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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第一章
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三話 絶望のプロローグ




「異世界ってあの、テレビとかでよく見るパラレルワールド的なものですか?」


 そうであるなら、もしもう一度やり直せるなら、彼は喜んでそれを受け入れただろう。



 だが現実は違った。



「いえ、貴方に行ってもらうのは元の世界とは完全に違う、別の世界軸における世界です。」



「⋯⋯⋯⋯すいません、イマイチピンとこないのですが。」



 言葉の通りに理解しようと試みるが、彼女の言葉はあまりにも非現実的で、彼の知能ですら到底理解の及ぶものではなかった。



 その様子を見て、神を名乗る女性はしばらく考えたあとに口を割る。



「つまりはゲームの中のような世界に行ってもらうということです。」


 ゲームのようなというざっくりとした言葉を聞いてなんとなくイメージをするが、そもそも彼は元の世界ではそういったものをあまりしてこなかったため、やはり大雑把な理解に留まってしまう。



「⋯⋯ではなぜ僕なのですか?」



 康太はそれまでの女性の説明を聞いて、自分がここに来た理由をなんとなく理解する事ができたが、それが何故自分であったのかが分からなかった。



 そう尋ねるとしばらくの沈黙の後、観念したかのように彼女はゆっくりと口を開く。



「⋯⋯⋯⋯私には神としての二つの力の行使が認められています。」



「一つは、ある世界軸の人間を管を通さずに直接好きな世界軸に飛ばす力。」



「そしてもう一つは、生まれてくる人間や転生した人間に特別な才能や特殊体質、スキルを与えることの出来る力です。」



「才能を与えるって⋯⋯それって⋯⋯。」


「ええ、そうです。」



 少年が震えた声でその全てを言い終える前に、女性は肯定の意を示した。



「高い知能、圧倒的な運動神経、恐るべき学習能力、貴方を形作り、そして最後には貴方の全てを壊したその力は、私が創ったものです。」



「⋯⋯⋯⋯。」


 少年はそれを聞いた瞬間、大きく目を見開いて生唾を飲み込みながら黙って彼女の言葉に耳を傾ける。



「天才というのは常に何かが欠如して出来上がるもの。私は何の欠如もない、完璧な天才を作りたかった。だから貴方を創った。」


「あなたが私のことをどう思おうが構いません。⋯⋯⋯⋯どうせ深い意味もなければ崇高な理念がある訳でもない。ただの暇つぶしですから。」



 開きなおった表情で視線を遠くに飛ばしながら神様を名乗る女性はそう告白した。



「⋯⋯そう⋯⋯ですか。」



 そう答えると、喪失感からか、納得したからか、全身の力がダランと抜けていくのを感じる。


「⋯⋯⋯⋯。」


 言葉は出なかった。


 呆れるほどいい加減な理由で人生をめちゃくちゃにされたにもかかわらず。


 逆上する気にもならなかった。


 ただいやに納得してしまった。


 それもこれも自分が、全てを投げ出してしまったからなのだろうかと康太は思う。



「ですが貴方は優し過ぎた。」



 微笑みながら神を名乗る女性はそう言う。



「ですから私からの謝罪という意味も込めて貴方には二度目の人生をプレゼントしようと思い、ここに呼んだのです。」



 そう言うと彼女は何もない空間から鈴の付いた杖を取り出し、軽く地面に打ち鳴らす。



「その世界は剣と魔法の世界で⋯⋯。」



 言葉に反応して女性の背後に大きめの竜巻が起こる。



「様々なモンスターたちが共存しています。」



 今度はモニター出現し、その中には龍のような化け物が映し出される。



「ですが最近は魔王による支配によって様々な人間が命を落としてしまっています。ついでに私の仕事が増えて大変困っています。」



 そして私情を交えた言葉と共に、モニターに魔王らしき黒い影が映る。



「ですから貴方には冒険者として魔王を倒す旅に出て欲しいのです。」



「冒険者⋯⋯。」



 冒険という言葉に少しばかり反応する少年を見て、女性は穏やかな笑みを浮かべる。


「何よりこの世界は自由な世界です。この世界なら自分の才能にも周りの評価にも縛られず生きていけるはずですよ。」


「⋯⋯⋯⋯。」


 自由という言葉を聞いて少年は少しだけ考え込む。


「どうです?行く気になりましたか?」


「⋯⋯ええ、面白そうです。」


「それは良かった。⋯⋯では細かい説明をしていきますね。」










「まず、この世界にはレベルというものが存在します。このレベルはモンスターなどを倒すことで得られるのですが、レベルが上がると基本的なステータスが上がります。そしてもう一つ、スキルポイントが手に入ります。」


「スキルポイント?」


 元々ゲームなどほとんどやらなかった康太は聞きなれない単語に疑問符を浮かべる。


「はい、冒険者たちはこのスキルポイントを用いて様々な技能スキルを習得します。」


「魔法などの特殊能力は他人から伝授してもらったり、晶石という特殊な石を用いて取得し、スキルポイントを支払うことで使うことができます。」


「次に職業ですが⋯これは実際に自分の目で見る方が分かりやすいでしょう。」


(説明めんどくさかったのかな?)


 説明される側の康太も特に興味も無かったのでお互いにスルーだった。


「あ、ちなみにステータスですが心の中でステータスオープンと唱えれば確認できますので、」


「さらっと大事なこと言いましたね。」


「⋯⋯⋯⋯最後になりますが貴方の体を今から異世界用に作り変えます。」


 神様、二度目のスルー。



「つ、作り変えるとは?」



 不穏な言葉に、恐る恐る尋ねる。



「このままの身体能力では異世界で生き残るのは難しいので異世界向きに能力を少しいじるだけですよ。」



「見た目は大して変わらないので安心して下さい。」



「そ、そうですか。」



 神様の控えめな言い方を聞いて、大した変化は無いとほっと一安心する。



「では今から作り変えますが、⋯⋯そうですね。一応最後の確認です。本当によろしいのですか?」



 神を名乗る女性は最後の最後で試すような口調に切り替えてそう尋ねる。



「自分から話を振っといて確認するんですね。⋯⋯大丈夫ですよ。最悪嫌になったらもう一度死ねばいいだけの話ですから。⋯⋯それに⋯⋯」



 目を瞑り口角を少し上げる。



「次の世界では、自分の意思でやりたいとこを見つけたい。自分の目で見て自分の肌で感じて、自分の口で思ったことを叫びたい。」



「だから⋯⋯行きます。異世界。」



 その目は好奇心と覚悟で輝いていた。



「わかりました。では作り変えますよ。⋯⋯はあっ!」



 そう言うと神様は少年の額に軽く杖を当て力を流し込んでいく。



 直後彼の体は眩い光に包まれる。



「⋯⋯⋯⋯完了です。」


 ふう、とため息をつくと神を名乗る女性は満足げな笑みを浮かべる。


「⋯⋯⋯⋯神様⋯⋯。」


「はい?」



「見た目は大して変わらないのでは?」



「はい。大して変わりません。」




「⋯⋯⋯⋯身長二十センチくらい縮んでるのですが!?」




「⋯⋯⋯⋯まあ、こんな時もあります。」


 康太がそう言って叫ぶと、女性は全く笑みを崩さずそう言い切る。



「なんとかならないんですか!」



「⋯⋯⋯⋯それでは準備が出来ましたので転送します。」



「いやだから身長を⋯⋯。」



「ちなみにサービスとしてオリジナルスキルという特別なスキルとスキルポイント、あと、〝観測〟のスキルを付けておきましたから。」



「またそんな大事なことをさらっと、じゃなくて身長を!!」


 あまりにもマイペースなその物言いに、康太は叫ぶように訴えかける。



「そのくらい気にしないでください。」



「これじゃ中学生にしか⋯⋯。」



「転送☆」


「ちょ、せめてあと五センチくださぁぁぁぁぁぁぁぁあ⋯⋯⋯⋯!!」



 そう叫びながら少年は光の柱に包まれて下へ下へと落ちてゆく。









 そしてその直後。


 少年の姿が完全に消えると、神を名乗る女性はふぅとため息をつき、今までと違う真っ黒な笑みを浮かべ先ほどまで少年のいた空間に向かってこう呟く。






「いってらっしゃい、もう少しだけ私を愉しませて下さい。」











  「⋯⋯⋯私の⋯⋯⋯⋯最高傑作サイコウケッサクよ。」



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― 新着の感想 ―
[一言] ショタ好きの危ない神なのかもしれない。 面白かったです。
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