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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第三章
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百九十九話 今、出来ることを


 それから少しした頃。


 作戦会議と休憩を終えたアデル達花回収組は、マリーの提案した作戦に従った配置についていた。


「⋯⋯全員、準備が出来たようだな。」


 先程とは別の魔物の群れが視界の奥で休憩している様子を眺めていると、アデルは先程とは違う変化に気がつく。


「⋯⋯ん?」


「⋯⋯地震のような音、そろそろ始まるか?」


 彼女の立つ地面が鈍い音と共に揺れ動き、そんな独り言を呟くと、直後に視界の奥に黒煙が空に舞う様子が見えた。



「⋯⋯来たか。」


 その瞬間、改めて意識を切り替えると、鞘に納めた剣を力強く握り臨戦態勢に入る。




 同時に、彼女は先程のマリーの作戦を思い出す。





『——まずはさっきと同じように、私が陽動して魔物達を追い込みます。』



『追い込むつったって、さっきみたいなのだと多分おんなじ結果になるぞ?』



『その辺は考えがあります。』



 シリウスの指摘に得意げに答えた発言の通り、誘い込む為に準備された彼女手段は、先程とは少しばかり違った。


「⋯⋯ギャ、ギャ!」


 燃えて黒煙を上げる樹木が崖の上から落下し、その衝撃と音に反応して、サンコドラの群れは先程同様、その炎から逃げ出すように逆方向に駆け出す。


「燃えた倒木、しかも本人は姿を見せていない。なるほどこれなら⋯⋯。」


 姿を見せず、かつ直接炎を放たないこの方法ならば、誤差程度ではあるがサンコドラへの負担も少なくなる。


「⋯⋯そして次は。」


 そして再びマリーの作戦を思い出す。



『——次は、セリアさんの聖域サンクチュアリーで途中の道を塞いで、一本道に引き込んで下さい。』


聖域サンクチュアリー


 予め指示を受けた通り、セリアは魔物達が別れ道に差し掛かる直前に光の障壁を展開してアデルの待つ方の道に誘導する。


『引き込んだ先には、予めシリウスさんが土属性魔法で作った岩の道を用意して、走る速度を落として欲しいんです。』


『足場を悪くすれば良いのか?』


 次に彼女が指示を出したのはシリウスであり、マリーはより具体的な方法を提案する。


『はい、ついでに視界も悪くしてくれると助かります。』


「⋯⋯こんなもんか?」


 そして彼女の指示通りに岩と土の道を作っていたシリウスは、迫り出した地面の一部に手を触れてそう呟く。


「んで、追い込んだ先で⋯⋯。」



「⋯⋯っ、アデルさん、お願いします。」


 シリウスとマリーがほぼ同時に視線を向けると、その先に立つアデルはせり出した地面の一部に背を預けながら深い深呼吸をする。


『⋯⋯しかし、私では先程と同じように⋯⋯。』


『そのための私達です。』


 自信の無さそうな態度で返すアデルに向かって、マリーはニッコリと笑顔でそう返す。


『⋯⋯⋯⋯っ?』


『この作戦は、アデルさんのところに辿り着くまで、魔物の意識を散らすようにしてます。』


 燃えた木々による炎の牽制、光の障壁と土魔法による進行の妨害、そしてそれらを行うにあたって人間の姿を一切見せてはいない。


 そうする事によって、アデルが花を切り落とす直前までに少ないストレスで誘導を行える。


『だから、多分さっきと同じようにやっても大丈夫です。』


『一人でできないならみんなで、いつも通り頑張りましょう?』


 そして最後にマリーは笑顔を見せながら、アデルの背中を押す。


「すぅ⋯⋯。」


(そうだ、いつだって私は、色んな人に助けられてきた。)


(⋯⋯だからこそ、今、私に出来ることを。)


 そんな事を考えながらゆっくりと剣を抜くと、彼女の思考とリンクするように、魔剣から柔らかな赤色の光が灯る。


「剣が⋯⋯、光った?」


(だが殺気が、消えた?どういう事だ?)


 その様子の違和感に真っ先に気付いたシリウスは、顔をしかめながら黙ってそれを見届ける。


「⋯⋯っ!」


(気配を断て、視線を合わせるな、マトの動きに合わせて、剣を振れ。)


 そして次の瞬間、逃げ惑う魔物の群れの、先頭を走る一体が彼女の横を駆け抜けると、それに合わせるようにゆっくりとした動きで一歩前に出る。


(⋯⋯っ、今!)



「⋯⋯ふっ!」


 目を瞑り、気配だけで魔物の姿を捉えると、流れるような動きで最後列を歩く魔物の頭に咲く花を切り落とす。


「⋯⋯⋯⋯。」


「⋯⋯⋯⋯。」


「⋯⋯いったか?」


 花が落下したと同時にその場に沈黙が流れると、そこから最も近い位置にいたシリウスがそんな言葉を呟く。


「⋯⋯アデルさん!」



「⋯⋯枯れていない。」


 深いため息と共に剣を鞘に収めると、落下した端を拾い上げて、駆け寄ってくるマリーにそれを見せる。


「やった!成功ですね!」


「ああ、良い作戦だったぞ、マリー。」


 嬉しそうに飛び上がるマリーに対して、アデルは素直な態度で賛辞を送る。



「いえ、それほどでも⋯⋯。」



「それにしても最後の動き、ありゃ一体なんだ?」


 真正面から褒められて照れるマリーの横から、シリウスがしかめっ面のままそう尋ねる。


「コウタさんの動き、ですよね?」


 するとそれに答えるように、セリアが崖の上から三人を見下ろすように尋ねる。


「ああ、殺気の断ち方など知らないからな。少しばかりアイツの技術を使わせてもらった。」


「言われてみればちょっと似てるかも。なんか異様に身体の力が抜けてる感じとか。」


 コウタの動きは独特すぎる故にそう簡単に模倣できるようなものではない、しかし、この世界で彼と最も多く剣を交え、最も長く彼と接してきたアデルならば、その技術の一片を振るうこともそう難しくは無かった。



「何はともあれ、目標達成だ。帰還するとしよう。」


 そんな自らの成長に、少しばかりの達成感を感じると、アデルはそう言って三人に指示をする。








 そして同じ頃。


 アデル達とは別行動をしていたコウタは、帯同していたエイル、パトリシアとも別れ、単独行動をしていた。


「——白銀水、ゲット。」


 アデル達の奮闘、エイルの心配を他所に、目的の泉から無事アイテムを手に入れたコウタは、返り血に濡れた顔を拭いながら泉の側に腰掛けて深いため息を吐く。


「⋯⋯それにしても、結構いたな。」


(トータルで百くらい倒したか?)


 そんな言葉を呟きながら自らのステータスを眺めると、すぐにその変化に気がつく。


「レベルも上がってるし⋯⋯。」



キド・コウタ 付与術師エンチャンター lv40


「⋯⋯これで、もっと⋯⋯⋯⋯。」


 そう言って拳を握り締めると、少しばかり嬉しそうにしながら立ち上がる。


「⋯⋯さて、帰ろうか。」


「⋯⋯っ!?」


 その瞬間、コウタの耳に地を揺らすほどの巨大な轟音が響き渡る。


「なんだ、今の?」


 そんな言葉を呟きながら、音のなる方へと視線を向けると、それは先程まで彼が進んできた道であった。

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