二十七話 遠き日の思い出・二
——再び時は遡る。
放課後の喧騒の中で一人自らの席から動かずに座する少女は、両手に握られたとある用紙に書かれた数字を睨みつけながら、小さな唸り声を上げていた。
「——こうたくんは勉強得意なの?」
そして直後に深いため息をついた後、既に隣で帰宅の準備を進めていた少年にそう尋ねる。
「いえ、特別できるというわけではありませんけど。」
少年は満点のテストを早々に折り畳み、バッグに仕舞い込むと、さして興味も無いような態度でそう答える。
「でも満点じゃん。」
「毎日ちゃんと勉強してれば大して難しい事でも無いですよ。」
不満そうに放たれる言葉に対して、興味無さげにリュックを閉じてそれを背負う。
「⋯⋯⋯⋯。」
少女はその様子を黙って見ていると、ふと思い立ったようにこう切り出す。
「じゃあ、私に勉強教えて!!」
「⋯⋯⋯⋯えぇ〜。」
「むぅ、なんでそんな顔するの!?」
少年があからさまに嫌そうな顔をすると、少女は頬を膨らませて抗議する。
「だって、僕が教えたところで寧々さん、ちゃんとやってくれますか?」
やれやれとため息をつきながら問いかけると、図星であったのか、一瞬だけその動きを止めて黙り込む。
「話は終わりです。」
「やる!ちゃんとやるから!」
早々に話を切り上げようとする少年を引き止めて、強めの口調で食い下がる。
「⋯⋯⋯⋯。」
「⋯⋯⋯⋯。」
「⋯⋯はぁ、分かりましたよ⋯⋯。ではいつにしますか?」
思いの外強力な腕力に抑え付けられて動けないのを理解すると、強い眼力に押し負けるようにそう答える。
「じゃあ今日から!」
「今日からって、まさか毎日やるつもりじゃ、無いですよね?」
彼女の言葉を聞いて、少年は頬を引きつらせながらそう尋ねる。
「うん、毎日。」
少女はニッコリと笑って答えると、少年は呆れたように深くため息をつく。
「こうたくんよりいい点とる!」
「ですがテストは百点までしか取れませんよ?」
自分は満点しか取らないと言わんばかりの傲慢な発言ではあったが、事実、彼はこれまでの試験の全てをただ一つの間違いも無く突破してきていた。
「じゃあこうたくん、なんか間違えといて!」
それを知る少女は、腕を組みながらそんな言葉を言い放つ。
「んな無茶苦茶な⋯⋯。」
彼女の無茶苦茶な発言に辟易しながらも、少年はどこか嬉しそうな、そんな笑顔でそう呟く。