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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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百六十九話 遠き世界で想う者



——時は遡る。



 それは数時間や数日などといった短い時ではなく、かといって数年、数十年といった果てしなく長い時でもない。



 そう、それは一人の少年が生死を飛び越え、剣と魔法の世界へと誘われた、少し後のお話。



 自らの手でその命に終止符を打った少年が、取り残してきた世界のお話。



 彼が誰よりも守りたかった少女の、刹那のような短いお話——







「⋯⋯⋯⋯。」



 長かった。


「⋯⋯⋯⋯。」


 彼の行方が分からなくなって、もう一月以上、私は歩き回った。


 探せば探すほど、彼の姿はもうどこにもないと言われているようで、苦しかった。


 彼の痕跡は何一つ見つからず、いつしか私は彼との思い出の場所を辿っていた。



 そして、ついにたどり着いた。



「康太⋯⋯。」


 ようやく見つけた彼の痕跡。


 私の中には達成感と何か特別な胸踊るような感情が渦巻いていた。


 でも、なんでこんなに辛いんだろう。


「こうた⋯⋯。」


 胸が締め付けられるように痛い。溢れてくる涙が電源など入るはずもない彼の携帯のストラップを濡らす。




 最初はただの好奇心だった。


 向かいの家に越してきた、変な喋り方をする寂しげな少年が気になって仕方なかった。


 でもそれから、自分でも分かるくらい簡単に、好奇心はすぐに別なものへと変わっていった。


 彼の心に触れるたび、彼の優しさが私の問いかけに答えてくれた。



 大人びてるのに子供っぽくて、真面目なのに悪戯っぽくて、簡単に突き放す癖に笑って受け入れてくれる。



 そんな彼を、私は面白いくらい好きになってしまった。



「こうたぁ⋯⋯。」



 他に何もいらなかったのに、あなたさえいればいくらでも笑っていられたのに、なんであなたは私の元からいなくなっちゃったの?



 立ち上がってみたものの、身体中が悲鳴を上げてるような気がした。


 でも、もういいんだ。


 どうせあと数歩で全部終わるから。


 あなたが望んでないのは分かってる。


 あなたがなぜ逝ってしまったのかも察しがついてる。


 でもごめん。これが私の望みなの。


 叱られても、辛い顔をされても、私はあなたに言いたいことが山ほどある。



 だからごめん。私はあなたが飛び降りたこの崖から、笑って飛び降りれる。




 だって、私はあなたがいればそれでいいんだもん。





 大好きだよ康太。そして——







「⋯⋯私も今、そっちに逝くから。」








——そこで彼女の意識は途切れる。




 彼女の人生はその日、終わりを告げた。















——ひとつの葛藤を乗り越え、少年は勇者としての道を歩み出す。



 されど、物語は終わらない。



 たった一人の小さな少年の物語は、ここから加速する。




第二章完結です。


普段より応援してくださる方々に深く感謝致します。


本日はもう一話、番外編を更新しますのでお待ち下さい。


感想、レビュー等よろしくお願いします。


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