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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第一章
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三十二話 圧倒


 真っ直ぐに突き進む二人のの攻撃が交わり、互いに距離を取ると、グリシャは同時に背中から伸びる触手を大きく広げてコウタに向ける。


「⋯⋯っ!」


「クリスタルダスト」


 触手の一本一本から雹のように氷結魔法が飛び出すと、コウタは咄嗟に自らの手元に一本の槍を召喚する。


(それの特性は⋯⋯もう分かってる!)


「加速!!」


 スキルで速度を上げながら槍を振るうと、襲い来る魔法の弾丸を数発ほど弾く。


「⋯⋯やばっ!?」


 直後に着弾点から槍が氷漬けになっていくのを見ると、すぐにそれを手放して魔法を回避しながら真横に駆け抜けていく。


「⋯⋯あっ、ぶな。」


 武器を使って魔法を弾きながら、視界の端に朽ちて倒れた木製のテーブルを見つけると、そこに向かって飛び込む。


 すると吹き荒れる氷の魔法は、テーブルに衝突して氷の膜を厚く張っていく。


「チッ、さすがに敏いな⋯⋯。」


 グリシャはそんなコウタの対応に苛立ちを見せながら、上方に飛び上がって、もう一度テーブルの陰にならない位置から氷結魔法を放つ。


「⋯⋯加速!」


 すると今度は地面に落ちたテーブルクロスを引っ張り出し、目の前にはためかせると、再び別の物陰へと走り出す。


 氷の粒に当たったテーブルクロスはその場で凍りつく。


「貴方のその技は、確かにものすごい氷結力です。が、引き換えに貫通力が皆無だ。」


「だからどうした!」


 グリシャは地面に着地するとガラ空きの背後にもう一度魔法を打ち込む。


「⋯⋯だからたとえ布であっても、遮蔽物さえあれば一時的に防ぐことができる。」


 そう言って、マジックバックからマントを取り出しはためかせながら魔法を防ぎ、〝加速〟のスキルを用いて、別のテーブルへと逃げ込む。


「このっ!!小賢しい⋯⋯。」


「⋯⋯召喚。」


 グリシャはもう一度同じ技を放とうと構えると、コウタの隠れているテーブルの裏から大量のナイフが襲う。


「こんなもの!」


 グリシャは咄嗟に自らの体を触手で覆い、飛翔する全てのナイフを弾き返す。


(硬いな⋯⋯。)


 コウタはそれをテーブルの陰から覗きながら、同時に生じた隙を突いて〝観測〟のスキルを発動する。


「レベル48⋯⋯氷結魔法レベル7⋯⋯回復魔法レベル2⋯⋯斬撃耐性、打撃耐性、共にレベル3⋯⋯筋力上昇レベル4⋯⋯なるほど、高い耐久力を生かして質量で押し切るタイプか。」


 視界の端に映し出されたステータスを見て、コウタはブツブツと呟きながらそう分析する。


(⋯⋯それにしてもステータス高いな⋯⋯。)


 グリシャのステータスは全ての項目においてコウタが見た中で最も高かった。


 近いレベルのエティスと比べても、全ての値が彼の遥か上であった。


(けど、魔力も高いけど、決して無敵じゃない。手数が多い分、MPの消費も段違いだから、息切れするのは多分あっちが先だ。)


 そしてグリシャが動き出すと、それに合わせて〝加速〟のスキルを用いて再び撹乱する。


(後は近接戦だけど⋯⋯。)


 一番厄介である魔法の対処は今現在、かなり上手くいっていたものの、それでもコウタは目の前の敵になかなか近づく事が出来なかった。


 その原因は、あの圧倒的な手数を誇る触手を抜けて懐に入り込める自信がなかった事にあるが、何よりも問題な点がもう一つ存在していた。


「⋯⋯決定打がない。」


 あの異常な硬さを誇る触手を貫いて致命傷を与えるだけの攻撃手段が、現状、コウタには無かったのである。


(⋯⋯魔法は当たらない、か。)


「⋯⋯仕方ない⋯⋯ならば直接殺すとしよう。」


 そうして膠着状態が続いていると、痺れを切らしたグリシャは魔法による攻撃を辞め、触手の一本を槍のように突き立てて、コウタの胴体に撃ち放つ。


「速っ⋯⋯。」


 咄嗟に攻撃を受け止めようと剣を構えるが、触手の攻撃はその剣を避けるように進路を変える。


「うぐっ⋯⋯。」


 宙に浮いたまま、強引に胴体を捻って対処するが、触手はコウタの腹部を掠めて後ろのテーブルを真っ二つに両断する。



 弾ける鮮血を見て、コウタは慌てて〝加速〟のスキルで距離を取る。



(スピードも加速を使ってギリギリ上回る程度、攻撃力に関しては、掠っただけでこの威力か⋯⋯。)


 再び瓦礫の山の裏に隠れ、痛みを抑えるために腹部を抑えると、その手にはべっとりと真っ赤な血が付着しており、安物の服は出血によって真っ赤に染まっていた。


「ええと、止血、止血っと。」


 マジックバックからジェル状の止血剤を出し、出血箇所に塗り込むと、そのアイテムの特殊効果の影響か、出血は徐々に治まっていく。


「そこか⋯⋯。」


 グリシャは再びコウタの気配を探り当て、複数の触手を同時に突き立てる。


「チッ、加速!!」


 先程とは違い、攻撃を一歩先に察知したコウタは〝加速〟で再び回避する。しかし残されたテーブルは散り散りの木片へと変わり、その一つがコウタの体に衝突する。


「⋯⋯くっ。」


 コウタはバランスを崩して倒れると、ゴロゴロと転がりながら床へ投げ出される。


「大口を叩いた割には大したことないなオリジナルスキルの少年よ。」


 グリシャはそう言ってコウタを見下すと、コウタはゆっくりと立ち上がりながら、ニヤリと笑って雰囲気を変える。



「⋯⋯だったら見せてやりますよ。これが僕の本気です。」


 同時に天に向かって左手を掲げると、割れた木片の中や、テーブルの下など、部屋中のあらゆるところから大量の杖が現れる。


 そして不規則に浮かび上がるそれらは空中を漂いコウタの元へ集結する。


「なんだ、これは⋯⋯!?」


「降魔の杖、使用者の魔力を上昇させる杖です。⋯⋯一本出すのにかなりMPを使うから、分割して大量に召喚しました。」


 そんな問いかけに答えながら、コウタはマジックバックからハニードロップを二つ取り出すと、それを噛み砕いて飲み下す。



「そんなもの何に使う。」


「まあ、見てれば分かりますよ。⋯⋯強化ブースト付与エンチャント・力!」



 遅れてコウタの体が小さく二度発光する。



「⋯⋯召喚!」



 今度はコウタが掌を目の前へかざすとそこに一本の青みがかった剣が現れる。


「白霞の剣、使用者の魔力に応じて、攻撃力と、耐久力が上昇する剣です。」


 その剣を鞘から抜き出すと、両手でそれを構えながらニヤリと挑戦的な笑みを浮かべる。


「この剣で⋯⋯貴方を斬る。」


 コウタの持った剣は少しずつ青みが増していき、そしてその青はやがて深く濃くなり、最終的には完全な黒色へと染め上がる。


 それを見てグリシャは背筋にゾクリとした悪寒を感じる。


(⋯⋯アレは⋯⋯危険だ!!)


 破壊の塊から醸し出される異常なまでの圧力を、理屈ではなく本能でそれを感じ取る。


「⋯⋯⋯⋯加速。」


 深呼吸の様に大きく息を吐き出すと、一切の躊躇いを捨てて真っ直ぐに突撃する。


「くっ⋯⋯。」


 グリシャは慌てて触手を使って反撃しようとするが、コウタは真正面からそれ斬り捨てる。


「⋯⋯なっ!?」


「加速。」


 突然の大幅なパワーアップを前に動揺を隠せないグリシャは大きな隙を見せると、コウタはその隙に高速で移動しながら彼の視界から外れる。


「⋯⋯もう⋯⋯一本!」


 そして完全な死角から再び突撃すると、今度は数本の触手を根本から同時に斬り飛ばす。


「⋯⋯こ、のぉ!!」


 グリシャは反撃をしようと、斬られた触手から逆算してコウタを見つけると、彼の背中に向かって残った触手を纏めて突き立てる。


(鋭く⋯⋯速い⋯⋯!?)


 しかしながら、〝脚力強化〟〝加速〟〝強化〟のスキルによって三重に増幅されたコウタの機動力には追い付けず、反撃で更に触手の数を減らしていく。


「このっ、くそっ⋯⋯くそっ!!」


 それでもなお、攻撃を繰り返すが、やはりコウタの速度に全く反応が出来ず、その攻撃はことごとく的を外れる。


「くっそおぉぉ⋯⋯!」


 グリシャの触手は一本、また一本と為すすべもなく宙を舞い、そうして反撃もできぬまま、血しぶきを撒き散らして立ち尽くす。


 全ての触手が体から落ちると、コウタはスピードを落として、グリシャの目の前へヒラリと着地する。


 そうしてスタスタと歩み寄ると、息を切らしながら小さく冷めた笑みを浮かべる。


 それを見てグリシャは射殺すほどの殺気を孕んだ視線で睨みつける。


「——終わりです⋯⋯。」


 そう言ってコウタは手にした黒剣を、成すすべもなく膝をつく獲物へと突き立てる。


「⋯⋯っくそっ⋯⋯。」


 噛み締めるような小さな呟きを聞いた後、黒き刃は彼の胸を貫き、滴る血で真っ赤に染まった。


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