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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第三章
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百九十五話 みんなの手持ち




 そして数十分後、一行は孤児院を出て宿屋、ではなく馬車の中へと戻っていた。



「——で、私達の手持ちを漁ってると。」


 狭い馬車の中心で仁王立ちするエイルは、自身のバッグから取り出した素材をアデルに手渡しながらそんな言葉を呟く。


「すまないな、勝手に受けてきてしまって。」


 各々が自分たちのバッグに手を突っ込んで素材になりそうなものを探している中、アデルは馬車の中にある共用の大きな木箱の中を探しながらそう答える。



「良いわよ。人助けの為なんでしょう?なら、断る理由なんてない。」



「⋯⋯あ、私ありましたよ!乾燥したパープルハーブ、粉末状ですけどスターウッド、あとあと、ちょっと時間経っちゃってますけどゴメンカの種!」


 呆れながらもはっきりと言い切るエイルの横で、マリーが嬉しそうに自らのマジックバッグの中から次々と素材を取り出していく。


「⋯⋯なんでそんなの持ってんの?」


「料理に使うんです。隠し味に便利なんですよ?セリアさんなんかありました?」


 かなり偏った素材ばかりが出て来た為、エイルも思わずそんな問いを投げかける。


「うーん、私はこれだけですわ。」


 すると今度はその隣にいたセリアが素材を差し出す。


「パラサイトワインダーの血清と、白硝石の粉末、これはまた随分とコメントに困る素材を持ってるわね。」


「どちらも毒の治療に有効なのです。まあ特殊な毒には対応出来ませんが、魔物の毒くらいならこれで対処は事足ります。」


「なるほどね。これで素材の残りは?」


 思いの外しっかりとした理由に納得したエイルは受け取った素材をアデルへと手渡しながらそう尋ねる。


「残りは六種類ほどだ。あとはパトリシア様の方でどれだけ用意できるかだな。」


「あら、なんとかなりそうじゃない。」


「よく十何種類も素材が集まりましたね。」


 二人の会話に割り込むように、コウタはボソリと小さくそんな言葉を呟く。



「それより、アンタも何か素材持ってないの?」



「持ってません、何一つ。」



 その声を聞いてコウタが現状一つも素材を持っていない事に疑問を持ったエイルは何気なくそう尋ねると、コウタは即答でそう返す。



「⋯⋯ちょっと見せてみなさいよ。」



「どーぞ。」



 そんなわけはないと言わんばかりに手招きしながらエイルが催促をすると、コウタは抵抗する事なく自らのマジックバッグを手渡す。



「⋯⋯どれどれ?」



「⋯⋯んー。」



「「⋯⋯っ。」」


 エイルとマリーの二人は同時にその中身を覗き込んだ瞬間に大きく目を見開く。


「⋯⋯ん?どうした?」


 二人のそんな反応を見てそれまで毛ほどの興味も示さなかったアデルが疑問符を浮かべる。


「⋯⋯コウタさん。」


「アンタさぁ⋯⋯。」


 そして一瞬遅れて二人はため息混じりにコウタに視線を送る。


「⋯⋯あらまあ。」


 同じく興味を持ったセリアが二人の間からバッグの中身を覗き込むと、一瞬遅れて二人の反応の意味を理解する。


「短剣に麻の布、ポーション、ハニードロップ、止血剤に包帯、あとは多少の収集素材、これはまた随分と戦闘に特化した内容ですわね。」


 アデルが首を傾げると、セリアはバッグの内容を一つ一つ口に出して、最後にそんな感想を述べる。


「ザ・冒険者って感じですよね。」



「何一つ遊びが無い、退屈な内容ね。」


 そしてそれに続くようにマリー、エイルも自身の感想を述べる。


「本の一つくらい入れて置いてはどうですか?いくつかご紹介致しますわよ?」


「それはまた今度で。それより、素材が揃ったならパトリシア様のところに行きましょう。」


 苦笑いで提案を断りながら、コウタはため息混じりにその場から立ち上がる。








 そして改めて素材を揃えると、一行は再び孤児院へと戻っていた。


「⋯⋯うん⋯⋯うん、ありがとう、これでだいぶ揃ったわ!」


 一枚の紙切れと並べられた素材を一つ一つ指差しで確認し終えると、パトリシアは満足げに首を縦に振る。


「トータルでどの位集まってます?」


「そっちとかぶってるのが何個かあったけど、貴女達のと合わせると残りは二つね。」


 パトリシアの言い方に疑問を感じたコウタが真剣な表情のままそう尋ねると、今度は指折りするジェスチャーを見せながらそう答える。


「何が足りないんですか?」



「サンコドラの花と銀白水よ。」



 聞いたところで分かるはずもないコウタが尋ねると、パトリシアは困ったような苦笑いを浮かべてそう答える。



「「⋯⋯⋯⋯っ!」」



「これはまた⋯⋯。」


「随分と面倒な素材が残りましたわね。」


 その瞬間、コウタ以外の全員が、大きく目を見開いた後に深いため息をつく。



「行商人から購入する事とかは出来ないんですか?」


 それを見てその素材の入手難度が高い事を察すると、すぐにそんな提案を投げかける。


「⋯⋯無理よ。どっちも長いこと保存が効かない。」


 保存が効かない、つまりそんな物を取り扱う商人も少なく、その手段には期待できない。


「そればっかりは現地調達するしかあるまい。」


 それ故にアデルは至極当然な結論を口にする。


「そうね⋯⋯。」


「⋯⋯⋯⋯。」


「⋯⋯なら、僕たちがその残った素材、集めましょうか?」


 一瞬その場に沈黙が広がるが、コウタはふとそんな言葉を投げかける。


「⋯⋯いいの?」


「現地調達しかないなら、当然冒険者の力は必要になる。なら僕たちに頼むのが最も合理的だと思いますよ?」


「良いですよね?」


「私は構わない、が、決め方はいつも通りだ。」


 弱気な表情で問いかけるパトリシアに笑顔で答えながら、コウタはそう言ってアデルの方へと振り返ると、そんな言葉が返ってくる。


「異議なし、ですわ。」


「同じくです。」


 それに反応してセリアが答えながらマリーに視線を向け、それを受け取ったマリーも同じようにエイルに視線を送る。


「⋯⋯さっきも言ったけど、私は貴女達の総意に従うわ。あくまで連れて行ってもらってる立場だし。」


 最後に意見を求められたエイルは、何一つ考えは変わらないという意思を示す。



「ありがとう、それともう一つお願いしても良い?」


「⋯⋯?なんですか?」



 強力をする事が決まり、パトリシアが嬉しそうに礼を言うと、今度は少しだけ小さな声でそう続ける。


「その素材の採取、私も連れて行ってくれないかしら?」


「⋯⋯理由を聞いてもいいですか?」


 突然過ぎる頼みを聞いてコウタやアデルは、否定するのでは無く、その理由を尋ねる。


「実は今足りない素材、二つともこの街の近くにあるの。」


「⋯⋯そうなんですか?」


「ええ、けどそのうちの一つ、銀白水はすごく面倒な所にあるの。だから私が案内役として、と思ってね。」


「それに、あの子が苦しんでるのに何も出来ないなんて嫌だ。」


「⋯⋯どうしますか?」


 パトリシアの意思を聞いて、彼女の優しさを再確認したコウタは、小さく微笑みながら改めてアデルに確認をする。


「⋯⋯私達はここに来てまだ日が浅いです。故にこの先の道がどのくらい危険なのか、それを知るのは貴女だけです。」


「ええ、そうなるわね。」


 そしてアデルは、リーダーとして自身の意見を口にしながら事実を述べていく。


「不測の事態が起こった時、それを止められるだけの準備を我々が出来ていない可能性も、それによって貴女に危険が及ぶ可能性もあります。」


「それを理解した上で、貴女と貴女の周囲の方々が認めるのであれば、我々は止めはしません。」


「⋯⋯分かった。ありがとね。無理を言ってるのに真剣に取り合ってくれて。」


 アデルの言葉を聞いて完全に納得し切ってしまうと、パトリシアは笑みを浮かべて礼を言う。


「いいえ、これが我々に出来る最大限の譲歩ですから。」


「⋯⋯それじゃ、私は父上から許可を貰ってくるわ。」


「⋯⋯詳しい話はまた明日ね。」



 そう言って立ち去っていくパトリシアの背中を見送りながら、コウタは呆れたような小さな溜息をつく。


「⋯⋯行っちゃったわね。」


「ああ、我々は明日の準備をする。各自装備を整えておいてくれ。」


 少しだけ後ろの方からエイルがそんな言葉を呟くと、アデルは表情を切り替えてそんな指示を出す。


「了解しました。」


「はーい。」


「⋯⋯⋯⋯。」


 各々が返事をする中、ただ一人コウタだけが静かに黙り込んでいた。


「⋯⋯どうしたコウタ?」


「アデルさん、その前に、一つ気になることがあるんですけど。」


 そんな問いかけの後、コウタは真剣な表情のままアデルにそう言葉を切り出す。


「⋯⋯⋯⋯?」











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