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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第一章
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二十三話 騒乱


 その日、コウタはギルドの掲示板との睨み合いに耽っていた。


「うーん⋯⋯。」


 いつも通り遅い時間に目を覚まし、マイペースな足取りでギルドを訪れたコウタは、特にクエストを受ける必要もないが、やることもないので、小一時間ほどこうやって立ち尽くしていたのである。


「面白そうなクエストとかないかな⋯⋯。」


 一つ一つのクエストを命がけでこなし、日々生活をしている他の冒険者達からするとかなり不用意な発言だが、金銭的な余裕があるコウタにとって、現状、クエストはただの暇つぶしでしかなかった。


「どれにしよう⋯⋯。」


 掲示板の目の前で顎に手をあて険しい顔つきになっているコウタに後ろから声がかかる。


「——クエストを探しているのか?」


 直後、背後から聞こえてくる声に反応して振り返ると、そこには鎧を纏った赤髪の騎士の少女がコウタの顔を覗き込むようにして立っていた。


「ああ、アデルさん。こんにちは。今日は面白いクエストでもあればな、と思いまして。」


「面白いクエストって⋯⋯やはり余裕だな。さすがギルマスを倒しただけはある。」


 いかにも余裕な発言を聞いたアデルは、茶化すように笑いながら、腕を組んでそんな言葉を投げかけられる。


「その話はよして下さい。そもそもあっちだって本気じゃなかったんですし。」


「本気ではなかった?ああ、そういえば貴様は観測のスキルも所持していたのだな。相変わらず反則級だな貴様のソレは。」


 周りに冒険者達がいる手前、アデルはコウタに気を使って、あえて濁す言い方をする。


「使ってないスキルがいくつかありましたからね。恐らく切り札か何かなんでしょう。」


「それと、観測の方はアデルさんにしか言ってないのですから、そっちも黙っていて下さいよ?」


 呆れるようにそう答える。


 コウタがオリジナルスキルを所持しているのを知っている人間は今現在、複数人いるが、細かい発動条件やそれらを補助する〝観測〟のスキルの事を知っているのは実はアデルだけなのであった。


「それはすまないな、気を付けよう。⋯⋯⋯⋯だがやはり羨ましいな、まさか二つも所持しているとは。」


 アデルは自分の発言が迂闊だった事に気付き謝罪するが、やはりオリジナルスキルに対する強い興味の方が勝っていた。


「一つバレただけで面倒な事になったのに、二つもあったら余計面倒なだけですよ。」


「貴様はため息が尽きないな。色々苦労しているのだな。」


 コウタがそう言ってため息を吐くと、アデルは苦笑いしながら労いの言葉をかける。


「分かってくれますか?そうなんですよ⋯⋯。ここ来てから面倒ごとばかりで⋯⋯。」


「な、なんだか申し訳ないな⋯⋯。」


 

 コウタが死んだ魚のような目でそう答えると、今度は同情の視線で引き攣った笑顔で答える。




「ところでアデルさんは何がご用事があって来たのですか?」


 気持ちを入れ替える為にコウタは話題を切り替え、質問を投げ掛ける。


「ああ、そうだった。今日は貴様にこれを渡しに来たのだ。」


 そう言ってアデルはマジックバックから袋の中に石のようなものが入ったものを取り出し、コウタに手渡す。


「これは?」


 袋を開き、その中を覗き込むように見つめながらコウタはアデルに尋ねる。


「その中に三日月の護石と言うものが入っている。肌身離さず持っていれば、MPの自動回復の速度が少し早くなる。まぁ⋯⋯あれだ。貴様には色々迷惑かけたし、命まで救って貰ったからな⋯⋯これまで世話になった礼だ。」


 照れ臭そうに視線を外しながら、後半になるにつれて声がボソボソと小さくなっていたが、言ってみればお守り型の装備品であった。


「そんな貴重なものどうやって⋯⋯。」


 そう言いかけた瞬間、アデルの鎧はボロボロでところどころ傷がついていた事に気がつく。


「たまたま、クエストの途中で見つけたのだ。貴様はレベルが低いからあったら便利だと思ってな。」


(たまたま、か。)


「ありがとうございます。大切にしますね。」


 あたかも何も無かったかのような表情で答えるアデルに、もどかしい感情を抱きながらコウタは素直に礼を言う。



「ああ、そうしてくれると嬉しい。」


 それを聞いたアデルもパッと花が開いたような明るい笑顔でそう返す。





「よし!では予定も済んだし、クエストでも受けるか。」


 目的を果たし、スッキリとしたのか、アデルはそう言って笑顔で掲示板を覗き込む。


「暇さえあればクエストなんですね⋯⋯。ちゃんと休んでいますか?無理しちゃダメですからね。」


 コウタが諌めるようにそう言うと、掲示板に向けていた視線をくるりと切り替えてニヤリと笑みを浮かべる。


「大丈夫だ。言われなくともあれからちゃんと休みは取るようにしている。それよりコウタ、一緒にクエスト受けないか?今度はレイドパーティーではなく二人でパーティーを組んで。」


 そしてそんな彼女の手には一枚の依頼書が握られており、話を逸らしながらそんな提案をしてくる。


「一緒に、ですか?構いませんけど⋯⋯。」


 突然の提案を受けて、話に流されることを理解しつつも了承する。


「そうか!では討伐クエストにするが構わないな?」


 若干の拒否感はあるものの、悪くないコウタの返事を聞いて、アデルは嬉しそうにそう返す。


「構いませんが、レベルも上げたいので弱いのは嫌ですよ?」


「それもそうだな、⋯⋯ん?ところで貴様、レベルは上がっているのか?」


 呆れながら発せられるコウタの言葉を聞いて、アデルは思い出したかのように尋ねる。


「はい。ギルマスと戦った後、ちょくちょく上げてましたから。今、15ですね。」


 ギルドマスターであるエティスとの戦いから数週間、特に大きなイベントも無かったコウタは、アデルにも引けを取らない頻度でクエストを受け続け、ひたすらにレベル上げの日々を送っていた。


 普通の冒険者であれば、討伐の依頼など週一回のペースで受け続ければ多いと言われているが、この二人、日に一回、多いときには二回ずつの討伐依頼を受けており、そのレベルアップのスピードは他の冒険者と比較しても群を抜いていたのだ。


「ほう、順調のようだな。」


 予想以上のコウタの成長を見て、アデルは満足げに笑みを浮かべながら答える。


「なんで貴女が喜んでいるんですか。」


「なんでって、将来魔王と戦うのならレベルは少しでも上げとくべきだろう。」


 コウタがジト目気味で問いかけると、アデルは腕を組みながら当然のようにそう答える。


 こちらの意思決定すら無視してもう既に戦うのが前提になっているが、気にしない事にした。


「それより、アデルさんはレベル上がっているのですか?」


「ああ今は、38だ。やはりワイバーン戦が大きかったな。」


 コウタが尋ね返すとアデルは胸を張りながら得意げにそう答える。


 流石のハイペースだけあって、高レベルでも成長が速かった。


(まぁ、それだけじゃないと思うけど⋯⋯。)


 ここ数週間、この街でクエストの受注、達成を繰り返していくうちに、コウタの耳にも彼女の活躍は入って来ていた。


 アデルの隠れて行っているであろう地道な努力にコウタは素直に感心していた。



「ならこれにするか、ワイバーンほどではないが報酬も多いし一日で終わる。」


 そんなコウタの思考をよそに、アデルは手に持った依頼の紙を差し出す。


「良いんじゃないですか?構いませんよ。」


 コウタは討伐クエストと書かれているのを見ると、対して内容を確認することもなく返事をする。


「では受注してくる。待っていてくれ。」


「はーい。」


 それを聞くと、アデルは嬉しそうに笑顔を浮かべながら、受付の方へと小走りで向かう。



(元気だなぁ。⋯⋯っ!?)



 コウタがそんな事を考えていると、突如サイレンの音がギルド中に、いや街中に鳴り響く。


「これは⋯⋯!?」


 その音によって、ギルドの中には動揺する者、指示を出す者、声を荒らげる者、様々な反応で溢れていた。


 その直後、サイレンの音に代わるように、聞き覚えのある男性の声が流れる。


『緊急連絡、緊急連絡、こちらギルドマスターのエティス。ただいま北東方向より魔王軍らしき軍勢の進軍を確認したとの報告を受けた。冒険者達は至急街の北部の入り口に集結せよ。』


「なっ!?」


「⋯⋯マジか。」


 先ほどまで抜けていた気が一気に引き締まり、緊張感で心臓が高鳴るが、コウタはエティスから話を聞いていた分、いくらか落ち着いて放送を聞く事が出来た。


 そして再び放送が流れる。


『もう一度言う。冒険者達は至急街の北部の入り口に集結せよ!なお、今回の件はランク2の緊急クエストとする。』



 コウタがアデルの方を見ると彼女は全て聞き終える前に走り出していた。



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