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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第三章
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二百一話 かつて天才と呼ばれた少年


 その頃、ハサイの街から遠く離れた地、魔王城の一角ではとある男が大きな瓶に入れられた酒を手に月夜を眺めていた。



「⋯⋯ベルザーク。」


 そんな男の名を呼ぶのは、褐色の肌に銀色の髪をした男、魔王軍元帥、ルシウスであった。




「⋯⋯来ましたな、ルシウス殿。」


 そんな声に反応して振り返る男、ベルザークはそんな彼の顔を見て小さく微笑みながらそう返す。



「⋯⋯リーズルの追跡にはキエラを向かわせました。」



「⋯⋯⋯⋯。」



 遅れてそう言うと、シリウスは黙って視線を逸らす。



「どうですか?一杯飲みませんか?」



「⋯⋯ああ、頂こう。」


 そんな彼に気を遣ってベルザークがそう言うと、ルシウスはそう言って差し出されたグラスを受け取る。









 ベルザークに誘われるがままにバルコニーへと出ると、二人はグラスを交えながら再び闇夜に輝く月を眺め始める。



「——リーズル・アメン、あやつは昔から天才でした。」



 グラスの中で紅く輝くその酒を煽るように飲み干すと、ベルザークは短く、そして小さくそう呟く。



「知っているよ。アイツの才能は、私も良く知っている。」


「旧魔王軍幹部、ラーウズ・アメンの息子にして、並ぶものなき強力なオリジナルスキルを持っていた。」



 そう言葉を返すと、ルシウスは彼の言葉を肯定しながらはっきりとした口調でそう語る。



「他の幹部並みに経験を積ませていれば、いずれ四天王にも匹敵するほどの才能はあったでしょうな。」


「⋯⋯だが、それを我々は潰した。」



 一言で彼の言葉を断ち切ったルシウスの口調には、ほんの少しの後悔と不甲斐なさが感じられた。



「以前幹部に推薦した時も、あやつは頑なに断ったんです。私や、貴方に気を遣って。」


「史上最年少で幹部になるチャンスを捨てて、フリートの血への忠誠を取ったのです。」


 あの少年は決してプライドの低い男ではなかった。決して向上心のない戦士ではなかった。


 しかし、それでもなお自身の感情を無視してまで貫き通そうとした信念はあった。



「私と並び立とうとはしなかった、いや、貴様の上に立とうとしなかったのか。」



 プライドや名声を捨ててまで貫いてきたものがあった。



「将ではなく戦士であれ。そんな父親の教えを守り続けて、あの男はプライドやチャンスを蔑ろにしてきたのです。」


「責任とプライドの間で板挟みになりながら、あやつは一本の忠誠心だけで耐え続けた。」


「だからこそ、今のアイツは強いんです。」



 だからこそ、縛るものが無くなった戦士は手加減を知らず、解き放たれた龍は善も悪も喰らい尽くせる。


 失った事への悲しみよりも、ベルザークは、そんな彼の強さを見てみたいと思ってしまっていた。



「私は、あの男の忠義に報いる事は出来ただろうか。」



「さあ、どうでしょうな。」



 無表情のまま呟くルシウスの言葉に、ベルザークは悲しそうに笑いながらそう答える。










 そして場面は切り替わり、コウタとリーズルの戦いへと戻る。



「「⋯⋯⋯⋯ッ!!」」




 鉤爪と剣、二つの刃が交わると、周囲に巨大な衝撃波が撒き散らされる。



「⋯⋯遅え!!」



 攻撃がワンテンポ速いリーズルは、衝突と同時にもう一本の鉤爪を振り下ろす。



「⋯⋯それはどうでしょう?」



「⋯⋯んなっ!?」



 それに反応するコウタは、攻撃に合わせて武器を召喚してそれを弾くと、空いたもう一本の手で再び攻撃を仕掛け返す。



「⋯⋯ちぃ!」



(ダメだ、まだ力負けしてる。)



 しかしながら受け止められた刃は徐々に押し返されてたまらず武器を弾いて距離を取る。


「⋯⋯くっ、そ。」


(コイツっ、あの時よりもステータスが段違いに高い。)


 二人はそんな思考をめぐらせながら着地をすると、再び衝突して鍔迫り合いとなる。



「⋯⋯ハッ、随分と強くなったじゃないっスか。レベル上げ頑張ったっスか?」


「頑張りましたとも、向かってくる敵、全員倒す為に、守りたいもの、全部守る為に!」



 声を張り上げながら交わる刃に力を込めると、そこに体重を乗せて押し返し始める。



「⋯⋯召喚!」



 そして二人の頭上に大量の剣を召喚して容赦なく振り下ろす。


「⋯⋯ちぃ。」


 たまらずリーズルが後方に飛び退くように距離を取ると、振り下ろされた大量の武器はコウタの身体をすり抜けるようにして地面に突き刺さる。


「消えて下さい、貴方になんか興味無いんで。」


 突き刺さった武器を手を触れずに引き抜くと、光すら灯ることのない冷たい視線でそう呟く。



「⋯⋯ふっ、ざけんな!!」



「⋯⋯ッ!!」



 その言葉を聞いた瞬間、リーズルの表情は一気に強張り、怒りのままにコウタに突撃する。


 咄嗟にコウタは召喚した武器を自らの前に作り出してその進行を阻もうとするが、構わず突き立てられた鉤爪に少しずつ武器が砕かれていく。



「何が守るだ!何が興味無いだ!俺はっ!お前を殺しにきてるんだぞ!」



「⋯⋯っ。」



 そして力任せに、感情のままに振り回される鉤爪は、少しずつコウタの盾を砕いていく。



「いつまで仲間ばっかり見てやがる!俺を見ろ!俺を殺しに来い!」



「よそ見しながら戦ってんじゃねえよ!」



 そして全ての武器を砕くと、その先に立つコウタに向かって手を伸ばす。


「⋯⋯ちっ。」


 咄嗟に召喚した武器で攻撃を防ぐと、その反動で小さな身体は後方に吹き飛ばされ、危なげなく着地をする。


「⋯⋯はぁ、はぁ⋯⋯⋯⋯。」


「わっかんねえんだよ、お前に負けて、アイツに負けて、自分がなにになりたかったのか、自分が今何者なのか⋯⋯。」


 荒らげた息のままに歯を食いしばると、俯いたまま感情のままに自らの思いを吐き出していく。


「後悔したんだよ、強くならなかった事に、強くなろうとして来なかった事に。」


「だから、何もかも捨ててここに来たんだ、お前を倒して、お前を超えて、何かになる為に。」


 そして覚悟を決めるように顔を上げると、闘志と殺気だけが乗せられた純粋な視線をコウタにぶつける。



「⋯⋯っ!!」



 けれど、そんな彼の発言が、コウタには気に食わなかった。



「⋯⋯僕を倒して、自己の証明?ふざけるな。」



「そんな事のために、⋯⋯そんな事のために、彼女を傷付けたのか?」



 もしも本当に彼が自分を倒す為だけに、ここに来たのであれば、自分だけが目的なのであれば、あの意地っ張りで強がりな少女が傷つく必要なんて、どこにも無かった。


 目の前の男の目的も、戦う為の理由も、関係なく、ただ自分のせいで自分とは関係のない誰かが傷付くのが許せなかった。



「⋯⋯⋯⋯だったら僕は、お前を倒して、お前を、お前の全てを否定してやる。」



 だからこそ、いまここにあるのは、絶対的な正義でも、崇高な信念でもなく、ただただ「相手を否定したい」という醜いものであった。




強化ブースト付与エンチャント!!」




猛獣ビースト付与・エンチャント!!」




 直後二人の身体に別々の光が灯る。



「⋯⋯⋯⋯ッ!!」



「⋯⋯加速!!」



 付与魔法によって強化された二人は、先ほどよりもはるかに速く、はるかに強力な力を持って衝突する。




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