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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第一章
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二十話 図書館



 翌日の朝、コウタはコンコンと響くノックの音で目が覚める。


「コウタさん、コウタさ〜ん。」


「ん?」



「⋯⋯⋯⋯。」


 遅れて聞こえてくる声に反応してふらふらと立ち上がって扉を開けると、目の前には昨晩まで共に働いていた宿屋の少女が、身だしなみバッチリの状態で立っていた。



「あ、おはようございます。昨夜はよく眠れましたか、ってあれ?」


 爽やかな挨拶と共に首を傾げながらそう言うと、少女はふとコウタの頬に手を伸ばす。



「おはようございます⋯⋯ん?なんですか?」


「目の下、隈出来てますよ。大丈夫ですか?」


「え?」


 マリーに言われた通り、コウタの目の下にはうっすらではあるものの、寝不足によると思われる隈が出来ていた。


「もしかして、寝具が合って無かったですか?」


「⋯⋯いいえ、そんな事ないですよ!多分疲れが溜まってるだけです。最近は討伐依頼ばかりだったので。」


「無理し過ぎちゃダメですよ?たまにはクエスト休んで図書館にでもいってみたらどうです?」


 少女の不安そうな問いかけに答えると、彼女はさらに心配そうにコウタに詰め寄る。



「は、はぁ⋯⋯そうですね。」



「それよりも朝ごはんの時間ですよ。降りて来て下さいね。」


 勢いに押されてたじろぎながら答えると、少女は数歩ほど階段に向かって歩き、体を反転させ顔だけをこっちに向けてニッコリとはにかみながら笑みを浮かべる。


「⋯⋯⋯⋯。」


 窓から差し込む光に包まれたエプロン姿の少女を見て、コウタは少しだけ優しく微笑む。


「ど、どうかしました?」


 穏やかな顔で見つめられ、少女はついコウタに問いかける。


「いえ、なんと言うか、マリーさんは立派なお嫁さんになりそうだな、と思いまして。」


「は!?〜〜っなっ、⋯⋯なっ、⋯⋯。」


 ニヤリと茶化すようにコウタは意地の悪い笑顔でそう言うと、あまりにもストレートな言動に彼女の顔はみるみる紅潮していく。


「なっ、何いってるんですか!?私たち出会ってそんなに時間もたってないじゃないですか!それに心の準備だってその⋯⋯!」


 マリーは早口で訳の分からないことを発する。ゴニョゴニョと口ごもり、さらに顔は赤くなる。どうやら思考が異次元にバーストしてしまっているようだ。


「⋯⋯?何言ってるんですか?」


「はっ、っいえなんでもないです!!し、下行きましょう!ほら早くご飯食べてしまって下さい!!」


 あまりに飛躍した言動をコウタは理解できずに疑問符を投げかける。するとその声にはっと我にかえり、飛び過ぎた妄想と想像に羞恥する。


 彼女の顔はもう既に真っ赤に染まっていた。


(⋯⋯なんなんだろう?)


 結局誤魔化されるように背を押され、階段を下っていく。











 その後、軽く食事をとり支度を終えるとコウタは宿を出る。


「今回は、ありがとうございました。」


「いいえ、こちらこそ。宿泊までさせて頂いて助かりました。」


 朝の最も忙しい時間も過ぎてすっかり宿屋も大人しくなった頃、コウタはマリーと共に村の門へと向かっていた。


「それに、貴女からは大切なモノを学ばせて頂きましたから。」


「大切なモノ?」


「ええ、僕も探してみます。生きる目的。」


 漠然とした言葉に反応してマリーが首を傾げると、コウタは小さくはにかみながらそう答える。


「⋯⋯っ、頑張って下さい。きっと見つけられますよ。」


 少しだけ嬉しそうに声色を高くしながら、マリーは笑顔でそう答える。


「⋯⋯それでは。」


「あっ、あのコウタさん!」


 やり取りを終え、コウタが帰還しようと踵を返した瞬間、マリーは途切れ途切れになりながらも、思い切ったように口を開く。


「⋯⋯?どうかしました?」


「あの、また、来てくれますか?」


 コウタが振り返り、不思議そうに首を傾げると、マリーは伏し目がちにそう尋ねる。


「ええ、依頼があれば何度でも。」


 彼女の質問の意図は理解出来なかったものの、コウタははっきりとそう答える。


「ほ、本当ですか!?絶対ですよ!!」


「はい、約束します。」


 するとマリーは顔を少しばかり赤く染めながら、興奮した様子で念押ししてくる。


「よかった⋯⋯。」


「⋯⋯⋯⋯?」


「ひゃ⋯⋯!?」


 ふと、コウタはマリーの額に手を当てると、急な不意打ちにマリーの体は大きく震える。


「やっはり熱いですね。顔も赤いし、風邪ですか?どちらにしろお互い、働き過ぎには気を付けないとですね。」


 コウタは優しくはにかみ、額に置いた手を上に移し、マリーの頭をポンポンと撫でる。


「⋯⋯っ!?っ〜〜〜!?」


 ボフン、と音を立てたかのように再び真っ赤に頬が染まり、マリーは何も言わず、いや、何も言えずに走り去っていった。


「なんだったんだろう?」


 彼に乙女心は少し早かったようだ。








 その後数時間かけて街へと戻ると、すぐにクエストの報告をする為に真っ直ぐギルドの方角へと向かう。


「すいません。宿屋のお手伝いのクエストの報告に来たのですが。」


「コウタさん、お疲れ様です。」


 ギルドに入り真っ直ぐに受付まで向かうと、いつもの女性が対応し、コウタから依頼達成の紙を受け取って一つ一つの事項を確認していく。


「はい、確かに確認致しました。報酬は口座に入れておきますか?それとも、直接の受け取りにしますか?」


「では直接で。」


 口座にはたくさんあることと、手持ちの金が減り始めた事もあり、今回は直接受け取ることにした。


「わかりました。それではこちらが報酬になります。ご確認下さい。」


「⋯⋯⋯⋯はい。ちょうどあります。ありがとうございました。」


 数分後に差し出された金に目を通し、額を確認すると、それを手に取って受付の女性に礼を言う。


「はい。ところで今日はどうします?またクエストを受けるんですか?」


「いえ、今日はクエストは休んで図書館にでも行くつもりです。」


 事務的なやり取りを終えて話は世間話のようなものに変化すると、コウタはついさっきマリーに勧められた図書館について言及する。


「そうですか、図書館の行き方はわかります?」


 すると受付の女性は少しばかり驚いた様子でそう言った後、続けてそんな質問を投げかける。


「いえ、ですので教えて欲しいのですが。」


「ふふっ、では地図を書きますね。」


 コウタが即答すると、受付の女性は小さく笑ってから奥へと紙を取りに行く。


「お願いしまーす。」


 苦笑いで気の抜けた顔で気の抜けた返事をする。







 しばらくして、コウタは渡された地図を元に図書館に到着する。


「ここが図書館、大きいな⋯⋯。」


 重厚なドアや古びた外観に長い歴史を感じるが何よりもその大きさにコウタは驚いていた。ギルドの数倍はあるその建物は、いざ目の前にすると圧倒的な存在感を発していた。


(この街で一番大きな建物、だっけ?)


 受付の女性がそんなことを言っていたのを思い出す。


「と、とりあえず入ってみるか⋯⋯。」


 その大きさに気圧されながらも、コウタはドアに手をかける。


 中に入るとそこには制服を着た中年の男性が冒険者ギルドと同じようなカウンターを挟んで座していた。


「ようこそ、ベーツ図書館へ。本の閲覧を希望でしたら、身分を証明できるもの、もしくは入館料二千ヤードかかりますが。」


「えっと、じゃあこれで。」


「⋯⋯はい。確認しました。では図書館の利用方法はお分かりでしょうか?」


 コウタはギルドカードを手渡すと、男性はその内容を一つ一つ確認した後にそれを返し、そんな問いを投げかける。


「分からないです。教えて下さい。」


「では、この図書館のルールは簡単に三つ、一つは本の持ち出しの禁止、一つは本の破損時の弁償、一つは本への書き込み等の禁止、でございます。これらを破られた場合それに応じた罰金等が課せられますのでご注意を。」


 嘘をつく必要もないため、コウタは正直にそう答えると、男性は淡々と説明を始める。


「説明は以上でございます。他に質問等ありますでしょうか?」


「いえ、ありません。」


「では、入り口はそちらになります。」


 最後に男性はそう言って奥にある書庫への入り口である扉に手を向ける。


「はい、ありがとうございます。」


「⋯⋯よし。いくか⋯⋯。」


 男性に礼を言うと、コウタは緊張した面持ちで扉に手をかけ図書館の内部へと進んでいく。







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