意思に背を押されて、復讐の騎士に再び生気が吹き返される。



「なんで、立てる?たかが騎士見習いの分際でっ⋯⋯!!」



「紡がれた覚悟、果たせなかった無念、死んでいった者たちの怒り。」



「⋯⋯私の剣には、その全てが乗っている。」



 血に塗れ、掠れた声で答える彼女の姿に、ザビロスは初めて恐怖する。



「⋯⋯この剣こそが!貴様が壊してきた者達の強さと知れ!」



 そう言ってアデルは剣を構えると、これまでのダメージなどまるで無かったかのようなはっきりとした足取りで駆け出しザビロスへと突撃する。



「ちっ、コイツ、離れろ!」



 恐怖を抑え込みながら必死に迎え撃とうとするが、右腕に張り付いて離れないコウタが邪魔をして動く事が出来なかった。


「⋯⋯絶対に、離さない!!」


 強引に振り回されながら引き剥がされそうになるが、それでもコウタは決してその手を離す事なくしがみ付き続ける。


「ザビロス!!覚悟!!」



「ク、ソが!!チッ⋯⋯。」



「⋯⋯っ!?」


 迫り来るアデルの圧力に気圧されながら、必死にコウタを引き剥がそうと暴れ回っていると、その足に固い何かが当たる感触を覚える。


(⋯⋯俺の、剣?)



「⋯⋯ハッ!」


 その瞬間、自身の勝機を見出したザビロスは、大きく鼻を鳴らしてその剣を拾い上げる。


「⋯⋯だったら、真正面から受けて立ってやるよ!!」


「⋯⋯解除。」



「⋯⋯っ!?」


 そしてまず先に、右腕にしがみ付くコウタの身体を貫こうと剣を構えた瞬間、その剣は虹色の光を放ちながら消えていく。



「⋯⋯なっ、んだと?」


(砕けた、いや、これは⋯⋯。)


 ザビロスは目の前で儚く消えていくその光を見て、その剣がコウタが作り出したダミーである事に気がつく。



「このっ、ガ、キィィィィイ⋯⋯!!」


 そして少し離れた場所に転がる本物を見つけると、ザビロスは絞り出すような声でコウタの首に手を掛ける。


「⋯⋯それよりいいんですか?僕にばかり気を取られてて。」


「⋯⋯っ、しまっ!」


 ほんの一瞬、コウタに奪われたその時間は、アデルが接近を許すには十分過ぎる時間であった。


「⋯⋯この!」


 オリジナルスキルの範囲内に入られ、剣を奪われたザビロスは、残された死霊術で炎の弾丸を作り出すが、作り出された弾丸は、目に見えて少ないものであった。


(ここで、MP切れだと⋯⋯!?)



「⋯⋯付与エンチャントガード!」


 そしてそれに続くように、コウタが残りカスとなったMPを使ってアデルの守備力を向上させる。


「クッ、ソ⋯⋯!!」


 自らの打つ手が尽く目の前の小さな少年に潰されている事を自覚すると、最後の手札である僅かな炎の弾丸を自らの手元に留めてアデルに狙いを定める。


(⋯⋯ここで、終わらせる!!)


「⋯⋯喰らえ!!」


 そして全ての弾丸をかき集め、たった一撃、一発分に押し固めると、アデルの額に向かって撃ち放つ。


「⋯⋯ぐっ!?」


(⋯⋯貰った。)


 弾丸は狙い通りにアデルの額を撃ち抜き、一瞬彼女の身体は小さく震えながら反り返る。



「お、お、おおおおおおおぉぉ!!」



「⋯⋯なっ!?」



 それでもなお、彼女は止まる事なく、その剣を真っ直ぐに突き立てて飛び上がる。



(⋯⋯これが、人間の、強さだと?)


「⋯⋯くそっ。」



「終わりだぁぁぁぁ!!」



 最後にザビロスが口惜しそうに呟くと、アデルはその喉元に刃を突き立てて貫く。



「が、はぁ⋯⋯!?」



 貫かれた刃は、滴り落ちる血で、その鋒を紅に染める。




「あ、ああ⋯⋯うぁ⋯⋯。」




 ザビロスはプルプルと震えながら空いた左手をゆっくりと持ち上げ、アデルの頭を掴む。


 声も出せぬまま口をパクパクと動かし、そしてニヤリと笑うと、そのままボロボロと、その身を崩壊させていく。




「ああ、あああぁぁぁぁ⋯⋯⋯⋯。」



 声にならない声を上げ、ザビロスの身体は砂のように崩れていくと、やがてそれは一片の肉塊も残す事なく完全に消失した。


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