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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第三章
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二百二話 異能付与


 一度目の衝突は、互いに一歩も譲らず、鍔迫り合いの要領で力比べの様相を呈するが、軍配が上がったのはリーズルの方であった。


「⋯⋯加速!!」


 ふわりと身体が浮き上がり、後方に吹き飛ばされたコウタは、着地と同時に加速のスキルを使って再び距離を詰める。


「遅え!!」


「⋯⋯ぐっ!?」


 しかしそれよりも速いリーズルは、息づく暇もないような二撃目を余裕の持った態度で弾き返す。



「はあ!!」



「⋯⋯ちぃ。」



「ほら、二発目!」



 そして再び武器を弾き上げると、ガラ空きになった少年の腹部に蹴りをたたき込む。


「⋯⋯っ!?がはっ!」



「⋯⋯ぐっ、うう⋯⋯⋯⋯。」



 派手に吹き飛ばされたコウタの身体は、後方にある大きく太い木に衝突して地面に落ちる。



「⋯⋯流石に、こうなるのは目に見えてたっスよね?」


「いかに同種の力と言っても、そっちは唯の付与魔法で、こっちはオリジナル、差が付いて当然っス。」


 純粋な力の差を示しながら、リーズルは気付けよと言わんばかりに呆れたようにそんな言葉を呟く。



「舐めるな、そっちも早く本気で来い。」



「⋯⋯本気ですよ、最初っから。」



 そして最後にそう言われると、コウタはフラフラと立ち上がりながら短くそう答える。



「嘘をつくな、使えよ。蒼剣モードってやつを。」



「⋯⋯っ。」



 そう言われた瞬間、コウタは大きく目を見開きながらその動きを止めてしまう。



「それとも、出し惜しんで負けるのが本望っスか?」


「⋯⋯そんなに出して欲しいなら、無理矢理にでも引き出してみては?」


「⋯⋯っ?」


 投げかけられる挑発に対して、挑発で返すコウタの言葉に、違和感を感じたリーズルは、不思議そうに首を傾げる。



「⋯⋯まさかアンタ、られたんスか?ルキの野郎に。」



「⋯⋯⋯⋯。」



 ハッと何かに気付いたように尋ねると、案の定、帰ってきた反応は沈黙であり、リーズルは自らの想像を確信へと変える。



「ちっ、あの野郎、トコトン余計なことばっかりしやがってっ⋯⋯!!」



「⋯⋯まあいい、だったらアレ使えよ。」



 あからさまに苛立ちを露わにしながらも、すぐに思考を切り替えたリーズルは舌打ちをしながらそう呟く。



「⋯⋯アレ?」



「霊槍は使えるんだろ?」



「⋯⋯っ。」



 それを聞いた瞬間、コウタの脳裏にとある言葉がふと響き渡る。



——無茶するのは許さない。



「⋯⋯⋯⋯使う訳ないでしょう?」



 そんな彼女の言葉を思い出しながら、一瞬言葉をつまらせると、再び挑発するようにそう返す。



「⋯⋯ちっ、だったらすぐに引き出してやるよ!」



「ブラインド・ブレイズ!」



「⋯⋯ちっ。」


 真っ直ぐに直進してくる敵に対して、背後から十字を切るように剣を放つと、リーズルは即座に後方に飛び退く事でそれを回避する。



「⋯⋯加速!」



(もう、一発!)



 そしてそれを逃すことなく距離を詰めると、剣でも槍でもなく、武器を使わないただの蹴りを放つ。



「⋯⋯っ!」



 リーズルは咄嗟に左手でそれを防ぐが、直後に自らの腕からコウタの足に向かって金色の鎖が繋がれている事に気が付き、自らの判断が誤っていた事を理解する。



「⋯⋯ロックチェイン。」



「⋯⋯しまっ!?」



 反射的に鎖を斬ろうと、右手の鉤爪を突き立てるが、それよりも早くコウタはかかと落としの要領で自らの足に繋がれた鎖ごとリーズルの腕を引き下げる。



「加速!」



「⋯⋯ぶっ!?」


 そして先程の意趣返しと言わんばかりに、スキルによってブーストされた拳を、ガラ空きになった頬に叩き付ける。


「⋯⋯引き出せるものならどうぞ。前回みたいに、返り討ちにしますから。」


 あまりの勢いに仰け反りながら距離を取るリーズルに対して、コウタは挑発をする。



「この野郎っ⋯⋯!」



「⋯⋯っ、加速!!」



 リーズルが飛び出すと同時に、コウタもスキルを発動させると、二つの影は衝突を繰り返しながら生茂る木々の隙間を抜けて森の中を駆け抜けていく。



「こっのぉ!」



「クソがっ!」



 一面緑の大自然の景色には似つかわしくない金属音が鳴り響く中、その中心では二人の戦士が自らの攻撃を弾かれることに苛立ちを覚えながらさらに速度を跳ね上げていく。


 影がブレるほどの速度で何度目かの衝突が巻き起こるが、それでも決定打になる事はなかった。



(埒があかねぇ!)



「おおおおぉぉぉぉ!!」



 痺れを切らしたリーズルは、鉤爪を突き立てながら突撃する。



「⋯⋯加速!」



「ぶっ!?」



 それを冷静に回避したコウタは、ガラ空きになった腹部に全力の蹴りを放つと、リーズルの身体はくの字に折れ曲がる。



「⋯⋯っ!?」



 しかしながらその直後、コウタは蹴りを放った左足に重たい違和感を感じる。



「⋯⋯貰った。」



 攻撃を喰らいながらコウタの足を掴み取っていたリーズルは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、小さなその身体を力任せに投げ飛ばす。



「⋯⋯っ!」



「ロックチェイン!」



 先程のように近くの木に衝突しそうになったコウタは、咄嗟に右腕から金色の鎖を放って近くの木に括り付ける。



「⋯⋯ぐっ。」


 鎖の力によって、強引にその威力を削り、衝突は免れたものの、コウタの右腕には鈍く重苦しい痛みが走る。


「まだまだ!」


「⋯⋯召喚!」


「脆い!」


さらに距離を詰めるリーズルの攻撃を防ぐために、コウタは即座に武器を召喚してみせるが、呆気なく砕かれて目の前まで迫られる。



(避けられない。)



「⋯⋯くそっ。」



 そんな刹那の瞬間に、コウタは防御をするしかない事を悟ると、忌々しそうにそう吐き捨てる。



「⋯⋯うぐっ!?」


 直後、腹部に強烈な蹴りが突き刺さり、コウタの身体は、大きく後方に吹き飛ばされる。



「⋯⋯ぶはっ!」


 吹き飛ばされたコウタの身体は、草木を抜けても止まる事はなく、その先にある何もない空間にまで投げ出される。



「⋯⋯⋯⋯っ、川?いや、谷か?」



 森を抜けてすぐに地面は消え、切り立った崖の先には緩やかな川の流れが目視で確認出来た。



「⋯⋯っ、なんだ?」


 咄嗟に足元に武器を召喚し、それに乗りながら追撃に備えようとするが、コウタはそこで違和感に気が付く。


(⋯⋯なんで攻撃を止めた?)


 先程まで怒涛の勢いで攻撃を仕掛けて来ていたリーズルの動きが完全に停止し、崖の上からじっとこちらを見つめているだけであった。



「追撃、来ないんですね。」



「それともこういうフィールドは苦手ですか?」



 そんな彼の姿を見上げながら、コウタは短く問いを投げかける。


「⋯⋯はっ、何言ってるんスか?」



「⋯⋯忘れたっスか?俺のスキルは、異能付与、獣の力だけじゃねえっス。」



 ニヤリと笑みを浮かべそう言うとリーズルの身体の周りに纏われていた金色の光が弾けるように消え去る。



「⋯⋯は?」




空帝グリフォン付与・エンチャント



 そして躊躇いなく目の前の崖から飛び降りてそう呟くと、彼の身体は再び小さな光に包まれていく。


「⋯⋯なっ!?」


 彼を包む光が、背中から飛び出す二枚の翼のように変化すると、自由落下する身体は空中で上下に揺れ動きながら停止する。


「⋯⋯いくっスよ?」


「⋯⋯ッ!」


 その光景を眺め、様子を伺っていると、リーズルの姿は一瞬だけ消えて次の瞬間にはコウタの目の前にまで差し迫っていた。



「⋯⋯しまっ!?」


(速、過ぎるっ!?)



 遅れて周囲の空気が揺らめき、真下にある水面までが波打つ頃にようやくコウタはそれに反応するが、少しばかり遅かった。


「⋯⋯⋯⋯ッ!!」


 コウタの脇腹に強烈な膝蹴りが突き刺さり、鈍い音ともに全身に衝撃が迸る。


「⋯⋯ぶふっ!?」



「がはっ、ごほっ、ごほっ⋯⋯。」



 一瞬遅れて吹き飛ばされると、コウタの身体は先程よりも強烈な勢いで後方へ投げ出され、硬い岩の壁に衝突する。



「この力は鳥の力を身体に宿し、誰よりも速く空を駆けることが出来る。」



「そして、遮蔽物も障害物も無いこの場所なら、その威力も存分に発揮出来る。」



 そしてその結果として、状況は先程以上に悪く、能力の差がより直接的に実力の差として現れ出す。



「⋯⋯なるほど。」



ビーストと、グリフォン⋯⋯。そして類似ニアか⋯⋯。)



(法則性は分からないけど、恐らくは自身とは違う何かに準えた力を付与する能力、かな?)



 そんな中、コウタはリーズルの言葉を片手間で聞き流しながら彼の能力について考察をする。



「じゃあ、そうなると⋯⋯。」



「⋯⋯ちっ。」



「⋯⋯よそ見してんじゃねぇ!」


 思考が纏まりかけた瞬間、リーズルは苛立ちを露わにしながら再びコウタに突撃する。



「⋯⋯召喚!」



「「⋯⋯⋯⋯ッ!!」」



(弾かれた?)


 次の瞬間、先程と同じように蹴りを放ったリーズルの身体は、まるですり抜けるように受け流される。


「⋯⋯ッ!?」


 遅れてその背中に巨大な拳に殴り付けられたような衝撃が迸る。



「⋯⋯斬波。」



 振り返ると、コウタがリーズルに向かって身の丈ほどもある長剣を振り下ろしている姿が見えた。



「⋯⋯飛び道具、かよ。」



「⋯⋯遮蔽物も障害物も無い。それを有利に使えるのは、貴方だけじゃ無い。」



 崩れ落ちそうになるリーズルに向かって、コウタはニヤリと笑みを浮かべながらそう言い放つ。



「そうかよ!!」


 こめかみに青筋を立てながら突撃するリーズルは、上下左右に高速で方向転換を繰り返しながらコウタに接近していく。


「加速!」


「⋯⋯ちっ。」


(⋯⋯当たらない。)


 縦横無尽に空を駆けるリーズルに的を絞りながら魔剣による衝撃波を放つが、そのスピードに対応する事が出来ず、攻撃は全て背後の壁に衝突して弾ける。


「遅え!!」


 そしてリーズルがコウタの目の前にまで迫ると、今度は攻撃ではなく、コウタの服の端を掴んで再び投げ捨てる。



「⋯⋯っ、もがっ!?」



(速い、そして予想通り水中に引き込んできた。)



 強烈な勢いで水面に叩きつけられたコウタは、その衝撃によって大きく息を漏らす。


 しかしながら、常人の数倍の肺活量を持つコウタは、空気が漏れ出した状態であるにも関わらず、隙を見せることを嫌って、水中で、そのままの体制で次の攻撃に備える。


「行くぞ、次は!!」


 そして案の定、リーズルはコウタの予想通りに水中に飛び込むと、再び別の光をその肉体に灯す。




海獣シャーク付与・エンチャント





(今度は、サメか。)


 青色の光が肉体の外側へと飛び出し、背部にヒレのような突起が見えると、コウタはその能力を予想する為、思考を回す。


「⋯⋯⋯⋯ッ!!」


 しかしながら、そんな隙すら与えないほどの速度で一気に距離を詰めるリーズルは、コウタの頭部に蹴りを放つ。



「⋯⋯がぼっ!?」



(くそっ、溺れる⋯⋯。)



 視界が揺れ、肺の中にあった全ての空気が一気に漏れ出し、流石に水中に止まることが苦しくなると、コウタは慌ててそこから離れて水面へと向かう。



「⋯⋯ぶはっ!⋯⋯召喚、加速!」



 迫り来る敵を尻目に水面から顔を出すと、召喚した武器を土台にして飛び上がり近くにあった岩場へと着地する。


「⋯⋯はっ、はっ⋯⋯。」


(水中は流石に分が悪過ぎるか。)




「⋯⋯やっぱ、咄嗟の判断力はめちゃくちゃ速いな。」


 苦痛に顔を歪ませながら膝を突いていると、遅れて水中から上がってきたリーズルはゆっくりとこちらに歩み寄りながらそんな言葉を呟く。


「⋯⋯⋯⋯?」



「もう分かってると思うっスから、教えてやるっスよ。」



 黙って睨み付けるコウタに対して、リーズルは見下した視線のままに口を開く。


「大地を駆る野獣、天空から獲物を狙い撃つ鳥類、水中を自在に進む魚。」


「オレの異能付与ニア・エンチャントは、周囲の環境に合わせてそれらを使い分けることが出来る。」


「どこに逃げたって、どう戦ったって、オレはアンタの上をいけるんスよ。」


 そして、そんな彼の言葉の通り、二人の間にはかなりの実力の開きがあり、小手先だけの小技ではその差を埋めるのは難しくなっているのが現状であった。


「⋯⋯それはどうでしょうね?」


 それでも諦めないコウタは、ゆらりと立ち上がると、加速のスキルを用いて一気に距離を詰める。


「⋯⋯ッ!!」


(斬り払い⋯⋯来るっ!)


 リーズルはコウタの視線から狙いを読んで二つの鉤爪を自らの首を守るように構える。


「⋯⋯っ!」


 するとコウタは構えていた剣を咄嗟に左の逆手に持ち替え、そのまま空になった手で空を切る。


「⋯⋯なっ!?」


「⋯⋯加速。」


 そして速度を上げながら体を回転させ左手に逆手で持たれた剣でガラ空きになったリーズルの左脚を斬り付ける。


「⋯⋯くそっ、が!」


「⋯⋯⋯⋯。」


 僅かに鮮血が舞い、遅れてその足に痛みが走ると、リーズルは苦々しい表情でそんな言葉を吐き出す。


(力は温存して、あくまで技術だけで俺を倒すつもりってか?)


「⋯⋯ナメんな!」


 その行動の裏にある彼の思想が透けて見えると、少年は激昂しながら鉤爪を手にした腕を突き立てる。


「⋯⋯加速!」


「⋯⋯ぶはっ!?」


 しかし、先程よりもはるかに遅い攻撃に対して、的確に回避の選択を選ぶと、空いた腹部に全力の蹴りを放つ。


「⋯⋯く、っそ!」


「⋯⋯⋯⋯。」



「⋯⋯そのスキル、状況に応じて使い分けてるみたいですけど、それってそれぞれの形態になんらかの強みがあるからですよね?」



 苛立ちながら距離を取る敵を前に、コウタは確認するような口調でそう問いを投げかける。



「そして、強みがあるなら当然弱点だって存在する。」


「ビーストは柔軟な動きと高い身体能力で障害物が密集した所では強いけど、開けた空間ではその機動力を十全には使いこなせない。」


「グリフォンは飛行性能とスピードこそズバ抜けてるけど、それ以外のステータスは思ったほど上がってない。」


「そして、シャークは水中でこそ強力だけど、水から出れば大した事はない。」


 それまで見た全ての形態の弱点を考えつく限りで全て口にすると、クスクスと籠もった笑い声だけが返ってくる。



「⋯⋯まさか、この短時間で能力どころか弱点まで見破れるとは思わなかったっス。」



「⋯⋯仕方ないっスね。」



 そう言って顔を上げる彼の表情は、強い覚悟の中に、僅かな開放感と好奇心すら混じったような、そんな複雑なものであった。



「⋯⋯本当は、ギリギリまで使いたくなかったんスけど、これしか勝ち目がないなら、出し惜しみは出来ない。」



「⋯⋯何を?」



「⋯⋯すぅ。」



 言っていることの意味が分からないコウタの問いかけに対して、少年は一切言葉を返すこと無く、その肺一杯に空気を取り込む。



「行くぞ、勇者候補!!これがオレの、全身全霊だ!!」



 大地が震えるほどの叫び声の後、鉤爪の戦士は拳を突き出すように構えを取る。




竜王ドラゴン付与・エンチャント!!」




「⋯⋯⋯⋯ッ!!」



 直後、紅蓮の光が爆ぜるように差し込み広がっていく。



「⋯⋯なっ!?」



「⋯⋯⋯⋯。」



 光が止むと、その奥には赤黒く濃い光に包まれた彼の姿が現れ、纏うように張り付いていた光はゆっくりとその形を変えて翼や尻尾のような何かを形成していく。



「⋯⋯嘘でしょう?」



「⋯⋯⋯⋯。」


 全ての変化が終わり、最後に閉じていた瞳をゆっくりと開けると、その眼球は鮮血を思わせる赤に染まっていた。




「⋯⋯ア、ァア⋯⋯ウオオオオオオオァァァァァ!!」



 大地を砕くは竜の咆哮、漲るは無限の闘志。


 今、天才と呼ばれた少年は、己の全てをかけて目の前の敵に牙を向く。


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