百七十七話 勇者候補vs勇者候補
二人が同時に飛び出して剣を振り下ろすと、交わった剣戟を皮切りに、連続して金属音が鳴り響く。
が、押されているのはコウタの方であった。
「オラ、遅えぞ!」
理由は簡単で、純粋にステータスで劣っており、コウタの持つ技術では補いきれないスピードとパワーの差があったからである。
「⋯⋯こ、んの!」
「加速!」
剣と剣の腕比べでは敵わないと察すると、コウタは一度距離を取って回し蹴りを放つ。
「⋯⋯おっと。」
対するアマネルはその蹴りをさして驚く事もなく片手で受け止める。
「⋯⋯っ!?」
「カイースみたいなことするなお前。」
想像よりも遥かに力の差があったことにコウタが驚いていると、アマネルはニヤリと笑みを浮かべながら掴んだ足をさらに強く握り締める。
「しまっ⋯⋯!」
アマネルの意図を即座に察すると、コウタは慌ててその手を振り払おうとする。
「吹っ飛べ。」
「うおっ!?」
が、そんな抵抗も虚しく、アマネルは大きく身体を反らせながら振りかぶってコウタの体を投げ飛ばす。
「くっ⋯⋯あっぶな⋯⋯。」
「ほら、気ぃ抜くなよ!」
コウタはなんとか空中で体制を立て直して着地をするが、息をつく暇も無く追撃が雪崩れ込む。
「⋯⋯っ、召喚!」
「⋯⋯ぐっ!?」
コウタは咄嗟に手元に剣を召喚して攻撃を防ぐが、召喚した剣はアマネルの攻撃の威力の高さに耐えきれずそのまま砕け散って霧散する。
「まだまだぁ!」
「くっ⋯⋯!?」
(⋯⋯攻撃が、止まらない。)
一度距離を取ろうと後方に飛び退くが、怒涛の攻撃を前にそれすらもさせて貰えず、剣を召喚しては砕かれを繰り返してしまう。
「なら⋯⋯!」
「加速。」
コウタは咄嗟に右腕を背中に回しながら加速のスキルで強引に距離を取る。
「逃すかよ!」
アマネルはそれにも対応して距離を詰めて剣を振るうが、コウタは先程よりも強力な武器である魔剣〝火竜〟を召喚してその攻撃を受け止める。
「⋯⋯ブラインドブレイズ。」
直後にコウタが呟くと、その小さな背中から十字を切るように四本の剣が飛び出す。
「⋯⋯っ、うおっ!」
ゼロ距離、かつ死角から高速で飛び出してくる剣に戸惑いながらも、アマネルは特にダメージを受ける事もなくアクロバティックに回転しながら後方に飛び退いて回避する。
「⋯⋯ははっ、すげえなお前!魔法職なのに近接特化って、正気の沙汰じゃねえぞ。」
コウタとは違いスマートに着地を成功させると、アマネルは愉快そうに笑い声をあげながらそう言い放つ。
「そっちだって、このご時世に盗賊とか、なかなか脳みそクレイジーですよ。」
するとコウタは彼女とは違う苦々しい笑みを浮かべてはにかみながらそう返す。
「⋯⋯スピードも、パワーも、反応速度も尋常じゃない。まともにやったって勝ち目が無い、か。」
「⋯⋯っ、くそ。」
(やっぱり右手も思ったように動かない、今の打ち合いで悪化したか?)
自身と彼女の力の差を分析し、改めて勝ち目が少ない事を理解し、なんらかの作戦を練ろうとした瞬間、先の幻獣との戦いで負った右腕の傷が痛み出す。
「オイオイ、しっかりしてくれよ。オマエも勇者候補なんだろ?」
「⋯⋯お前も?」
その言葉を聞いて、コウタはその意味と意図を探ろうとするが、尋ねる隙もなく彼女の言葉は進んでしまう。
「オリジナルスキル使ってそれとか驚きの弱さだな。」
「はっ、そちらこそ。その弱い勇者候補を倒せていませんが?」
流れるように言い放たれる挑発に対して、コウタはわざとらしく鼻を鳴らしながら挑発を返す。
「⋯⋯手ぇ抜いてるからな。お前程度なら本気出す必要もねぇ。」
「その考えが自分だけのものだと思ってる時点でおめでたい頭なのがよく分かります。」
事実、コウタはまだ奥義や霊槍を中心としたいくつかの手札は残しており、多少無理をする前提であれは充分に勝ち目があった。
「⋯⋯⋯⋯分かったよ、そんなに死にたいなら、望み通り殺してやる。」
が、その返答がまずかったのか、先に挑発を仕掛けたアマネルの方が先に沸点に達してしまう。
「⋯⋯来る。」
それまで受けていた殺気の質が変化したのを肌で感じ取ると、コウタも改めて息を吐き出して武器を構え直す。
「精々気を抜くなよ?一瞬の迷いが命取りになる。」
アマネルがそう言った瞬間、周囲に散らばった瓦礫や道に敷き詰められた石畳が紫色の光を帯びて一つ残らず浮き上がる。
「これって、オリジナルスキル?」
触れることもせずに物質を持ち上げるその力は、コウタの元の世界で言う所のサイコキネシスに類似していた。
「⋯⋯っ、すご。」
視界いっぱいに広がる瓦礫の群れを見て、コウタは思わず思考を放棄して固唾を呑む。
「ラッシュメテオ」
コウタがその光景に言葉を失っていると、アマネルは浮き上がった瓦礫のうちの一つを高速で射出する。
「⋯⋯っ!?」
その瞬間、棒立ちだったコウタの左頬が小さく裂け、一瞬遅れて後方にある屋敷の門が本来聞こえるはずのない爆発音と共に破壊される。
(今、攻撃⋯⋯?速っ!!)
半ば意識を手放していた事もあり、まともに反応すら出来なかったコウタはまとまらない思考でたった今起きた現象を必死に理解しようとする。
「ほら、せめて避けてみろよ。」
「召喚!付与・魔!」
アマネルの言葉を皮切りに雪崩れ込む瓦礫の山を見て、即座にコウタは蒼剣モードを発動させる。
「⋯⋯そんで⋯⋯っ!?」
さらに自身の身体に乗せれるだけ強化系の魔法をかけようとするが、そうしている合間にも周囲には瓦礫の群れがコウタの腕や足、頭や心臓を狙って雪崩れ込んでくる。
「⋯⋯バンバン付与掛けるのはいいが、立ち上がりが遅いなぁ!」
アマネルはコウタのその準備の手間や完成の遅さを揶揄して更に瓦礫を押し込む。
「⋯⋯強化、加速!!」
「⋯⋯はぁ!!」
彼女の言葉の直後、コウタの蒼剣モードが完成すると、襲いくる瓦礫は高速で振り下ろされる剣戟によってバラバラに打ち砕かれる。
「⋯⋯ほら、それが全力か?」
攻撃が止み、息を荒立てながら武器を構えるコウタを見てアマネルは小さく鼻を鳴らして首を傾げる。
「その言葉、そのままお返しします。」
「おーけー、レベルアップだ。」
ニヤリと笑みを浮かべながら首を傾げてそう返すコウタを見て、アマネルが指をパチンと打ち鳴らすと未だ射出せずに宙に留めていた瓦礫が一点に集中する。
「⋯⋯っ!?」
(デカい、飲まれる!?)
出来上がった瓦礫の塊が容赦なくコウタに向かって迫ってくると、思わず目を見開いて体を硬直させる。
「⋯⋯ちぃ、斬波!」
あまりにも膨大すぎる質量を前に、コウタは咄嗟にそれを少しでも減らすため、降魔の杖と白霞の剣を一度手放し、背後の空間に固定すると、それに変わって魔剣〝斬波〟を召喚して衝撃波を放つ。
「弾けろ!」
その対応をある程度読んでいたのか、アマネルは撃ち放った瓦礫の塊を再び分解して無数の流星を成す。
「んなっ!?くっ⋯⋯そ!」
刀身が長く、小回りの効かない斬波では手数の多い質量攻撃には対応できず、コウタの身体は雪崩れ込む瓦礫の群れに飲み込まれる。
「⋯⋯どうした、終わりか?」
舞い上がる土煙を見て自身の勝利を確信したアマネルはニヤリとはにかみながら挑発するようにそう尋ねる。
「⋯⋯加速。」
その瞬間、土煙の向こうから、小さな呟きと共に蒼色の光が迸る。
「⋯⋯っ!?ちぃ!」
今度はアマネルの頬が先程のコウタと同様に裂けて小さく鮮血が舞う。
一瞬遅れて、コウタが先程まで握っていた蒼色の剣が彼女の後方にある壁に突き刺さる。
「終わる訳ないでしょう?」
そんなコウタの声を聞いてアマネルが視線を正面に戻すと、怒涛の勢いで流れ込んでいた瓦礫は四方を取り囲むように召喚された武器の群れによって阻まれ、地面に転がっていた。
「人の事言えた口じゃないですけど、貴女の攻撃は軽すぎるんですよ。」
「例え速度があっても、手数が多くても、石を投げるだけなら反応速度で強引に防御も回避も出来る。」
それは挑発ではなく、コウタ自身が戦いを通して実際に感じたものであった。
「言ってくれるじゃねえか。」
だが、それはあくまでコウタの中ではの話であり、実際にその言葉を受け取った本人としては、単に「お前の攻撃は見掛け倒しだ」と言われているようにしか思えなかった。
「そんなに言うなら、一つ面白いもん見せてやるよ。ホントは疲れるからやりたくなかったんだがな。」
アマネルは一度冷静になろうと深く息を吐き出すと、それまで使っていたオリジナルスキルを解除して小さく愚痴を吐き出す。
「⋯⋯⋯⋯?」
「今までの攻撃はあくまで掴んだ物をぶん投げるだけだったが、次は、直接ぶん殴る。」
そう言って低く腰を落として左の拳を構えると、その拳の更に奥の空間が波立つ水面のように揺れ動く。
「⋯⋯っ!」
(空間が、歪んで⋯⋯?)
「いくぜ?」
明らかに異質な光景にコウタは眉を寄せて分析しようとするが、そんな隙は当然あるはずもなく、攻撃の準備が完了してしまう。
(どうする、防御?回避?いや⋯⋯!)
未知の攻撃を前に、一瞬だけ対応に迷いが出るが、背後の屋敷を見てすぐにその迷いが消え失せる。
「⋯⋯召喚!」
出来る限り高い火力で応戦するために、大量の降魔の杖を召喚すると、蒼色に輝いていた剣は徐々に深く染まっていき最終的に漆黒の剣へと姿を変える。
「バニシングメテオ!」
「加速!⋯⋯っ!?」
迫り来る空間の歪みに対して、コウタは真正面から剣を振り下ろすが、その歪みは一瞬たりとも速度を落とす事なく突き進む。
(押し、切られる!?)
黒い剣はそれを握る左腕ごと強引に押し込まれ、コウタの身体は不可視の衝撃波によって吹き飛ばされる事もなく押し込まれていく。
「ぐぅ⋯⋯!!」
壁に衝突する瞬間、コウタは召喚した全ての武器を捨て、自身の身体にねじ込まれる力に対して右手を伸ばす。
「ぶっ飛べ!!」
「⋯⋯⋯⋯ッ!!」
叫ぶような声の後、空間を歪ませるほどの不可視の衝撃波は地面を抉りながら大きな爆発を起こす。
「⋯⋯っ。」
周囲に強烈な衝撃が広がり、発動した本人すらも目を細めるが、その攻撃を受けたコウタは本来ならばあり得ないような方向に曲がった右腕を抑えながらも確かにその五体を保っていた。
「⋯⋯へぇ、避けたのか。」
それを見たアマネルは、ダランと左腕を垂らしながら、冷や汗を拭う事もなくそう呟く。
「そうしようと思ったんですけどね、避け切れませんでした。」
(右腕がまた死んだ。それに、ダメージが大き過ぎる。切り札を切るタイミングを見誤った。)
(今からでも使うか?それとも、一度撤退すべきか?)
強がってはみたものの、そのダメージは双方が考えるより遥かに甚大であり、もはや切り札である霊槍の発動を考えざるを得ない状況にまで追い詰められていた。
「⋯⋯っ!?」
そんな矢先、二人の耳にチリリリ、と連続する金属音が響く。
「⋯⋯この音は鐘?」
「⋯⋯ああ、成功したみたいだな。」
「悪いな剣戟の、私達はそろそろお暇させて貰う。」
突然の大音量にコウタが呆けていると、アマネルはニヤリと勝ち誇ったような表情を見せながらそう呟く。
「⋯⋯一つ、お尋ねしてもいいですか?」
それが相手側の合図だと理解すると、自らに背を向けて歩み出す少女に対してそんな言葉を吐き出す。
「⋯⋯なんだ?」
自らの目的を果たし、もはやこの場に留まる必要も無いのにもかかわらず、少女はコウタの声に反応して踵を返してそう尋ね返す。
「⋯⋯それだけの実力があるのに、なんで貴方は盗賊なんてやってるんですか?」
「冒険者でも充分、ていうか冒険者やってた方が安定するでしょう?」
アマネルの実力は、コウタがこれまで見てきた冒険者と比べてもかなり強い部類であり、わざわざ捕まるリスクのある盗賊をする意味が分からなかった。
「別に、ただ貧しさで苦しんでる奴らがいる中で、ああいうクズが意味も無くブクブクと豚のように肥えてくのが気に入らねえだけだ。」
するとアマネルは、コウタから視線を外しながら苛立ちを隠すこともせずにそう吐き出す。
「⋯⋯だから強奪ですか?」
その言葉が本当なのか、嘘なのか、コウタには理解出来なかったが、それでもそのやり方を肯定する理由にはならなかった。
だからこそ彼女に対して、コウタは責めるような口調で尋ねる。
「⋯⋯へぇ?おまえ的には強奪は駄目でも搾取はありなのか。」
するとアマネルは、コウタの発言に対して、ニヤリと笑みを浮かべながら皮肉っぽくそう返す。
それはこの街で権力にモノを言わせて好き勝手するリンブと、それに味方するコウタ達に対する強い非難の意思が込められていた。
「⋯⋯っ、そういう訳では⋯⋯。」
「それはないだろう勇者、口よりも雄弁に行動が語ってるぞ?」
妙に的を得たアマネルの言葉に対して、小さく動揺しながらもそれを否定しようとするが、アマネルはそんなコウタの言葉を断ち切りながら責め立てる。
「⋯⋯⋯⋯けど——」
「——ほら、迷った。」
反論しようと口を開こうとした瞬間、その動揺の隙をついたアマネルの攻撃が視界の端に映る。
「⋯⋯しまっ!?」
高速で襲いかかる瓦礫を咄嗟に身体を捻りながら回避するが、視界を再び前方に戻した瞬間にもう一つの瓦礫が目の前に迫って来ているのが見えた。
「終わりだ。」
(くそっ、避けられな——)
既に一度攻撃を回避し、バランスを崩している今、その攻撃に対処出来る余力は残っていなかった。
「⋯⋯ぶっ!?」
アマネルの狙い通りに攻撃が腹部に突き刺さると、コウタの小さな身体はくの字に折れ曲りながら後方に吹き飛ばされ、そのまま大の字になって倒れ込む。
「じゃあな剣戟の、お前はそのまま何も知らないまま自分の正義を貫いてくれ。」
コウタが吹き飛ばされ、地面に倒れ込んだのを見届けると、アマネルは最後まで皮肉を吐き出しながら街の中へと消えていく。
「⋯⋯⋯⋯。」
「⋯⋯う、ぐっ⋯⋯ったく、殺してやる。と言ってた割にはトドメは刺さないんですね。」
そしてそれから数秒ほど経った後、仰向けに倒れ込んでいたコウタはゆっくりと身体を起こす。
「かはっ、ゴホッ⋯⋯⋯⋯はぁ、はぁ⋯⋯まずは、合流が先かな。」
気を失うまではいかなくとも、それなりに甚大なダメージを受けていたコウタはフラフラになりながら立ち上がる。
「こ、コウタ殿!」
するとそれまでコウタが守っていた屋敷の方から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「⋯⋯リンブ様。」
「⋯⋯盗み⋯⋯入られて⋯⋯⋯⋯逃げられ⋯⋯。」
コウタが振り返ると、声の主であるリンブは息切れで肩を揺らしながら途切れ途切れで言葉を繋いでいく。
「みたいですね、もう少しゆっくりで大丈夫ですよ。盗まれたものは何ですか、宝石、それとも金貨ですか?」
「⋯⋯じゅ、呪剣です。」
そんなリンブに対して、コウタが淡々とした態度でそう尋ねると、リンブは深く深呼吸をしてそう答える。
「⋯⋯案の定、か。」
予想はしていたが、まさか予想通りの結果になるとは思っていなかった為、驚きよりも落胆が大きくなってしまう。
「——呪剣!?」
するとそんな単語に反応してコウタの背後から聞きなれた声が聞こえてくる。
「⋯⋯っ、マリーさん。」
突然の大声にピクリと肩を震わせると、コウタは声のする方へと振り返ってその名を呼ぶ。
するとそこにはコウタの予想通り、マリーとエイルの姿があった。
「どういう事ですか、呪剣って⋯⋯。」
「あーっと、あとで説明しますので落ち着いて下さい。」
取り乱しながらツカツカと歩み寄ってくるマリーに対して、一度我に帰るよう両手を広げてジェスチャーを送りながら、なだめるように苦笑いを浮かべる。
「は、はい。」
「それと、申し訳ありませんが、アデルさん達を呼んできてくれませんか?僕も少し傷の治療をしたくて⋯⋯。」
なんとかマリーを落ち着かせると、苦々しい笑みを浮かべたまま申し訳なさそうにそんな依頼をする。
「分かりました、エイルさん行きましょう。」
「了解。」
コウタの指示を聞いてマリーがそう言うと、エイルは素直にそれに従って彼女の後をついていきながら街の中へと進んでいく。
「それとリンブ様、今外にいるのは危ないので、屋敷の中に戻っていて下さい。全員揃い次第再び伺わせていただきます。」
二人を送り出し、ある程度状況が落ち着くと、コウタは再びリンブの方に振り返りながら真剣な表情で指示を出す。
「⋯⋯わ、わかった。よろしく頼むぞ。」
リンブは危ない、と言う言葉を聞いて、少しだけ表情を青ざめさせると、慌てた様子で屋敷の中へと走り去っていく。
「⋯⋯っ、とと、やっぱり結構キてるな。」
周囲に人がいなくなり、ようやく自身のするべき事をし終えると、ストンと力が抜けたようにその場にへたり込む。
(屋敷の目の前で戦ってたから侵入者には気付けると思ったんだけど⋯⋯⋯⋯裏口から入られたのか?)
そして視線を再び天を仰ぎながら改めて現在の状況を整理する。
「オリジナル使いの盗賊と呪剣、か⋯⋯面倒な事になってきた。」
どう考えても面倒ごとにしかならない現実を痛いほど理解すると、絞り出すような声でそんな言葉を吐き出す。