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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第三章
205/287

二百四話 最悪の選択


 そしてその一方で、コウタとリーズルの戦いは加速度的に苛烈さを増していた。


「⋯⋯オオオオオオォォォォ!!」


 大地が震えるほどの叫びが轟く中、力任せに振り下ろされる鉤爪は、そこから溢れ出る風圧だけで草木や岩を打ち砕き、付与術師の少年に襲い掛かる。


「⋯⋯なっ!?」


 ただ腕を振り下ろしただけで、風属性魔法よりもはるかに破壊力の高い攻撃と化す彼の戦闘能力の高さを見て、コウタは一瞬言葉を失う。


「⋯⋯加、速っ!」


 即座に我に帰ると、スキルを用いて強引にそれを回避する。



(⋯⋯速、いっ、けど⋯⋯!)


 宙に投げ出され、舞い上がる土煙の中で、追撃に備えて武器を構え直す。



「⋯⋯まだ何とかな——」


「⋯⋯ッ!!」



 反応速度ギリギリではあるものの、まだ対応出来る事を確信したその瞬間、コウタの視界から彼の姿が消え、直後に自身の背後に強烈な殺気を感じ取る。



「⋯⋯アアアアァァァァァ!!」



「⋯⋯うっ、そだろ!?」



 振り下ろされる鉤爪に対して、反応が遅れたコウタは、回避ではなく、武器を召喚して防御をする選択を取る。


「⋯⋯ぐっ!?」


 咄嗟に取り出した長刀は、ミシミシと音を立ててひび割れていくが、それでも形を保つ事は出来ていた。


 一方でそれを携えるコウタの小さな身体は、衝撃に耐える事が出来ず、大きく後方に吹き飛ばされる。



「ぶはっ!?」



 吹き飛ばされた小さな身体は、渓谷の岩壁に衝突して小さなクレーターを作る。



「⋯⋯っ、くそっ!」



(攻撃が全く読めない、回避が出来ない。)



 息が詰まるような感覚に襲われながら、それでもなお追撃を繰り返す敵を前に、苛立ちを露わにしながら再び武器を構える。


「⋯⋯けど⋯⋯⋯⋯。」


 しかしながら、それでもコウタは反撃の隙を窺っていた。



「⋯⋯アアァァァァァ!!」


(攻撃が真っ直ぐだから、予測は立てやすい。)



 猪突猛進と言わんばかりに突き進んでくる敵に視線を固定しながら、手に持った武器を構え、開いた手を何も無い空間に伸ばす。



「召喚、加速!!」



 そして同じものを反対の手に召喚すると、スキルによって速度を上げながら勢いよく振り下ろす。


「⋯⋯ガッ!?」


 猛り狂う魔族の少年は、二本の剣から放たれる衝撃波のうちの一つを反射的に弾くが、一瞬遅れて飛んでくるもう一つを回避することが出来ずその顔面に直撃し、動きを止める。



「⋯⋯よし。」



(まだ、大丈夫、勝てる。)



 ダメージ自体は浅いものの、自身の攻撃が当たる事を確認すると、コウタはそこに勝機を見出す。


「⋯⋯⋯⋯。」


 そして彼の視線の先には、攻撃を受けたリーズルが衝撃波によってのけぞったまま動かずにいた。



「⋯⋯⋯⋯?」


(なんだ?動きが⋯⋯。)



「⋯⋯ぷはっ!!」



 その様子にコウタが違和感を感じていると、突如リーズルは大きく息を吐き出しながら空中で体制を立て直す。



「⋯⋯なっ!?」



「⋯⋯ふう、帰ってこれたっス。」



 その瞬間、コウタが最悪の状況を予見すると、直後にその想像通り、全くの正気を見せるリーズルの言葉が聞こえてくる。



「⋯⋯うっそだろ。」



 高過ぎる身体能力に加えて、唯一の弱点であった知能の低下が消え、本格的に勝ちの目が潰え始める。


「⋯⋯⋯⋯悪かったっスね。この力は、慣れるのに時間がかかってしょうがない。」



「けど、ここからは全力でお相手出来るっス。」



 先程までとは打って変わり、リーズルは理性的でありながらもやる気の満ち溢れた態度で武器を構える。


「⋯⋯⋯⋯。」


 それとは対照的に、コウタは目を見開いたままの状態で生唾を飲み込見ながら武器を構え直す。


「⋯⋯続きをやりましょう、第二、いや、第三ラウンドっス。」


「⋯⋯⋯⋯。」


 そんな彼の言葉と共に、その場に沈黙が流れる。



「⋯⋯⋯⋯ッ!」



 直後、放たれる殺気に反応してコウタは飛び出す。



加速かそ——ッ!?」



「——遅えっス。」



 視界から敵の姿が消え、咄嗟に距離を取ろうとスキルを発動させようとした瞬間、目の前に攻撃の態勢を整えた少年の姿が映る。



「ごほぁ!?」



 直後、コウタの腹部に鉤爪が突き刺さると、その小さな身体は真っ赤な血を吐き出しながら後方の壁まで吹き飛ばされる。



「⋯⋯次だ!!」



「⋯⋯う、あ、ぁ⋯⋯。」



 即座にコウタに向かってリーズルが飛び出すが、コウタは呻き声を上げながらその姿を見据える。



「⋯⋯⋯⋯ッ!」


 そして、衝突の瞬間に、コウタは咄嗟に〝加速〟のスキルを発動させて紙一重でそれを回避する。


(⋯⋯避けやがった!)


「⋯⋯加速!」


 そして岩壁に鉤爪を突き刺して動けなくなったリーズルに向かって蹴りを放つ。


「けど、残念。」


「⋯⋯っ!?」


 その蹴りはリーズルの顔面に直撃したものの、ダメージどころか怯む様子すら無かった。



「その程度の攻撃じゃ、ダメージは入んねえっス。」



「⋯⋯加速!」



 岩壁から鉤爪を抜き出されると同時に、コウタは咄嗟に加速のスキルで距離を取る。



(強過ぎる、ここはいったん距離をとって⋯⋯。)



「——逃すと思うっスか?」



 しかしながら、思考の余地すらも与えられる事なく、リーズルはコウタの目の前まで飛び込んでくる。


「ちぃ⋯⋯!」


「⋯⋯⋯⋯ッ!」


 しかしながら、その攻撃も先程と同じように回避をすると、何も無い空間に大量の武器を召喚して、その上を駆け上がるようにして上空へと飛び上がっていく。



「⋯⋯加速!!」


 そしてその小さな身体を目一杯回転させながら、その目の前にザビロスの剣を二本ほど召喚すると、コウタはそれを力任せに振り下ろす。



「「⋯⋯ッ!」」



 二本の大剣と一対の鉤爪が重々しい金属音を上げて衝突する。



(大剣の二刀流、攻撃が通らないのを顧みて、即座にパワーを上げてきたのか。)



 強引であるが、理に適った、そんな攻撃を受けて、即座にそれを繰り出してきたコウタの技量に敵ながら感心すら覚える。


「なかなかいいじゃねえっスか、けど、まだ軽い!」


 しかしながらそれすらも防ぎ切ったリーズルは、力任せに二本の剣を弾き返す。



「ブラインド・ブレイズ!」



 そんな言葉と同時に、ふわりと浮き上がる小さな身体の背後から、無数の剣が襲い掛かる。


「⋯⋯残念。」



「⋯⋯フランホルン!」



 リーズル余裕を持った態度でその全てを弾くと、間髪入れずに炎の車輪が空を切りながら迫り来る。


「⋯⋯それも、もう効かねえ!」


 二本の真っ赤な刃を鉤爪で受け止め、遅れて降り注ぐ炎の斬撃をノーガードで受け切ると、ニヤリと笑みを浮かべてコウタの体ごとその剣を押し返す。



「⋯⋯剣牢アルマ・カテーナ



 自らの攻撃が一切通用しない事すら意に介さずそう呟くと、リーズルの身体を拘束するように数本の武器が何も無い空間に現れる。


「⋯⋯この程度で、動きを封じたつもりっスか?」



「ロック・チェイン!」



 いささか拘束が甘いのでは無いか、などと考えていると、コウタは間髪入れずに手元に金色の光を召喚してそれを投げつける。



「⋯⋯ロック・チェイン!」



 投げつけた鎖がリーズルの身体に巻きつけられると、コウタは再び鎖を召喚して更に強くその身体を拘束する。


(多重拘束、つまり本筋はコレの次⋯⋯!)



「⋯⋯龍撃破!」



 案の定、コウタの狙いはリーズルの考え通りであり、召喚し、弾かれた武器の全てを集結させて撃ち放つ。



「⋯⋯ドラゴン・ブレス」



 刹那、小さな呟きが空気に溶け消えると、遅れて竜の力を纏う少年の口から、真っ赤な火炎が吹き出される。


「⋯⋯ッ!」


「⋯⋯その程度じゃ、龍を撃つのは無理っスよ!」


 突然飛び出してきた飛び道具を前に、コウタが大きく目を見開いていると、リーズルは自らを拘束する武器を破壊してニヤリと笑みを見せる。


「⋯⋯いない?」


 炎が消えると、目の前にコウタの姿は無く、リーズルは即座に周囲を見渡すが、その答えは視界でも思考も無く、直感が導き出す。


「いや、また上か!」



「⋯⋯ちぃ。」


 遅れて宙に舞い上がった黒煙が晴れると、その先にはリーズルの予想通り、コウタの姿が現れる。


「オッ、ラァ!!」


「⋯⋯くそっ。」


 コウタの小さな舌打ちの後、振り下ろされる武器を弾き返すと、二人は再び距離を取って近くの岩場に着地する。


「⋯⋯その剣、重過ぎてあんたのステータスじゃ、空中で召喚して振り下ろすって攻撃しか出来ないんスよね?」


「そんな読まれやすい攻撃しか出来ないって事は、今のアンタにアレ以上の火力を出せる技は無いってことっスよね。」


「⋯⋯⋯⋯。」


 雄弁に語るリーズルの言葉に対して、コウタは何も答える事なく武器を構え直す。


「⋯⋯別に答えなくてもいいっスけど、もし本当にそうなら、多分もうアンタに勝ち目は無いっスよ?」


 その瞬間、リーズルはその手を横薙ぎにゆっくりと振り、ピタリと肘が伸び切ったところで止める。



「⋯⋯⋯⋯ッ!」



 直後、彼の腕の動きに合わせるように鉤爪と同じ本数の真っ赤で巨大な光の筋が現れる。


「⋯⋯なっ!?」



「——ドラゴンクロー。」



 一本あたり全長十メートルは下らない大きさの光の筋を見てコウタが大きく目を見開くと、遅れてリーズルがその技の名を呟く。


 そしてゆっくりと腕を振り上げると、その光は動きに合わせてコウタの元へと撃ち放たれる。



「⋯⋯っ、加速!」



 高速で飛来する巨大な光の筋。


 理屈よりも先に本能でそれの危険性を感じ取ると、コウタは先ほどよりも更にギリギリのタイミングで回避する。


「⋯⋯ほら、まだまだ!」


 しかしながらリーズルの攻撃は止まらことなく撃ち放たれ、光の筋は彼のもとを離れると同時にまるで再装填するように撃ち放った端から反対側の手に生み出される。


「くそっ⋯⋯。」


「⋯⋯⋯⋯。」


 あまりに隙がない敵を前にコウタは一瞬悪態を吐きそうになるが、即座に思考を切り替えて舞い上がった土煙の中へとUターンする。


「また爆煙に紛れたか、となると次は⋯⋯。」


 先程の戦闘とやり取りを考えれば、真上からの攻撃の可能性は低いと考えたリーズルは、次に死角を突くことの出来そうな背後と真下を警戒する。



「⋯⋯加速!!」



 しかし今回の予想は外れ、煙が晴れるよりも早く、最短距離で真正面からコウタの姿が現れる。



「⋯⋯だから、効かねえっての!」


 振り上げられる先ほどよりも細く小さな剣を弾き返そうと拳を突き出す。



「⋯⋯⋯⋯ッ!?」



 直後、真っ赤なオーラのようなものに包まれた彼の身体がコウタの剣に触れると、その赤いオーラは強引に弾き飛ばされるように砕かれて消失する。



「⋯⋯っ、な、にが?」


(付与が剥がれた?⋯⋯これは⋯⋯⋯⋯。)



「⋯⋯龍殺しの剣(ドラゴンスレイヤー)っスか。」



 突然の出来事に動揺したリーズルは、すぐに距離をとって付与を再展開させると、忌々しそうにコウタの手に握られた剣の名を呟く。



「やっぱり、龍に準えた力を使えるなら、龍としての性質も付与されますよね。」



 その剣の名は龍殺しの剣(ドラゴンスレイヤー)、竜の属性を持つ敵に対して、特攻性能を持つ剣。


 普通に使うだけなら、少しばかり切れ味と強度が高いだけの魔剣、しかし今のリーズルにとってそれは、命取りとなりかねない程の破壊力を持っていた。



「⋯⋯だからどうした。」


 けれど、それでリーズルが止まる事はなく、むしろ絶対に接近させないと言わんばかりにその攻撃は苛烈さを増していく。


「⋯⋯⋯⋯ッ!!」


「⋯⋯くっ、そ。」


 舞い上がる黒煙に隠れようと気配を消すが、その直後に放たれた光の筋が黒煙を切り裂く事で即座に再捕捉される。


「⋯⋯流石に何度も見失わないっスよ!」


(これ以上紛れるのは無理か⋯⋯。)


 しっかりと不意打ちの対策をされている事に若干の苛立ちを覚えながら次の策を試案する。



「⋯⋯だったら⋯⋯⋯⋯召喚!」



「⋯⋯炎の剣か。」


 そしてしばらく考え込んだ後、数本の真っ赤な剣を背後に召喚してそれを投げつける。


「⋯⋯行け!」


「⋯⋯っ、炎の壁?」


 そしてリーズルの周りでそれらを回転させる事で大量の火柱を上げて彼を取り囲む。


「⋯⋯まさかこの程度で動けなくなるとな思ってないっスよね?」


 そんな事など毛頭考えていないリーズルは、軽口を叩きながらも次に備えて警戒を最大まで引き上げる。



「召喚⋯⋯加速!」



 そして案の定、炎の壁を抜けて先程の剣がリーズルの元へと迫る。



「⋯⋯確かにソレはオレにとって天敵だ。」



(けど、アンタの投擲なら、素の身体能力で弾けるんだよ!)



 不意を突かれた先程とは違い、完全に警戒していたリーズルは、その魔剣の投擲を真正面から弾き返す。


「⋯⋯脆い。」


 弾き返す鉤爪と、それを装着する右手に纏われた付与が剥がれ落ちながらも、リーズルは次に備えて周囲を見渡す。



「⋯⋯グレイテスアンカー。」



 その直後、炎の壁の向こう側から、巨大な錨のような剣を携えた少年が飛び出してくる。


「⋯⋯⋯⋯ッ!?」


「⋯⋯くっそが!!」


 咄嗟に右腕を突き出して迎え撃とうとするが、その判断は完全に悪手であった。


「⋯⋯⋯⋯ッ!」


「⋯⋯加速!」


 突き出された剣は付与の剥がれた右腕を正確に打ち抜き、骨や肉ごと彼の鉤爪を破壊する。



「ぐっ、コイツッ⋯⋯!!」



(付与が剥がれたところを狙って⋯⋯!?)



「舐めてんじゃねえええ!!」


 激昂したリーズルは、撃ち抜かれた右腕と、無傷の左腕を縦横無尽に振り回し、息も詰まるような光の筋の乱撃を行う。


「⋯⋯くそっ。」


 それはもはや光の壁とも言うべき光景であった。



「⋯⋯加速、召喚⋯⋯⋯⋯加速!」



(止まらない、一気に畳み掛ける気だ。)



 コウタは召喚した武器を足場にして、何も無い空中を駆け抜けるようにして回避する。


(どうする、どうやって、こいつを倒す?)


「⋯⋯っ、しまっ!?」


 心の中に一瞬、迷いが生じると、コウタは足場にしていた武器を踏み外し宙に投げ出される。



「貰った!!」



「⋯⋯っ!」



(どうする、回避?いや無理だ、だったら、霊槍⋯⋯!)



 無防備な態勢の中で撃ち放たれた攻撃を前に、コウタはその頭をフル回転させて対抗策を模索するが、至った結論は苦し紛れのものであった。



「召喚!」



 それでもそれ以外の選択肢が無かったコウタは、ほぼ反射的に切り札を切る選択を取る。



「⋯⋯なっ!?」



 しかしながら、彼の切り札はその言葉に反応する事はなかった。



(⋯⋯MP切れ!?)



 直後にその原因に気がついたときにはすでに手遅れであった。



「⋯⋯⋯⋯ちぃ。」



「⋯⋯⋯⋯ッ!」



 最後に小さく舌打ちをすると、光の筋はコウタの身体へと直撃する。


 小さな爆発の後、白い煙が小さな少年の身体を包み込み、その場に沈黙が流れる。


「⋯⋯⋯⋯。」


「⋯⋯珍しくクリーンヒットって事は、そっちも限界が近いっスか?」


 煙がゆっくりと晴れていき、その奥で立ち尽くす少年の姿を見て、リーズルは苦しそうに笑いながらそう尋ねる。



「⋯⋯くそっ。」



(判断を誤った。もっと早く霊槍を使ってれば、問題なく勝てたのに、使うのを躊躇った。)


 咄嗟に攻撃を防ぐ為に突き出したせいで、ズタボロになった右手を眺めながら、コウタは吐き捨てるようにそう呟く。


(こいつが強いのも、自分の手札が減ってしまったことも、よく分かってたのに、心のどこかで侮っていた。)


(一度勝っているからと、舐めてかかっていた。)


「⋯⋯その結果がコレじゃ、笑い話にもならないな。」


 自身の見込みの甘さを後悔する頃には、もう既に後戻りできないところまで来ており、取れる選択肢はどうしようもなく狭まっていた。


「⋯⋯けど、まだ負けた訳じゃ⋯⋯⋯⋯。」




『——無茶するのは許さない。』



 どうやって目の前の敵を倒すか、と考えていたコウタの脳裏に、先程送り出したばかりの少女の言葉が響く。


「⋯⋯っ!」


 コウタの表情が、重々しく、辛そうなものへと変化する。




「⋯⋯ああ、ちくしょう。」


 そして小さく俯くと、悔しそうにそう吐き出す。


「⋯⋯あ?」



「やっぱりお前は強いよ、リーズル。」



「いくら策を張り巡らせたって、いくら技を重ねたって、悔しいけど、今の僕じゃお前を超えられない。」



 最初から全力で戦っていれば負わずに済んだかも知れない傷を眺めながら、自身の過ちを認めるようにそう言い放つ。



「だから、こっちも出し惜しみは無しです。」



「⋯⋯⋯⋯。」



 そして自らの召喚した全ての武器を消失させると、ボロボロになった右腕を真っ直ぐに伸ばす。





「⋯⋯召喚。」


 コウタの目の前の何も無かった空間が、漆黒の光を放ちながらまるで水面に水滴を落としたように歪んでいく。


 空間の揺らぎは歪に元に戻りながらその奥から一本の剣を形作っていく。


「⋯⋯っ!そ、いつは⋯⋯⋯⋯。」


 そして、その剣は敵であるはずのリーズルの方が、よく知っている形状をしていた。



「⋯⋯ァァァァァァァァァァ!!」



 その剣からはまるで女性の鳴き声のような、響き渡る不快な金属音のようなそんな高音が響き渡っていた。



 その剣の名は、虚栄の呪剣。



 以前、たった一人の少女が仲間を守る為に振りかざした強力無比な魔剣の一つ。



「⋯⋯⋯⋯っ!?」



 生唾を飲み込みながら、勢いよくその柄を握り締めると、直後に考えうる限り最大とも思えるような不快感、気持ち悪さがあり得ないほどの力の奔流と共に流れ込んでくる。


「⋯⋯うぐっ!?⋯⋯くっ、そが!!」


 指先から脳天まで、弾けるような激痛と、それを追いかけるように広がる不快感に意識を飛ばされそうになりながら、コウタは強引にその力を抑え込もうとする。



「⋯⋯だいっ、じょうぶ、いける⋯⋯いける!」



 しかしそう上手くいくものでも無く、白い髪や眼球などのコウタの肉体は、徐々に闇に侵食されていく。


(あの子にだって出来たんだ、この程度の力、すぐに、従えてみせる!!)


「⋯⋯おおおおぉぉぉぉ!!」


「⋯⋯⋯⋯ッ!!」


 全身が闇の力に包み込まれながら、強引に力の流れを掴み取ると、その力は溢れるように広がっていき、二人の視界を覆い隠していく。


「⋯⋯⋯⋯。」


 そして闇の力を振り払い、沈黙が流れると、リーズルはコウタの姿を見て、ニヤリと引き攣った笑みを浮かべる。




「⋯⋯ソレが、アンタの全力っスか。」


 白い髪を闇色に染めて、右の眼球の白黒は逆転し、ギョロリと敵を睨み付けるその姿は、より魔物の姿に近い何かを感じさせた。



「ああ、そうとも。⋯⋯かかってこい、リーズル。」



「叩き潰してやる。」



 これまでとは明らかに何かが違う、狂気を孕んだ笑みを浮かべながら、キドコウタははっきりとそう宣言する。


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