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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第一章
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三十三話 激戦


 胸を貫かれた魔族の男は生気を失うと、砂のようにサラサラと体が崩れていく。


 それと同時に貫いた剣も霧散し、コウタの身体も崩れ落ちる様に力が抜けてその場に膝を突く。



「うぷっ⋯⋯。」



 背後に漂う杖の数々がランダムに消えていく様子を眺めながら、コウタは思わず口を抑える。


(MP酔いか⋯⋯。)


 せり上がる悪寒と吐気に耐えながら、同時に前回とは違う頭痛の様なものも感じる。



(くそ、やっぱり頭が疲れる。)



 体内の魔力に応じて攻撃力の上がる魔剣を、魔力を上昇させる杖を使って強引に強化する大技。


 初めて使用したそれは、コウタが望むだけの結果を得る事が出来たものの、同時に、初めての大量召喚によって別の弱点も浮き彫りになった。



「⋯⋯召喚した武器の維持が、ここまで大変だとは⋯⋯⋯⋯。」


 召喚した武器は意識を逸らした瞬間に消えていく、つまり、武器のその一つ一つに意識を割かなくてはならず、召喚した武器が増えれば増えるほどにコウタの集中力は削がれていく。


 二十を超える杖の、その全てに意識を割かなくてはならないこの技は、いかに前世で人類最高峰の知能と処理能力を有していたコウタでも、そう軽々と扱えるものでは無かった。


(⋯⋯大量召喚はもう少し慣れがいるな。)


「はぁ、はぁ⋯⋯もう少し⋯⋯耐えないとな⋯⋯。」


 そんな事を考えながら立ち上がると、コウタはマジックバックからハニードロップをいくつか取り出して口に含む。



「アデルさんが心配だ⋯⋯。行かないと。」



 そう言ってグリシャが通ってきたと思われるもう一つの道に向かって走り出す。








 その頃、城下町では魔族対冒険者達の戦いが続いていた。


(くそっ⋯⋯何人死んだ?)


 冒険者のセシルはボロボロになりながら魔族の男と向かい合い、地に倒れ伏す冒険者達に目を向ける。


「そろそろ貴様も限界か?」


 魔族の男は無傷の体でそう言って周囲を見渡すと、冒険者の殆どはボロボロになり、三分の一程は戦う事すら出来ない状態であった。


「そっちだって、どうやらガイコツの追加はねえみたいだな。」


「⋯⋯聞いたぜ?あのガイコツはアンタらのボスのスキルによるものらしいじゃねえか。」


 セシルは負けじと煽り返してみせると、事前にコウタやアデルから受け取った情報を提示して揺さぶりを掛ける。


「ああそうだ。それがどうした。」


「つまり、それを使えば使うほどボスのMPは減っていくんだろ?」


「そんで、追加が止まったって事は、アンタらのボスがMPの残りを気にし始めたって事だ。」


 兵士の供給を行うのは大将であるザビロスであり、彼がそれを止めたという事は、考えられる理由はそう多くはなかった。


 一つは敵である冒険者と戦闘を開始したから。


 もう一つは敵が迫るのを予測してMPを節約し始めたか。


 どちらにしても、到達する結論は一つであった。




「中の奴らは結構善戦してるんじゃないのか?」



「だからどうした?たとえ誰が向おうと、ザビロス様が負けるなどあり得ない。それに、骸骨兵が居なくとも貴様らは既に満身創痍、何の問題もない。」



 それを聞くと、セシルはニヤリと笑う。



「そうか、じゃあ、やっぱり今の時点ではあのガイコツの追加は無いんだな。⋯⋯だったら——」



「——心置き無くお前らの相手が出来る。」



 そんなセシルの言葉に応じる様に魔族の男の周りには少しずつ冒険者達が集まり出す。


 そして他の魔族に対しても、同じように一人当たり複数人の冒険者達がつく。


「フンっ、ボロボロの雑魚がいくら集まろうと関係ない。」


 一対多の不利な状況下でも、魔族の男は余裕を崩さずに笑い飛ばしながらそう返す。


(中ではコウタ達だって戦ってんだ。もっと強い奴らと⋯⋯。)


 痛みの走る全身に鞭打ちながら、セシルは大きく息を吸い込む。




冒険者おれたちはまだ!!負けてねぇ!!」




「「「おおおおぉぉ!!」」」



 セシルの叫びに応じて、キャロルの大地に冒険者達の雄叫びが木霊する。









 そしてその叫びは城の中にも響き渡る。



「外は随分盛り上がってるな⋯⋯。」


 城の中、正面入り口すぐの大広間で戦闘を繰り広げていたジークはその声を聞いてボソリとそう呟く。


(既に何人か逃しちまった⋯⋯。あいつら大丈夫か?)


 大広間では、中にいる冒険者達達と魔族達の戦いが続いていた。


 戦況は拮抗していたが、それでも、基礎能力の差が徐々に戦況にも響き始め、冒険者側が押され始める。


(さっさと倒して、助けに行くしかねえか⋯⋯。)


「ったく⋯⋯負けてられんな。」


 それでもジークはそんな不安を振り払うように周りを鼓舞する。




「こっちも全力で行くぞ!!」




「「「おおおおぉぉ!!」」」



 ジークの言葉に呼応して、大広間の冒険者達も負けじと声を張り上げる。








 そんな男達の叫び声に、辟易している者も存在していた。



「全く、元気な奴ばっかりね⋯⋯。」



 大広間を抜けた三つの通路のうちの一つを進むベルン達の戦いは、熱を増し続ける他の戦場とは違い、既に終局の手前まで達していた。


(この女⋯⋯強い。)


 冒険者達の半数は既に倒れ、残った半数も殆ど戦える力は残っていなかった。


 その目の前で、たった一人立ち尽くす魔族の女によって、十人いた冒険者達は全滅の一歩手前まで追い詰められてしまったのだ。



「貴女⋯⋯何者?」



 あまりに飛び抜けたその実力を前に、ベルンは苦々しく歯噛みしながらそう尋ねる。



「魔王軍幹部直属部隊、副部隊長、ペスローナだ。我が主の命により、貴様らには死んでもらう。」



 言い終えると、女の手は獣のような形に変化し、その手を振りかざすと、獣の手からは長く鋭い爪が現れる。


「またそれぇ⋯⋯?」


 その変化にベルンは疲れ果てた呟きを投げかける。


「恨みはない、だがこちらも負ける訳には行かないのでな。」


 女は淡々とした様子でそう言うと、再び彼女等にその刃を突き立てる。









 廊下を抜け、上階へと続く階段を駆け上がっていくロズリとエティスは、道中さほど大きな妨害を受ける事なく進んでいた。



「声が聞こえますねぇ⋯⋯⋯⋯。」



「そうですね、ここが踏ん張りどころですから。」


 そんな中で、エティスが小さく天を仰ぎながら呟くと、ロズリは対象的にしっかりと前を見据えたままそう答える。


「早く⋯⋯終わらせなくてはいけませんね⋯⋯。」


 ロズリには、その声から悔しさと無力感が感じ取れた。


 数多の冒険者達を矢面に立たせ、自らは一切の戦闘を行う事なく進んでいる現状と、ギルドマスターとしての矜恃の間で揺れているのだろうと想像出来た。


「⋯⋯貴方は貴方の成すべきことを成せばいいのです、そもそも貴方はそんなに深く考えることの出来るタイプじゃないでしょう?」


 ロズリはそんなエティスを見るのが辛かった。だからこそ彼女は小さく笑って、諭すようにエティスの問いに答える。


「⋯⋯それもそうですねぇ。全く、貴女にはいつも叱られてばっかりです。」


 それを聞いて、エティスは小さく笑う。


「いつも貴方が頼りないからですよ。⋯⋯っと、誰かいますね。」


 そんなやり取りをしていると、二人の視界には見覚えのある人影が映り込む。


「あれは⋯⋯アデル君!?」


 エティスがそう叫ぶと、前方を走っていたアデルは声に反応して振り返る。


「ギルマス!それにロズリ殿も一緒か!」


「追っ手は来ませんでしたか?コウタ君は何処ですか?」


 エティスは連続でそう尋ねる。


「追っ手は一人だけだ。コウタはそれと戦っている。」


「そうですか⋯⋯。」



「あいつは一人で戦うと言った。戻ってこなくていいと言った。そして、すぐに追いつくと言った。だから大丈夫だ。」


 アデルは不安そうに俯きながら呟くエティスに対して、一つ一つ言葉を区切りながら、まるで自分自身に言い聞かせる様に言葉を返す。



「そうですか⋯⋯。では、玉座の間まではすぐですし、コウタさんが到着し次第、突入しましょう。」


 エティスの意見に対して、二人が頷きながら同意すると、三人の耳にとある声が響き渡る。









 そして、冒険者達の雄叫びは当然コウタにも届いていた。



「ははっ、みんな元気だなぁ。」



 湧き上がる様に重なる男達の咆哮を聞いて、呆れたような、面白がるような声で独り言を呟く。



「さて、僕も頑張らないと⋯⋯。」


 コウタのMPはアデルから貰ったお守りのおかげで既に全回復していた。


「加速!」


 そして、全回復したMPを用いて〝加速〟のスキルを使う。



「⋯⋯お、いたいた。」



 そうして走り続けていると、すぐに視界の奥にアデル、ギルマス、ロズリの姿を捉える。



「⋯⋯おーい、お待たせしましたー!」



 手を振りながら駆け寄っていくと、少し遅れて三人もこちらに気が付き、駆け寄ってくるのが見えた。


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